インタビュイー:株式会社ビヨンド 代表取締役 原岡昌寛様株式会社ビヨンドは、クラウドやサーバーの設計・構築・運用を専門とする、ITインフラ領域のプロフェッショナル集団だ。2007年に大阪で創業して以来、「共に創り支え続ける」を軸に、Webサービスやオンラインゲーム、ECサイトなど、24時間365日動き続けるデジタルビジネスの“土台”を支えてきた。現在は大阪本社に加え、横浜・徳島、さらにカナダ・中国へと拠点を広げ、時差と技術力を活かしながら、国内外の企業のミッションクリティカルなシステムを見守り続けている。ユーザーの目には触れないサーバーの世界で、同社は「システムを丸ごと任せられるインフラパートナー」として、着実に信頼を積み重ねてきた。その舵を取るのが、代表取締役の原岡昌寛氏である。キャリアのスタートは、英会話スクールを展開する大手企業。顧客対応や店舗運営に携わっていた原岡代表は、ある日、偶然のきっかけからシステム部門に異動となり、エンジニアとしての道を歩み始める。24時間体制のサービスをトラブルから守る現場で、「設定ひとつで世界中の利用者体験が変わる」ITインフラのダイナミズムに触れたことが、その後の人生を大きく変えていった。やがて“相棒”とも呼ぶ共同創業者とともに独立し、現場で培ったノウハウと「裏側からビジネスを支えたい」という想いを結実させたのが、株式会社ビヨンドだ。前編では、そうして生まれたビヨンドがどのようなサービスで企業の事業成長を支えているのか、その事業内容と創業の背景、そして大阪発のインフラ企業が、いかにして国内外へと拠点を広げていったのかーその歩みを辿っていく。クラウド時代を支える“裏方”のプロフェッショナル集団ビヨンドの事業は、クラウドサーバー運用を軸とした3つの領域から構成されている。その中核にあるのが、企業のIT基盤を24時間守り続けるインフラ事業だ。原岡代表:株式会社ビヨンドの事業は、大きく三つあります。一つ目がクラウドやサーバーを24時間365日見守るITインフラの運用業、二つ目がその上で動くシステムの開発、三つ目が自社サービスの提供です。なかでも柱となっているのが、クラウドのMSP(マネージドサービスプロバイダ)としてのインフラ事業です。クラウド上にサーバー環境を設計・構築し、お客様のサービスが止まらないように運用し続けるのが私たちの役割です。監視や障害対応だけではなく、負荷変動への対応やコスト最適化など“サーバー全体の面倒を見る存在”ですね。システム開発もフロントよりサーバーサイドが中心で、いわゆる“裏側の仕組み”を固める仕事です。表から見えにくい分、堅牢さが事業の生命線になる領域。ITの世界でも、縁の下の力持ちのようなポジションだと思っています。会社設立から19年、ずっとサーバーの仕事に特化してきました。ホームページにも「サーバーのことは全部丸投げしてください」と書いているくらいです。サーバーやインフラのことならまずビヨンドへ―そんな存在でありたいと思っています。グループ企業との出会いから始まった、ビヨンドの原点ビヨンド創業の原点には、まったく予期せぬ“一本の声かけ”があった。原岡代表と共同創業者が独立し、小さな挑戦を始めた矢先に届いたその誘いこそが、後にビヨンドの事業の核となる道を切り拓くことになる。原岡代表:新卒で入った会社を、共同創業者と一緒に退職し、まずは2人で事業を始めたんです。右も左も分からないところからのスタートでしたが、ちょうどその頃、現在のグループ会社にあたる企業から「一緒にやりませんか」と声をかけていただきました。その会社が運営していたのが、携帯向けのウェブサービスで、当時は日本でもトップクラスの月間80億PV。今では考えられないほどのトラフィックで、サーバーには常に高負荷がかかっていました。「このサーバーをグループ内で構築・運用したい」という相談を受けたことが、すべての始まりでした。僕らとしても、ここまで大規模なインフラを任せてもらえる機会はそうありません。挑戦する価値があると感じ、社内のサーバー運用を引き受けることにしました。