インタビュイー:株式会社ビヨンド 代表取締役 原岡昌寛様株式会社ビヨンドは、クラウドやサーバーの設計・構築・運用を専門とする、ITインフラ領域のプロフェッショナル集団だ。2007年に大阪で創業して以来、「共に創り支え続ける」を軸に、Webサービスやオンラインゲーム、ECサイトなど、24時間365日動き続けるデジタルビジネスの“土台”を支えてきた。現在は大阪本社に加え、横浜・徳島、さらにカナダ・中国へと拠点を広げ、時差と技術力を活かしながら、国内外の企業のミッションクリティカルなシステムを見守り続けている。ユーザーの目には触れないサーバーの世界で、同社は「すべて丸ごと任せられるインフラパートナー」として、着実に信頼を積み重ねてきた。その舵を取るのが、代表取締役の原岡昌寛氏である。キャリアのスタートは、英会話スクールを展開する大手企業。顧客対応や店舗運営に携わっていた原岡代表は、ある日、偶然のきっかけからシステム部門に異動となり、エンジニアとしての道を歩み始める。24時間体制のサービスをトラブルから守る現場で、「設定ひとつで世界中の利用者体験が変わる」ITインフラのダイナミズムに触れたことが、その後の人生を大きく変えていった。やがて“相棒”とも呼ぶ共同創業者とともに独立し、現場で培ったノウハウと「裏側からビジネスを支えたい」という想いを結実させたのが、株式会社ビヨンドだ。後編では、原岡代表の起業の背景や採用へのこだわり、そして世界を見据えたこれからのビジョンに迫る。採用にも「遊び心」をー“ビヨンドらしさ”が生まれる現場からビヨンドの特徴に、採用活動のユニークさが挙げられる。面白さで注目を浴びるビヨンドの採用活動だが、その背景には「会社の文化に合う人を見極めたい」という確かな狙いがあった。原岡代表:元々は普通の新卒採用をしていたんですが、中小・ベンチャー企業はなかなか注目されにくい実感がありました。そんなとき、僕らはゲーム業界の案件を多く担当していたので、「ゲームを使った採用をやったら面白いんじゃないか」と思い立ったんです。ちょうど広報活動を始めたばかりの時期でもあり、「毎月ひとつネタを出してプレスリリースを打とう」と決めていて。その中の一つとして、就活シーズンに合わせて“おもしろい採用企画”をやってみようという流れになりました。これが7年ほど前ですね。最初に取り組んだのが、ゲームの中で会社説明会をおこなうことです。 予想以上に多くの学生が集まってくれて、実際に採用につながった人もいました。やってみて分かったのは、「うちの社風に合う人が自然と来てくれる」ということです。コミュニケーションが好きで、“とりあえずやってみる”ことを楽しめる人が多い会社なので、企画そのものがフィルターになっていたんだと思います。それ以来、毎年少しずつ形を変えながら続けています。最近では、バーチャル面接にも取り組んでいます。履歴書はもらわず、お互いが誰か分からない状態で、アバターを通して面接をするというものです。きっかけはカナダ拠点の採用で、現地では年齢や出身地・現在住んでいる地域、家族構成など聞いてはいけないことが多くて、「それならバイアスを外してみよう」と思い始めました。やってみたら意外とうまくいって、「この人は何をしたいのか」「どんな経験を積んできたのか」が純粋に見えます。もちろん通常の選考の方が応募数は多いですが、この“変わった選考”からも毎年1〜2人は採用しています。個性的でおもしろい人が多いですね。他にも、脱出ゲーム形式の会社説明会を行ったこともあります。説明会やパンフレットの中にヒントを散りばめて、参加者に謎解きをしてもらうんですが、皆さん真剣に読み込んでくれるんです。普通の説明会よりも会社のことを深く知って帰ってもらえるので、とても良い取り組みになりました。偶然のキャリアが導いた「起業」という選択原岡代表はもともとエンジニアを志していたわけではない。だが、新卒で入社したNOVA時代に偶然訪れた“システム部門への異動”が、現在の原点となった。原岡代表:最初のキャリアは英会話スクールのNOVAでした。