インタビュイー:株式会社アライブメディケア 代表取締役 安田雄太様介護付有料老人ホーム「アライブ」を、東京・神奈川で11ホーム展開する株式会社アライブメディケア。セコムグループの一員として高品質な介護サービスを提供し、「片道30分で行ける、街一番の介護屋」を目指して、入居者だけでなく地域にも貢献する取り組みを続けている。同社の最大の特徴は、「スタッフが幸せでなければ、入居者を幸せにすることはできない」という信念のもと、幸福学を経営に取り入れた「ウェルビーイング経営」を業界に先駆けて実践している点にある。代表取締役の安田雄太氏は、新卒入社後14年間にわたり介護の現場に身を置いた、たたき上げの経営者である。3期連続赤字という危機の只中で2021年に社長へ就任し、社員一人ひとりとの対話を重ねた経営改革によって、組織をV字回復へと導いた。後編では、株式会社アライブメディケア代表取締役の安田雄太氏に、3期連続赤字からの社長就任とV字回復の軌跡や、介護業界の構造そのものを変える事業構想、そして国境を越えて「人を大切にする」組織づくりについてお話を伺った。3期連続赤字からの社長就任。コロナ禍の「1,000時間の対話」が導いたV字回復〈第12回ホワイト企業大賞 「継続賞」を受賞〉2021年、安田氏は3期連続赤字という危機の中で、同社の社長に就任する。組織が崩れかけたとき、安田氏が選んだのは、社員一人ひとりと徹底的に向き合うことだった。コロナ禍というピンチを、安田氏は組織再生のチャンスへと変えていく。安田代表:私が当社の社長に就任したのは、2021年のことです。当時の会社は3期連続の赤字で、経営は危機の只中にありました。「会社がこうした状況になってしまったのは、私の責任だ」と自分に言い聞かせて、全事業所を回って謝罪することから始めました。立て直しにあたって私が取り組んだことは、とてもシンプルです。以前の経営陣に却下され続けてきた施策を、一つひとつ、順番にやり直していっただけです。改革の骨子は、すべて現場で見てきたものでした。スタッフの心をもう一度元気にしなければ、入居者に良いサービスなど届けられない。どうすれば社員全員が幸せになれるのか。そのためには社員の心の状態を見つめなければならないし、同時に、私たちがどこへ向かうのかという行き先も示さなければならないと考えていました。ちょうどその頃、世の中はコロナ禍にありました。施設の稼働は下がり、先行きは見えませんでしたが、これをむしろチャンスととらえました。稼働が下がって時間ができたのなら、その時間を使って、「私たちは何者なのか」を問い直そうと割り切ったのです。ビジョン、ミッション、バリュー。よく語られる言葉ですが、自分たちが何者で、目指す場所に行くには何が足りないのか。1000時間を超える対話を行い、社員と何度も重ねて言語化し、全社で共有していきました。あのとき稼働が忙しいままだったら、達成できなかったと思います。ピンチをチャンスに変えられたことが、現在につながっています。ただ、その道のりは痛みを伴うものでした。目指すべきあり方とやり方を明確に掲げた途端、それに合わない方々がどんどん辞めていき、一時は退職率が40%ほどに達してしまったのです。しかし不思議なもので、掲げた旗に共感してくれる仲間が、同じように次々と集まってきました。この方々と出会えなければ、会社の再生はなかったと思います。誰と一緒にやるのかを大切にできたことが、何より大きかったと感じています。組織が強くなった結果、2023年には黒字化し、2024年には過去最高の売上と利益を達成しました。何より嬉しかったのは、頑張って上げた利益を、社員へ大幅に還元するという約束を果たせたことです。苦労して収益を上げたものは、それを生み出した社員が受け取るべきだと、私はずっと言い続けて きました。給与が上がっていくなかで、社員が喜んでくれている。その姿を見られることが、私にとって何よりの喜びです。介護業界の「構造」を打ち破る。高単価モデルと「場所を超える」新サービスの構想V字回復を遂げた同社が次に見据えるのは、介護業界が長く抱えてきた構造そのものの変革である。「給与が低い」という業界の常識を覆すべく、安田氏は高単価モデルへの挑戦と、これまでにない新しいサービスの構想を描いている。安田代表:業績が回復し、社員への還元も果たせるようになったいま、私が次に挑みたいのは、介護業界そのものが抱える構造的な課題です。介護の現場で働く方々の給与が、なかなか上がりにくい。その背景には、収益の多くを介護保険に依存せざるを得ないという仕組みがあります。保険に依存しているかぎり、収益には上限があって、どうしても頭打ちになってしまうのです。そこで私が目指しているのが、高単価の新しいモデル「アライブプレミアムケア」です。当社は、富裕層向けの介護付ホームとしては国内でも高単価の部類にあたりますが、ここからさらに、ご入居者お一人おひとりの願いに応えるサービスを積み上げていきたいと考えています。たとえば、行きたい場所へ行きたい人と行く個別の旅行や、お部屋で受けられる理学療法士による個別のリハビリ、行きつけのお店へお連れする外食ツアー。こうした付加価値を一つひとつ重ねていくことで、相応の対価にもつながっていくと考えています。