インタビュイー:梅花堂紙業株式会社 代表取締役 佐野博政様名古屋を拠点に、パッケージの製造・販売を手がけてきた梅花堂紙業株式会社。100年を超える歴史を持つ老舗企業でありながら、同社が歩んできた道のりは、決して過去の延長線上にとどまるものではない。段ボールを加工し箱にして納める「ボックスメーカー」として、顧客の製品が必要な時に、必要な分だけ届く仕組みを磨き、注文から納品までを2時間サイクルで回す独自の体制を築いてきた。さらに近年では、食品や家具といった異なる領域にも挑戦し、梅花堂紙業の可能性を広げている。同社を率いるのが、代表取締役の佐野博政氏である。住宅メーカーでの勤務を経て家業に入り、現場のミスや組織の課題と向き合いながら、自ら配送、製造、営業、設計まで担って会社を立て直してきた。先代の急逝を機に経営を引き継いだ後は、資金繰りの失敗も経験しながら、経営者としての原点を現場で学んでいった。後編では、梅花堂紙業株式会社 代表取締役 佐野博政氏に、山梨大学医学部と連携した食品事業への進出や若手に夢を見せ、職人を支える家具事業への進出、100年企業を次の世代へつなぐための今後の展望についてお話を伺った。パッケージを届けるだけでなく、付加価値を生み出したい。食品業界への挑戦EC事業を通じて、佐野氏は梱包材の限界と、高付加価値商品の可能性を感じていた。体調に不安を抱える社員をきっかけに、梅花堂紙業は人の体に直接届く食品事業へと挑戦していく。佐野代表:EC事業に取り組む中で、次第に自分たちが扱っている商品の難しさも見えてきました。梱包材は、どうしても空気を運んでいるようなところがあります。物流コストもかかりますし、最終的には捨てられるものでもある。そう考えると、次に目指すべきものは、「お客様に直接喜んでもらえる付加価値の高い商品」だと思うようになりました。EC事業のビッグデータを分析する中で見えてきたのは、アクセサリーや化粧品、食品といった商品の勢いでした。小さくて物流コストを抑えられ、付加価値も高い。中でも私が関心を持ったのが「食」でした。そのきっかけになったのが、ある社員の存在です。その社員は体が弱く、当時からリモートワークに近い形で働いてもらっていました。ある時、一緒に出張した際に、彼女がササミやサラダを食べていたんです。ちょうど私自身も体を鍛え始めていて、同じようなものを食べていました。それを見て、「体にいいものを、もっと真剣に考えてみたい」と思うようになりました。将来的にその社員が食べたいと思えるもの、自分自身も納得できるものをつくれないか。そこから、食品への関心が具体的になっていきました。その後、プロテインバーの製造に関わる機会があり、実際に現場にも入りました。見て、学び、自分たちでやるならどうするかを考える。最終的には、自社でクリーンルームをつくり、管理栄養士にも加わってもらいながら、食品づくりの体制を整えていきました。新参者がいきなり食品事業を始めても、簡単には信用されません。だからこそ、まずは象徴になるようなブランドのOEMに取り組み、実績をつくることから始めました。一方で、私たちが本当にやりたかったのは、ただ栄養素を詰め込んだ商品ではありません。添加物に頼りすぎず、アレルギーに悩む人にも向き合えるような、より誠実な食品をつくりたいという想いがありました。ただ、食品の世界は簡単ではありません。安全性も、品質管理も、専門的な知見も必要です。そこで山梨大学医学部との縁が生まれ、先生方や研究に関わる方々と一緒に商品開発を進めていくことになりました。そうして生まれたのが、「たんぱくキューブ」という、忙しい中でも間食として取り入れやすい、グルテンフリー・香料不使用のプロテイン食品です。医学部の方々と一緒に開発できたことは、商品としての信頼にもつながりましたし、何より本当にいいものをつくれたという手応えがありました。食品事業は、パッケージ会社がまったく違う領域に飛び出したというより、これまで「届ける」ことに向き合ってきた私たちが、今度は人の体に直接届く価値をつくろうとしている挑戦なのだと思います。若手に夢を見せ、職人を支える。梅花堂紙業の家具事業への進出パッケージ事業で扱ってきた段ボールの可能性。佐野氏は家具事業を通じて、若い設計人材や地域の職人が誇りを持てるものづくりに挑んでいる。佐野代表:当社は近年、家具事業にも取り組んでいます。もともと私は大学時代に建築を学び、住宅メーカーで働いていたこともあって、設計にはなじみがありました。以前から、段ボールという素材で何か面白いものをつくれないかと考えており、自分で図面を引いて段ボール家具の特許を取ったこともあります。完成したものを家具店に持ち込み、「置かせてもらえませんか」とお願いしたこともありました。そうした挑戦を重ねるうちに、家具業界の方々やデザイナーとのつながりが少しずつ生まれていったのです。家具事業に向かった背景には、若い人材に夢を見せたいという想いもありました。会社として設計力を高めるためには、私一人が設計を続けるのではなく、若い人材を採用し、育てていく必要があります。そこで地元の大学にも足を運び、先生方に相談したり、学生に会社を見学してもらったり、就職説明会で話す機会をいただいたりしました。