インタビュイー:株式会社ベストコ 代表取締役社長 井関大介様少子化と過疎化が加速する日本の地方都市。「地方はビジネスとして成立しない」と判断され、大手塾が撤退していく中で、創業以来右肩上がりの成長を続けている学習塾がある。福島県や宮城県など東北地方を中心に、126教室を展開する株式会社ベストコだ。同社の戦略は、既存の塾業界の常識とは一線を画すものだった。「駅前の一等地には出店しない」「合格実績だけを価値にしない」。学習塾業界の常識から逸れているともとれるこれらの選択は、人口減少が進む地域で教育を続けていくための、現実的な判断でもあった。少子化によって市場が縮小し、人手不足が深刻化する地方において、教育というサービスを持続可能にするには、熱意や理念だけでは限界がある。ベストコはこの課題に対し、事業の在り方そのものを見直し、仕組み化とテクノロジーの活用を進めてきた。なぜ、子どもが減り続ける地域で教室を維持し、拡大することができているのか。その根底にあるのは、塾を単なる学習の場としてではなく、「地方の子どもたちが社会とつながり、将来の選択肢を知るための“第3の居場所(サードプレイス)”」として捉える、ベストコの一貫した考え方である。前編では、独自の事業戦略や創業の背景、そして東日本大震災という逆境の中で下した意思決定についてお話を伺った。本稿では、地方社会における教育インフラの構築を目指す株式会社ベストコ・代表取締役社長・井関大介様に、属人化を解消する仕組み作りやIT企業であるユナイテッドグループへ参画した真意、そして今後の展望について伺っていく。「属人化」を排除し、対話の時間を最大化するベストコの仕組み教育業界は、講師の情熱やスキルに依存する属人化が起きやすい世界だ。だが一人のカリスマ講師に頼るモデルでは、多店舗展開は難しく、現場の負担も重くなる。ベストコが目指したのは誰が担当しても高品質な指導が提供でき、かつ講師が本来の業務に集中できる「無駄のない仕組み」づくりだった。井関代表:教育の現場では、講師が夜遅くまでプリントを印刷したり、手書きで成績を管理したりと、教育以外の業務に時間を取られることが少なくありません。でも、それでは一番大切な、生徒一人ひとりと向き合う時間がどうしても削られてしまいます。だから私たちの教室には、一般的な塾には必ずと言っていいほど置かれているコピー機が、ほとんどありません。講師が事務作業に追われる状況を、構造そのものから変えたかったんです。そこで進めたのが、ペーパーレス化と業務の集約化でした。請求業務や給与計算、保護者様へのお知らせといった事務的な作業は、すべて本社のシステムで一括して行っています。教室の現場では、そうした作業を極力持たないようにしています。そうすると、現場で何が起きたかというと、講師が本当に「教育」に集中できるようになりました。生徒の成績をどう上げるか、どこでつまずいているのか、どんな声かけが必要なのか。そういうことに時間も思考も使えるようになったんです。指導についても、講師ごとにやり方が大きく変わらないようにしています。これまでの経験やデータをもとに、成績が伸びやすい指導の進め方を整理し、全体で共有してきました。誰が担当しても、一定の水準で指導ができる状態をつくることを意識しています。こうした仕組みを整えてきたことで、教室数が増えても、1拠点あたりの負担は大きくなりません。その結果、授業料を抑えながら、講師が無理なく働き続けられる環境を維持できています。なぜIT大手への仲間入りを選んだのか?。「理想のシステム」を自分たちで作るための決断創業以来、右肩上がりの成長を続けてきたベストコだが、井関氏はさらなる飛躍のために大きな決断を下す。2025年1月、IT企業であるユナイテッド株式会社へのグループインである。一見すると接点の薄そうな両者だが、その裏には「テクノロジーで地方教育を救う」という明確な戦略があった。井関代表:IT企業であるユナイテッドへのグループ参画を決めた最大の理由は、彼らが持つ「テックの力」です。これから地方では、労働人口がさらに減っていくことがはっきりしています。そうなったとき、これまでと同じやり方では、教育を維持すること自体が難しくなる。だからこそ、子どもたちに質の高い教育を届け続けるためには、システムをさらに進化させて、働く側にとっても、学ぶ側にとっても、より無理のない環境をつくる必要があると考えました。もちろん、自社でエンジニアを雇い、一からシステムを開発するという選択肢もありました。ただ、私自身が今50歳であることを考えると、10年後の60歳までにどこまで形にしたいのか、という時間軸をどうしても意識せざるを得ませんでした。ゼロからノウハウを積み上げていくやり方では、理想とする姿にたどり着くまでに時間がかかりすぎてしまう。