インタビュイー:株式会社アケボノ 代表取締役 細田 健一様株式会社アケボノは、埼玉県熊谷市を拠点に、塗装・防水・大規模修繕を手がける改修工事会社である。工場や倉庫、マンションなどの大型物件を中心に、建物を長く維持し、資産価値を守るための工事を提供している。同社の特徴は、塗装・防水という領域に特化しながら、約330社の協力会社とのネットワークを生かし、元請けとして事業を展開している点にある。現在の元請け比率は98.4%まで高まり、専門性と提案力を軸に成長を続けている。代表取締役の細田健一氏は、1994年に23歳で起業し、売上50億円を超える規模まで会社を成長させた一方、2005年に民事再生を経験した。その後、家業である株式会社アケボノに入社し、2016年に代表取締役へ就任。下請け工事主体だった事業構造を大きく転換し、社員へ利益を還元できる会社づくりを進めてきた。2019年には肺がんのステージ3が判明し、約1年間の闘病を経験。復帰後は、会社を支えてくれた社員への想いを企業理念として言葉にし、理念を軸とした組織づくりと事業成長に取り組んでいる。後編では、株式会社アケボノ代表取締役 細田健一氏に、肺がんによる闘病を経て生まれた企業理念や、AIと営業マニュアルを活用した人材育成、売上100億円を見据えた今後のDX戦略について、お話を伺った。改革のさなかに訪れたがん宣告。社員に向き合って生まれた理念経営社長就任後、元請けへの転換を進めていた細田代表を突然のがん宣告が襲った。会社を離れざるを得ない状況の中で、支え続けてくれた社員への想いが、アケボノの理念の原点となった。細田代表:2016年に代表取締役へ就任してから、アケボノを元請け中心の会社へ変えるために、営業体制の整備を進めていました。しかし、改革の途中だった2019年に肺がんのステージ3であることが分かり、約1年間治療に専念することになりました。当時は、元請けと下請けの売上がそれぞれ半分ほどを占めており、会社の事業構造を変えている最中でした。私が闘病していた期間に、7億円から8億円ほどあった売上は、5億円まで落ち込みました。その間には、会社を離れて独立する社員もいました。一方で、厳しい状況のなかでも会社に残り、日々の業務やお客様との関係を守ってくれた社員もいます。私が十分に会社へ関われないなかで、現場を支え続けてくれました。そこで強く感じたのが、残って頑張ってくれた社員に報いる会社をつくらなければならないということでした。闘病を経験したことで、これまでの自分は何を残してきたのかを考えるようになりました。そこで芽生えたのが、社員に報いたいという想いと、自分が生きた証をつくりたいという気持ちです。それまでの当社には、会社が何を大切にし、何のために事業を行うのかを示す明確な企業理念がありませんでした。そこで、会社の目指す方向を2つの言葉にしました。1つは、お客様に対する「塗装、防水、大規模修繕を通じ、安心で快適な改修工事を提供する」という理念です。もう1つは、社員に対する「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という理念です。お客様に安心で快適な改修工事を提供し、そこで生まれた利益を社員の幸福につなげる。この2つを、会社経営の中心に据えることにしました。売上や利益はもちろん大切ですが、それ自体を目的とするのではなく、お客様へ価値を届け、社員に報いるために必要なものだと考えています。理念を定めてからは、仕事に向き合う姿勢や判断の基準も変わりました。売上になるかどうかだけで判断するのではなく、その仕事がお客様に安心で快適な改修工事を提供することにつながっているのか、理念に反する判断になっていないかを考えるようになりました。会社で何かを判断するときにも、企業理念に照らし合わせることを社員へ伝えています。理念は、ただ掲げたり覚えたりするためのものではありません。日々の仕事のなかで、どのように考え、行動するのかを決める基準でなければ意味がないと思っています。闘病を経て生まれた2つの理念は、私個人の想いを言葉にしただけではなく、アケボノが何のために事業を行い、どの方向へ進むのかを示す判断基準になりました。この理念を経営の中心に据えてから、当社は再び成長へ向かい始めましたAI活用と数字で営業を科学する。未経験者が成果を出す仕組み<AI修繕ビフォーアフター生成サービス>「全従業員の物心両面の幸福」を実現するには、理念を掲げるだけでは足りない。アケボノは、待遇の改善と採用の強化に加え、未経験者でも専門性を身につけ、成果を出せる育成の仕組みを整えている。細田代表:当社で実施したアンケートでは、企業理念やビジョンに共感している社員が86%に達していました。私自身、そこまで浸透しているとは想像していませんでした。当社では、理念を覚えるための朝礼や唱和を行っているわけではありません。言葉を暗記するだけでは、理念が浸透したとはいえないからです。大切なのは、理念の意味を理解し、日々の判断や行動に落とし込むことだと考えています。採用面接でも、当社が挑戦と失敗を繰り返しながら成長してきた会社であることを伝えています。入社後も、仕事の成果だけでなく、誠実さや協調性を重視しています。能力が高くても、周囲と協力できず、会社の方向性と合わない場合には、十分に話し合ったうえで別の道を選んでもらうこともあります。個人の能力を優先するのではなく、同じ理念のもとで協力し合える組織を守ることが、長期的な成長につながると考えています。「物心両面の幸福」を実現するためには、給与や働く環境を具体的に改善することも欠かせません。現在、営業職の平均年収は約690万円で、年間休日は127日から130日、月の平均残業時間は約25時間です。給与についても、この5年間で約3割のベースアップを行ってきました。こうした待遇を整えながら、毎月安定して人材を採用できる体制づくりにも力を入れています。ただ、人を採用するだけでは会社は成長しません。