インタビュイー:株式会社バトンズ 代表取締役CEO 神瀬 悠一 様「誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する」。株式会社バトンズは、M&A・事業承継支援プラットフォーム「BATONZ(バトンズ)」を通じて、小規模事業者から上場企業まで幅広い層のM&Aを支えてきた。単なるマッチングにとどまらず、成約の確度と質、さらには成約後の成功までを見据え、テクノロジーと人の力を組み合わせた支援体制を構築している。代表取締役CEO・神瀬悠一氏は、エンジニアからコンサルタント、リクルートでの組織マネジメントを経て、バトンズの経営者へと至った。その過程で視点を、技術から経営へ、個人から組織へ、そして社会へと広げてきた。その視点は今、M&Aに対する敷居の高さの払拭と、都市部にとどまらない地方へのM&Aの浸透に向けられている。本編では、M&Aという選択が当たり前になる未来を目指し続ける株式会社バトンズ・代表取締役CEO・神瀬 悠一氏に、代表就任時に感じた心境の変化やM&Aを本当に必要としている地方へどう届けるか、そして今後の展望と起業を目指す方々へのメッセージについて、お話を伺った。代表としての覚悟が生まれた日と地方への想い「自分の器以上に、会社は大きくならないのかもしれない」。その実感が、神瀬代表の責任感を一段階引き上げた。そして今、その視線は、M&Aを本当に必要としている地方へと向かっている。神瀬代表:私が参画した頃のバトンズは数十人規模で、経営陣の役割も明確に分かれてはいませんでした。ビジネスモデルを磨くこと、マーケティング、プロダクト改善。代表になる前も後も、取り組んできたテーマは一貫しています。スタートアップでは、一人で何役もこなさなければ前に進みません。そのため、代表になったからといって、やるべきことの本質が大きく変わった感覚はありませんでした。ただ、一つだけ明確に変わったことがあります。取締役の頃から当事者意識は持っていましたが、代表に任命された後、「自分の器以上に会社は大きくならないのかもしれない」と感じました。会社と自分が強くシンクロしている感覚です。行動が劇的に変わったわけではありませんが、責任の重さは確実に一段階上がりました。5期目までは、とにかく必死でした。この事業をお客様にとって、マーケットにとって本当に良いものにすることを最優先に、毎日全力で走り続けていました。そうした中で、M&A市場そのものにも変化が見えてきました。近年は、若い経営者の方々を中心に、買う側・売る側の両面から、M&Aを前提に経営を考える動きが広がっています。M&Aによって、1+1が2ではなく、3にも4にもなり得る。その有効性が、特に関東・関西といった都市部で理解され始めていると感じています。一方で、M&Aや事業承継を本当に必要としているのは地方です。全国の街には、残すべきサービスや飲食店が数多くあります。しかし、M&Aという選択肢は広がりつつあるものの、バトンズの存在はまだ十分に知られていません。いまは、認知のスタートラインに立った段階だと捉えています。税理士・会計士などM&A専門家の方や信用金庫様、地方銀行様との提携を進めている理由も、地方の事業者の方々にバトンズを知っていただきたいからです。インターネットだけでは届きにくい情報を、地域に根差した専門家の方々と連携することで、丁寧に届けていきたいと考えています。また、バトンズには「地元に戻り、サラリーマン時代に培った力を活かして、後継者のいない会社を引き継ぎたい」と考える個人会員の方も多くいます。しかし、そうした方々と譲渡先を探す事業者の方とを、まだ十分につなぎきれていません。ここは、今後バトンズが取り組むべき大きなテーマだと考えています。誰でもM&Aという選択ができるために─M&Aの本質を伝えるバトンズは、売り手も買い手も幸せになる真のM&Aの姿を伝えるため、YouTubeや業界誌での情報発信にも力を入れている。神瀬代表:M&Aは、いまだにネガティブなイメージを持たれてしまうことがあります。例えば敵対的買収のようなM&Aは、全体の中では1パーセントにも満たないものです。それでも、そうした特殊な事例が強調されることで、M&Aは怖いもの、危ないものという印象が広がってしまいます。ですが、実態はまったく違います。M&Aによって会社が救われ、働く社員の雇用が守られるケースが大半です。売り手様、買い手様の双方が前向きな気持ちで次の一歩を踏み出す、そんなM&Aばかりです。実際、私たちが支援した成約の場では、涙を流して喜んでくださったり、晴れやかな表情を見せてくださる方が多くいらっしゃいます。しかし、そうした姿はまだ十分に伝わっていません。そこでバトンズでは、『After BATONZ』というYouTube企画を立ち上げ、M&A後の企業や経営者に密着したドキュメンタリーを配信しています。成約後のリアルな姿を伝える取り組みです。また、2025年12月にはM&A専門誌『M&A NewStage』も創刊しました。