インタビュイー:株式会社アサンテ 代表取締役社長 宮内 征様株式会社アサンテは、住宅用シロアリ防除を主軸に、湿気対策や地震対策などを手がけるハウスメンテナンス企業である。1970年の創業以来、木造住宅の長寿命化を通じて、お客さまの安全・安心・快適な暮らしを支えてきた。これまでに60万軒を超えるお客さまへサービスを提供し、住宅用シロアリ防除では国内シェアNo.1の実績を有する。東証プライム市場に上場する現在も、床下の調査から施工、アフター点検までを一貫して担い、現場に根差したサービスを展開している。代表取締役社長を務める宮内征氏は、1994年に新卒で同社へ入社。現場経験を積んだ後、営業統括部で営業戦略や店舗展開に携わり、2020年に代表取締役社長へ就任。現場で培った経験と創業者から受け継いだ経営の精神を礎に、住まいの長寿命化を支える事業の発展と、社員が長く働き続けられる組織づくりに取り組んでいる。後編では、株式会社アサンテ 代表取締役社長 宮内征氏に、コロナ禍を機に進めた労働環境の構造改革や、「一期一会」の精神を軸とした組織づくり、そして住宅メンテナンスの価値を社会に広げるための成長戦略について、お話を伺った。逆風の中で、社員が長く働ける会社へ。コロナ禍に踏み切った構造改革社長就任直後に訪れたコロナという逆風の中、宮内代表が最初に向き合ったのは、社員が長く働き続けられる会社へと土台を作り直すことだった。宮内代表:社長に就任してまず感じたのは、責任の重さと、社長という立場ゆえの孤独でした。常務として経営に携わってはいましたが、最終的に判断を下す立場になると、見える景色はまったく異なります。どこまで周囲に相談してよいのか、どこからは自分自身で決めなければならないのか。その葛藤を、日々感じていました。ただ、私は自分が特別に優れているとは思っていません。だからこそ、周囲に相談し、さまざまな意見を聞いたうえで決めることが大切だと考えています。社長だからといって、すべてを一人で抱え込むのではなく、役員や社員と話をしながら、会社として進む方向を定めていく。最終的な責任は自分が負いますが、その過程ではできる限り周囲の声を聞くことを、就任当初から意識していました。そのなかで、最初に変えなければならないと考えたのが、社員の労働条件です。当社の今日の業績は、現場で働く社員一人ひとりの頑張りによって支えられています。一方で、床下に入る仕事には身体的な負荷があり、営業も決して簡単な仕事ではありません。以前から人の入れ替わりが多く、社員が定着しにくいことは、会社として大きな課題でした。社員に長く働いてもらうためには、まず給与や福利厚生、休日といった労働環境を整えなければなりません。そこで、社長に就任して最初に着手したのが、休日数の見直しでした。私が社長に就任したのは2020年2月です。その直後から新型コロナウイルスの影響が広がり、4月には不要不急の外出を控えるよう求められる状況になりました。当社も営業を自粛せざるを得ず、売上は大きく落ち込みました。通常であれば、目先の業績を回復させることを最優先に考える局面だったかもしれません。しかし私は、むしろコロナ禍を、これまで先送りにしてきた課題に向き合う機会にしようと考えました。このタイミングで構造改革を進めようと決め、休日を大幅に増やしたのです。休日を増やせば、その分だけ業績とのトレードオフが生じます。上場企業である以上、業績に対する責任もありますので、簡単な判断ではありませんでした。それでも、社員が疲弊して定着しない状態を放置したままでは、会社は長期的に強くなりません。一時的には立ち止まるように見えても、社員が安心して働き続けられる土台を整えることが、結果としてお客さまへのサービス品質を高め、会社の持続的な成長につながると考えたのです。まずは給与や福利厚生といった、働き続けるための労働環境を整える。そのうえで、仕事の意義やキャリアアップの道筋を見えるようにし、社員がこの会社で働くことに前向きな理由を持てるようにする。その順番で、組織を変えていく必要があると考えています。コロナ禍は、当社にとって大きな逆風でした。しかし、その逆風のなかにあったからこそ、これまで手をつけ切れなかった課題に向き合い、構造改革に踏み出すことができました。社長就任直後の厳しい局面で、目先の数字だけを追うのではなく、社員が長く働ける会社へ変わるための土台をつくる。その決断は、当社がこれから持続的に成長していくうえで、必要なものだったと考えています。「この人のために頑張りたい」と思える会社へ。一期一会でつなぐ仲間の絆先代社長が大切にしてきた「一期一会」という言葉。宮内代表はその精神を、共に働く仲間との関係にも重ねながら、組織の連帯感をさらに育てようとしている。宮内代表:先代社長からは、よく「一期一会を大切にしなさい」と言われてきました。お客さまとの出会い、取引先との出会い、社員同士の出会い。その一つひとつを大切にすることが、仕事をするうえでの基本なのだと受け止めています。ただ、私にとっての一期一会は、そのときどきの出会いを大切にすることだけではありません。一つの出会いをきっかけに、長く付き合っていける仲間をつくっていくことも大切だと考えています。社員が会社で働く理由は、人によってさまざまです。生活のために収入を得ることもあれば、仕事を通じて自己実現を目指すこともあるでしょう。そのなかで私が大切にしたいのは、「この人のために頑張りたい」と思える関係です。