インタビュイー:株式会社ブルームダイニングサービス 代表取締役 杉村 明紀様株式会社ブルームダイニングサービスは、居酒屋・バル業態の「がブリチキン。」をはじめとした飲食店を展開する企業だ。店舗運営にとどまらず、店舗プロデュースや飲食コンサルティング、外販事業、フランチャイズ本部の運営など、事業領域は多岐にわたる。独自のブランド戦略と柔軟な展開力を武器に、外食産業に新しい価値を創出し続けている。そんなブルームダイニングサービスに、2020年、専務取締役として加わり、翌年には代表取締役社長に就任したのが杉村明紀氏。物流系企業を経て、家業の飲食企業でCOOを経験。その後は、国内外に展開する大手ラーメンチェーンで専務取締役を務め、上場やM&A、ジョイントベンチャーなど、数々の場面を乗り越えてきた。後編では、杉村代表がどのような経緯でブルームダイニングサービスに参画したのか、その背景にあるキャリアや価値観、そして現在取り組んでいる理念経営や人材育成への思いについて、じっくりとお話を伺った。事業承継から始まった想定外のキャリアのスタート飲食業界でのキャリアを歩んでいる杉村代表だが、「元々は飲食業界に興味がなく、むしろ苦手意識を持っていた」という。現在、全国展開を進めるブルームダイニングサービスの代表を務める人物が、かつて飲食業に特別な興味を持っていたわけではなかったというのは意外かもしれない。その出発点は、事業承継という必然と、苦手意識からのスタートだった。杉村代表:大学卒業後は、新卒で物流系の企業に就職しました。その後、親族が経営する愛知県の飲食企業に移ることになります。そこは創業から40年近く続く会社で、当時の2代目から「次を継いでほしい」と声をかけられたのがきっかけでした。いわゆる親族内での事業承継です。ただ、私自身は飲食業に特段興味があったわけじゃないんです。むしろ人と接する仕事はどちらかというと苦手意識がありました。学生時代は剣道をやっていて、1対1が基本の世界。チームプレーや人との深い関わりが必要な場面には距離を感じていたタイプだったんです。だからアルバイトに関しても飲食店は選択肢にありませんでしたし、飲食業界自体に触れる機会もありませんでした。そんな自分が飲食業に飛び込んだ以上、まずは“知らなければ始まらない”と、現場に立つことからスタートしました。うどん、蕎麦、ラーメン、韓国料理、洋食、唐揚げ、おにぎり、たこ焼きなど、多業態を展開している会社だったので、ジャンルを問わず店舗運営に関わりました。調理、接客、マネジメント、購買、開発など、現場での幅広い経験は、今思えば何にも代えがたい財産です。その会社を退職したあとは、海外での挑戦を目指して渡航しました。現地での事業展開も模索していたのですが、テロの発生やビザの問題もあって計画は頓挫し、日本へ帰国することに。ちょうど30歳という節目で、これからの人生をどうするかを真剣に考えました。あらためて自分のキャリアを振り返ると、「結局、自分には飲食しかない」と思えたんです。選んだというよりも、飲食の道に“導かれた”という感覚に近いですね。その後、いくつかの企業からオファーをいただき、最終的にラーメンチェーンを展開する企業への入社を決めました。当初は商品開発の担当としてスタートしましたが、次第に営業、新規事業、経営といった領域にも関わるようになり、気づけば約10年在籍。上場も2回経験させてもらい、貴重な学びを得ることができました。そして2020年。コロナ禍の影響で会社の体制が大きく変わる中、自分の中にも一つの区切りが見えてきました。「やりきった」という感覚があったんです。そんなタイミングで、複数の投資ファンドから声をかけていただき、その中の一社が現在のブルームダイニングサービスでした。経営理念への共感―「人が中心」の経営哲学全国展開を進めるブルームダイニングサービス。その代表を務める杉村代表が、数ある選択肢の中から同社を選んだ理由。それは、事業の可能性はもちろん、“理念”と“人”への深い共感にあった。杉村代表:「関わるすべての人、すべての街に幸せの花を咲かせる。」この経営理念に強く心を動かされたことが、ブルームダイニングサービスに惹かれた最大の理由です。飲食業というのは、突き詰めると“チームスポーツ”だと私は思っています。1人では限界がある。仲間と目標を共有し、支え合い、助け合いながら成果を出していく―、そうしたプロセスの中で、かつて苦手意識すらあった「人との関わり」に、私自身も価値を見出せるようになりました。飲食業への見方が変わったのは、まさにこの理念と、現場での経験の積み重ねがあったからです。ブルームダイニングサービスとは、何度かディスカッションの機会をいただきました。