インタビュイー:株式会社ジェクトワン 代表取締役 大河 幹男様2009年に渋谷で開業された株式会社ジェクトワンは、「想像を超える『場』をつくり、あたりまえにする。」をミッションに掲げ、「地域や場所ありき」で建物をつくる総合不動産会社である。一般的な不動産デベロッパーはマンション、オフィスビルなどの単一のカテゴリーに特化するが、同社は住居、宿泊施設、商業施設、店舗、老人ホームなどマルチカテゴリーを扱うのが強みである。この強みは「地域や場所ありき」で建物を考える企業方針から生まれ、同社の事業は主に「総合不動産開発事業」・「リノベーション事業」・「空き家事業」の三本柱で構成されている。なかでも空き家事業では、近年の日本の社会問題の「空き家」に着目し、2016年から空き家解決サービス「アキサポ」を立ち上げた。同社創業の背景や「アキサポ」について伺った前編に引き続き、年々増加し、すでに全国で約900万戸にも達する空き家問題を解決する希望の光として近年注目されている、株式会社ジェクトワンの代表取締役・大河幹男代表に、後編では、業界構造・行政の問題点や今後起業したい方へのメッセージについてお話を伺った。ジェクトワンが挑む不動産業の構造転換「アキサポ」の出発点には、不動産業界のビジネス構造の現状に対する疑問点もあったようだ。大河代表:不動産デベロッパーは、基本的にBtoB型のビジネスモデルが主流です。不動産業者から土地情報を仕入れ、その土地にマンションやビルを企画・開発し、リーシングを経て販売する。これは典型的な「業者間取引」と言えるでしょう。こうした取引は、担当者同士の関係性に強く依存しており、非常に属人的な構造でもあります。たとえば、「価格を少し調整するから、今回はあなたに決めてもらいたい」といった、ある種の“密約”のようなやり取りが、いまだに業界内では珍しくありません。このモデルが、情報化が加速し、透明性が求められる今の時代において、10年後・20年後も持続可能であるとは、私には思えませんでした。だからこそ、約10年前に当社の未来を見据えてBtoC型の新規事業をつくろうと考えたんです。それが「アキサポ」、つまり空き家事業の出発点でもあります。このアキサポを通じて、個人から直接入ってくる情報や相談が年々増えており、今では年間数千件規模のBtoCの反響が寄せられています。これは、既存の法人向けの営業とは全く異なる流れで、いわば“待ちの営業”でありながら、多様なニーズを直接吸い上げられる貴重なチャネルとなっています。空き家を活用したり、買取したりという一次的な対応だけでなく、「活用できなければ売却したい」「解体して駐車場にして管理したい」といった、二次的・三次的な事業機会も派生しています。これまでのように法人に出向いて「情報をください」とお願いする営業ではなく、個人から自然に情報が集まる構造が生まれてきたのは、私たちにとって大きな転換点です。BtoBとBtoC、両輪を備えることで、より持続可能で柔軟な不動産事業を築いていけると考えています。行政との連携が進む背景と今後のビジョン行政と民間、それぞれの立場を超えた連携が求められる時代。ジェクトワンは現場で得た気づきをもとに、より実効性ある仕組みづくりに取り組んでいる。大河代表:空き家問題は、もはや行政だけで解決できる段階を越え、民間の知見や連携が不可欠な深刻な社会課題となっています。当社も各地でのセミナー開催や自治体との連携を通じて、行政現場が抱える課題の切実さに直面する機会が増えています。その具体的な取り組みの一例が、新潟県三条市との連携です。2022年4月、当社は三条市と「地域活性化起業人に関する協定」を締結し、空き家の減少および将来的な発生の抑止に向けて、当社社員を「特命空き家仕事人」として市民部環境課へ派遣しました。その結果、着任前の2021年度と比較して、2024年度には空き家バンクの登録件数が約6倍、空き家に関する相談件数は24倍に増加するなど、目に見える成果を上げています。このように、行政側にも「民間の力をどう取り入れるか」という視点が根付き始めており、課題を共有しながら解決を目指す流れが徐々に生まれつつあります。その一方で、たとえば「空き家バンク制度」のように、制度そのものが目的化してしまっているケースも散見されます。本来、空き家バンクは情報を登録するだけでなく、売却や利活用といった具体的な出口までを見据えて運用されるべきものです。しかし、実際には「登録すること」がゴールとなり、その先のアクションが停滞してしまっているのが現状です。今後、空き家の利活用を本格的に進めていく上で鍵を握るのは、AIやデジタルプラットフォームを活用した新たな仕組みづくりだと考えています。物件情報、所有者データ、地域ニーズなどを一元的に可視化・分析できるシステムを整備することで、マッチング精度の向上や手続きの効率化に加え、将来的な空き家の発生抑止にもつながると期待されます。そうした構想を実現するため、当社は伊藤忠都市開発株式会社様との資本提携をはじめ、他の民間企業とも連携を深めています。これまで行政が築いてきた地域ネットワークと、私たち民間事業者が現場で培ってきた実行力やノウハウを掛け合わせることで、理想論ではない、実効性の高い空き家活用モデルが描けるはずです。自分の「好き」が、事業を続ける力になる最後に今後起業したい方へのメッセージを伺った[1998年の大河代表]大河代表:私自身、ここまでやってこられたのは、「自分の好きなこと」に正直に向き合ってきたからだと思っています。20代半ば、「これを一生やっていきたい」と思えた不動産の仕事に出会い、そこからは土日も関係なく、自然とマンションを見に行ったり、近隣住民への説明にも足を運んだりしていました。仕事というより、好きだから夢中でやっていた感覚に近いですね。やがてマンション事業にある程度の手応えを感じるようになり、「そろそろ別のフィールドにも挑戦したい」と思って、現在の空き家事業に舵を切りました。だから今も、空き家というテーマに真剣に向き合いながら、土日を問わず現地に出かけたり、資料を読んだり、自然と動ける自分がいます。「好きなことを仕事にする」というのは、やはり強いです。逆に、「これをやれば儲かるだろう」といった発想だけで始めてしまうと、うまくいかないときに心が折れてしまう。情熱を持てない事業は、モチベーションの持続が難しくなるんです。もちろん、仕事には割り切りが必要な場面もあります。それでも、「これ面白いな」「もっと知りたいな」と思える分野に取り組めているかどうか。それが、学びの深さにも、継続力にも直結するように思います。ビジネスの世界には、器用にどんな事業でも立ち上げられる人もいます。でも私はそうではなかった。だからこそ、自分が「本当に好きで、のめり込めること」に絞って突き詰めてきた。それが結果として、長く事業を続ける力になってきたと感じています。インタビュー後記空き家を「活用すべき社会資源」と捉え、民間主導で課題解決に挑むジェクトワンの姿勢は、既存の不動産業界に一石を投じるものでした。取材を通じて印象的だったのは、「誰もやりたがらないからこそ、やる意味がある」という大河代表の言葉。属人的でクローズドだったBtoB構造に対し、BtoCの新たなモデルを築こうとする姿に、未来志向のリアルなビジネス戦略が垣間見えました。そして何より、「好きなことをやっているから、土日も自然と現場に足が向く」という率直な言葉に、事業を続ける力の本質があると感じました。空き家という社会課題に向き合いながら、都市のあり方を再構築しようとするジェクトワンの挑戦に、今後も注目していきたいと思います。