インタビュイー:株式会社プライスレス 代表取締役 佐藤康人様2005年の創業以来、株式会社プライスレスは「代理店構築」というニッチでありながら極めて重要な領域に特化し、日本で唯一の専門企業として確かな地位を築いてきた。主力事業は、企業が代理店を募集できるマッチングサイト「代理店ドットコム」の運営。メーカー・サービス会社と営業パートナーとなる法人・個人事業主・個人をつなぐ仕組みにより、これまで多くの成功企業を創出し続けている。同社を率いるのは、日本代理店協会の会長も務める佐藤代表。「代理店という仕組みには、日本の中小企業を変える力がある」と確信し、創業当初はアルバイトと二足の草鞋を履きながらも、その理想を一歩ずつ形にしてきた。雷に打たれたような衝撃から始まった代理店ビジネスへの挑戦は、2005年の創業以来、3000社を超える企業の支援という確かな実績へと結実している。「多くの企業が代理店を活用しているにもかかわらず、その本質を理解している経営者は少ない」と語る佐藤代表に、後編では、代理店ビジネスの魅力と可能性、そして佐藤代表が今後に描く、代理店ビジネスの展望について伺っていく。広がり続ける代理店ビジネスの可能性上場企業の7割以上が何らかのカタチで活用していると言われる代理店制度。その活用法や導入目的は多様化しており、今後ますます広がりを見せると予想されている。ビジネスの新たなスタンダードとしての代理店モデルの魅力について、佐藤代表に話を伺った。佐藤代表:代理店ビジネスは、フランチャイズよりも自由度が高く、柔軟に設計できるのが特徴です。フランチャイズだと、よくあるのが「本部と方針が合わずに独立して新ブランドを立ち上げて、結果的に訴訟へ…」といったケース。でも、代理店はそこまで縛られていないので、さまざまな形が取れるんですよ。目指しているのは代理店とフランチャイズの中間の仕組み。フランチャイズのルール化などの利点を取り入れて、しっかりした代理店制度を作ることを推奨しています。代理店といってもいろいろな形があって、まずは代理店として経験を積んでから、自ら本部として独立するケース。逆に、いきなり本部を立ち上げたけれど思うようにいかず、他社の代理店になって本部のやり方を学んだり、互いに商材を融通し合うようなハイブリッド型の展開も可能です。柔軟性がある分、ビジネスとしての発展性も非常に高いと思います。大手企業であれば、既に有している拠点や顧客、営業マンなどを活用できるという点で、代理店ビジネスは相応しいものとなるという。佐藤代表:大手企業からの相談には、大きく2つのパターンがあります。一つは「自社が代理店として他社の商材を扱いたい」というケース。もう一つは、「自社の代理店を見直したい」というケースです。例えば、全国に1,000人の営業マンを抱える飲料メーカーや、大手ガソリンスタンドなどが、自社の営業力や既存ネットワークを活かして、代理店ビジネスを新たな収益源にしようと考えています。そうした企業には、ヒアリング専門の部門——たとえば「ソリューション営業部」のような部署を立ち上げていただき、取引先や顧客の課題を吸い上げて、必要な課題解決策を提案。場合によってはM&Aや新しい商品・サービスの販売につなげる、といった形も可能です。実際、飲料メーカーでは、今年からそうしたヒアリング活動を始めて、LED照明の切り替えやその他の商材を多く提案できたとご報告をいただいています。これはまさに、既存のリソースを活かした代理店モデルの好例ですね。ただ、大手企業でも“代理店”という言葉の意味を厳密には理解していないことが多いんです。「卸ならやってるけど、代理店って何が違うんですか?」と聞かれることもしばしば。でも、実はそれって“ほぼ代理店そのもの”なんですよ、と。だからこそ、代理店の仕組みをもっと多くの企業に正しく知ってもらいたい。その先に、日本経済を元気にするヒントがあると信じています。代理店の導入によって販路が広がるだけでなく、中小企業や創業間もない企業にとっては、資金調達やコスト削減にもつながるという。佐藤代表:代理店ビジネスで多くの経営者に驚かれるのは、代理店側から費用をいただくことができるという点です。フランチャイズでいう「加盟金」にあたるもので、代理店の場合は初期費用や研修費用、販促支援費といった形になります。自社で営業マンを採用しようとすると、人件費だけでなく、採用コストや社会保険などの固定費もかかりますよね。でも代理店であれば、こうしたコストを抑えつつ、むしろ先に費用をいただいて体制を整えることもできる。