インタビュイー:株式会社アキュイティー 代表取締役 佐藤 眞平様工場で長年培われた熟練工の勘や職人技。その微細な“動き”をデータとして記録し、誰もが共有・活用できる資産に変えられたならー。そんな発想のもと、現場の生産性向上や技術継承、さらには伝統工芸の技術保存にも挑む企業がある。「人の動きをデータ化することで、製造業や社会の課題解決に貢献したい」。そう語るのは、株式会社アキュイティーの佐藤眞平代表だ。アキュイティーはモーションキャプチャー技術を用いて人間や機械の動きをデータ化し、製造現場のDXや技能伝承の効率化、さらには伝統工芸の技術保存まで幅広く応用している。佐藤代表は大学卒業後、数社での経験を経て、画像処理技術やスポーツで培った視点を起点に事業を展開してきた。前編では、同社の事業の方向性と佐藤代表のキャリアの歩み、そしてその技術が伝統工芸などに応用される事例について伺った。人の動きをデータ化する―アキュイティーの事業の軸とは佐藤代表が目指すのは、「人の動きをデータ化する技術」を通して社会や人々の生活を豊かにすることだ。スポーツから始まったモチベーションを起点に、製造業や学術研究、そして日常生活にまで応用できる可能性を模索してきた。佐藤代表:私たちが目指しているのは、“人の動きをデータ化する”ことで社会に新たな価値をもたらすことです。動作というのは、単なる身体の運動ではありません。そこには目的や意志、経験があり、感情さえも含まれています。つまり「動き」は、その人そのものを表す情報資産なのです。しかしこれまで、その“人の動き”を精密に記録し、再現することは技術的に難しかった。今ようやく、それを可能にする環境が整いつつあります。現在は、特に製造業に注力しています。熟練者の技能伝承や少子高齢化による人手不足、生産効率の維持といった課題は、どの企業にとっても喫緊のテーマです。IoTやロボットのデータは取れても、人の動きだけがブラックボックスのままだった。そこに切り込むのが、私たちアキュイティーの役割です。人の動きを正確に計測し、作業工程の中でどの動作が効率的で、どの動作が品質を左右しているのかを“見える化”する。それができれば、生産の入口から出口までをデータでマネジメントできるようになります。いわば、「真のスマートファクトリー」の実現です。日本の製造業は世界的に見ても強い産業ですが、その強さを未来へとつなぐためには、人の技術や感覚をデータとして次世代に残していく必要があります。そこにこそ、私たちの技術が大きな価値を発揮できると考えています。製造業はリテラシーが高く、課題も明確なため、最初のターゲットとして最適でした。ただ、ここがゴールではありません。人が動く場所であれば、すべてが私たちのフィールドです。例えば、介護や教育、飲食の現場でも、人の動きは成果を左右します。マクドナルドの例を挙げると、店の扉が開いてからバンズを焼き始めるまでの僅かな時間の違いが売上に直結すると言われます。プロセスはマニュアル化されていても、その中で「人がどう動いているか」は未だに感覚頼み。ここにも動作データ化の余地があります。つまり、製造業は“はじまり”にすぎず、医療、スポーツ、教育ー人の動きがあるあらゆる分野で、精密なデータが人の可能性を広げていく未来を見ています。私自身のキャリアもこの発想につながっています。大学卒業後、画像処理の会社で働いたとき、赤ちゃんがどうすればミルクを飲みやすいかを解析するプロジェクトに携わりました。小さな動きを数値化することで、「人の感覚の裏にある科学」を理解できるのではないかと感じたのです。画像処理技術に出会った瞬間、「これは人間の“目”の働きを拡張できる」と直感しました。目が情報を取り込み、脳が判断を返す。その流れを再現できる技術に未来を感じたんです。スポーツの指導でも「もっと腰を落とせ」「力を抜け」といった感覚的な言葉をデータで示せるようになる。私自身、スポーツを続けていたこともあり、「動きを科学する」という発想はすぐに腹落ちしました。そして、収益性や社会的意義を考えたとき、その応用先としてまず浮かんだのが製造業や学術研究の分野でした。ここで培われた実績を礎に、今後は人の動きを通じて“社会全体の知見化”を進めていきたいと考えています。モーションキャプチャーが拓いた工業計測の世界アキュイティーの事業は、アメリカの企業によって開発されたモーションキャプチャー技術を産業分野に応用することからスタートした。もともとはエンターテインメント向けに開発された技術だが、佐藤代表はその可能性を工業計測や研究開発に広げることを決めた。佐藤代表:創業のきっかけは、モーションキャプチャーという特殊なスマートカメラとの出会いでした。反射球を利用して動きを捉えるこの技術は、もともとアメリカで映画やゲームなどの映像表現を高めるために使われていたものです。しかし私は、その映像解析の精度をさらに高めれば、「人やモノの動きを科学的に計測できる新しい計測器になる」と確信したのです。例えば、自動車のワイパーを例に挙げましょう。夏用から冬用にブレードを交換すると、時に“拭きこぼし”が発生します。シミュレーション上は問題がなくても、実際の動作では原因が特定できない。従来の加速度センサーではセンサー自体の重みが動きを変えてしまい、正確なデータが取れませんでした。しかし、モーションキャプチャーを用いれば、わずか0.1グラムの反射マーカーで動きを捉えられる。カメラで撮影するだけで、ブレードがどの位置で浮き、どの瞬間にバウンドが始まるかまで可視化できたのです。誰も気づけなかった原因を“見える化”した瞬間でした。この発見をきっかけに、「これまで測れなかったものを、測れる世界へ変える」可能性を強く感じました。自動車だけではなく、建築物の免震・耐震実験にも応用できると考えたのです。