インタビュイー:株式会社キャンプ CEO 榊原 美歩様日本の女性にとって、ブラジャーやブラキャミは当たり前の選択肢である。一方で、夏の暑い日や汗をかいた後、自宅でくつろぐ時間など、「今日はブラをつけたくない」と感じる瞬間は少なくない。それでも、ノーブラのまま外に出ることには、周囲の視線への不安がある。身体を締めつけたくないという感覚と、人前に出る安心感。そのあいだに、これまで名前のない不自由が存在していた。その不自由に「ブラレスウェア」という言葉と形を与えたのが、株式会社キャンプである。同社が展開する「no-bu」は、ブラジャーでもブラトップでもない、下着をつけずに1枚で外出できる新しいアパレルのカテゴリーだ。同社を率いるのが、代表取締役の榊原美歩氏だ。企画やマーケティングを手がけてきた榊原氏は、顧客自身がまだ言葉にできていない不快や違和感を見つけ出し、商品やサービスとして形にしてきた。no-buの原点にも、フィンランドで目にした自由な光景と、日本の銭湯で感じた日常の問いがあった。前編では、株式会社キャンプ代表 CEO 榊原美歩氏に、同社が展開するブラレスウェア「no-bu」の事業内容や「ブラレスウェア」という言葉に込めたブランド思想、フィンランドと日本の銭湯で感じた違和感についてお話を伺った。ブラジャーに代わる新たな選択肢。下着の常識を問い直す「ブラレスウェア」の提案はじめに、株式会社キャンプの事業内容について、お話を伺った。榊原代表:株式会社キャンプでは、「ブラレスウェア」という新しいカテゴリーのアパレルを企画・製造・販売しています。ブラレスウェアは、ブラジャーやブラキャミ、ブラトップとは少し違うものです。ブラジャーやブラキャミ、ブラトップは基本的に下着に分類されますが、ブラレスウェアは、下着ではなく洋服です。見た目は普通のTシャツやパーカーのようでありながら、中に特殊なパッド構造が入っていて、下着をつけなくてもバストトップが目立たない。つまり、ブラジャーをつけずに1枚で着ても、外に出られるように設計された服なんです。実際に着ていただくと、外から見た印象は普通の服に近いと思います。一方で、肌に当たる部分は柔らかく、締めつけがない。ブラを外したときのようなリラックス感がありながら、そのまま人前に出られる安心感もあります。女性の下着まわりには、日常の中で小さな不快感がたくさんあると思っています。夏の暑い日や汗をかいた後、サウナや銭湯の帰り、家でくつろいでいる時間など、今日はブラをつけたくないと思う日もあるはずです。でも、これまでは「ブラをつける」か「つけない」かの二択になりがちでした。ブラジャーがしんどいからといって、ノーブラのまま外に出るのは不安がある。私たちはそこにもう一つ、「ブラレスウェア」という第三の選択肢をつくりたいと考えました。今、私たちが展開している「no-bu」は、その第一弾の商品です。ブラをつけずに過ごしたいけれど、だらしなく見られたくはない。リラックスしたいけれど、ちゃんと外にも出たい。そうした女性の気持ちに応えるために、商品を少しずつ進化させながら開発を続けています。私たちが目指しているのは、女性の生活の中に埋もれている違和感や不具合を見つけ、それを解消する選択肢をつくることです。今まで当たり前だと思われてきた我慢に対して、「本当にそれしかないのだろうか」と問い直し、自分の身体や気分に合わせて快適さを選べるようにする。そうした考え方を、キャンプは広げていきたいと思っています。言葉が価値と文化をつくる。「ブラレスウェア」に込めたブランド思想キャンプが提案しているのは、単に「ノーブラで着られる服」ではない。榊原氏は、あえて「ブラレスウェア」という新しい言葉を用いることで、女性が自分の快適さを選ぶための前向きな選択肢として、このプロダクトを社会に提示しようとしている。榊原代表:私たちは、あえて「ノーブラで着られる服」という言い方をしていません。機能としてはブラジャーをつけずに着られる服ですが、「ノーブラ」という言葉には、人によってさまざまな受け取り方があります。少しやらしい、だらしないといった印象が入ってしまうと、私たちが本当に伝えたいことが届きにくくなると感じていました。私たちが届けたいのは、女性がリラックスできる時間であり、自分の身体や気分に合わせて選べる選択肢です。ブラをつけるか、つけないかという話だけではなく、今日は少し締めつけから解放されたい。でも、そのまま近所に出かけたり、人前に出たりできる安心感もほしい。そうした日常の感覚に寄り添うものとして、この服を届けたいと思っています。「ブラレスウェア」という言葉は、最初から明確に設計して生み出したというより、考えていく中で自然と出てきた言葉です。