少しずつ梅花堂紙業の仕事に興味を持ってくれる学生も出てきましたが、パッケージはどれだけ良いものをつくっても、最後は価格交渉になりやすい。だからこそ、若い世代にとってもっと価値のあるものづくりを見せたいと考えていました。大きな転機になったのは、コロナ禍の頃です。自宅で過ごす時間が増え、家具の需要が高まる一方で、デザイナーたちも次の可能性を探していました。そんな時に、「ソファの内部に使われている木材を、段ボールに置き換えられないか」という相談を受けたんです。実際に置き換えてみると、家具そのものが軽くなり、廃棄時の分別もしやすくなる。さらに、内部構造のコストを抑えられた分、座り心地を左右するウレタンに投資できるようになりました。結果として、軽くて扱いやすく、座り心地もいい家具ができ、グッドデザイン賞をいただくこともできました。家具事業に取り組む中で見えてきたのは、職人の世界が抱える課題です。地域には素晴らしい技術を持つ職人がいます。一方で、後継者不足や待遇面の課題もある。名古屋から近い飛騨高山にも、高い木工技術を持つ職人がたくさんいます。そうした技術や産地を、私たちの設計力や素材の使い方で支えられないかと考えるようになりました。私にとって家具事業は、紙という素材の可能性を広げ、職人を支え、若い設計人材に夢を見せるための挑戦です。これまでのパッケージ事業で培ってきた知見を活かしながら、梅花堂紙業のものづくりの可能性を広げる取り組みだと考えています。点がつながり未来の景色となる。老舗を魅力ある企業へ変革する覚悟パッケージ、食品、そして家具。性質の異なる商材で挑戦を続けてきた佐野代表の視線の先にあるのは、単なる事業拡大ではない。預かった100年のバトンを、より輝く形にして次世代へ手渡す使命である。佐野代表:パッケージ、食品、家具を同時に動かしていくことは、簡単なことではありません。商材が変われば、仕入れの構造も、利益として現金が入ってくるまでの流れも変わります。パッケージで培ってきた考え方が、そのまま食品や家具に通用するわけではありません。食品には賞味期限があり、品質管理にも細心の注意が必要です。家具は、製品をつくってから販売し、利益として回収するまでに時間がかかります。それぞれ事業の性質がまったく違うからこそ、実際に取り組む中で多くの難しさを感じてきました。ただ、その経験は、これからの会社づくりに必ず生きてくると思っています。今は一見ばらばらに見える取り組みも、いずれ梅花堂紙業の新しい強みにつながっていくはずです。私は、この会社を単なる世襲の会社だとは思っていません。父から経営を引き継ぎましたが、もともと佐野家が興した会社ではありません。だからこそ、私はこの歴史ある会社を預かっている立場として、次の世代につないでいかなければならないという責任を感じています。私がやるべきことは、梅花堂紙業を昔ながらの町工場のままで終わらせるのではなく、若い人たちが働きたいと思える、魅力ある会社にしていくことです。自分が経営を担っている間に、どれだけ会社を磨き、次の世代に渡せる状態にできるか。それが今の大きなテーマです。これからも、パッケージで培ってきた設計力やデリバリーの力を土台にしながら、食品や家具といった新しい領域にも挑戦していきたいと考えています。100年続いた会社を守ることは、過去と同じことを続けることではありません。時代に合わせて変わり続け、次の100年も必要とされる会社をつくっていくことだと思っています。インタビュー後記今回は、梅花堂紙業株式会社 代表取締役 佐野博政氏にお話を伺いました。100年企業でありながら、守ることに安住せず、現場で見つけた違和感を起点に、デリバリー、EC、食品、家具へと挑戦を重ねる姿が印象的でした。大手と同じ土俵で戦わず、自分たちが勝てる場所を見極めること。そして、事業とは過去を守るためではなく、次の世代へ可能性を手渡すためにつくるものなのだと学ばせていただきました。佐野 博政/愛知県名古屋市出身。大学を卒業後、大和工商リース(現・大和ハウスグループ)に入社。阪神淡路大震災での経験を経て、家業の「梅花堂紙業」へ転職。父の急逝を受け、リーマンショックの直前、2007年に社長に就任。経営を学ぶために MBA 取得を決意し、2013 年にグロービス経営大学院で学ぶ。梅花堂紙業株式会社では物流・防災・食品・デザインの分野へ越境する多角的な展開。「ワクワク・面白い・誰もやってない」に挑む 、探究心と成長意欲に満ちた社風で 100 年企業としての「変化対応力・巻き込み力・生命力」を武器に、梅花堂紙業株式会社の四代目代表取締役として、事業を牽引。また、フィジーカーとして自ら体を張って食の勉強やプロテインバーの自社製造を行う。【会社概要】会社名梅花堂紙業株式会社創業年大正 12 年 4 月代表取締役佐野 博政事業内容・パッケージ事業・食品事業所在地愛知県名古屋市北区城東町 3-73HP・梅花堂紙業株式会社https://www.baikado-shigyo.co.jp/・Dear me 公式オンラインストアhttps://dear-me.nagoya/・BAIKADO(家具)https://baikado.jp/