従来の実験では、数百本のケーブルを加速度センサーにつなぎ、専門技術者が数日がかりで設置していました。それが、アキュイティーの技術ではカメラを数台配置するだけで一括計測が可能になった。結果、5人が5日かけていた検証が、2人・半日で完了するようになったのです。当時、このような発想を持つ企業は他になく、モーションキャプチャーといえば「エンターテインメント専用の技術」という固定観念が支配的でした。ですが、私はそこにこそチャンスがあると思いました。もともと私は、物事を少し斜めから見るタイプなんです。「なぜ誰もこの技術を他分野に転用しないのか」「もっと実用的な場面でこそ、真価を発揮するのではないか」と。そして、モーションキャプチャーを産業の現場に持ち込む“技術転換”に挑戦しました。まだ誰も市場をつくっていないニッチな領域でしたから、最初は“罠を仕掛ける”つもりで展示会やSEO対策に奔走しました。自ら営業し、インバウンドでの問い合わせを地道に増やして実績を積んでいったんです。その経験がいまの会社の基盤になりましたが、同時に、外からの反応を待つだけでは限界があることも痛感しました。だからこそ今は、アウトバウンド営業やアカウントマネジメント体制を強化し、より戦略的に市場を開拓しています。当初は製造業の実験部門や研究開発部門といった“上流工程”からの相談が中心でしたが、近年は実際の製造現場からの引き合いが着実に増えています。以前は専用スタジオや高価なカメラ設備が必要でしたが、AI解析技術の進化によって、いまや現場でカメラを設置し映像を撮るだけで、精密な動作データが得られる時代になりました。これまで“映像”としか捉えられなかったものが、いまでは数値・構造化された“情報”として産業の言語に変わる。その瞬間に立ち会っている感覚があります。モーションキャプチャーを“エンタメの道具”から“社会の計測インフラ”へーこの転換こそ、アキュイティーが切り拓いた最大のブレイクスルーだと思っています。伝統工芸の技術継承―データ化で見えるこれからの可能性職人の技術を次世代へ伝えることも、佐藤代表にとって重要なテーマだ。製造業と同じく、人の動きや習慣を可視化することで、曖昧だった技術を言語化し、誰でも習得できる仕組みを作ろうとしている。佐藤代表:近年は、職人の技術伝承における課題解決にも力を注いでいます。製造現場を見渡すと、熟練者の“勘”や“感覚”に依存している工程が今も数多くあります。例えば、ネジを一本締める動作だけを取っても、人によって微妙に動きが異なります。ある現場で、10本のネジを締める作業にかかる時間を計測したところ、熟練者と新人の間でタクトタイム(作業時間)に20%もの差があることが分かりました。原因を分析すると、実際に締めている時間そのものが20%長かったのです。では、なぜそうなるのか。技術者に尋ねると、「最後の“締まった感”をどこまで意識しているか」の違いだと言います。ネジをキュッと締めた後、手の感覚を頼りにすぐ次の動作へ移る人もいれば、念のため少し空回しして確かめる人もいる。これまで「締まった感を意識しなさい」といった指導はあっても、その意味や動作の違いは言語化されていませんでした。しかし動きを数値化して比較することで、“何を意識しているか”という曖昧な部分が明確に可視化された。結果、ちょっとした意識づけの改善だけで、作業効率は格段に上がったのです。製造業の現場では、ほんのコンマ数秒の差が大きな生産性の違いを生みます。こうした「目には見えない差」は、データ化して初めて気づけることが多いです。例えば、物の移動作業でも、早い人と遅い人の動き方には明確な違いがありますが、映像で見るだけでは分かりません。データで比較して初めて、「手の軌道が少し遠い」「身体の重心移動が遅い」といった具体的な差が見えてくる。データ化は、単なる効率化の手段ではなく、技術そのものを“見える知識”に変える装置なのです。さらに重要なのは、「できる人」自身も、なぜ自分が上手くできるのかを自覚していない場合が多いということです。データ化することで、自分の動きのどこが最適で、どこに再現性があるのかを客観的に理解できる。これまで属人的だった“勘の世界”を、誰もが習得できる知識体系へと変えていけるわけです。結果として、熟練者に頼らない教育体制が実現し、現場全体がよりポジティブに、効率的に回るようになるのです。この動作分析の考え方は、製造業だけにとどまりません。介護、スポーツ、教育など、「人が動く」あらゆる領域で応用できる可能性があります。とはいえ、今はまず製造業に集中しています。日本の基幹産業として市場規模は大きいものの、成熟市場ゆえに成長率は高くありません。だからこそ私は常に、「本当に製造業だけなのか?」という問いを持っています。新しい産業が立ち上がる初期段階から、動作データを基盤にした仕組みをつくることこそ、次の大きな成長につながる。現在はその未来を見据えながら、さまざまな領域でトライ&エラーを繰り返しています。私たちの挑戦は、“人の動き”という普遍的なテーマを軸に、業界を超えて社会の仕組みそのものを変えていくこと。その一歩一歩が、確実に次の時代の標準をつくる礎になると信じています。佐藤代表の言葉から伝わってくるのは、「技術を使って人の動きを可視化し、社会や現場に貢献する」という一貫した信念だ。スポーツの経験から養われた視点をスタートに、製造業や研究開発、さらには職人技の継承にまで応用範囲を広げてきた。高精度のモーションキャプチャー技術を、より簡単により多くの人に使ってもらう仕組みをつくる挑戦は、まだ始まったばかりだ。後編では、佐藤代表の起業のきっかけや社名の由来、マーケットを作る苦労、そして現在の会社の状況や今後のビジョンについて伺っていく。