インタビュイー:株式会社バトンズ 代表取締役CEO 神瀬 悠一 様「誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する」。株式会社バトンズは、M&A・事業承継支援プラットフォーム「BATONZ(バトンズ)」を通じて、小規模事業者から上場企業まで幅広い層のM&Aを支えてきた。単なるマッチングにとどまらず、成約の確度と質、さらには成約後の成功までを見据え、テクノロジーと人の力を組み合わせた支援体制を構築している。代表取締役CEO・神瀬悠一氏は、エンジニアからコンサルタント、リクルートでの組織マネジメントを経て、バトンズの経営者へと至った。その過程で視点を、技術から経営へ、個人から組織へ、そして社会へと広げてきた。その視点は今、M&Aに対する敷居の高さの払拭と、都市部にとどまらない地方へのM&Aの浸透に向けられている。本編では、M&Aという選択が当たり前になる未来を目指し続ける株式会社バトンズ・代表取締役CEO・神瀬 悠一氏に、バトンズが提供する2つの支援の仕組みやプラットフォームを超えた価値創造への取り組み、そして神瀬氏がエンジニアから経営者へと歩んだ軌跡について、お話を伺った。プラットフォームにとどまらない、2つの支援M&Aを検討する事業者や個人、仲介企業、金融機関、そして士業をはじめとする専門家まで。バトンズのプラットフォームは、多様なプレイヤーに利用されている。だが、その価値は単なる「マッチングの場」にとどまらない。事業者と専門家の双方に寄り添う、二つの支援の仕組みが、その裏側を支えている。神瀬代表:我々は創業当初から、これまで十分な支援が届きにくかったスモールM&A、いわゆる小規模事業者の方々を主なお客様としてきました。日本の企業の約8割は年商1億円未満と言われています。そうした事業者様にもM&Aという選択肢を届けたいという思いから、少しずつ支援の領域を広げてきました。当社はよく「M&Aプラットフォーマー」と呼ばれます。確かにプラットフォームを提供していますが、それだけではありません。バトンズでは、大きく分けて二つの支援を行っています。一つ目が、専門家や提携先の業務を支援するM&A業務サポートです。バリュエーション、企業概要書の作成、マッチング、契約書作成など、M&Aに関わる専門家の業務は多岐にわたります。こうした業務を可能な限りDXによって効率化するのが、この支援の役割です。我々はこれを「M&AのSaaS」と呼んでいます。このM&A専門家向け支援では、「人がやらなくていいことは、テクノロジーに任せる」という方針を掲げています。バトンズのプラットフォームは、単なる相手探しにとどまりません。例えば、相手の与信を事前に確認できるソリューションなど、成約の確度と質を高めるための機能を数多く備えています。そして二つ目が、成約サポートと呼んでいる支援です。手数料の関係で仲介会社への依頼が難しい小規模事業者や個人の方から、「自社を売りたい」「他社を買いたい」といった相談をいただいた際、私たち自身がコンサルティングとして入り、バトンズのプラットフォームを活用しながら、効率的かつ費用を抑えた成約支援を行っています。テクノロジーと人の力で成約とその先の「成功」を―バトンズが提供する価値M&Aのプロセスは複雑かつ時間もかかる。だからこそバトンズは、単なるマッチングで終わらせない。「成約」まで、そして「成功するM&A」になるまで、その全工程に向き合っている。神瀬代表:M&Aには非常に多くの工数がかかります。案件化から始まり、マッチング、条件調整、デューデリジェンス、最終契約、クロージング、さらにはPMI(M&A後の統合プロセス)まで、複数のプロセスと長い時間が必要です。その一連の流れの中で、私たちは「成約」だけではなく「成功」に価値を置くと決めています。ただ相手が見つかるだけでなく、M&Aがきちんと成約できる環境であること、そして最終的に「いいM&Aだった」と言える状態までを提供価値として捉えています。成約と成功に真正面から向き合っている点こそが、我々の最大の特徴です。一般的なプラットフォームビジネスでは、買い手を多く集め、登録案件数を増やし、サイトを活性化させることに注力しがちです。しかし、我々にとってマッチングはM&Aプロセスの一部にすぎません。重要なのは、安心して成約できる環境を整え、その先の成功につなげることです。こうした姿勢のもと、メイン利用者である小規模事業者の方々はもちろん、個人の方から上場企業まで、幅広い層にご利用いただけるようになってきました。数百万円規模の小さな案件から、30億円を超える大型案件まで、取り扱う規模の幅も広がっています。個人の飲食店開業、複数店舗展開を目指す事業者、上場企業のロールアップ戦略など、M&Aの活用シーンも多様化しています。近年は特に10億円以上のM&A案件も増えており、事業規模の拡大を実感しています。こうした多様なニーズに応えるため、案件の進行実務を支援するバトンズDD(企業調査)や、東京海上日動様と共同開発した表明保証保険など、M&Aの各プロセスに必要なサービスを一つひとつ立ち上げてきました。