つまり、代理店の募集は“資金調達”という側面も持ち合わせているんです。とくに予算が限られていて、自社リソースだけで事業を回しているような中小企業にこそ、こうした資金調達の可能性を伝えたいと思っています。ただ、実際には「自信がないので初期費用は無料で募集しています」という企業さんも多くて、それではうまくいかないケースが多いんですよ。私はよく「初期費用無料で失敗している企業が多い」と正直にお伝えしています。プライスレスでは、代理店の構築支援に加え、不動産業界におけるアライアンスビジネスの支援も手がけている。佐藤代表は、今後の成長市場として「不動産アライアンス」の可能性に注目している。佐藤代表:最近では、不動産業界でも「アライアンス」という言葉が徐々に広まり始めています。具体的には、不動産会社が賃貸契約を進める際に、入居者へ「電気・ガス・インターネットはどうされますか?」「ウォーターサーバーもお得に使えますよ」といったサービスを提案し、成約すれば提携先から報酬(キックバック)を受け取るという仕組みです。このモデルは、通信系の企業がかなり早くから手をつけていて、すでに多くの中堅〜大手の不動産会社とアライアンス事業を展開しています。現在の普及率としては10〜20%程度だと思いますが、確実に市場が広がってきている印象です。私が伝えたいのは、「アライアンス」という仕組みは、正しく設計しさえすれば、提供側と受け手側の双方に利益をもたらすモデルだということです。不動産に限らず、さまざまな業種・商売にも応用可能ですし、住宅だけでなくオフィスや店舗のテナントにも活用できます。入居時のインフラ整備に限らず、オフィスの通信やセキュリティ、業務支援ツールなどもアライアンス対象になり得る。不動産という接点を起点に、幅広いサービスを展開すれば、業界全体をもっと活性化させることができると考えています。副業という新たな働き方に、“代理店”という選択肢をコロナ禍以降、働き方の多様化が進む中で、副業への関心も急速に高まっている。そんな時代背景の中で、「代理店ビジネス」が副業として注目を集めつつある。佐藤代表は、その可能性と課題の両面を語ってくれた。佐藤代表:ここ数年、代理店という働き方を選ぶ人は確実に増えてきました。ただ、まだまだ「代理店」という発想自体にたどり着かない個人の方が多いのも事実です。例えば、インターネット回線の大手ブランドでは、テレビCMでの集客やネット申し込みが主ですが、実際の“地上戦”——つまり現場での営業は、すべて代理店が担っているんです。その多くは、個人事業主として業務委託で活動する人たち。中には、土日だけ訪問販売を行うような副業スタイルの人も少なくありません。他にも、たとえば「風呂釜洗浄」のようなニッチだけど需要のある商材もあって、これは完全に副業向け。実際に洗浄してみると、驚くほどの汚れが出てきて、それを見た主婦の方が「これ、すごい」と友人に紹介して広まっていく。そこから「私もやってみようかな」と広がっていくようなケースもあります。営業経験がない人でも始めやすく、サラリーマンが週末だけやったり、既存の個人事業主が副商材として扱ったりと、柔軟な形で取り入れられるんです。今挙げたのは通信と風呂釜の話ですが、実はこうした代理店向けの商材は本当にたくさんあるんです。でも、そこに“辿り着かない”理由の一つが、「代理店」という言葉自体が検索されにくいことにあると思っていて。たとえば通信業界の人であれば「代理店として独立」という選択肢が自然と浮かびますが、それ以外の業界ではそもそもその概念に触れる機会すらない。だからこそ、私たちとしては「もっと分かりやすく伝える方法はないか」「この良さがちゃんと届いていないのでは」と日々もどかしさを感じています。動画などを活用したこともありますが、コストの割に伝わり方が大きく変わるわけでもなく、表現の工夫に正解はまだ見えていません。でも最終的には、「副業を探している人が“代理店”というキーワードに辿り着く」ようにしたい。そしてその先に、こんなに多様な商材があることを知ってもらいたいんです。「代理店」が当たり前に選ばれる社会へ──次なる挑戦は“認知拡大”代理店は強力な経営手法でありながら、世の中にはまだ十分に知られていない。佐藤代表は、今後の展望として「代理店ビジネスの認知拡大」を新たなミッションに掲げている。佐藤代表:ありがたいことに、当社のサイトは「代理店募集」という検索ワードで十数年にわたり1位をキープしています。