インタビュイー:酒田米菓株式会社 代表取締役社長 佐藤栄司様米作りに恵まれた環境である庄内平野の米を使用し、原料や製法にこだわった商品を展開している酒田米菓株式会社。主力商品として日本で初めて薄焼き煎餅「オランダせんべい」を開発し、その他にも数々の米菓商品を展開してきた。しかし、人口減少や炭水化物の摂取制限などによる米菓商品の市場流通量の減少を受け、完全栄養食や健康食といった新たな市場のニーズに応じた商品シリーズとして「Comefit(カムフィット)」を展開している。アスリートの食をサポートするMIRAI Onigiri(ミライオニギリ)を始め健康を意識した商品ラインナップが特徴の同シリーズ。新商品として、食べるだけで手軽に噛む力をはかることのできる「咀嚼チェックせんべい」の開発に取り組んだ酒田米菓の代表取締役社長を務める佐藤栄司氏に、新規事業に挑戦した経緯や想いについて話を聞いた。原料にこだわる、酒田米菓のせんべい米菓を主軸としたスナックメーカーとして、1951年の創業から山形県を拠点に東北地方を中心にせんべい商品を提供してきた酒田米菓。米作りに最適な水、大地、気候に恵まれた地元の庄内平野で育てられたお米を仕入れ、それを原料に使用した商品を展開している。佐藤代表:当社のせんべい商品はほとんど素焼きに近く、味付けもシンプルなため、お客様から「せんべいを食べると米の味がする!」とよく言われます。米の味がダイレクトに伝わる商品だからこそ、酒田米菓のせんべいづくりは、原料にこだわっています。一般的に、せんべいに使用されるお米は炊飯用のお米よりも品質が低いものを原料とすることが多いのですが、当社では一切妥協せず、食べても美味しいお米を使用しています。3度の入社を経て、佐藤代表が始めた新たな取り組み佐藤代表は高校卒業後に酒田米菓へ入社。その後は2度同社を退職し3度目の入社で代表取締役社長に就任した。現在に至るまでのキャリアについて伺った。佐藤代表:当社の初代代表は私の叔父だったこともあり、私にとってせんべいは幼いころから身近な存在でした。その縁もあり、高校卒業後に酒田米菓に就職をしました。しかし若さゆえのわがままというか、上司と合わなかったという自分勝手な理由で退職。その後10年経って今度は常務という立場で2回目の入社をしました。ただ当時は業績が順調だったこともあり「新しいことは何もしなくていい」という風潮で、面白いと思ったことはすぐに実行してみたい性格の私とは相いれなかったんですよね。2年勤めてふたたび退職。その後、団子屋を経営したり、団子の製造販売を拡大する会社を設立したりと、自分がやりたいことを仕事にして過ごしていました。3度目の入社は2014年。会社の事業が停滞している現状を目の当たりにし、再び酒田米菓に戻る決心をしました。そして、このタイミングで代表取締役社長を務めることになりました。まず初めに、業績回復のために、当社の主力商品である「オランダせんべい」の知名度を活用し、自社工場の一部を一般客が見学できる「オランダせんべいFACTORY」という観光工場を作りました。また、社内の人材育成も十分に行われていないことに気がつき、社員教育にも力を入れました。当時、当社は22年間も新卒採用を行っておらず、若手がいない状況だったため、このままでは事業は停滞する一方だと思い、翌年からすぐに新卒採用をはじめました。さらに、社内の意識改革にも注力しました。日々の朝礼や講演会などの機会を活用して「せんべいを通じて、私たちが社会にどのように貢献しているか」という価値観形成を行っていきました。まだまだ途中ですけどね。人材育成は終わりがないと思います。新規事業の立ち上げに至った、ある出会い佐藤代表は健康食の需要に対応した新商品として、主に歯科医院向けに患者の噛む力がどれくらいあるかをはかることのできる「咀嚼チェックせんべい」の開発を行った。せんべいを食べる際の「噛む」という動作に着目した商品の開発に至った経緯を伺った。佐藤代表:「咀嚼チェックせんべい」を商品化する前に、「パタカせんべい」という前身となる商品がありました。パタカせんべいから、より咀嚼機能のスクリーニングに適したものに改良を重ね発売したのが「咀嚼チェックせんべい」です。この咀嚼機能をチェックするせんべいを開発するに至ったきっかけは、博士(歯学)・歯科医師の五島朋幸先生との出会いでした。3〜4年前、炭水化物は体に良くないという評判が回ったことがありました。米菓を扱う会社の経営者としてその状況に事業存続の危機感を覚え、マーケティングに関するセミナーや講演会に行き、米菓を販売していくためには何が必要か勉強していました。日々学びを深めていく中で、これからの時代は社会課題の解決に繋がるような商品を作っていかないと、モノは売れなくなるということを感じていました。そんな折、あるセミナーで訪問歯科診療を積極的に行っている五島先生と出会い、その方から「咀嚼の機能をチェックするせんべいを作ってくれませんか」と声をかけられたんです。通常、咀嚼機能いわゆる噛む力をチェックする際にはガムなどを使用し検査することが一般的です。しかし、ガムによる検査では、検査を受ける方が検査者の前で噛んだガムを口から出すという心理的な負担があったり、検査するのに専用の検査機器や検査者のスキルが必要だったりといった課題がありました。せんべいであれば噛んだ後そのまま食べられるので心理的負担も少ない。計測の仕方を工夫すれば従来と比較してより低コストで手軽に歯科医院が導入できる可能性もある。これらの話は私にとっては新しい発見で面白く、前向きに商品の開発に取り組むことに決めました。咀嚼(そしゃく)チェックせんべいが再定義する「噛む」という価値咀嚼機能のチェックをより手軽にできるようにすることで、噛む力を維持し人々の健康寿命を伸ばすことを目的に開発された咀嚼チェックせんべい。主に歯科医院での後期高齢者歯科口腔検診に活用されている同商品だが、実際にどのような健康課題を解決しているのかについて伺った。佐藤代表:咀嚼をチェックするせんべいは、せんべいを活用して噛む力をはかることで「オーラルフレイル」と呼ばれる咀嚼機能の低下などを予防する目的で開発しました。せんべいを1枚口に入れて噛んでもらい、30回以内で飲み込める場合は咀嚼機能は正常であり、飲み込めない場合は問題がある可能性があるといった「せんべいを食べる」という簡単な方法で咀嚼機能を検査できます。このように手軽に検査できることで、専門家の受診が必要かどうかを迅速に判断することが可能となります。また、噛む力を維持することの社会的な意義についても語った。佐藤代表:咀嚼チェックせんべいを通じてオーラルフレイルの予防がもっと浸透すれば、結果的に高齢者の健康寿命が伸び、国の医療費の削減に繋がることになります。また、咀嚼機能の低下による健康問題は高齢者だけでなく、子供にも生じています。食生活の変化で柔らかいものが食事の中心となったことで、子供の噛む回数が減り、唾液の出る量が減り、歯茎への刺激が減り、それが原因で口内環境の悪化に繋がっているそうです。昔に比べ現在では、6歳以下で歯槽膿漏を発症する子供の数がかなり増加しているという話も聞いています。こうしたことからも、噛むことの重要性を世の中の人々に伝えていかなくてはならないと感じています。前編では、酒田米菓の商品へのこだわりや新規事業である「咀嚼チェックせんべい」の立ち上げの経緯とサービス内容、そして社会的価値について話を伺った。後編では、新規事業の立ち上げ時の困難や佐藤代表の実体験を踏まえた新規事業で意識すべきポイントを伺う。