インタビュイー:株式会社チャイルドサポート 代表取締役 佐々木裕介様「夫婦の3組に1組が離婚している」といわれる現代日本。結婚のかたちは多様化し、離婚自体が特別な選択ではなくなりつつある一方で、離婚後に顕在化する課題は、いまだ十分に解決されているとは言い難い。その代表例が、養育費の未払い問題である。養育費は、本来子どもが健やかに成長するために不可欠な生活資金だ。しかし現実には、養育費を実際に受け取れているひとり親世帯は約28%にとどまるとされ、多くの子どもたちが経済的な不安を抱えながら生活している。制度上は権利として定められていながらも、実効性が伴っていない。この構造が、子どもの貧困を生み出す一因となっている。この課題に真正面から挑んでいるのが、株式会社チャイルドサポートだ。社名の「チャイルドサポート」は、日本語で「養育費」を意味する言葉に由来する。同社は、離婚時に必要となる公正証書作成の支援と、離婚後の養育費保証サービスを提供することで、子連れ離婚に伴う不安や法的手続きの煩雑さを軽減してきた。代表を務めるのは、弁護士の佐々木裕介氏である。佐々木氏はアメリカで学んだ後、慶應義塾大学ロースクールを修了し、弁護士資格を取得。その後、フィリピンのNGO団体で活動する中で、養育費の未払いが子どもや家庭の将来に深刻な影響を及ぼす現実を目の当たりにしたという。制度があっても、使われなければ意味がない。その強い問題意識が、株式会社チャイルドサポート設立の原点となっている。前編では、同社の事業内容、日本の離婚と養育費の実情、創業の原点となったフィリピンでのご経験について、お話を伺った。本編では、養育費未払いという日本社会の構造的課題に挑む株式会社チャイルドサポート・代表取締役・佐々木裕介氏に、自治体との連携の取り組みや今後の展望についてお話を伺っていく。Paidyで学んだ株式会社の熱量と後払いの思想Paidyで目の当たりにしたのは、ひとつのミッションに向かって組織全体が動く、株式会社ならではの圧倒的熱量、そして後払いの思想だった。この二つの学びは、後にチャイルドサポートの事業設計そのものへとつながっていく。佐々木代表:日本の法律事務所と海外の法律事務所を経て、次に選んだのが、当時スタートアップであったPaidyでした。経歴だけを見ると少しユニークに映るかもしれませんが、当時の自分にとっては、自然な選択だったと思っています。当時、起業したいという思いは漠然とありました。ただ、正直に言えば、お金があるわけでもなく、明確なビジネスプランが固まっていたわけでもありませんでした。そもそも「会社をつくる」と言っても、自分は会社というものを内側から見たことがなかった。だからこそ、まずは一度、企業の現場に身を置いてみようと考えたのです。転職先を考える中で、私が重視したのは、意思決定の権限にどれだけ近づけるかという点でした。社長に近い場所で、実際に事業の意思決定に触れられる環境を考えたとき、最も現実的だったのがスタートアップでした。そうしてご縁をいただいたのが、フィンテックのスタートアップであるPaidyでした。入社後は、本当に目まぐるしい日々でした。Paidyでは、スタートアップのexitとしてIPOとM&Aを同時に進める、いわゆるデュアルトラックという日本ではほとんど前例のないプロセスを経験しました。最終的には、PayPalによるM&Aという形で、3,000億円での買収に至ります。その一連の過程を、内部から間近で見られたことは、私にとって非常に大きな経験でした。特に印象に残っているのは、経営者がどのように意思決定を日々行っているか、社員に対してどう振る舞うかを実体験として学べたことです。代表取締役会長でカナダ人のラッセル・カマー氏、そして代表取締役社長の杉江陸氏という二人の経営者の立ち振る舞いを間近で見られたことは、今振り返っても貴重な学びだったと感じています。Paidyでの経験が、現在の事業に生きている点は大きく二つあります。ひとつは、異なる専門性を持つ人たちが集まり、ひとつの事業目的に向かって進むことで生まれる力を体感できたことです。法律事務所では、どうしても案件単位での仕事になりがちですが、会社という組織には、課題を面として捉え、動かす力がある。そのことに強く惹かれました。もうひとつは、事業モデルの考え方です。PaidyはいわゆるBNPL(後払い)という仕組みを扱うサービスですが、そこでは「不払い率をいかに下げるか」が非常に重要になります。実は、現在取り組んでいる養育費保証の事業も、本質的には同じ構造を持っています。入口となるリーガルサービスは低額で提供し、その後に続く長期の伴走支援の中で分割で支払ってもらうモデルですが、Paidyでの経験が大きく影響しています。法律事務所としてやるのか、NPOとしてやるのか、あるいは株式会社としてやるのか。事業の形にはいくつか選択肢がありましたが、最終的に株式会社を選んだのは、ひとつのミッションに紐づいた組織をつくり、継続的に課題に向き合える形だと感じたからです。Paidyでの経験は、その確信を持つ決定的なきっかけになりました。市役所の窓口から社会を変える。自治体連携による養育費支援の可能性養育費の問題を解決するためには、制度の整備だけでなく、実際にそれを活用する人々の意識を高めることが不可欠である。佐々木代表は、地方自治体との連携により、養育費の支払いに対する意識を早期に高め、支払いの確実性を高めるためのアプローチを進めている。