そうして得られた収益を、現場の社員へ還元していく。この循環をつくり出すことが、業界の構造を変える第一歩になると考えています。さらにその先には、「場所を超えるアライブ」という構想があります。当社のホームはいま都内の良い立地に集まっていますが、私たちが培ってきたケアのノウハウは、データベースとして共有できるソフトの部分にあります。であれば、東京である必要は必ずしもありません。たとえば、寒い冬は温暖な地域の温泉地で過ごし、暑い夏は涼しい土地で過ごす。季節に応じて滞在する場所を変えながら、どこにいてもアライブと同じ品質のケアを受けられる。そうしたサブスクリプション型のサービスを動かしていきたいのです。そして、この構想は国内にとどまりません。これから数年のうちに、アジアでも高齢化が本格的に始まっていきます。私たちが磨いてきたケアのノウハウを、DXとともに海外へ届けていく。日本の四季のなかで質の高い介護を受けたいという海外の方々をお迎えすることも、いずれは実現したい。介護を、国境を越えて価値あるサービスへと育てていく。それが、私が描く次の景色です。国境を越えた「共感」のチームづくり。誰もが輝ける新しい介護のスタンダードへ新しい介護のかたちを実現するうえで、安田氏が最も重視するのが「人」である。国籍を問わず、「人を大切にする」という想いに共感する仲間をどう集め、どんな組織を育てていくのか。安田氏が描く次世代のチーム像を伺った。安田代表:これまでお話ししてきた構想を実現するうえで、最大の鍵を握るのは、やはり「人」です。どれほど良いサービスを描いても、それを担う仲間がいなければ、何も始まりません。そして介護業界では、人材の確保が年々難しくなっています。だからこそ私は、早い段階から海外人材に目を向けてきました。そこで着目したのが、インドです。経営が苦しかった頃から、これからは海外の優秀な人材をどう集められるかが鍵になると考え、現地との関係づくりを進めてきました。インドの北東部に、海外へ働きに出る文化を持つ地域があり、そこの首長の方々と対話を重ね、優秀な看護師の方々が無理なく日本へ来られるルートを開拓したのです。その取り組みが実を結び、常勤社員のおよそ4割が海外人材となりました。500名を超える応募のなかから、私自身が一人ひとりと面接を重ねて選ばせていただいた方々です。この方々はポジティブで、ご家族のために頑張るという覚悟を持っていらっしゃる素晴らしい人材です。その前向きな姿勢は、日本人のスタッフにも良い刺激を与えてくれています。海外の優れた人材を育てていきたいという想いと、日本人ももっと頑張ろうという想い。その両方が組み合わさることで、当社はいま、人材の確保に悩まない強い組織へと育ちつつあります。私が大切にしているのは、国籍ではありません。「人を大切にする」というウェルビーイングの考え方に、心から共感してくれるかどうか。そこさえ重なれば、どこから来た方であっても、同じ志を持つ仲間になれると信じています。実際、いまの組織を支えてくれている部長たちも、当社の掲げる旗に共感して集まってくれた方々ばかりです。誰と一緒にやるのか。それを何よりも大切にしてきたからこそ、いまのアライブがあるのだと思います。結局のところ、組織を成長させるには教育がすべてだと私は考えています。スタッフの育成も、これからの時代を生きる子どもたちの教育も、根は同じです。一人ひとりが持っている力を、どう引き出し、伸ばしていくか。そこに向き合い続けることが、組織を育てることにほかなりません。国籍を越え、「人を大切にする」という想いでつながった仲間とともに、アライブの取り組みを介護業界の新しいスタンダードへと押し上げていく。そして、この仕事が本当に素敵なものなのだと、次の世代へ証明していきたいのです。編集後記今回は、株式会社アライブメディケア 代表取締役 安田雄太氏にお話を伺いました。パイロットの夢を絶たれた挫折から「人」と向き合う仕事に出会い、現場での反発や経営危機を乗り越えてきた歩みには、終始一貫した信念が流れていました。それは、「スタッフが幸せでなければ、ご入居者を幸せにすることはできない」という想いです。正論で人を動かすのではなく、まず相手の心に寄り添い、共感でつながる仲間を増やしていく。その積み重ねが組織のカルチャーとなり、V字回復という成果に結実したのだと学ばせていただきました。安田雄太/東京都世田谷出身。パイロットを目指して航空宇宙学を学ぶも、21歳の事故で夢を断念。人生の転機を経て介護の世界へ進み、2001年に株式会社荒井商店へ入社。都内12カ所のホームを運営し、「Well-being」を経営の核に据える。現場スタッフからホーム長まで全工程を経験し、コロナ渦2021年に社長就任し経営再建を達成。ホワイト企業大賞「継続賞」や「経営デザインランクアップ認証」を受賞し、透明性の高い経営を実践。自らもYouTube等で発信を行い、現場の想いに寄り添いながらスタッフが誇りを持てる組織文化の醸成と介護業界のイメージ刷新に邁進している。【会社概要】会社名株式会社アライブメディケア設立年1980年代表取締役安田 雄太事業内容介護付きホームの企画・運営所在地東京都杉並区高円寺北1-17-5