インタビュイー:株式会社アサンテ 代表取締役社長 宮内 征様株式会社アサンテは、住宅用シロアリ防除を主軸に、湿気対策や地震対策などを手がけるハウスメンテナンス企業である。1970年の創業以来、木造住宅の長寿命化を通じて、お客さまの安全・安心・快適な暮らしを支えてきた。これまでに60万軒を超えるお客さまへサービスを提供し、住宅用シロアリ防除では国内シェアNo.1の実績を有する。東証プライム市場に上場する現在も、床下の調査から施工、アフター点検までを一貫して担い、現場に根差したサービスを展開している。代表取締役社長を務める宮内征氏は、1994年に新卒で同社へ入社。現場経験を積んだ後、営業統括部で営業戦略や店舗展開に携わり、2020年に代表取締役社長へ就任。現場で培った経験と創業者から受け継いだ経営の精神を礎に、住まいの長寿命化を支える事業の発展と、社員が長く働き続けられる組織づくりに取り組んでいる。前編では、株式会社アサンテ 代表取締役社長 宮内征氏に、シロアリ防除を「減災」と捉えるアサンテの使命や、床下の現場で見いだした仕事の価値、そして創業者から受け継いだ経営の精神について、お話を伺った。シロアリ防除は、「減災」である。見えない床下から住まいと人命を守る使命はじめに、株式会社アサンテの事業内容について、お話を伺った。宮内代表:当社は、木造住宅にお住まいの個人のお客さまを中心に、住宅のメンテナンスを通じて、住まいを長持ちさせるお手伝いをしています。主なサービスは、シロアリ防除、湿気対策、地震対策です。シロアリ防除というと、一般的には害虫駆除をイメージされると思います。もちろんシロアリを退治することも大切ですが、私たちが向き合っているのは、災害時の人的被害を小さくし、住人の方を守る「減災」です。シロアリによる食害や木材の腐朽が進めば、木造住宅の耐久性は大きく損なわれます。普段の生活では目立った変化が見えなくても、地震などの大きな力が加わったときには、建物の倒壊リスクを高める要因になり得ます。阪神・淡路大震災では、倒壊した家屋の下敷きになり、逃げ出す時間を確保できなかった方が多くいらっしゃったと聞いています。減災の考えでは、避難のために必要な猶予を考えるうえで、「12秒」という数字を一つの目安にしています。地震が起きたとき、建物がすぐに倒壊してしまうのか、外へ逃げるための数秒を確保できるのか。そのわずかな差が、人命を左右することもあると考えています。もちろん、シロアリ防除だけで建物の倒壊を完全に防ぐことはできません。ただ、シロアリ被害や腐朽を防ぎ、建物が本来持っている耐久性を維持することで、倒壊までの時間を少しでも延ばすことにはつながるはずです。だからこそ、私たちの仕事は、家の耐久性を守り、その先にある人命を守ることだと捉えています。災害そのものをなくすことはできなくても、被害を少しでも小さくする。その意味で、シロアリ防除は「減災」につながる仕事なのです。阪神・淡路大震災に関する調査では、蟻害や腐朽が確認された木造住宅の全壊率は、確認されなかった住宅の約4倍だったとされています。木造住宅は、適切なメンテナンスを続けなければ、本来の強さを長く保つことはできません。シロアリを発生させないための予防に加え、床下の湿気を抑える対策や、接合部・基礎を補強する地震対策を組み合わせながら、住まい全体を守っていくことが重要です。当社はこれまで、60万軒を超えるお客さまにサービスを提供し、住宅用シロアリ防除では国内トップです。床下に入り、目視や打診によって建物の状態を丁寧に調べる。そこで分かったことをお客さまにきちんと説明し、本当に必要な対策をご提案する。さらに、施工して終わりではなく、その後も定期的に点検を続ける。こうした一つひとつの積み重ねによって、お客さまの暮らしを見えないところから支えることが、私たちの役割だと考えています。シロアリ探知犬の活用も、当社らしい取り組みの一つです。体育館など建物によっては、人が床下に入れないことがあります。また、神社仏閣や文化財のように、建物自体が貴重な文化資産である場所もあります。シロアリ探知犬は、犬の優れた嗅覚を生かして、シロアリ特有の匂いを探知します。人による目視や打診だけでは調べにくい場所を補うことで、非破壊かつ精度の高い調査を実現できます。私たちはこうした技術や工夫を重ねながら、シロアリ防除を単なる害虫駆除ではなく、住まいの長寿命化と減災を支える仕事として捉えています。誰もやりたがらない仕事にこそ価値がある。床下で見つけた仕事の原点就職活動で金融業界や医療業界を見ていた宮内代表が出会ったのが、当時「三洋消毒」という社名だったアサンテである。宮内代表:私は大学で経済学部に在籍していたため、就職活動では大きく2つの業界を見ていました。1つは証券会社や銀行などの金融業界、もう1つは医療業界です。文系出身ですから研究職に就くことはできませんが、医薬情報担当者であれば医療分野に関われるのではないかと考えていました。当時の当社は、「株式会社アサンテ」ではなく「三洋消毒株式会社」という社名でした。その名前から、私は病院の消毒など、医療に近い仕事をしている会社なのだろうと思って応募したのです。しかし選考が進むにつれて、実際には医療関係ではなく、シロアリ防除を中心とする会社だと分かりました。それでも入社を決めたのは、いくつか内定をいただいた会社の中で、面接を通じて最も会社の成長性を感じたからです。当時から、会社は上場を目指していると聞いていました。また、シロアリ被害は温暖な地域ほど大きくなる傾向がありますが、東京に本社を置く当社の営業エリアは、まだ名古屋や岐阜周辺まででした。