もちろん、私たちが最終的に力を尽くす相手はお客さまです。しかし、会社のなかでも「この上司のためなら頑張りたい」「この同僚を支えたい」と思える関係があれば、仕事に向き合う力は変わってくるはずです。先代社長も、私にとって「この人についていきたい、支えたい」と思わせてくれる方でした。そうした人と人との絆を、会社のなかに育てていきたいと考えています。一方で、当社は現在、1,000人規模の会社になり、全国各地に拠点を構えています。東北で働く社員と九州で働く社員が、同じ会社に所属しながら一度も顔を合わせたことがないということも珍しくありません。それぞれが自分の地域や目の前の仕事に向き合っているからこそ、離れた拠点で働く仲間にまで関心を持つことは、簡単ではないと思います。だからこそ、各地で働く社員をどのようにつなぎ、一つの会社としての連帯感を育てていくかは、これからのアサンテにとって重要な課題です。当社ではコロナ禍以前、数百人の社員とその家族が参加する社員旅行を実施していました。現在でも、社員から「復活させてほしい」という声を聞くことがあります。社員旅行や社内行事を行うこと自体が目的ではありません。普段は異なる地域で働く社員が顔を合わせ、同じ時間を過ごし、何かに一緒に取り組む。そうした共同体験を通じて、自然と連帯感が生まれることに意味があるのだと思います。先代から受け継いだ「一期一会」という言葉を大切にしながら、一度の出会いを、長く支え合える仲間との関係へと育てていく。社員が「この人のために頑張りたい」と思え、長く働き続けられる会社の土台をつくることが、経営者である私の役割だと考えています。住宅メンテナンスの価値を、もっと社会へ。外部の知見と構造改革で挑む次の成長シロアリ防除を単なる害虫駆除ではなく、住まいの長寿命化と減災を支える仕事として、社会にどう伝えていくか。アサンテは、外部パートナーとの提携を通じて外部の知見を取り入れ、マーケティングや人的資本、DXなどの改革を進めている。宮内代表:当社の仕事は、お客さまの住まいに直接関わる仕事です。現場では、社員が床下に入り、泥だらけになりながら調査や施工を行います。決して楽な仕事ではありませんが、お客さまから「ありがとう」「若いのに大変だったね」と声をかけていただくことがあります。そうした言葉を直接いただけることは、この仕事ならではの醍醐味であり、社員が仕事の価値を実感する機会にもなっています。一方で、アサンテという会社や、私たちが担う住宅メンテナンスの仕事は、まだ十分に認知されているとは言えません。シロアリ防除という言葉から、単なる害虫駆除をイメージされる方も多いと思います。私たちが実際に担っているのは、木造住宅の耐久性を維持し、住まいの長寿命化や減災につなげていく仕事です。こうした事業の価値を、より多くの方に分かりやすく伝えていく必要があります。そのために現在は、企業の成長戦略や経営課題の解決を支援するアドバンテッジパートナーズとの事業提携を通じて、外部の知見を経営に取り入れています。具体的には、マーケティングの強化をはじめ、人的資本、DXやAIの活用、提携先の拡大など、テーマごとに分科会を設けて議論を進めています。アサンテをどのように認知していただくのか、私たちの仕事の必要性をどのように伝えていくのか。外部からの率直な意見も取り入れながら、営業や事業のあり方を見直しています。中期経営計画では、3年後の目標として、売上高169億円、営業利益14億4,000万円を掲げています。今期は、働き方の見直しをはじめとする構造改革を進めるため、いったん減益する計画としています。しかし、改革を行う以上、その後にしっかりと成長へ転じ、V字回復を示さなければなりません。ステークホルダーや株主の皆さまに納得していただくためにも、掲げた目標へ責任を持って取り組む覚悟です。社内の労働環境を整えながら、外部の知見を取り入れ、マーケティングやDX、人材への向き合い方を変えていく。いまは、アサンテが次の成長へ進むための土台をつくっている段階です。ただ数字を掲げるだけではなく、構造改革の成果を形にし、アサンテという会社と住宅メンテナンスの仕事を、より多くの方に知っていただく。その積み重ねによって、会社が持つ伸びしろを確かな成長へとつなげていきたいと考えています。編集後記今回は、株式会社アサンテ 代表取締役社長 宮内征氏にお話を伺いました。お話全体を通じて一貫していたのは、目の前にいる人との関係を、事業や経営の出発点にする姿勢でした。現場で受け取ったお客さまからの感謝、創業者から学んだ「一期一会」の精神、そして社員が長く働き続けるための労働環境の改革。いずれの場面でも、宮内代表の判断の中心には、お客さまや共に働く仲間への想いがありました。社員が安心して働き、誇りを持って仕事に向き合える環境をつくることが、結果としてお客さまへのより良いサービスにつながっていくのだと学ばせていただきました。宮内 征/1971年3月11日生まれ。1994年東京経済大学経済学部を卒業後、株式会社アサンテへ入社。長年にわたり営業分野の業務に従事し、2013年に取締役、2020年に代表取締役社長に就任。【会社概要】会社名株式会社アサンテ創業1970年代表取締役社長宮内 征事業内容・HA(ハウスアメニティー)事業・TS(トータルサニテーション)事業所在地本社東京都新宿区新宿1丁目33番15号