佐々木代表:起業後、養育費問題に取り組む中で、地方自治体との連携は、非常に重要な取り組みになっています。フィリピンでのNGO活動や、弁護士としての経験を通じて、養育費や認知の問題は、制度の不備というよりも、必要としている人に情報や支援が届いていないことに本質があると感じてきました。その点で、市役所の窓口は特別な意味を持っています。市役所は、離婚届を受理する場所であり、離婚という人生の大きな転換点に、必ず当事者が足を運ぶ場所です。つまり、養育費や子どもに関する取り決めの重要性を、最も早いタイミングで、確実に当事者に届けられる接点でもあります。連携している自治体では、離婚届の提出時に、養育費に関する情報をきちんと伝える取り組みを行っています。離婚届に養育費に関するリーフレットを同封し、養育費の支払い義務や、取り決めをしないまま離婚した場合に起こり得る問題について、分かりやすく説明しています。離婚を決めた当事者が、その場で養育費について考えるきっかけをつくることが、この取り組みの狙いです。さらに、離婚後に養育費を受け取る側へのフォローアップにも力を入れています。養育費の支払いが滞った場合には、自治体として相談を受け、必要な支援につなげていく体制を整えています。離婚後に孤立しがちな当事者に対して、行政が関与し続けることで、養育費が継続的に支払われるための土台をつくろうとしています。養育費の問題は、個人の努力だけで解決できるものではありません。市役所という社会的な窓口を活用し、行政が最初の一歩を支えることで、養育費を「後から困ったときの問題」ではなく、「離婚時に必ず考えるべきこと」に変えていく。この取り組みを通じて、養育費が支払われることが当たり前になる文化を、基礎自治体から少しずつ根付かせていきたい。そして、そのモデルを他の自治体にも広げていくことが、私たちの次の挑戦です。社会課題に挑戦する起業家としての今後のビジョン最後に、今後の展望について伺った。佐々木代表:今後のビジョンを考える上で、私が最も注力しているのは、2026年4月1日施行の法改正後の制度を、利用者にとって本当に使える形にできるかどうかという点です。制度が変わっても、それが当事者の需要に合わなければ、結局は使われません。だからこそ、法改正後にどのようなサービスや支援の形を生み出せるかを、今まさに考え続けています。直近で言えば、養育費に関して大きく二つの制度変更があります。一つが「先取特権」、もう一つが「法定養育費」です。先取特権について言えば、これまでは養育費を守るためには、公正証書や調停調書などの正式な法的文書を作成する必要がありました。しかしこの制度改正によって、私文書、つまり当事者同士で合意した書面であっても、一定の条件を満たせば法的執行力が認められます。簡単な合意書に署名を行うだけで、養育費を守るための文書として機能する世界が見えてきています。これまで公正証書の作成には、数か月の期間と数万円の費用がかかるため、「作ったほうがいい」と分かっていても、当事者全員が踏み切れるものではありませんでした。それが、短時間かつ低コストで作成可能になる。この変化を、当事者が実際に使える仕組みとして提供できるかどうかが、非常に重要だと考えています。もう一つの大きな転換点が、法定養育費です。これは、当事者間で合意がなくても、そもそも養育費を請求できるという点で、制度としては非常に大きな変化です。ただ正直に言えば、これがそのまま「生きた権利」になるかどうかは、まだ不透明だと感じています。現実には、強制執行を自分一人で行うことは難しく、多くの場合、弁護士に依頼せざるを得ません。しかし、弁護士に依頼して法定養育費を回収することが、果たして経済的に合理的なのかというと、懐疑的な見方も多いです。権利としては存在していても、実際に行使できる人はごく限られてしまう可能性が高いと感じています。だからこそ重要なのは、法定養育費を「あるだけの権利」ではなく、「使える権利」にすることです。事業としてどのような支援が適切かを考えています。より抽象的な目標としては、養育費の支払い率が、今の約28%から1%でも上がること。それ自体が、私たちの事業が向き合うべき明確な指標だと考えています。会社名にも込めた通り、養育費を守ることが私たちの事業の軸であり、その数字を少しでも動かすことに寄与したいと思っています。インタビュー後記今回は、株式会社チャイルドサポート 代表取締役の佐々木裕介氏にお話を伺いました。養育費未払いという数字の裏にあるのは、制度の欠陥だけでなく、子どもの人生そのものだという言葉が強く印象に残っています。法律、テクノロジー、行政をつなぎ、「使われる仕組み」を社会に実装しようとする姿勢から、社会課題に向き合う事業の本質を学ばせていただきました。佐々木裕介/埼玉県出身、ニューヨーク州立大学政治学部卒、慶應義塾法科大学院、弁護士法人中央総合法律事務所、Freshfields Bruckhaus Deringer法律事務所、株式会社Paidy(法務コンプライアンス部長としてPayPal Group参画を経験)、2023年にチャイルドサポート法律事務所及び株式会社チャイルドサポート創業、同社代表取締役【会社概要】会社名株式会社チャイルドサポート代表取締役佐々木裕介所在地東京都中央区日本橋本町3-3-6 ワカ末ビル7階サイトURLhttps://childsupport.co.jp/