今後は西日本へ展開していくという話を聞き、会社に大きな伸びしろがあると感じました。事業内容を理解したうえで、「この会社なら、これから面白いことができるのではないか」と考え、入社を決めました。ところが、入社後に待っていた現実は、想像以上に大変なものでした。研修センターで座学を受けた後、営業所に配属されると、まず床下に入るところから始まります。床下の高さは30〜40センチほどしかなく、土をかき分けながら、ほふく前進で進まなければなりません。全身が泥だらけになる仕事で、初日には「これは自分には無理だ。」と思うほどでした。それでも続けてこられたのは、この仕事の必要性を現場で感じたからです。床下に入る仕事は、誰もが進んでやりたがるものではありません。しかし、やりたがる人が少ないからこそ、必要とされる仕事なのではないかと思うようになりました。若かった私が床下から真っ黒になって出てくると、お客さまから「若いのに大変だったね」「ありがとう」と声をかけていただくことがありました。自分の仕事に対する感謝の言葉を、目の前のお客さまから直接いただける。それは、この仕事ならではの大きな醍醐味でした。お客さまの住まいに伺う仕事ですから、現場では本当にさまざまな出会いがあります。工事の際に昼食を出してくださる方もいれば、帰りに「野菜を持っていきなよ」と声をかけてくださる方もいました。十人十色のお客さまと接する中で、人と向き合う面白さや、暮らしを支える仕事の価値を少しずつ感じるようになったのです。入社当初は、想像していた仕事との違いに戸惑いました。それでも、床下で泥だらけになり、お客さまの声を直接聞いたからこそ、誰かが担わなければならない仕事の必要性と、その先にあるやりがいに気づくことができたのだと思います。創業者から受け継いだ経営の精神と準備期間なき承継<2013年6月、42歳で取締役に就任。>本社の営業統括部で、現場の数字管理や店舗展開を担った若手時代。創業者の近くで仕事を重ねる中、宮内代表は経営者として大切にすべき姿勢を少しずつ吸収していった。宮内代表:1994年に入社後、まず技術研修を受け、その後数カ月にわたって営業を経験しました。住宅地図を確認しながら、一軒一軒お客さまのお宅を訪問し、現場で仕事の基本を身につけていきました。入社から半年ほど経った頃、本社の営業統括部門に配属されました。そこでは現場の社員と接しながら、営業数字を管理するだけでなく、どの商品を、どのような方法で販売していくのかといった、営業方針の設計にも携わりました。営業統括部門に配属されて以降、当時の社長や専務から直接指示を受けて仕事をする機会に恵まれました。その頃から将来自分が会社を担うことを具体的に思い描いていたわけではありません。ただ、経営陣の近くで仕事をするなかで、会社全体をどのように動かすのか、経営と現場をどのようにつないでいくのかを学んでいきました。2013年、当社は東証二部へ上場し、その直後の株主総会で私は取締役に就任しました。営業部長を務めるなかで意識していたのは、一方的に指示を出すのではなく、現場と目線を合わせることです。営業には達成すべき目標がありますが、上から「この数字を目指してください」と伝えるだけでは、現場は納得して動くことができません。そこで、各支店と何度もやり取りを重ね、それぞれの状況や考えを聞きながら目標を設定するようにしていました。最終的には私が決める数字であっても、互いに一定の理解を持ち、同じ方向を向いて進むことが大切だと考えていたからです。こうした経営に対する考え方には、先代社長の影響も大きくあります。先代とは、親子ほど年齢が離れていましたが、人間的な魅力にあふれた方でした。お酒を酌み交わしながら話をする機会もあり、そのなかで、物事を一方向から見るのではなく、さまざまな立場や事情を踏まえて判断する姿勢を学びました。2020年、先代社長が急逝し、私は代表取締役社長に就任しました。当時は常務を務めており、「いずれは任せる」といった話を受けてはいましたが、明確な準備期間が設けられていたわけではなく、戸惑いながらのスタートでした。経営者として、取引先とどのような関係を築くのか。難しい局面で、何を基準に判断するのか。そうした社長としての実務的なノウハウを、すべて身につけた状態で就任したわけではありません。試行錯誤しながら、一つひとつ学んでいくしかありませんでした。それでも、先代社長や専務の近くで長く仕事をしてきたからこそ、当社が大切にしてきた考え方や経営の精神は、自分なりに受け継いできたつもりです。一方で、時代は非常に速いスピードで変化しています。先代の考え方を、そのまま現在に当てはめればよいわけではありません。受け継ぐべきものは大切に守りながらも、時代に合わなくなった部分は変え、常に経営をアップデートしていく必要があります。その覚悟を持ち、今も日々学びながら経営に向き合っています。前編では、シロアリ防除を「減災」と捉えるアサンテの使命や、床下の現場で見いだした仕事の価値、そして創業者から受け継いだ経営の精神について、お話を伺いました。後編では、コロナ禍を機に進めた労働環境の構造改革や、「一期一会」の精神を軸とした組織づくり、そして住宅メンテナンスの価値を社会に広げるための成長戦略について、お話を伺っていきます。宮内 征/1971年3月11日生まれ。1994年東京経済大学経済学部を卒業後、株式会社アサンテへ入社。長年にわたり営業分野の業務に従事し、2013年に取締役、2020年に代表取締役社長に就任。【会社概要】会社名株式会社アサンテ創業1970年代表取締役社長宮内 征事業内容・HA(ハウスアメニティー)事業・TS(トータルサニテーション)事業所在地本社東京都新宿区新宿1丁目33番15号