プラットフォーマーでありながら、現場に深く入り込み、必要な機能を作り込んでいる点は、バトンズならではの強みです。一方で、M&Aはすべてをオンラインやデジタルだけで完結できるものではありません。人が関わることで生まれる安心感や信頼感も、成功には欠かせない要素です。そのため当社では、専門的な視点を持つサポーターを配置し、完全なセルフサービスにはしていません。テクノロジーと人の力、その両方を活かして伴走する。この姿勢もまた、バトンズの大きな特徴です。きっかけは、議事録作成──エンジニアから経営者への軌跡「神瀬君の議事録があって、助かっている」。その一言が、神瀬代表の仕事への向き合い方を変えた。意思を持って議事録という仕事に取り組んだ経験が、エンジニアから経営者へと続くキャリアの原点となっている。神瀬代表:私は早稲田大学を卒業後、2000年に日本ユニシス株式会社(現 BIPROGY株式会社)へ新卒で入社しました。大学で学んだことを活かし、まずは技術力を身につけたいと考えてITエンジニアの道を選びましたが、当時は明確なビジョンを持っていたわけではありません。仕事への向き合い方が変わったのは、社会人になってから経験した二つのターニングポイントがあったからです。一つ目は、仕事を「自分の意思で楽しめる」ようになったことでした。尊敬していたお客様から「神瀬君の議事録があって、いつも助かっている」と声をかけていただいたのがきっかけです。自分の仕事が誰かの役に立っていると実感でき、そこから考え方が変わりました。それまで議事録は、情報を並べるだけの作業だと思っていました。しかし、事実と意見を分ける、次のアクションを明確にする、情報を具体化・抽象化して意味づけるなど、構造化を意識するようになると、仕事そのものが面白くなっていったのです。この感覚は、その後のコンサルティング業務にも大きく活きることになります。社会人3年目頃から、主体的にインプットし、試行錯誤するサイクルが回り始めました。その中で関心は次第に、技術そのものから、経営の意図や課題へと移っていきます。なぜこのシステムが必要なのか、成長戦略の中でITはどんな役割を果たすのか。そうした問いに向き合いたいと考え、NTTデータ経営研究所へ転職しました。約6年間、コンサルティング業務に携わる中で、今度は「実業に携わりたい」という思いが強まっていきました。戦略を描くだけでなく、それを動かし、成果につなげることこそが難しく、面白い。組織を動かし、事業を前に進める領域に関心が向いていったのです。そのタイミングでリクルートと出会い、入社します。ここが二つ目のターニングポイントでした。個人のロジックや分析力だけでなく、集団としてどう成長し、社会に価値を提供するか。戦略を実行に移し、結果を出すために組織をどう動かすのかを、実体験として学びました。メンバーから始まり、ゼネラルマネジャー、部長、統括長、執行役員と役割を重ねる中で、「人に動いてもらうこと」の難しさと重要性を、フェーズごとに学べたことは大きな財産です。リクルートで働く中、エグゼクティブサーチを通じて声をかけていただいたのが、株式会社日本M&Aセンター(現・株式会社日本M&Aセンターホールディングス)による小規模事業者向けM&Aプロダクトの構想でした。アメリカの「Biz Buy Sell」というプラットフォームの事例を知り、日本にもこの仕組みが必要だと直感しました。後継者問題や経営者の高齢化が進み、地域から働く場所が失われていく。この社会課題に向き合う事業だと感じました。エンジニア、コンサルタント、そして組織を動かしてきた自分のキャリアを、ここに懸けたい。そう考え、2019年に株式会社バトンズへ参画し、2022年に代表取締役に就任しました。振り返ると、最初から明確なキャリアビジョンがあったわけではありません。自分のアウトプットを良くしたいという思いが、組織へ、そして社会へと視点を広げていった。自分から組織へ、組織から社会へ。その変化を、30代で経験できたことが、今の私をつくっています。前編では、バトンズが提供する2つの支援の仕組みやプラットフォームを超えた価値創造への取り組み、そして神瀬氏がエンジニアから経営者へと歩んだ軌跡について、お話を伺った。後編では、代表就任時に感じた心境の変化やM&Aを本当に必要としている地方へどう届けるか、そして今後の展望と起業を目指す方へのメッセージについて、お話を伺っていく。神瀬 雄一/エンジニア、コンサルタントを経験後、リクルートにてリクルートマーケティングパートナーズ執行役員、リクルートライフスタイル取締役、リクルート住まいカンパニー取締役を歴任。2019年4月にバトンズへ取締役CMOとして参画、2022年3月に代表就任。【会社概要】会社名株式会社 バトンズ設立2018年4月代表者神瀬 悠一事業内容M&A総合プラットフォーム「BATONZ」の企画・開発・運営人材紹介サービス「LANNERS」の企画・開発・運営所在地東京本社 東京都中央区築地3-12-5 +SHIFT TSUKIJI 5階サイトURLhttps://batonz.jp/company/