デジタル全盛の時代ではありますが、M&Aの実像を丁寧に伝えたいという思いから、あえて紙媒体という形を選びました。M&Aに対するネガティブなイメージを払拭するには、こうした情報発信を積み重ねていくことが欠かせません。これはバトンズだけの課題ではなく、業界全体、ひいては日本社会の未来に関わるテーマです。提携先の皆様とも力を合わせながら、取り組んでいきたいと考えています。年間成約1,000組は通過点─全国の事業者を支える2つの挑戦年間1,000組の成約実績に対し、跡継ぎ不在で悩む会社は全国に120万社以上。この現実を前に、バトンズは二つの戦略を掲げている。AIなどのテクノロジーを活用したM&Aのやり方の革新と、成約後も伴走する支援体制の構築だ。神瀬代表:バトンズは、「誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する」というビジョンを掲げています。これは私自身のビジョンでもあり、社員一人ひとりが共感してくれている、私たちの原動力です。この社会を実現するために、これまでバトンズは、中小企業のM&AにDXというテクノロジーを取り入れ、市場の活性化に取り組んできました。小規模事業者の皆様も含め、誰にでもM&Aを届ける。そのための第一歩は踏み出せたと感じています。しかし、目指しているのはその先です。現在、年間で約1,000組の成約を支援していますが、跡継ぎ不在に悩む会社は全国に120万社以上あると言われています。この現実を前にすると、1,000組という数字では、まだまだ足りません。1万件、2万件へと広げていくことで、新しい社会をつくっていきたいと考えています。そのためには、M&Aのやり方を単にDX化するだけでは不十分です。AIをはじめとするテクノロジーも活用しながら、やり方そのものをアップデートしていく必要があります。さらに、M&Aをして終わりではなく、その後も伴走する支援体制の構築も重要なテーマです。今後、地方では採用が一層難しくなり、人手不足に悩む中小企業は増えていきます。そうした経営課題に対して、M&A後も解決策を届けられるよう、経営者向け・中小企業向けのソリューションを広げていきたい。成約後の経営まで支えられる会社になることが、バトンズの次の挑戦です。起業を目指す方々へのメッセージ最後に、これから起業を目指す方々へのメッセージを伺った。神瀬代表:私は仕事において、たくさんの失敗を経験してきました。リクルート時代もそうですし、バトンズでも、うまくいかなかったことの方が圧倒的に多いです。今でも失敗することはあります。ただ、そのたびに諦めず、しつこくやり続けてきました。当然、逆風もあります。私個人も、バトンズも、これまで様々な局面で逆風を受けてきました。それでも、自分と会社の軸や価値観、哲学をぶらさずに持ち続けていれば、いずれ社会に必要とされるサービスになると信じています。だからこそ、戦術レベルの結果に一喜一憂せず、淡々と取り組むことができるのだと思います。同じサービス、同じお客様を対象にしていても、情熱を持ってやり続けている人と、そうでない人とでは、必ず差が生まれます。もちろん、巡り合わせや運の要素もあります。ただ、情熱があるからこそ、しつこく続けられる。その積み重ねが、結果として社会に必要とされる事業をつくるのだと思います。一方で、どこまでやるのかを見極める判断も欠かせません。バトンズも、これまで何度も方向転換をしてきました。ただ、その判断の拠り所になるのが、軸や価値観です。これがなければ、簡単にぶれてしまいます。大切なのは、軸を見失わずに、考え方ややり方は柔軟に変えながら、続けることです。バトンズはこれから先も、その姿勢を大切にしながら、社会に貢献していきたいと考えています。インタビュー後記今回は、株式会社バトンズ・代表取締役CEO・神瀬 悠一様にお話を伺いました。印象的だったのは、M&Aを単なる取引ではなく、「成約」だけではなく、その先にある「成功」を両立させる社会インフラとして捉えている点です。議事録作成という日常業務への向き合い方を起点に、個人から組織、そして社会へと視点を広げてきた神瀬様の歩みは、多くの示唆に富むものでした。ぶれない軸を持ち、失敗や逆風の中でもやり続ける姿勢こそが、業界や社会を動かしていくのだということを学ばせていただきました。神瀬 雄一/エンジニア、コンサルタントを経験後、リクルートにてリクルートマーケティングパートナーズ執行役員、リクルートライフスタイル取締役、リクルート住まいカンパニー取締役を歴任。2019年4月にバトンズへ取締役CMOとして参画、2022年3月に代表就任。【会社概要】会社名株式会社 バトンズ設立2018年4月代表者神瀬 悠一事業内容M&A総合プラットフォーム「BATONZ」の企画・開発・運営人材紹介サービス「LANNERS」の企画・開発・運営所在地東京本社 東京都中央区築地3-12-5 +SHIFT TSUKIJI 5階サイトURLhttps://batonz.jp/company/