インタビューイー:株式会社エイトノット 代表取締役CEO 木村裕人様エイトノット・木村代表のインタビュー記事は前後編の2回に分けてお届けします。株式会社エイトノットは「あらゆる水上モビリティをロボティクスとAIで自律化する」をミッションに掲げ、小型船舶の自動運転技術開発を手がけるスタートアップ企業だ。2021年3月の設立から小型船舶向けの自律航行システム開発を手掛け、地方自治体やパートナー企業と共に離島地域における水上交通の社会課題解決を目指した実証実験に取り組んでいる。広島県や大阪府での実証実験を経て、国内での事業拡大フェーズに移行し、海外での事業展開も視野に入れるエイトノットの代表取締役を務める木村裕人氏に、地方自治体やパートナー企業との実証実験で「得られた成果」や共創を実現させるために必要なポイントについて話を聞いた。実証実験で捉えた、社会課題を解決する自律航行サービスの兆し島民の方々をはじめとする地域での交流や、交通計画など自治体の情報を収集していく中で、「離島地域の課題に当事者意識を強く持つようになった」と木村代表は語る。実証実験の手ごたえを伺った。木村代表:広島県での実証実験では、当社の技術に留まらず「船舶の自律航行が実現すると、あなたの暮らしはどう変わるでしょうか」ということを地域の方々に想像していただくきっかけが作れたかなと思います。具体的なエピソードとして、島民の方へのインタビューをした際に「自分が生まれ育ったとても愛着のある場所だけど、スーパーマーケットや病院はない。今はまだ体を動かせるから自分で車を運転して船に乗って買い物へ行くことはできるけど、今後の減便や航路の再編を考えると、ここでの生活を諦めなきゃいけないのかな」と仰っているのを耳にしました。本来、住みたい場所に住めることは、日本国において根幹をなす憲法でも定められている居住の権利のはずです。それを何かの都合で諦めてしまうのは、とても寂しいことが起きているなと強く感じました。でももし、私たちの技術の力を活用して、これから先も持続可能な形で離島航路が維持できれば島民の生活を守ることができますし、さらには、離島エリアで移動の自由が確保できれば、リモートワークが進んできている時代なので、逆に人口が増えるきっかけにもなる。地域の方々と共にこういった想像を膨らませることができたのは実証実験の成果だと感じます。このような経験から実証実験では住民の方々や自治体、地域の企業様と共に取り組んでいくことで、我々の取り組みの社会的意義を世の中に浸透させていくことが大切なのではと思います。また、技術実証に留まらずビジネス実証に挑戦できたことは大きな成果だと感じています。例えば、広島県の生協様との実証実験で、生協様の宅配業務に自律航行路線が組み込まれると、どのようにサービスが変化していくか検証を行うことができました。「自社が作ったすごい技術を見せる」というよりも、その技術を活用してビジネスに落とし込んでいくときの課題検証や、そもそもお金を生み出せるのかという点も含めて、ビジネス側の検証が可能になりました。物流の仕組みをはじめとする生協様が所有するアセットを活用しつつ、一方で離島の中でも宅配が可能な離島とそうでない離島が存在するため、そこを自律航行路線で繋いだらとても価値になるサービスを創出できるのではないかという事業アイデアも生まれました。このように、自社だけでも技術的な検証は可能ですが、社会課題と現場のニーズに照らし合わせた実装を意識した実証実験ができたことは非常に大きいですね。共創を実現させるために必要なポイント大手企業との共創にもエイトノットは取り組んでいる。三井住友海上社様とのプロジェクトでは「2025年までに無人で乗客を運ぶ小型船舶向けの専用保険を普及すべく共に事業を推進しています。三井住友海上社様には、新しいことに果敢に挑戦する共創チームが存在し、我々のようなスタートアップ企業にもとてもフレンドリーでフラットに関わってくださる」と木村代表は語る。共創を実現させるために必要なポイントを伺った。木村代表:共に挑戦するからには、双方の利害が一致しているべきですし、共創のゴールに向かって同じ歩調で歩めるかどうかを、実行する前に確認することが一番重要なポイントだと思います。プロジェクトのゴールは1社だけでは達成し得ず、かつ人々の暮らしに深くかかわる分野で挑戦した方が、実際に取り組んだ後の結果も世の中にアピールしやすくなるため、そこまでのストーリーをしっかりと設計した上で実行する必要があります。三井住友海上社様との例を挙げると、三井住友海上社様は、自動車保険を主軸としている中で、自動運転技術の発達や人口減少を前に、新たな領域での商品開発にもチャレンジする必要性を感じられていました。当社としても、自律航行による人の運送をサービス化する場合の保険をどうするかという点に悩みを抱えていました。こうした双方の利害が一致した上で、三井住友海上社様の責任者の方とは大変カジュアルに、プロジェクトそのものから、実現後の未来についてまで広くディスカッションさせていただいております。また、プロジェクトに参加するそれぞれの組織ごとに、求められる利益は異なると思いますが、そこは実証プロジェクトという意味合いで割り切れるかどうかという点も大切だと感じています。当然、双方の価値観やスピード感のずれによって多少の足並みが揃わなくなることが発生する場合もあります。このようなリスクも加味した上で、長期的に見た時に双方にとってプロジェクトの結果がどのような利益や未来をもたらすのか、といった原点に立ち帰る意識が重要ですね。インタビュー後記木村代表の取り組みから、実証実験を経ることで新技術やアイデアの検証を行うだけではなく、実証実験の関係者やサービスの恩恵に与る周囲の方々と共に「人々の生活がどのように豊かになるのか」といった未来を想像するきっかけを得られることが、実証実験による真の成果だと感じます。また、三井住友海上社様との共創による無人の小型船舶向け専用保険をはじめとして、エイトノットが提供するサービスを起点とした新しいビジネスの市場が築かれていくのではないでしょうか。木村代表から語られる実証実験や共創の事例が、スタートアップ企業による「市場がない場所に、新しい技術を持っていき市場を作る」ための手引きになりましたら幸いです。