インタビュイー:株式会社宮本製作所 代表取締役 宮本隆様1965年に創業された老舗の町工場、株式会社宮本製作所。機械部品の加工を目的として創業された同社は、先代が逝去後、経営戦略の最優先事項を「新商品開発」へと切り替えた。そんな中、マグネシウムに着目して開発されたのが「洗たくマグちゃん」である。「洗たくマグちゃん」とは、「マグネシウムと水だけで洗う」人と環境にやさしい洗濯補助用品。洗濯機に入れるだけで、水道水が洗浄力のある弱アルカリ水に変化。洗濯排水は環境負荷を与えず、環境にやさしい洗濯ができる商品だ。2013年の発売以来、小さなお子さんのいるお母さんから圧倒的な支持を受け、現在の累計販売数は830万個を超えるロングセラー商品となっている。「洗たくマグちゃん」の開発の舞台裏やコインランドリー事業・水素風呂事業について伺った前編に引き続き、「マグネシウム」と「水」をキーワードに成長を続ける宮本製作所の代表取締役・宮本隆氏に、宮本製作所の目指す未来やモノづくりへの想い、成功の秘訣を伺った。宮本製作所の未来へのビジョン「水は常に循環している。太陽の光に照らされて、海や大地が蒸発し、やがて雲を作る。その雲が雨を降らし、ゆっくりゆっくりと地面にたまって、川や湖を作る。その水を綺麗に浄水し、私達は日々の暮らしで使っています。マグネシウムの宮本製作所はできる限り水を汚さず、無駄にすることなく、海へと流す循環型の社会を目指しています。いつかまた、私達のところへ戻ってくる水だから。Return・Reuse・Restart 宮本製作所」宮本代表:これが、私たちの基本理念なんです。それは「水」。世界中で、特に淡水の不足が深刻化している今、この貴重な水資源をいかに守り、循環させていくかが重要なテーマだと考えています。だからこそ私たちは、洗濯排水を再利用できるという視点から商品開発を重ねてきました。その中で、いくつもの商品が生まれてきたわけですが、今後は共創パートナーの皆さんと手を取り合って、この取り組みをさらに広げていきたいと考えています。そうした未来を一緒に目指すうえで、後継者や共創パートナーには「同じ夢を追いかけてくれる人」に出会いたい。現実ばかりを見ていても、世の中は変わらない。私はそう思っています。私が大好きな言葉に、スティーブ・ジョブズの「金不足を嘆くより、夢不足を嘆け」というものがあります。だからこそ、夢だけは人に負けたくない。そう強く思いながら、今も走り続けています。宮本製作所の基本理念の裏側には、近い将来の水不足に対する宮本代表の強い想いがあった。宮本代表:多くの投資マネーは水関連ファンドに集まっている。水を牛耳るものが、世界を牛耳る。水は高い所から低いほうへ流れるのではなく、水はカネのあるほうへ流れる。もし市場があるとすれば、それは水の市場です。なぜかと言えば、水がないからです。これからの時代、一番価値を持つのは、「水」に他ならない。どんな野菜も水がなければ育たない。水の代用品はない。水を作ることもできません。必需品の中で最も必要なものです。蛇口をひねれば飲める水――そんな当たり前の光景も、もう長くは続かないかもしれません。私たちは、すでに限られた水資源の中で暮らしているのに、日々の生活の中で水を汚し続けている現実があります。日々の生活で欠かせない洗濯では、「着たから」「汗をかいたから」といった理由で洗う衣類なら、環境にやさしい洗濯ができる「洗たくマグちゃん」だけで十分きれいになるんです。もちろん、泥汚れや油汚れなど汚れが多い場面もあります。その場合は、適宜酸素系漂白剤と併用するか、予洗いをして洗濯してほしいです。洗濯物の種類や汚れ具合に応じて洗い方を分ける、“洗濯の棲み分け”がこれからの時代に欠かせないと思っています。宮本製作所は2030年までに時価総額1兆円企業を目指していくという。宮本代表:私たちは現在、中国やインドをはじめとする世界10カ国で、洗濯排水を植物栽培用の栄養水として活用する特許を取得しています。これは、世界的な水問題の解決に貢献できる技術だと考えており、今後はこれらの特許を各国に売却することも視野に入れています。本当は、世界一の農業大国であるアメリカでの特許も取得したかった。アメリカは意外にも深刻な水不足に直面しております。そこで、私たちはマグネシウムを含んだ栄養豊富な洗濯排水を販売するビジネスに挑戦してみたかったんです。アメリカでの特許は残念ながら取得できませんでしたが、すでに取得している各国の特許を活かしながら、2030年までに時価総額1兆円を目指す企業へと成長させていきたいと考えています。0→1を作り続けたいー宮本代表のものづくりへの想い新しいものをずっと作り続けたいと語る宮本代表。その情熱の源泉を伺った。宮本代表:新しいアイデアを出して、そこから事業を立ち上げる人は、実はそれほど多くないのではないかと思います。というのも、新しいことに挑戦するにはどうしても失敗のリスクが伴いますし、そのハードルの高さから、最初の一歩を踏み出すことをためらう人が多いからです。でも、これからの時代は0から1を生み出すことが、本当の意味での利益につながると感じています。誰もやっていないことに踏み込んで、先行者としてのポジションを取る。他社にはない価値を、自分たちの手で生み出していく。それがますます重要になってくると思います。もちろん、新しいものはすぐに受け入れられるとは限りません。「洗たくマグちゃん」を開発したときもそうでした。「洗剤を使わずに洗濯する」と言ったら、妻ですら最初は「気持ち悪い」と言って使ってくれなかったんです。半ば本気で「使ってくれなかったら離婚するぞ」と言ったら、しぶしぶ使ってくれて、今では「洗たくマグちゃんだけの洗濯の方が気持ち良い」と言っているくらいです。人の意識って、そんなふうに少しずつ変わっていくものなんですよね。だからこそ、どうすればその意識を動かすことができるのか――そんな“仕掛け”を考えることが、これからの時代の商品づくりや事業づくりには欠かせないと思っています。宮本代表が新宿で出会った成功への秘訣ロングセラー商品「洗たくマグちゃん」の経験をもとに、様々な事業へ進出し続ける宮本製作所。最後に宮本代表に成功の秘訣を伺った。宮本代表:私が「成功の秘訣」と出会ったのは、都庁へ向かう新宿の地下道でした。ある日、その地下道で、一人のおじさんが色紙に“成功の秘訣”を書いて販売していたんです。周りには7〜8人ほどのお客さんがいて、1枚500円くらいで次々と売れていました。気になって、買った人の色紙をちらっと見てみると、そこにはこう書いてありました――「気づく・すぐやる」それ以来、この言葉をずっと意識して行動しています。ある意味、私はせっかちな性格なのかもしれません。とにかく、すぐに結果を知りたい。だからこそ、私たちの研究はいつもトライアンドエラーの連続です。とにかくやってみる。そして、うまくいかなければ別の方法をすぐ試す。その繰り返しです。「気づく・すぐやる」。それが、私自身にとっての成功の秘訣なのではないかと感じています。インタビュー後記宮本製作所の代表・宮本隆氏へのインタビューを通して印象的だったのは、「夢に勝る資本はない」という信念と、「気づく・すぐやる」という行動哲学だ。マグネシウムと水を起点にしたものづくりは、洗濯用品にとどまらず、コインランドリーや農業、水素風呂へと展開し、社会課題の解決にも通じている。循環型社会の実現というビジョンを追求するその姿勢は、多くの企業にとって学びとなるだろう。挑戦を恐れず、0→1を生み出す情熱が未来を切り拓いている。