インタビュイー:株式会社アシストユウ 代表取締役社長 小幡 祐己様建設、農業、防災、インフラ保守―。日本各地に点在する“現場”は今、過酷さを増すばかりである。山間部や沿岸部では通信インフラが整わず、夏の炎天下や突発的な豪雨といった自然条件も容赦なく作業を阻む。加えて、現場を担う人材の高齢化と慢性的な人手不足は深刻さを極め、従来の人海戦術による安全確保や進捗管理には限界が来ている。こうした現場を、遠隔から「見守り」「判断し」「必要に応じて動かす」仕組みがあったなら―。その一歩を、宮崎から現実のものにしているのが株式会社アシストユウである。同社が開発・展開するのは、電源ひとつで稼働し、3分で通信が立ち上がる屋外用ネットワークカメラシステム。遠隔地にいながらスマートフォンやPCでリアルタイム映像を確認し、異常時にはアラート発信や機器制御も可能にする“判断するカメラ”だ。屋外特化型の「モニタリングミックス」、そしてAIとセンサーを連携させた上位モデル「MICS AI(ミックス・エーアイ)」を軸に、現場の“困った”に寄り添い続けている。こうした発想が生まれたのは、今から約20年前のこと。電気設備業向けITシステムを祖業とするアシストユウが、現場のリアルなニーズに応えるかたちで着手した技術開発は、やがて日本の現場全体を支えるソリューションへと進化を遂げる。熱対策、通信環境、遠隔制御―「屋外」という過酷な環境に挑み続けるその足跡は、まさに“現場起点”のものづくりの体現である。「無理だ」と言われた課題を、どうやって乗り越えてきたのか。そして今、どこへ向かおうとしているのか。代表取締役社長・小幡祐己氏の言葉から、その歩みとビジョンを紐解いていく。「見る」だけじゃない―現場で“判断する”屋外特化型AIカメラアシストユウの全国展開を支える屋外用カメラ「モニタリングミックス」シリーズ。現場に設置し電源をつなぐだけの基本モデルに対し、その強みを飛躍的に高めているのが、AIや計測器との連動を可能にしたモデル「MICS AI」だ。小幡社長は「MICS AI」が持つ独自の価値をこう語る。小幡社長:私たちの製品の強みは、ただ屋外で使えるというだけではありません。AIを搭載しつつ、IoT機器と連動できるという点が大きな特徴です。例えば、風速計や雨量計、水位計といったセンサーと接点を持たせることで、現場の状況をより立体的に把握できるようになります。センサーが異常を検知すれば、カメラの通信機能を使って現場監督のスマホにアラートを飛ばしたり、その場でスピーカーを鳴らしたり、パトライトを回したりすることができるんです。つまり、カメラが“見る”だけでなく、その情報を元に“動く”ところまでやれるようになっている。現場の安全性を、よりリアルタイムに、より確実に支えることができます。防災の場面だと、例えば、河川に設置した水位計が「氾濫の危険あり」と通知を出したとします。でも、世の中の多くの計測器って、その数値データしか送れないんですよね。実際に水がどれくらい増えているかとか、現場がどうなっているかまではわからない。でも、私たちのシステムだと、その瞬間にカメラ映像を見て判断できる。つまり、“アラート”と“実際の映像”を掛け合わせることで、現場が本当にどうなっているのかを一目で判断できるようになるんです。この仕組みは、防災だけじゃなくて農業現場でも役立っています。宮崎は農業が盛んなのですが、田んぼに水を流すための元栓が山の中腹にあったりして、農家の方が毎回そこまで足を運ぶ必要があったんです。高齢の方が多い地域なので、それがかなりの負担になっていた。そこで、元栓の操作装置をカメラと連携させて、事務所から遠隔操作できるようにしました。水の流れ方もカメラで確認できるので、「これくらいでいいかな」と思えば、その場で止めることもできる。現場に行かなくても、まるでその場にいるような判断と操作が可能になるわけです。ちなみに「MICS(ミックス)」という名前は、Mobile Internet Camera Systemの略なんですけど、もう一つ意味を込めていて。“Mix”って、現場のいろんなニーズや機器を掛け合わせて、一つの仕組みにまとめていくという意味もある。必要な機能を柔軟に組み合わせて、現場ごとの“困った”に対応できるカメラなんです。だから私たちは、この名前にすごく思い入れがあるんですよ。炎天下でも10年稼働―過酷な屋外を制する技術力電源ひとつで設置できる手軽さとは裏腹に、屋外でのカメラ運用は、想像以上に過酷だ。室内と違い、朝昼晩の光の変化、雨や雪といった天候、さらには曲がりくねった道路のような複雑な地形など、AIが正しく認識するのを阻む要因に満ちている。そして何より、精密機械にとって最大の敵となるのが「熱」だという。小幡社長:屋外で機械を使うとき、一番厄介なのは“熱”なんです。