インタビュイー:株式会社Another works 代表取締役 大林尚朝様株式会社Another worksは、「挑戦するすべての人の機会を最大化する」をビジョンに掲げ、複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を展開している。 「複業クラウド」は、個人が持つ専門性や経験を、企業や自治体の課題と結びつけるプラットフォームだ。正社員という単一の雇用形態に依存せず、必要なスキルを、必要なタイミングで活用できる。人材不足や採用難に直面する組織にとっては新たな選択肢となり、個人にとってはキャリアの可能性を広げる挑戦の場となっている。 現在、個人の登録者は2026年3月時点で10万人を超え、2,500以上の企業や団体、250を超える自治体が利用。活用領域は都市部のスタートアップから地方自治体まで広がり、「複業」という概念そのものを社会に浸透させてきた存在といえる。個人の挑戦と組織の課題解決を同時に実現する社会インフラをめざす本事業は着実に拡大を続けている。 前編では、「複業」に込める想いや起業に至る経緯、起業当時のエピソードについて、お話を伺った。本稿では、株式会社Another works・代表取締役・大林尚朝氏に、組織拡大期のエピソードや社長ご自身の価値観、今後の展望についてお話を伺っていく。同じ会社にいながら、見ている景色が異なる。組織拡大期に突きつけられた課題会社が拡大するにつれて、社員全員が同じ理解や言葉を共有し続けることは難しくなっていく。人数が少なかった頃には意識せずにできていたことが、ある段階から意図的な働きかけを必要とするようになる。その変化にどう向き合うかが、組織の成長とともに浮かび上がる重要な課題となった。 大林社長:起業初期は少人数だったこともあり、メンバー全員が同じ景色を見て、同じ言葉で会社を語ることが自然にできていました。会社について何かを説明しなくても、考え方や方向性が共有されている感覚があったと思います。しかし、組織が拡大するにつれて、その前提は少しずつ変わっていきました。人数が増え、役割が分かれ、日々の業務が細分化されていく中で、社員一人ひとりが会社をどう捉えているのか、その輪郭が以前ほどはっきり見えなくなっていった時期があったのです。 その変化が最も分かりやすく表れたのが、社員一人ひとりの「会社理解」でした。たとえば、「Another worksの強みは何か」と問いかけたとき、10人、20人の頃は自然と同じ言葉が返ってきていました。それが50人を超えたあたりから、少しずつ答えにばらつきが生まれ始めた。会社について語る言葉が揃わなくなり、なぜその判断に至ったのかという背景が、全員に十分伝わらなくなっていく。私は、その状態を見過ごしてはいけないと思ったのです。だからこそ、意識的に「人と向き合う」時間をつくるようになりました。誰がどんな状態にあり、会社をどう理解しているのかを感じ取ろうとする。その姿勢だけは、組織がどれだけ大きくなっても失ってはいけないと考えています。 もちろん、経営者がすべてに口を出すことはしません。組織が大きくなるほど、メッセージをそのまま伝えることが、必ずしも正解ではなくなる場面も増えてきます。あえて言わないという選択をすることもあります。それもまた、社員を信頼し、任せるという経営の一部だと思っています。ただ、それは人を見ることをやめるという意味ではありません。これまで以上に一人ひとりの理解や状態に目を向ける必要があると感じています。 成長している人も、足踏みている人も、自然と目に入ってくる。だからこそ、経営の判断をするときには、数字だけでなく、その裏側にいる一人ひとりの理解や状況をできる限り想像するようにしています。 私にとって経営とは、単に事業を成長させることではありません。人が集まり、人が働き、人が同じ方向を向く場を預かることです。組織がどれだけ大きくなっても、その土台にある人を見ることから目を逸らさない。その姿勢を持ち続けることが、自分なりの経営の在り方だと感じています。自分を知らなければ、判断は鈍っていく。価値観を形づくった自己分析と直感大林代表の判断の軸にあるのは、特別な理論や成功法則ではなく、自分自身をどれだけ理解しているかという点である。日常の中で問いを立て、自分の状態や思考の癖を確かめ続けることで、判断の精度は磨かれてきた。 大林代表:私が経営判断をするときに、何か決まった型や手順に当てはめて考えているわけではありません。大切にしているのは、自分の状態をきちんと分かっているかどうかです。自分の思考や感情のクセを理解できていなければ、判断は簡単にぶれてしまうと感じています。 自己分析といっても、特別なことをしているわけではありません。日常生活の中で、常に自分の状態を考え続けています。例えば散歩をしているときや身体を動かしているときに、「今の判断は焦りから来ていないか」「この違和感はどこから来ているのか」と自分に問いを投げかけてきました。その積み重ねが、自分自身を理解する材料になっています。