その中で感じたのは、創業者の人柄と、現場で働く社員・スタッフの皆さんの誠実な空気感でした。当時はコロナ禍の真っ只中で、外食業界は大きな逆風にさらされていましたが、「がブリチキン。」というブランドには、ポテンシャルがあると感じました。実は、上場を目前に控えた企業などからもオファーをいただいていましたが、ブルームダイニングサービスは規模が小さかったからこそ、可能性が広がっていると感じたんです。ファンドの姿勢にも強く惹かれました。10社近くのファンドとお話しする中で、「理念を大切にしているので、それを引き継いでほしい」と明言されたのは、ブルームダイニングサービスのファンドだけだったんです。金銭的な視点ではなく、まず“企業の魂”を尊重する。そんな価値観に、逆に驚かされたほどでした。加えて、出身地である名古屋で再び挑戦できることも、個人的に大きなモチベーションになりました。現在、当社は社員・パートを含めて約450名の組織ではありますが、経営の軸には一貫して“理念経営”を据えています。たとえば本部では毎週の朝礼で理念の唱和を行い、会議の前にも社是を確認するようにしています。年に一度の方針発表会では、理念をベースとした全社的な方向性を共有し、アルバイト・パートスタッフ向けの勉強会や社内報などでも理念を“見える化”する工夫を重ねています。私自身も日常的に言葉にするよう意識していて、それが自分へのインプットにもなっていると感じています。また、事業承継の経験から思うのは、経営には“役割の世代交代”があるということ。創業者はゼロから事業を立ち上げ、2代目はそれを安定させる。そして3代目は、スケールさせる役割と多々、聞くことがあります。それと同様にまさにその“私の役割”を果たすこととして、社員、ファンドとともに、事業の次なるステージへと進めていく―、それが今の私の使命だと思っています。独立支援や副業制度に込める「選べるキャリア」への想い理念を軸にしながらも、実際の働き方には多様性を。ブルームダイニングサービスでは、従業員が自分らしく働き続けるための仕組みづくりにも力を入れている。杉村代表:当社では、社員一人ひとりが自分らしく働き続けられるよう、「独立支援制度」を整えています。私が就任した当初、創業期から長く在籍している社員の中には、会社の規模が拡大する中で、かつてのように力を発揮しにくくなっている人もいました。もちろん会社のことは好きだけれど、「やりたいこと」との間にズレが生じてしまう。そういうケースってありますよね。だからこそ、その人が最も得意とする分野に集中できる環境を整える方が、本人にとっても人生にとってもプラスになるのではないかと考えました。ちょうど当時、幹部クラスの中に独立志向の強いメンバーがいたため、会社としてサポートするかたちで独立支援を実行したんです。飲食業界での独立は、簡単ではありません。10年継続できる人は10人に1人いればいい方。それだけに、経済的なハードルを下げ、経営面でも支援を行うことで、成功確率を高めたいと考えています。その一環として、暖簾分け制度や副業制度も導入しました。たとえば、空き時間にフードデリバリーを行うような副業については、事前申請・確認を条件に認めています。本部社員には、就業規則の範囲内での業務委託としての兼業も可能としています。また、退職後も業務委託というかたちで当社と関わり続けてくれている“卒業生”もいます。今後も、キャリアや働き方の多様性に対応できるような制度設計を進めていきたいと思っています。そして、採用において私たちが重視しているのは、スキルや経験以上に「人と関わることが好きかどうか」、そして「素直に笑顔を出せるかどうか」という2点です。社会に出てから性格を大きく変えるのは難しい。でも、人が好きという気持ちがあれば、そこからすべてが始まると思っています。スキルはあとからでも身につきます。だからこそ、私たちは“人柄”を何より大切にしているんです。インタビュー後記取材を通して印象的だったのは、時代や状況に最適化して事業を展開していく杉村代表の柔軟性だった。「選んだ道ではなかった」と語る飲食業界のキャリアのスタートから、理念と組織を軸に“展開”のフェーズを牽引するリーダーシップに至るまでの歩みは、多くの気づきを与えてくれる。また、理念である「関わるすべての人、すべての街に幸せの花を咲かせる。」という言葉に込められた思いは、単なるスローガンではなく、現場で働くスタッフ一人ひとりの行動に根付いていることが随所に感じられた。外食産業の枠にとどまらず、これからの人と企業の理想的な関係性を体現するブルームダイニングサービスの挑戦に、今後も目が離せない。