インタビュイー:株式会社エーディエフ 代表取締役 島本敏様「お客様の“あったらいいな”を形にし、世界を“あっ”と驚かせる。」そんなビジョンを掲げ、1999年に誕生したのが株式会社エーディエフである。大阪に本社を構える当社は、アルミを使った製品のオーダーメイド専門メーカーである。「クリーンルーム」・「物流機器」・「オーダーメイド」の三つの事業を軸に成長を遂げてきた。「お客様への寄り添い」×「提案力」を武器にオンリーワンのアルミ製品を生み出し続けるエーディエフは、物流・メディカルなど業界を問わず、また、国内・国外を問わず、多種多様なお客様を虜にしている。創業時のお話や製品へのこだわりについて伺った前編に引き続き、株式会社エーディエフの代表取締役・島本敏氏に、島本代表が掲げる「結果的終身雇用」や会社論、これから起業したい方へのメッセージについてお話を伺った。島本代表が提唱する「結果的終身雇用」とは星の数ほどある企業の中で、1人の人生が1つの会社で終わることは、考えてみれば不思議な話かもしれない。 ー 好きなことを見つける10代 ー 自分に自信をつけたい20代 ー 本気になれる30代 ー 変化を求める40代 ー 自分を深める50代 ー 後世を思う60代 ー 人生を楽しむ70代 ー 達観した80代世代によってやりたいことも変わる。ならば、自分の変化に応じて、会社も変えていけばいい。その人の一生を輝かせるのが、会社であるはずだ。人生を振り返った時「色々な挑戦ができた場所だったな」と言えるように、私はそれが「結果的終身雇用」だと思う。島本代表が上の詩で提唱した「結果的終身雇用」の背景について、お話を伺った。島本代表:「結果的終身雇用」は、一言でいえば「人生の各フェーズでやりたいことを会社でやり続けた結果、気づけば同じ会社にいた」という働き方です。エーディエフには10代から80代まで、幅広い年代の社員がいます。例えば、28歳のある社員は「妻の地元・福岡に引っ越すことになったが、エーディエフを辞めたくない」と申し出て、福岡営業所を自ら立ち上げました。また、入社当初は「将来的に独立したい」と話していた社員も、30代で取締役になり、活躍しています。「やりたいことは、エーディエフの中で全部できる」と言って独立をやめたんです。そういう社員たちの顔を思い浮かべながら、一人ひとりの人生のステージを綴っていったら、あの詩のような形になりました。会社は、人の一生を輝かせる場所であってほしい——それが、私の願いなんです。【結果的終身雇用】という新しい考えを生み出した島本代表。そのきっかけはある雑誌の記事からだったと語る。島本代表:福岡へ出張に向かう新幹線の中、何気なく手に取った雑誌に「アメリカ型雇用と日本型雇用の違い」という記事が載っていたんです。そこには、転職を前提とした“ジョブ型雇用”を採用するアメリカの働き方と、長期雇用を前提とした日本の“メンバーシップ型雇用”の違いが紹介されていました。読みながら、「アメリカ型のように転職ありきの働き方って、自分はあまり好きじゃないな」と思った一方で、「かといって、日本型のように会社が社員を囲い込む終身雇用も、何だか違う」と感じたんです。その瞬間、ふとひらめいたのが「結果的終身雇用」という考え方でした。社員を縛ることなく、それでも「この会社が楽しい」「やりたいことがここにある」と感じてもらえるから、転職する理由がなくなる。結果として、長く働き続けてくれる——そんな雇用のあり方が理想なんじゃないかと気づいたんです。社長業の苦悩から気づいた会社の在り方エーディエフを率いる島本代表は、これまでの社長人生の中で、ある深い苦悩に直面したことがあるという。島本代表:エーディエフって、社員の年齢もバラバラで個性も強いので、まとめるのが大変なんです。それに疲れ果てて、「こんなに言うことを聞いてもらえない会社なんて、もう嫌だ」と思ってしまって。社長業を放棄して、完全に何もしない期間を作ったんです。電話にも出ない、見積もりもしないと宣言して。社員は最初、冗談だと思っていたみたいですが、私は本気でした。ただ、それでも会社は回ったんです。私が動かない分、社員が自分たちで電話対応や見積もりを始めてくれました。そしたら、「あれ?この原価率じゃ利益が出ない」と気づいたらしくて、自ら値上げを決断してくれた。