ノーブラという言葉を使わずに、この服をどう表せばいいのか。そう考える中で、ブラをしないという意味の「ブラレス」と、洋服を意味する「ウェア」がつながり、自然とそう呼ぶようになりました。聞いたときになんとなく意味は伝わるけれど、今までのノーブラとは違う概念として受け取ってもらえる。そこに、この言葉の良さがあると感じています。面白いのは、最初は私たちが使い始めた言葉だったはずなのに、お客様からも「こういうブラレスウェアを探していました」と言っていただくようになったことです。もともと存在していなかった言葉が、商品を通じて少しずつお客様の言葉にもなっていく。その変化を見ると、言葉が伝播していくこと自体が、新しい文化をつくることにつながっているのだと感じます。ブラジャーをしないことを、我慢の放棄やだらしなさとしてではなく、今の自分に必要な快適さを選ぶ前向きな行為として捉え直す。そのための言葉が「ブラレスウェア」です。この言葉を通じて、リラックスしたいときにはこういう過ごし方もあっていいのだと思える人を増やしていきたいです。北欧で見た自由と、日本で感じた締めつけ ブラレスウェアの原点は、フィンランドで目にした光景と、日本の銭湯で感じた違和感にある。何気ない日常の中で抱いた問いが、やがて新しい選択肢を生み出すきっかけとなった。 榊原代表:ブラレスウェアをつくろうと思った最初のきっかけの一つが、フィンランドを訪れたときの体験です。もともとサウナが好きで、北欧のサウナを体験したいという想いもあり訪れたのですが、そのときに驚いたのが、街中でノーブラのまま自然に歩いている女性が多かったことでした。サウナを出た後も、夏の街中でも、そういう姿が特別なことではないように見えたんです。ただそのときは、それがまさか事業になるとは思っていませんでした。日本に帰ってきてから、いつものように銭湯に行ったときに、「せっかくお風呂に入って身体をゆるめたのに、なぜまたブラジャーをつけるのだろう」とふと違和感を覚えたんです。周りを見渡すと、若い方から年配の方まで、皆さん当たり前のようにブラをつけていました。背中に赤いゴムの跡が残っている方もいて、これは本当に自然なことなのだろうかと思いました。そこから、周りの女性に話を聞いたり、アンケートを取ったりするようになりました。すると、約7割の女性が、お風呂上がりにまたブラをつけることに対して不快に感じたことがあると答えてくれました。自分だけの違和感ではなく、多くの女性が同じように感じていたのだとわかり、そこに何か解決できる余地があるのではないかと思うようになりました。最初は、本当に手探りでした。私は企画やマーケティングを手がけてきたプランナーで、COOの鈴木は公認会計士として外資ITや音楽業界で働いてきた人間です。2人ともアパレルの専門家ではありませんでした。ミシンも使えなかったので、最初のプロトタイプは手縫いでつくったり、裾上げに使う接着剤のようなものを使ったりしていました。ただ、自分たちだけではうまく形にならず、そこからアパレルに詳しい方に相談しながら、少しずつ本格的に動き出していきました。振り返ると、最初にあったのは、大きなビジネスプランではなく、日常の中の小さな違和感でした。フィンランドでは自然だったものが、日本では選択肢として存在していない。お風呂上がりやサウナの後くらい、身体を締めつけずに過ごしたいと思っている人がいるのに、そのまま外に出られる服がない。その気づきが、ブラレスウェアという新しい選択肢を考える出発点になりました。前編では、株式会社キャンプが展開するブラレスウェア「no-bu」の事業内容や「ブラレスウェア」という言葉に込めたブランド思想、フィンランドから帰国し日本の銭湯で感じた違和感について、お話を伺いました。後編では、アパレル未経験から始まった手探りの商品開発や顧客の言葉の奥にあるまだ見えないニーズを形にする考え方、no-buの先にある女性の暮らしを変える挑戦について、お話を伺いました。榊原美歩/株式会社キャンプ代表取締役。ブラレスウェア専門ブランド「no-bu」創業者。コンセプト設計から商品開発、デザインまで一貫して手掛ける。女性の潜在的な不便や課題に着目し、新たな商品・サービスとして形にすることを得意とする。 東京ビジネスデザインアワード最優秀賞受賞。独自構造のブラレスウェアを開発し、関連特許を出願中。no-buはグッドデザイン賞を受賞。東京学芸大学卒業。【会社概要】会社名株式会社キャンプCEO榊原 美歩事業内容ブラレスウェアブランド「no-bu(ノーブ)」の展開所在地東京都渋谷区千駄ヶ谷5丁目12-16 益本ビル2F