それよりも、すでに専門的な知見や技術を持っているパートナーと手を組み、必要な機能を一気に取り込んだほうが、子どもたちのために早く変化を起こせるのではないか、と判断しました。この決断は、会社を大きく見せたいとか、規模を拡大したいという発想から出てきたものではありませんでした。地方では人手不足がこれからさらに深刻になっていく。その現実を前提にしたとき、教育をどうやって続けていくのか、そのために何が必要なのかを考え続けた結果が、この選択だったと思っています。実際、M&Aに向けた話し合いでも、数字や条件の話以上に、「地方の教育をどう変えていくのか」「どんな未来をつくりたいのか」といったビジョンの共有に多くの時間を使いました。ユナイテッドの経営陣の方々も、もともとは地方で育った経験をお持ちで、地方が抱えている課題を自分事として捉えていらっしゃいました。都会の論理だけで判断するのではなく、地方の現状を肌感覚で理解している。その姿勢が、話を重ねる中で強く伝わってきました。だからこそ、この人たちとなら同じ方向を向いて一緒に歩んでいけると感じられ、パートナーとして手を組む決意ができたのだと思います。「500教室」の先に見据える未来。地方の情報格差を埋め、子どもたちの選択肢を広げる井関氏が次なる目標に掲げるのは全国500教室への拡大。単に会社の規模を追うのではなく、拠点が増えることそのものが、地方の子どもたちを救う力になると考えているという。全国に広がる教室が網の目のようにつながれば、都会との「情報の壁」を取り払うための強力な仕組みが完成するからだ。井関代表:地方で育つ子どもたちが抱えている最大の課題は、学力そのものというよりも、「情報の少なさ」だと感じています。私自身、秋田で田んぼに囲まれて育った中で、世の中の仕事や生き方について、知っている範囲が本当に限られていました。テレビの向こう側にあるような華やかな仕事は、都会の限られた人たちがやるものだと、どこかで思い込んでいたんです。例えば、パイロットやマスコミ関係の仕事のような、いわゆる「目立つ職業」は、自分とは関係のない世界だと無意識に線を引いていました。周りにそういう仕事をしている大人がいないと、「自分もそうなれるかもしれない」と考えるきっかけ自体が生まれにくい。そうすると、知らないうちに選択肢を自分で狭めてしまうんですよね。これは決して本人の能力の問題ではなく、単純に「知らない」だけだと思っています。身近にお手本となる大人がいない環境では、自分の将来像を描く材料が少なく、結果として未来を小さく見積もってしまいがちになる。それが地方にある情報格差の正体だと、私は感じています。だからこそ私たちは、塾を「ただ勉強を教えるだけの場所」にしたくないと思っています。勉強はもちろん大切ですが、それだけで終わらせるのではなく、社会と子どもたちをつなぐ“窓口”のような存在になれたらと考えています。ICTを活用すれば、これまで都会でしか得られなかったような刺激や情報を、人口数万人の町でも当たり前に届けることができます。場所によって、触れられる世界が決まってしまう状況は、少しずつでも変えていけるはずです。「生まれ育った地元にいながら、夢を描ける」。そんな環境を、本気で形にしていきたいと思っています。コア事業として勉強を教えることは、これからも変わりません。ただ、その先に、「世の中にはこんなに面白い選択肢があるんだよ」と伝えられる場でありたい。塾が、子どもたちの可能性を広げるサードプレイス(第3の居場所)になる。それが、私が描いている地方教育の未来図です。インタビュー後記今回は、株式会社ベストコ・代表取締役社長・井関大介様にお話を伺いました。人口減少や人手不足といった地方特有の課題に対し、教育を通して解決を目指す。仕組み化やテクノロジーによってその解決に正面から向き合う井関さんの姿勢が強く印象に残りました。塾を学習の場にとどめず、子どもたちが社会とつながり、将来の選択肢を広げるための「居場所」として捉える考え方は、これからの地方教育を考える上で重要な指標だと感じました。井関 大介/1975年秋田県大仙市生まれ。大学卒業後、集団学習塾にて教育現場を経験。2009年に株式会社Global assist(現・株式会社ベストコ)を創業し、地域の子ども一人ひとりの学習課題解決を目指す。現在は東北エリアを中心に全国に120校以上の教室を展開。地方でも持続可能な学習塾モデルの開発と拡大に尽力している。【会社概要】会社名株式会社ベストコ設立2009年5月代表者井関大介事業内容学習塾事業、学習アプリ事業、調査・研究事業所在地東京本社 東京都渋谷区渋谷1-2-5 MFPR渋谷ビルサイトURLhttps://bestco.jp/