自分のパフォーマンスは、体調や生活リズムと切り離せないものだと感じています。睡眠が足りていないときや、無理をしているときには、思考の精度も確実に落ちる。だからこそ、まずは自分を整えることを大切にしています。 こうした自己理解の積み重ねの中で、「直感」についての捉え方も変わってきました。直感は気分やひらめきのようなものではありません。これまで経験してきた選択や失敗、迷いの蓄積が、形になって現れるものだと考えています。 その考え方に強く影響を受けたのが、実は漫画でした。特に印象に残っているのが「カイジ」です。作中で描かれる「直感は俺の血肉....俺の歴史!」という言葉には、強く腑に落ちるものがありました。論理だけでは言葉にしきれない判断も、振り返れば自分の経験に裏打ちされている。その感覚を肯定できるようになったことは、経営を続ける上で大きな支えになっています。頭で考え抜いたうえで、最後に「自分はこれを選べるかどうか」と問い直す。そのときに頼りになるのが、これまでの経験から積み上がってきた直感です。だからこそ、日々自分と向き合う時間を持つことを欠かさないようにしています。 組織が大きくなり、自分の判断が与える影響が広がるほど、その一つひとつに伴う責任は重くなります。その重さを引き受け続けるためにも、自分の思考や感情の揺れを自覚し、調整し続ける必要があると感じています。 振り返ってみると、私の価値観は誰かに教えられて出来上がったものではありません。問いを立て、迷い、選択し続けてきた日々の中で、少しずつ形づくられてきました。その積み重ねがあるからこそ、判断に迷ったときでも、最後は自分の選択に納得することができる。そうした感覚が、今の私の経営を支えています。複業を当たり前に。Another worksが向き合う日本の社会課題Another worksが描くのは、複業が当たり前に選ばれる社会である。人口減少と所得停滞という現実に対し、複業クラウドを社会インフラとして定着させる。個人が複数の役割を持ち、価値と所得を自ら広げていける構造を目指している。 大林代表:私は、事業を考えるときに社会課題から目を逸らさないようにしています。特に強く意識しているのが、人口減少と、日本人の所得が長年伸び悩んでいるという現実です。これらはすでに数字として明確に表れており、もはや誰かの努力だけで解決できる問題ではありません。 人口が減り続ける中で、働き手は確実に少なくなっていきます。その一方で、企業や自治体には解決すべき課題が山積しています。従来の雇用の形だけでは、そのギャップを埋めることは難しい。だからこそ、働き方や人材の活かし方を変えていく必要があると感じてきました。もう一つの課題である所得の伸び悩みも、同じ構造の中にあります。税や社会保障の負担は増え続けているにもかかわらず、個人が自由に使えるお金は決して増えていない。これは個人の努力不足ではなく、価値が十分に循環していない社会の構造に問題があると考えています。 私たちAnother worksが向き合っているのは、まさにその社会構造です。複業は単に仕事を増やすことではありません。個人が持つスキルや経験を、必要とする場所に柔軟に届けることで、個人の選択肢と所得を広げていく。その結果として、企業や自治体の中に滞留していた価値が、社会に循環していく。複業クラウドは、そのための仕組みです。 Another worksが目指しているのは、複業が特別な選択肢ではなく、当たり前の選択肢になる社会です。一部の意識の高い人や限られた職種だけの話ではなく、誰もが自分の意思で複数の役割を持てる状態をつくりたいと考えています。そのために、複業クラウドが現代社会のインフラになるまで磨き続けていきます。インタビュー後記今回は、株式会社Another works・代表取締役・大林尚朝氏にお話を伺いました。取材を通じて強く印象に残ったのは、「複業」が単なる働き方の選択肢ではなく、人生そのものの向き合い方を問い直す概念として語られていた点です。収入を増やすための手段ではなく、自分は何に時間を使い、どんな役割を担い、どのように生きていきたいのか。その問いに正面から向き合うことこそが複業であり、生き方そのものなのだと学ばせていただきました。大林尚朝/早稲田大学卒業。パソナグループに新卒入社後、ビジョナル株式会社での新規事業立ち上げを経て、2019年に株式会社Another worksを創業。業界初、複業したい個人と企業や自治体を繋ぐ総合型マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を開発。累計2,500社・250自治体以上の複業採用を支援、複業希望者が10万名登録。※数値は2026年1月時点東京都など複数自治体にて起業家メンターを担当。令和の新しい働き方を創るトップランカー【会社概要】会社名株式会社Another works設立2019年5月7日代表取締役大林尚朝事業内容複業クラウドの企画・開発・運営・販売所在地本社 東京都港区虎ノ門5丁目13-1 虎ノ門40MTビル3階サイトURLhttps://anotherworks.co.jp/