インタビュイー:梅花堂紙業株式会社 代表取締役 佐野博政様名古屋を拠点に、パッケージの製造・販売を手がけてきた梅花堂紙業株式会社。100年を超える歴史を持つ老舗企業でありながら、同社が歩んできた道のりは、決して過去の延長線上にとどまるものではない。段ボールを加工し箱にして納める「ボックスメーカー」として、顧客の製品が必要な時に、必要な分だけ届く仕組みを磨き、注文から納品までを2時間サイクルで回す独自の体制を築いてきた。さらに近年では、食品や家具といった異なる領域にも挑戦し、梅花堂紙業の可能性を広げている。同社を率いるのが、代表取締役の佐野博政氏である。住宅メーカーでの勤務を経て家業に入り、現場のミスや組織の課題と向き合いながら、自ら配送、製造、営業、設計まで担って会社を立て直してきた。先代の急逝を機に経営を引き継いだ後は、資金繰りの失敗も経験しながら、経営者としての原点を現場で学んでいった。前編では、梅花堂紙業株式会社 代表取締役 佐野博政氏に、注文から納品までを2時間サイクルで回す独自の仕組みや入社後の現場改革、EC事業への挑戦についてお話を伺った。2時間サイクルで築いた、梅花堂紙業の勝ち筋はじめに、梅花堂紙業株式会社の事業内容と強みについて、お話を伺った。佐野代表:梅花堂紙業株式会社は、名古屋市北区を拠点に、パッケージの製造・販売を行っています。段ボールを原紙からつくるのではなく、シート状で仕入れた段ボールを加工し、箱にして納める「ボックスメーカー」と呼ばれる業態です。一般的に、私たちのようなボックスメーカーは、大手メーカーの下請けとして仕事を受けるケースが少なくありません。ただ、私たちはその流れにそのまま乗るのではなく、顧客と直接向き合い、独自のポジションを築いてきました。パッケージというのは、それ自体が欲しくて買われるものではありません。たとえば飲み物であれば、消費者が欲しいのは中身であって、容器そのものではない。ただ、パッケージがなければ商品を運ぶことも、出荷することもできません。お客様の商品が売れないと、私たちのパッケージも売れない。成長していくお客様に伴走できるかどうかが、私たちの成長にも直結するのです。その中で私が考えたのが、デリバリーを強みにすることでした。パッケージは工場にとって必要不可欠ですが、普段は場所を取る存在でもあります。大量に置けばスペースを圧迫する。だからこそ、お客様としては必要なものを、必要な時に、必要な分だけ届けてほしいわけです。そこで私たちは、自社を外部倉庫のように使ってもらい、注文を受けてから納品までを2時間サイクルで回す仕組みをつくりました。これは、一般的なジャストインタイムとも少し違います。あらかじめ決まった生産計画に合わせて納品するのではなく、注文が入ってから短時間で届ける。外箱や中箱、緩衝材などを組み合わせ、必要な形にセットしてすぐに納品する。そのために、仕入れ先との連携や在庫のコントロール、社内の段取りを一つずつ仕組みにしていきました。大手と同じように大量生産や価格競争で戦っても、私たちには勝ち目がありません。だからこそ、クオリティ、コスト、デリバリーの中で、デリバリーに強みを持つことが競合と戦わない戦略になると考えました。戦略とは、文字通り「戦いを略す」こと。相手の土俵に乗るのではなく、自分たちが勝てる場所をつくる。他社がやりたがらないこと、手間がかかることを引き受ける。その積み重ねが、梅花堂紙業の独自性になっていったのだと思います。借金完済の誤算と、現場で学んだ経営の原点前職の大手ハウスメーカーから家業へ転身し、目にしたのは理想とは程遠い組織の姿だった。さらには父の急逝により、予期せぬ形で経営の全責任を背負うこととなる。佐野代表:私は大学卒業後、住宅メーカーで営業をしていました。その後、梅花堂紙業に入社したのですが、最初に感じたのは「このままではこの会社は確実に潰れる」という強い危機感でした。当時の現場ではミスも多く、改善の必要性を伝えても、なかなか言葉が届かない。お客様からは「早いけれど、持ってくるものを間違える」と言われることもありました。そこでまずは、自分でトラックに乗って現場に行き、一つひとつ謝りながら、何を直すべきかを見ていきました。そこで見えてきたのが、デリバリーで信頼を得るということでした。他社では1週間かかるものでも、自分たちはすぐに届けることができる。配送ミスをなくし、その対応を仕組みにできれば、他社にはない強みになると思ったんです。そうして、注文を受けてから納品までを2時間サイクルで回す仕組みをつくっていきました。もちろん、それまでのやり方を変えようとすれば、社内で反発も起こります。そんな中、私が成果を出せば出すほど、古い体質に固執する社員たちは去っていき、気づけば社内に誰もいなくなってしまいました。そうなると、配送も、製造も、発注も、営業も、設計も、すべて自分でやるしかありません。土日には前職時代の友人や知人に声をかけたりして、とにかく人を集めていきました。きれいな組織づくりというより、目の前の会社を動かすために必死だったという感覚です。