インタビュイー:株式会社こっこー 代表取締役社長 槙岡達也様広島県呉市に本社を置く株式会社こっこーは、「鉄は国家なり」と言われた時代から、資源のリサイクルを通じて地域経済を支えてきた企業である。戦後、スクラップの回収から始まった同社は、時代の変化に応じて事業領域を広げながら成長を続けてきた。現在、その舵取りを担うのが3代目の槙岡達也氏だ。同社は近年、長年の主要取引先であった巨大工場の閉鎖により、売上の柱の一つを失うという大きな危機に直面した。そうした厳しい環境変化の中で、槙岡社長が最優先で掲げたのは、「全員の雇用を守る」ことだった。その根底にあったのが、「人を幸せにすることを経営のモチベーションにする」という信念である。家業に戻った当初、槙岡氏が目にしたのは、先代である父の厳しいトップダウン経営のもとでも、懸命に会社を支え続ける社員たちの姿だった。その姿を前に、自らが目指す経営のあり方を模索し、たどり着いたのが、社員一人ひとりの力を引き出す「ボトムアップ経営」だった。後編では、株式会社こっこー 代表取締役社長 槙岡達也氏に、地域の若者の心に火をつける広報・採用戦略の裏側や「地域のインフラ」を目指した新たな挑戦について、お話を伺った。「こっこーブランド」を確立する、広報・ブランディングへの覚悟。同社はかつて取材に消極的だった時期もあったが、槙岡代表は広報を「経営者の覚悟」と位置づけ、大きく舵を切った。狙うのは、単なる知名度向上ではなく、ブランド価値を高め、「こっこーと取引すること自体が価値」と言われる未来だ。槙岡代表:広報に力を入れ始めたきっかけは、当社の取り組みそのものを、企業としての付加価値に変えていきたいと考えたからです。SBT認証の取得をはじめとするカーボンニュートラルへの対応、コンプライアンスの徹底、地域に根差した工場見学やインターンの受け入れなど、当社は以前からさまざまな取り組みを続けてきました。もちろん、それらは見せるためにやってきたわけではありません。ただ、こうした時代だからこそ、そうした姿勢自体を企業価値として伝えていく必要があるのではないかと思ったのですちょうどその当時、当社では高い利益率を支えていた取引がなくなるという大きな転機にも直面していました。だからこそ、単に条件で選ばれる会社でなく、「こっこーと取引したい」と思っていただける存在にならなければならない。その実現のために、ブランド価値を高めていきたいと考えました。ブランディングプロジェクトを立ち上げたのは2年ほど前です。昨年10月には専任の担当者を迎え、体制を強化しました。広報やブランディングというと、大きな予算が必要だと思われがちですが、私は必ずしもそうではないと考えています。いまは多額の広告費を投じなくても、工夫次第で十分に発信できる時代です。だからこそ、当社では「いかに知恵を絞り、コストを抑えながら最大の効果を生むか」を重視しながら進めてきました。今後はCSR報告書の発行やホームページの刷新、マスコットキャラクターの展開なども予定しています。一方で、当社にはもともと広報に対して慎重な空気もありました。先代の時代、地元紙の取材内容が意図と異なるニュアンスで掲載されたことがあり、取材への対応に消極的な時期があったのです。メディアには表現の自由があり、掲載内容を完全にコントロールすることはできません。それでも私は、社長に就任してから、取材を受けることを前向きに捉えてきました。お金を払って広告を出すのではなく、取材という形で会社のことを取り上げてもらえるのは、とてもありがたいことだと思ったからです。実際に記事が出ると、「見たよ」「こんなことを始めたんだね」と声をかけていただく機会が増え、発信の手応えも感じるようになりました。だからこそ、広報は単なる情報発信ではなく、会社の価値を社会に届けるための重要な経営活動だと考えています。担当者に任せきりにするのではなく、トップ自身が意思を持って進めていくことが欠かせません。広報に力を入れるかどうかは、結局のところ経営者の覚悟にかかっているのだと思います。採用への波及効果。地域貢献への想いを誇りに変える「3/3」の成功ブランディングの成果は、意外なところにも表れている。これまで積極的ではなかった新卒採用では、大手媒体に頼ることなく3名の採用と内定承諾を実現した。地域貢献への取り組みを丁寧に発信することが、地元の若者の心をつかみ始めている。槙岡代表:実は、ブランディングプロジェクトを立ち上げた当初、ターゲットに「求職者」は入れていませんでした。最初に設定していたのは、「お客様」「地域社会」「従業員」の3つです。従業員には、社内広報を通じて自社への誇りを持ってもらいたい。地域社会には、私たちの取り組みを知ってもらいたい。お客様には、当社と取引すること自体を付加価値として感じていただきたい。そうした想いから始まりました。採用を明確にターゲットへ加えたのは、今年度からです。主要取引先の工場閉鎖に伴って雇用を守った結果、当社ではしばらく人が余る状況が続いており、積極的に採用を進める必要性はありませんでした。ただ、その一方で平均年齢は年々上がり、若い世代をしっかり採用していく必要が出てきた。そこで、採用も新たなターゲットとして位置づけることにしたのです。その結果、この4月に入社する新卒社員を3名採用することができました。しかも今回は、大手求人媒体を使っていません。大学へのアプローチやSNS、インターンシップを通じて募集を行い、応募3名、内定3名、承諾3名という結果につながりました。