結果的に、この経験がビヨンドの軸を固めることになりました。大量アクセスに耐える設計、障害を起こさない運用体制、トラブル時の判断……。あの現場で得た知識と感覚が、今の“インフラ専門企業としてのビヨンド”につながっています。地方から海外へー広がり続けるビヨンドの拠点戦略大阪からスタートしたビヨンドは、徳島・横浜、そしてカナダや中国へと拠点を拡大している。その背景には、夜間対応という業務上の課題を起点にした“働き方の工夫”と、“世界とつながる挑戦”があった。原岡代表:7年前まではインフラ業務をおこなう拠点は大阪にしかなく、2019年に初めて徳島県三好市にサテライトオフィスをつくりました。私たちの仕事は24時間365日サーバーを見守り続けることが軸なので、夜勤が発生します。エンジニアにとって夜勤は負担も大きく、採用や定着の課題にも直結していました。そこで「どうせ夜勤をやるなら、もう少し面白く働ける方法はないか」と考えたのが始まりです。最初のアイデアは“時差を活かしてカナダで夜勤をする”というものでした。ただ、いきなり海外拠点をつくるのはハードルが高いです。そこでまずは国内で距離のある拠点を設けて、運用体制の分散や働き方の工夫を試してみようと。ちょうど、徳島県がサテライトオフィスの誘致に積極的で、現地のセミナーで話を聞いたときに「これはいける」と感じて、試験的に立ち上げたのが三好オフィスです。その1年後には「次こそカナダに拠点をつくろう」と準備を進めました。でもタイミングが悪く、新型コロナの影響で海外渡航がストップ。半年ほど様子を見て、渡航規制が緩んだタイミングでエンジニアにカナダへ渡ってもらったんですが、到着の翌日にロックダウンが始まり、1ヶ月外出禁止という状態でした。そんなスタートでも諦めずに続けられたのは、“海外とつながる働き方を実現したい”という気持ちが強かったからだと思います。横浜拠点については、もっとシンプルで、拠点の立ち上げ責任者が「横浜が好きなので、横浜でやりたいです」と言い出したのがきっかけです。東京にも営業に行きやすいし、本人のモチベーションも上がる。それなら拠点にする価値があると判断しました。結果的に、コストもアクセスも良く、とても良い拠点になりました。中国拠点は2024年2月にスタートしました。クラウドといえばAmazon Web Services (AWS)やGoogle Cloudが有名ですが、中国国内ではAlibaba Cloud、Tencent Cloud、Huawei Cloudの存在感がどんどん大きくなっている。日本企業でも“中国クラウドを扱いたい”というニーズが増えていました。ただ、中国には「グレートファイアウォール」という強力な通信規制があり、中国国内と海外のネットワークが完全に分断されています。Googleのサービスが使えないのはもちろん、海外からは環境構築すらできない。クラウドなのに“現地でしか構築できない”という特殊な事情がありました。そんな環境の中で、「日本と中国の間でインフラをつなぐような役割を果たせたら面白いよね」という話になり、ちょうど現地で働きたいと手を挙げたメンバーがいたので、拠点を立ち上げました。中国語しか話せないメンバーが多く、コミュニケーションに苦労することもありますが、そのおかげで日本側メンバーの中国語がどんどん上達しているのも面白い現象ですね。コロナ禍は決して追い風ではありませんでしたが、自分たちの働き方を根本から見直すいい機会にもなりました。今はメンバーがいろんな場所に散らばっていますが、オンラインで常につながっているので、距離を感じることはまったくありません。“サーバーのことは全部丸投げしてください”という言葉に象徴されるように、堅実な技術力で信頼を積み重ねてきたビヨンド。その裏側には、原岡代表と仲間たちの、挑戦を楽しむ姿勢と、働く人を大切にする文化があった。後編では、そんな原岡代表がどのように採用に取り組み、どのような想いでチームをつくってきたのか。そして、海外展開を見据えたビヨンドの未来構想について、さらに深く迫っていく。