半年ほど働いたときに、突然システム部門への異動を言い渡されたんです。当時は本当に何も知らなくて、まずブラインドタッチの練習から始めたくらい。“なぜ自分が?”という気持ちもあって、最初は正直嫌でしたね。異動先は「お茶の間留学」という24時間体制でサービスを提供する部署で、夜中に呼び出されることも多くありました。けれど、設定を変えて画面の動作が速くなったり、大きなトラブルを解決して感謝されたりすると、「この仕事って面白いな」と思い始めたんです。いつの間にか3〜4年が経っていて、その経験が今のビヨンドの基盤になっています。起業を意識したのは大学生の頃です。自己分析をしていて、「自分は自分でビジネスをつくりたいタイプなんだ」と気づきました。だから就職先を選ぶときも、若いうちから裁量を持って働ける会社を重視したんです。NOVAは当時とても勢いがあり、若手にもどんどんチャンスを与えてくれる会社でした。「ここでの経験は将来自分が起業するときに役に立つだろう」と思い、入社を決めました。学生時代はバックパッカーとして世界中を旅していたんですが、どの国に行っても「日本って本当にいい国だな」と感じる場面が多くて。アニメや漫画など、日本の文化やサービスが海外で受け入れられているのを目の当たりにして、「いつか日本の良さを世界に伝えるような仕事をしたい」と思うようになりました。そして今、カナダや中国に拠点を持ち、自分たちのサービスを海外へ届けている。振り返ると、あの頃に抱いた想いと自然につながっている気がします。コミュニケーションを大切にしたチームづくりとこれからの展望世界へ拠点を広げる一方で、原岡代表が何よりも重視しているのが“人のつながり”だ。社内コミュニケーションを軸にした独自のチームづくりが、ビヨンドならではの文化をつくってきた。原岡代表:チームづくりで何より大事にしているのは、やっぱりコミュニケーションです。そのために『組織文化委員会』という委員会を立ち上げて、今年で9年目になります。毎年5〜6人のメンバーが選ばれ、飲み会や七夕イベント、ワーケーションなど、社員同士が交流できる場を企画してくれています。最近は新卒メンバーが中心で、ちょっとした登竜門のような役割にもなっていますね。部活動制度もあって、サウナ部、ボードゲーム部、ツーリング部など本当に自由な活動が生まれています。私が言うのもなんですが、いい人が集まっている会社だと思います。人が人を呼ぶというか、コミュニケーションを大切にする文化が自然と育ってきました。これからについては、海外拠点をさらに活かしていきたいと思っています。カナダでは取締役の森田が現地で営業活動をしていて、北米向けのサービス展開を進めています。世界のどこでも使っていただけるようなサービスを自分たちで生み出していくーそれが私たちの大きな目標です。現在はカナダと中国に拠点がありますが、今後も海外での営業活動を着実に続け、いわば“町工場の小さなネジが世界的メーカーで使われているような状態”をつくりたいと思っています。規模は小さくても、世界の誰かの役に立つ技術を届けられる会社でありたい。もちろん簡単ではありません。でも、私が引退するまでにその形ができたらいいなと本気で願っています。距離や国境を越えて、社員同士が支え合いながら挑戦し続けられる環境をつくることーそれがビヨンドの未来をつくると信じています。インタビュー後記取材を通して強く感じたのは、原岡代表の言葉の根底には常に「人」があるということでした。技術の話をしていても、その先には“使う人”や“働く仲間”の姿が思い浮かんでいるのが印象的でした。ビヨンドの採用や組織づくりにある“楽しさ”や“遊び心”も、単なる話題づくりではなく、社員が前向きに働ける環境をつくるための工夫だと感じます。「いい人が多い会社」と語られた言葉にも、仲間への信頼がにじんでいました。海外拠点を含むリモート体制でも「距離はあってもつながっている」と言えるのは、日々のコミュニケーションを大切にしてきた証だと思います。地道な挑戦を積み重ねながら、世界へ一歩ずつ進むビヨンドは、これからも静かな情熱とともに進化を続けていくと感じました。