その後、先代である父が急に亡くなって、私が経営を担うことになりました。ただ、その時の私は、決算書の見方も銀行との付き合い方も全くわかっていませんでした。税理士に教えてもらいながら、台帳を手書きでつけて、お金の流れを一から覚えていったんです。その中で私は、「会社は借金があるから潰れるのだ」と思い込み、預金を集めて借金を全部返してしまいました。返し終わった時は、「これで会社は潰れない」と思いましたが、その後に支払いが来て、手元には80万円しか残っていなかった。そこで初めて、「お金がない」と気づき、すぐに銀行へ行って借り入れをお願いしました。今思えば無茶な話ですが、私にとっては、そこが経営者としての本当のスタートだったのだと思います。会社を動かすとはどういうことか。資金を回すとはどういうことか。それを、失敗しながら覚えていきました。「今日来る」を実現するために、勝てる範囲を決めるインターネット通販の広がりを機に、梅花堂紙業は梱包材のEC販売へ乗り出した。限られた資源で戦うため、仕入れと配送の仕組みを磨いていく。佐野代表:主力のお客様との取引が伸びていく中でも、「今は順調でも、いつまでも同じ状況が続くとは限らない。何か新しいことをやらなければいけない」という危機感はありました。そこで目をつけたのが、EC事業です。当時は、インターネット通販が広がり始めて、ものの流れが大きく変わっていく感覚がありました。個人間でも商品が動くようになれば、パッケージングに困る人が出てくる。そこで、梱包材をネットで販売できるのではないかと考えました。私たちはもともと、梱包材を大量に扱っていたので、調達力があります。そのバイイングパワーを活かせれば、ネット販売でも価格競争力を持てるのではないかと思いました。ただ当時は、大手通販会社の存在感が非常に強かった。正面から戦っても勝てません。だからこそ、自分たちなりの勝ち方を考える必要がありました。そこで掲げたのが、「今日来る」という考え方です。大手が「明日来る」なら、自分たちは「今日届ける」ことができないか。そう考えて、どうすれば当日中に梱包材を届けられるのかを真剣に組み立てていきました。まず取り組んだのは、仕入れ条件を変えることです。大手と近い条件で仕入れるためには、どれだけの量を販売すればいいのか。仕入れ先に何度も確認しながら、実際に売れることを示していきました。時には利益が出ない価格でも販売し、こちらの本気度を見せる。そうやって実績を積み重ねることで、少しずつ条件を引き出していったのです。それと同時に考えたのが、どこで戦うかということでした。全国すべてに対応しようとすれば、物流コストがかかりすぎます。特に遠方や離島まで同じ条件で届けようとすると、採算が合わない部分も出てくる。そこで注文の傾向を見ていくと、需要が集中しているエリアがあることに気づきました。だったら、そのエリアだけを自分たちの市場にすればいい。全国すべてを取りに行くのではなく、需要が集中する地域に絞って、そこだけで勝てる仕組みをつくる。私たちは、発送できる地域をあえて限定し、その範囲の中で当日対応に近いスピードを実現することを考えました。大手と同じ土俵で戦うのではなく、自分たちが勝てる場所を見つける。戦う範囲を決め、そこに集中する。EC事業は、梱包材をネットで売る新しい販路でありながら、私たちにとっては「戦う場所をどう選ぶか」を改めて学ぶ機会でもありました。前編では、注文から納品までを2時間サイクルで回す独自の仕組みや入社後の現場改革、EC事業への挑戦について、お話を伺いました。後編では、山梨大学医学部と連携した食品事業への進出や若手に夢を見せ、職人を支える家具事業への進出、100年企業を次の世代へつなぐための今後の展望について、お話を伺っていきます。佐野 博政/愛知県名古屋市出身。大学を卒業後、大和工商リース(現・大和ハウスグループ)に入社。阪神淡路大震災での経験を経て、家業の「梅花堂紙業」へ転職。父の急逝を受け、リーマンショックの直前、2007年に社長に就任。経営を学ぶために MBA 取得を決意し、2013 年にグロービス経営大学院で学ぶ。梅花堂紙業株式会社では物流・防災・食品・デザインの分野へ越境する多角的な展開。「ワクワク・面白い・誰もやってない」に挑む 、探究心と成長意欲に満ちた社風で 100 年企業としての「変化対応力・巻き込み力・生命力」を武器に、梅花堂紙業株式会社の四代目代表取締役として、事業を牽引。また、フィジーカーとして自ら体を張って食の勉強やプロテインバーの自社製造を行う。【会社概要】会社名梅花堂紙業株式会社創業年大正 12 年 4 月代表取締役佐野 博政事業内容・パッケージ事業・食品事業所在地愛知県名古屋市北区城東町 3-73HP・梅花堂紙業株式会社https://www.baikado-shigyo.co.jp/・Dear me 公式オンラインストアhttps://dear-me.nagoya/・BAIKADO(家具)https://baikado.jp/