そのおかげで、今でも毎月50社ほどの企業からお問い合わせをいただいていて、業界で一番掲載数が多い代理店募集サイトとなっています。ただ、今一番の課題は「代理店になる側」、つまり働く側の人たちへの認知なんです。「代理店」という言葉や仕組みそのものを知らない人がまだまだ多く、そもそも検索すらしてくれていない。だからこそ、これからはそういった人たちにどう届けるかを真剣に考えています。たとえばSNSの活用や、代理店で活躍している人たちのリアルな声を発信するインタビューメディアの立ち上げなど、新しいチャレンジをしていかなければならないと感じています。代理店には大きな可能性がある一方で、「そもそも代理店とは何か」が知られていないケースも多く、導入が進まない場面が少なくない。佐藤代表:展示会に出展している企業の多くは、代理店も探しています。ブースにも「代理店募集中」と書かれていたりします。ところが、こちらから声をかけても「展示会でやってるから大丈夫」と断られてしまうことが多い。でも本当は、Webで募集すればコストも抑えられるし、こちらから営業せずとも相手から問い合わせがくる。必死に追いかけて説明しなくて済むなど、リアルの展示会にはないメリットも多いんです。良い商品・良いサービスをお持ちの会社さんに「代理店展開すればうまくいきますよ」と伝えても、「代理店ってそもそも何ですか?」という反応も少なくありません。代理店という仕組み自体がまだ十分に認知されていないのが現状です。代理店ビジネスの価値を誰よりも信じ、その普及に力を注いできた佐藤代表。では、その先にどのような未来を描いているのか。佐藤代表:日本代理店協会としては、2013年から「日本の新規開業率を20%に引き上げたい」という目標を掲げています。今は、5%にも届いていないと思いますが、代理店を通じて、それを底上げしていきたいというのが数値的な目標です。とはいえ、「どこまでやれば達成か」という明確な基準を定めるのは難しい部分もあります。正直に言えば、「一社でも多く救っていきたい」というのが本音です。代理店からスタートしてビジネスがうまく軌道に乗った企業からも、代理店を募集して成功した企業からも「本当に助かりました」と感謝の言葉をいただくことも多く、それが自分たちの励みになっています。でも、まだまだ世の中全体としては「代理店って何?」という反応が多いのも事実。こんなに画期的な仕組みがあるのに、それを知らずに困っている企業がたくさんある。だからこそ、もっと多くの人や企業が代理店を活用できる社会をつくっていきたいと考えています。起業を考える方々に向けて最後に、これから起業を目指す方や、起業後の壁に直面している方々に向けて、佐藤代表からメッセージをいただいた。佐藤代表:昔、誰かに「ビジネスは知恵比べだ」と言われたことがあるんですが、本当にその通りだと思っています。知らないから怖い、できないと思ってしまう。でも、正しい知識を持てば、ちゃんと稼げるセオリーは確かに存在していて、ビジネスはちゃんと回っていくんです。私自身も、サイト運営がうまくいくようになったのは、思い切ってプロに相談し、専門家の知見に投資したからこそでした。経験がないから無理だと思い込まずに、まずは“正しい情報”にアクセスすること。それが夢への一番の近道です。代理店制度は、決してすべてを解決する万能な仕組みではありません。でも、何もない状態からでも始められる、非常に現実的で再現性のある手法です。代理店向けに事業で収益を得るための初期研修を用意している企業も多く、未経験の方でもチャレンジしやすい環境が整いつつあります。本当に、知らないことで失敗してしまう人が多い。それが悔しいし、もったいないと思っています。だからこそ、これからも代理店の可能性を正しく伝えていく方法を、私自身も考え続けていきたいです。インタビュー後記「代理店ビジネス」と聞いて、どれだけの人がその仕組みや可能性を具体的に思い浮かべられるでしょうか。今回のインタビューを通して感じたのは、代理店という仕組みが、決して特別な企業だけのものではなく、誰もが活用できる“身近なビジネスインフラ”であるということでした。佐藤代表の言葉には、単なる仕組みの紹介にとどまらない、「知らないことでチャンスを逃してほしくない」という強い想いが込められていました。ご自身の苦労や実体験に裏打ちされたメッセージだからこそ、ひとつひとつの言葉に説得力があり、まさに“現場から生まれた哲学”を感じさせるものでした。