今後の課題はあるものの、歩留まりという点では大きな成果だったと感じています。なぜここまで高い承諾率につながったのか。その一つは、広報を通じて当社の「地域貢献」への姿勢が伝わったことにあるのではないかと思っています。実際、最近の求職者には「地域に貢献できる仕事がしたい」と考える方が多い。私自身、地元で働きたいと考える人にとっては、「地域にどう関われるか」が大きな判断軸になるのではないかと感じています。だからこそ、私たちが地域のために取り組んでいることをきちんと伝える意味は大きいのです。もちろん、地域貢献は採用のためだけにやっているわけではありません。ただ、良い取り組みを続けているのであれば、それが採用という形で返ってくるのは自然なことだと思います。応募3名、内定3名、承諾3名という結果は、広報やブランディングの成果が、採用にもつながり始めたことを示す一つの象徴だったと感じています。B to Cへの挑戦と未来図。「地域のインフラ」として循環経済の鍵を握る最後に、今後の展望について、お話を伺った。槙岡代表:2020年に主要取引先の工場閉鎖が決まり、当社は大きな転換期を迎えました。雇用を守るためには、新たな働き口を自ら生み出していかなければならない。新たな挑戦を進める中で、新設したのが「事業開発室」です。外部から2名のメンバーを採用して、新たな取り組みを専任で進める部署として立ち上げました。ビジネスアイデアコンテストも、その取り組みの一つです。私自身の強い想いもあって始めたものですが、すでに具体的な成果が出始めています。第1回のコンテストから生まれたのが、「墓地リフォーム事業」です。当社がもともと持っていたエクステリア施工や土木の知見を生かし、墓参りのしやすい環境を整える事業として立ち上げました。特に広島では、山の中腹などにある「みなし墓地」が多く、高齢化に伴って草抜きや動線整備が大きな負担になっています。そうした課題に応えるこの事業は、当社にとってB to C 事業の第一歩でもあり、お客様からの満足度も高いものとなっています。第3回のコンテストでも、「庭じまい事業」と「空き家の見回り事業」という2件の事業化検討案件が生まれました。いずれも、当社がこれまで培ってきた知見を生かしながら、B to C 領域へと接点を広げていく象徴的なチャレンジだと考えています。私が目指しているのは、こうした事業の積み重ねを通じて、「地域のインフラ」と呼べる存在になることです。こっこーがなければ地域社会が回らない。そんな存在感のある会社になりたいと考えています。すべてのステークホルダーの期待を超える価値を提供することが、地域社会の幸せにも、従業員のやりがいにもつながっていく。その先に、「当社に関わる全ての人を幸せにする」という長期ビジョンがあるのだと思っています。中でも今後、特に伸ばしていきたいのは本業であるリサイクル事業です。いまこの業界には、サーキュラーエコノミーという大きな追い風が吹いています。社会に出回っているものを再び資源として循環させ、持続可能な社会をつくる。その中で、私たちのような静脈産業の役割はますます重要になっていくはずです。だからこそ今後は、メーカーとの協業がより重要になります。当社が持つ技術やネットワークを伝え、「一緒に循環を実現しよう」と声をかけていただける存在にならなければなりません。そのためにも、発信力を高め、実力を磨いていく必要があります。実際、この秋には東広島リサイクルセンターの全面リプレイスが完了し、新たに「がれき」の中間処理も可能になる予定です。これによって解体事業との連携がさらに強まり、自社で解体したものを自社でリサイクルするという流れが実現しやすくなります。リサイクル率そのものを付加価値として提案できれば、ゼネコンなどに対しても、より高いレベルの提案が可能になるはずです。さらに今後は、教育の分野にも力を入れていきたいと考えています。循環経済を実現するには、企業だけでなく地域全体の意識を高めることが欠かせません。だからこそ、子どもたちにも循環経済の考え方や、一人ひとりができることを伝えていける存在になりたい。そうした取り組みも含めて、地域の中で循環を支えるインフラ企業へと進化していきたいと思っています。インタビュー後記今回は株式会社こっこー 代表取締役社長 槙岡達也氏にお話を伺いました。危機のなかでも「雇用を守る」と決め、従業員の幸せを起点に経営を組み立てていく姿勢が強く印象に残りました。トップダウンではなく、社員の力を引き出すボトムアップ経営へ舵を切り、地域に必要とされる存在を目指す歩みから、企業の持続的な成長は、人と地域への誠実な向き合い方の先にあるのだと学ばせていただきました。代表取締役社長 槙岡達也/1985 年広島県生まれ。武蔵大学経済学部卒業。株式会社毎日コミュニケーションズ(現・株式会社マイナビ)や日新総合建材株式会社(現・日鉄鋼板株式会社)に勤めた後、2015年に株式会社こっこー入社。生活環境事業部長などを経て、2016 年 5 月から取締役常務執行役員、2017 年 4 月に同社代表取締役社長に就任。【会社概要】会社名株式会社こっこー設立年1951 年代表取締役社長槙岡達也事業内容鉄・非鉄スクラップ、産業廃棄物の中間処理建材、鋼材などの加工・販売エクステリア商品の販売・施工所在地広島県呉市広多賀谷 1 丁目 9 番 30 号サイトURLhttps://www.cocco-at.jp/