今年の夏も相当でしたが、直射日光の下に機器をずっと置きっぱなしにするなんて、普通は無理ですよね。でも、うちはその無理を20年かけてなんとかしてきたんです。例えば、外気温が50度でもカメラの内部は45度以下に保てるように、特殊なハウジング(カメラ本体を収める外側のケース)を設計しています。中には温度センサーも入れてあって、一定の温度を超えたらファンが自動で回って内部の空気を循環させるようになっている。冷房みたいな大げさなものじゃないんですけど、それでもしっかり熱を逃がすようになっているんです。実際、海辺に設置したカメラが10年以上ノーメンテナンスで動いているケースもあります。塩害でドームカバーをたまに拭くくらいで、基本的には放置でも大丈夫なくらい。これは言葉では簡単ですけど、やってみると本当に大変で、うちが長年積み重ねてきたノウハウの結晶なんですよね。しかも、AIを搭載しているカメラって、ただでさえ熱に弱い。チップも処理装置も、パソコンと同じような精密機器なので、温度が上がるとすぐに暴走してしまいます。それに、一般的なAIカメラって、一度データをクラウドに送って、そこで解析するんです。でも屋外の現場から高画質な映像を送り続けたら、通信量がすぐにパンクする。だから、みんな圧縮するんですよね。でも、そうすると画像が粗くなって、AIの精度も落ちる。じゃあ、どうするか。うちはクラウドじゃなくて、撮った映像をその場で解析してしまう“エッジ処理”にしています。つまり、カメラの中に小さなコンピュータを入れて、そこで生データをAIが直接解析する仕組みです。通信が切れても解析は止まらない。現場の判断を現場で完結させることで、タイムラグもないし、精度も落ちない。これ、簡単そうに聞こえるかもしれませんが、炎天下でAIを安定稼働させるって、相当難しいんです。「うちもできますよ」と言って参入してくる会社はありますけど、屋外で“ずっと動かし続ける”ことの大変さはやってみないと分からない。うちはそこをずっとやってきたという自負がありますね。早すぎた着想の原点―「何に使うの?」と言われ続けた日々他社に真似のできない技術力と、現場のニーズを的確に捉えたアシストユウ独自の「屋外カメラソリューション」。では、このユニークな仕組みはどのようにして生まれたのだろうか。原点は、今も宮崎で続く祖業、電気設備業向けITシステムと、その顧客がいる「現場」にある。小幡社長:当社の原点は、母が始めた電気設備業者さん向けのITシステムなんです。電気工事の会社さんって、当然現場に行きますよね。母はそこを見て、「現場で何が起きているか、リアルタイムで見られたら便利じゃないか」って考えたんです。それが最初のきっかけでした。でも、今みたいにクラウドもAIも当たり前じゃなかった時代です。当時は3G回線しかなくて、動画なんて送ろうものならガクガクで止まるし、しかも従量課金。データを送れば送るほどお金がかかる仕組みでした。定額制なんてなかったので、「これを現場に置いてずっと映像を送る?いやいやムリでしょ」とか、「そんなの何に使うの?」って言われるばかり。国や自治体にも何度も提案しに行きましたけど、反応はどこも似たようなものでしたね。「いや、面白いけど、何これ?」って。技術って、どんなに面白くても“時代の空気”が追いついてこないと広がらないんですよね。私たちの方が先を走りすぎてた、というのが正直なところです。転機がきたのは10年ほど前でした。「これ、東京だったらニーズがあるんじゃないか」と思って、1人で東京支店を立ち上げたんです。その頃もまだLTE(高速モバイル通信規格)は出始めで、ギガ制限もあって正直不安はありました。でも、そこから2~3年経つと一気に状況が変わった。通信が整い、定額プランも当たり前になって、ようやく「こういうカメラが欲しい」という声が聞こえるようになってきたんです。やっと時代が追いついてきたなと感じましたね。その流れの中で、東京オリンピック前にバスタ新宿でテロ対策の実証実験があったんです。国交省が募集をかけて、名だたる大手メーカーさんが集まる中、うちだけ地方の企業として採択されました。他社さんはサーバーを持ち込んで、工事して、といった提案が多かったんですが、うちは「電源さえ借りられれば、10分でカメラ設置できます。動きを検知したらその場でアラートが出ますよ」と現場でそのままデモができた。工事不要、即稼働。それが評価されたんだと思います。あのときの経験が、単なる“地方のシステム屋”から、“現場課題を即座に解決できる技術ベンチャー”として認識されるきっかけになったと感じています。前編では、アシストユウ独自の屋外カメラソリューションとそれを支える20年来の技術的蓄積、早すぎた着想が生まれた背景について伺いました。後編では、ユニークな事業を牽引する小幡社長の異色の経歴、そして「カメラ×エンタメ」や「地方創生」といった同氏が描く未来像に迫ります。