結果として、業績はむしろ上がったんです。その時は本当に悩みました。「自分って、必要ない存在なんじゃないか」と思ってしまって。四六時中、自分の存在意義とか、“社長”とは何なのかを考えていました。そんな折、偶然手に取ったのが、稲垣栄洋さんの著書『面白すぎて時間を忘れる 雑草のふしぎ』(三笠書房)でした。そこに書かれていたのは、雑草の生き方について。雑草って、同じ時期に一斉に発芽させようとしても、うまくいかないそうなんです。どこで芽を出すか、いつ咲くかを自分で決める。だからこそ、外的な変化に強く、絶えず生き延びられる。それを読んだとき、ハッとしました。「色々な個性を持っている社員が居ることは、実は組織の強さなのかもしれない」って。エーディエフには、誰ひとりとして同じタイプの人間はいません。誰もが自分のスタイルで働いている。私はずっと、それを“まとめられない苦しさ”と感じていたけれど、実はそれが多様性であり、会社の強みだったんです。たとえば、「元気に大きな声で挨拶をしよう」というのが、一般的な“良い社員像”かもしれません。でも、小さな声でしか挨拶できない人が、ミスなく丁寧に仕事をしてくれていることもある。逆に、挨拶は大きくてもミスが多い人もいる。コロナ禍では「大きな声を出さない」ことが常識になりました。もし私が「大きな声で挨拶!」という価値観を押しつけていたら、社会の変化に適応できなかったでしょう。大切なのは、表面的な“型”ではなくて、ひとり一人の強みや個性をちゃんと見てあげることなんです。社長の役割とは、それぞれの社員が自分の強みを活かせる環境をつくり、新しい事業や成長のフィールドを整備していくこと——それが、今の私の考える「会社のあるべき姿」です。起業を目指すあなたへ──島本代表からのメッセージ最後に、これから起業を目指す方や、起業直後の苦難に直面している方々に向けて、島本代表にメッセージを伺った。島本代表:お伝えしたいことは2つあります。1つ目は、「利益よりも使命や存在意義を大切にしてほしい」ということです。もちろん、目先の利益も経営において重要です。ただ、それ以上に大切なのは、自分の会社が“なぜ存在するのか”という問いに正面から向き合うこと。そして、その使命を信じて突き進むことです。事業がうまくいかずに会社が潰れることもあるかもしれません。でも、それは“想い”が死ぬことではない。むしろ、その想いを途中で手放してしまうことのほうが、本当の意味での失敗だと思うんです。社員が全員いなくなっても、「自分はまだ社長をやる覚悟があるか?」と、自分自身に問い続けてほしいです。2つ目は、「一度のヒットで有頂天にならないこと」。エーディエフも設立初年度は赤字でした。そんな中で生まれたのが、オールアルミ製の軒先融雪機『スノーエール』です。当時は鉄製が主流で、重くて錆びやすいという課題がありました。そこに軽量で錆びにくいアルミ製という提案をしたところ、一定の需要が生まれました。でも、私たちはその成功で浮かれることなく、さらに品質向上を目指して赤字覚悟で改良を続けました。夏の間に製造し、冬に売って、その利益をまた次の新商品の開発に投資する。軒先融雪機メーカーとして安定的にやっていくこともできたかもしれませんが、私たちはあえて“売れるか分からない新しい挑戦”に踏み出し続けました。それはすべて、「世界を“あっ”と言わせるものをつくる」という使命感があったからです。有頂天にならず、ひたむきに、自分たちの信じるものをつくり続けてきました。エーディエフという会社が、もし明日なくなったとしても社会に大きな影響はないかもしれません。でも、「こんな商品があったのか」と、未来の誰かを驚かせる自負はあります。だからこそ、若い経営者には、使命と存在意義を心の中心に据えて、目先の成功で有頂天にならずに“影響力”を築いていってほしい。それが、私からの願いです。インタビュー後記島本代表の話を通じて、企業経営における「使命感」と「結果的終身雇用」という考え方が非常に深いと感じました。特に、利益だけでなく社会貢献を最優先にしてきた姿勢には感銘を受けました。また、社員一人ひとりの強みを活かし、個性を尊重する姿勢が、企業文化を豊かにしているのだと実感しました。経営者としての覚悟やビジョンの持ち方が、会社の成長に直結するという教訓を得た気がします。