入社した社員がどれだけ早く専門知識を身につけ、成果を出せるようになるか。採用と同時に、育成の仕組みを整えることが重要です。現在取り組んでいるのが、生成AIを活用した教育です。新入社員がAIと会話しながら、塗装や防水の基礎知識を自分のペースで学べるようにしています。分からないことがあればAIへ質問し、そこで得た知識を上司とのミーティングで確認します。その後、施工管理担当者に同行し、現場で実際の作業を見ながら学んだ内容を確かめていきます。AIだけで教育を完結させるのではなく、座学、上司からのフィードバック、現場での経験を組み合わせています。塗装や防水の仕事では、工法や材料、建物の状態によって提案内容が変わるため、多くの専門知識が必要です。しかし、経験者だけを採用していては、会社の成長には限界があります。未経験者でも学び、早い段階で戦力になれる環境をつくることが、今後の成長には欠かせません。営業についても、個人の感覚や経験だけに頼らないようにしています。私が作成した営業マニュアルには、アプローチの流れや電話での話し方、商談で伝えるべき内容などを整理しています。さらに、成果を出すために必要な行動を数値で見えるようにしています。採用面接だけで、その人がどこまで成長するかをすべて見極めることはできません。営業には向き不向きがあり、成長する速度も一人ひとり異なります。だからこそ、人を見る目だけに頼るのではなく、誰が入社しても一定の行動を実践できる仕組みが必要です。現在、私自身が現場で営業を教えることはほとんどありません。マネージャーが育ち、マニュアルに沿って社員を指導できる体制が整ってきたからです。会社を大きくするためには、社長一人が売上をつくる会社ではなく、誰が入社しても着実に成長し、成果を出せる会社にしなければなりません。個人の経験や勘に依存するのではなく、成果を再現できる組織をつくり、その成果を社員の待遇へ還元する。この循環を強くしていくことが、アケボノの成長を支える土台になると考えています。支店を持たずに100億円へ。過去の失敗を生かすDX成長戦略最後に、今後の展望について、お話を伺った。細田代表:今後は、まず埼玉県・群馬県・栃木県の北関東3県で事業基盤を固め、その後東京・千葉・神奈川へと営業エリアを広げていきたいと考えています。目標として掲げているのは、2031年までに売上100億円、従業員200名、経常利益10億円を達成することです。100億円という数字だけを見ると、大きな目標に感じるかもしれませんが、私は十分に実現できると考えています。営業担当者が年間でどれだけ受注するのか、各地域に何人配置するのかを具体的に考えれば、必要な人員や行動量が見えてくるからです。大切なのは、目標を精神論で掲げるのではなく、実現に必要な仕組みへ落とし込むことです。その成長を支えるうえで、特に重要になるのがDXです。現在も、社内外のデータをクラウド上でやり取りできる環境を整えています。今後は、営業担当者を各地域で採用し、必ずしも熊谷の本社へ出社しなくても仕事ができる体制をつくっていきます。各地域の営業担当者がお客様を訪問し、建物の状況や要望を把握する一方で、見積もりや積算などの事務業務は本社で集中して行います。受注後の工事については、自社職人や地域の協力会社と連携して対応します。営業担当者が提案と受注に集中できれば、地域ごとに大きな事務所や管理部門を置く必要はありません。私が目指しているのは、物理的な支店を増やさなくても、各地域で事業を展開できる仕組みです。本社に見積もりや管理の機能を集約し、現地では営業と施工のネットワークを構築する。DXによって場所の制約を減らせれば、固定費を抑えながら営業エリアを広げられます。私は以前に起業した会社で全国に21店舗を展開しました。しかし、事業の拡大に組織や資金の管理が追いつかず、会社を維持できませんでした。だからこそ、今回は物理的な店舗を次々と増やすのではなく、財務への負担を抑えながら成長できる方法を選びたいと考えています。会社の規模を大きくすること自体が目的ではありません。売上と利益を伸ばすことで、より多くのお客様に価値を届け、社員の給与や働く環境をさらに良くしていきたいのです。現在は、社員の給与を業界平均の1.5倍にすることを目指していますが、将来的には2倍まで高めたいと考えています。100億円を目指すのは、過去と同じように規模を追いかけるためではありません。全社員の物心両面の幸福を実現し、塗装、防水、大規模修繕を通じて、より多くの建物と地域を支えるためです。過去の経験を生かしながら、無理なく持続的に成長できるアケボノの形を創っていきたいと思います編集後記今回は、株式会社アケボノ 代表取締役 細田健一氏にお話を伺いました。お話全体を通じて一貫していたのは、過去の失敗や困難を、次の経営を支える仕組みに変えていく姿勢でした。民事再生から得た教訓は事業構造の改革と成長戦略へ、闘病を経て生まれた社員への想いは理念や待遇、人材育成の仕組みへとつながっています。困難な経験から得た学びを、振り返るだけで終わらせず、理念や事業の仕組みへと変えていくことが、組織の持続的な成長につながるのだと学ばせていただきました。細田健一/1990年 19歳で株式会社リクルート入社(じゃらん事業部営業職 約2年半)。1992年 家業である曙塗装工業株式会社にて営業職として勤務。1994年 23歳で起業。一般住宅の外壁・屋根改修を中心に事業を拡大し、10年で売上高50億円、従業員400名、21店舗体制まで成長。2005年 民事再生法を申請。2006年 株式会社アケボノにて勤務開始。2016年 代表取締役就任。2019年 肺がんステージ3が発覚し約1年間闘病。2021年 復帰、社業に専念し5期連続売上30%成長を達成。【会社概要】会社名株式会社アケボノ創業昭和46年4月代表取締役細田 健一事業内容建設、塗装、防水、大規模修繕全般所在地埼玉県熊谷市肥塚1410