インタビューイー:株式会社丸山製麺 取締役 丸山晃司様1958年に創業された製麺所で、ラーメン店や社員食堂をはじめとする食品関連事業者向けにオーダーメイドで麺を製造している株式会社丸山製麺。1日に約4万食を製造し売上も順調に推移していたが、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言による外食産業の営業自粛を受け、売上は8割減にまで低迷をした。創業以来の危機を乗り越えるため、新たな一手として自宅で全国の有名なラーメン店の味を楽しむことができる冷凍ラーメン自販機「ヌードルツアーズ」を立ち上げた。 ビジネスの可能性を広げるべく新規事業創出に果敢に挑戦する丸山製麺所の取締役を務める丸山晃司氏に、新規事業立ち上げの経緯や成功させるためのポイントについて話を聞いた。 30歳で家業を継いだ丸山氏のキャリアパス丸山氏の祖父が創業し、現在は丸山氏の父が代表取締役を務める丸山製麺。30歳で家業を継ぐことを念頭においてキャリアを決めた丸山氏の経歴をはじめに伺った。丸山氏:実は大学生時代に人材系の会社を立ち上げていて、卒業後もそのまま経営していこうと考えていたんです。しかし、リーマン・ショックの影響を受けて経営を続けることが難しくなってしまい、新卒で就職活動を行うことにしました。ただ元々「30歳になったら家業を継ごう」とは決めていたため、30歳までの7年間で一番成長ができる環境はどこかという視点で就職活動を行い、元サイバーエージェントグループで現在の株式会社CARTA HOLDINGSへ入社をしました。一般的に、実家が製麺会社で家業を継ぐことを前提としている場合、日清製粉さんやニップンさんといった大手の製粉業界に進むことが多いです。しかし、私の場合は王道ルートよりもいち早く活躍できるような環境を求めていたため、スタートアップ、ITといったキーワードで最初のキャリアを決めましたね。CARTA HOLDINGSは、メディア事業を主軸にしつつ、サイバーエージェントグループ内で積極的に新規事業の開発を進めることをコンセプトとしている会社でした。私自身入社して1年目は営業を担当していたのですが、2年目以降は新規事業開発のチームで新規事業の立ち上げに取り組んでおりました。新型コロナウイルス流行下で迫られる老舗製麺企業の変革中華麺なら中華麺だけを作るように特定のジャンルに特化した製麺所が多い中、丸山製麺では中華麺・蒸し麺・そば・うどんなどの多品種の製造を行うことを特⻑とし、顧客店舗のニーズに合わせたオーダーメイド麺を提供している。丸山氏:当社は、2024年で66年目を迎える製麺企業で、創業からの主軸事業として飲食店を中心とした製麺の卸売業を手がけております。ラーメンやそば、うどんなど様々な業務用の麺を製造しており、ラーメン店、中華料理屋、駅中の立ち食いそば、社員食堂、その他にも老人ホームなど、1都3県を中心に3000ヶ所に渡る事業所へ麺を卸しております。当社の強みとして、ラーメンだけを製造している製麺所が多い中で、当社は多品種の麺を製造することによる事業ポートフォリオ戦略を得意としています。例えば、夏はラーメンの売上が減少しやすい一方で、蕎麦の需要は増加する傾向にある、などといった傾向を踏まえて収益のバランスを取っていました。しかしながら、新型コロナウイルスの流行下では全ての麺の卸売が縮小してしまったため、半年間で資金繰りがとても苦しい状況に追い詰められました。この危機的状況を乗り切るため、新しい収益源を作るか、赤字を減らすためにコスト削減をするかの二択に迫られました。しかし、コスト削減と言っても売上が大幅に減少していると削減できる余地がほとんどないため、新しい収益源を作ることを決意しました。とはいえ新型コロナウイルスが流行する前は、製麺の卸売で安定した収益を得ることができていたため、会社として新規事業の必要性がなく、あまり新規事業の立ち上げに対してポジティブな雰囲気ではありませんでした。そこで私が中心となって、新しい売上を作るため新規事業をたくさん立ち上げていくことに、会社の方針を大きく転換させていきましたね。卸売業からの新たな一歩の舞台裏新型コロナウイルスが流行するまではBtoBの製麺卸売りに専業していたため、「本当に0からの新規事業立ち上げだった」と丸山氏は振り返る。丸山氏:新型コロナウイルス流行により卸売業界の全体が落ち込んでいたため、製麺以外の領域で新しい収益源を作る必要がありました。最初は、ラーメンの通販サイトを始めたり、うどんのサブスクリプションサービスを始めたりなど色々な新規事業を積極的に立ち上げました。実際のリリースまで手がけたのは数えるほどですが、裏ではたくさんの企画を仕込んでいました。後ほどお話しますが、新規事業を成功させるためにはとにかく挑戦し続けることが大事になります。新規事業の成功率は大体1割程度のものなので。そのため、私たちも多くの失敗を経験してきました。例えば、「UDON LAB」という毎月異なる小麦を使ったうどんが届くサブスクリプションサービスです。当時オンラインサロンが流行していたことから、情報だけでなく実際の商品を提供するオンラインコミュニティがあったら面白いと思い、インフルエンサーと共に事業開発に着手しました。しかし、提供していたサービスがあまりにもニッチな層に特化していたことや、パートナーとの意思決定のハードルが高かったこともあり、この事業はなかなか上手くいきませんでしたね。前編では、丸山製麺の事業内容や新規事業立ち上げの経緯とその舞台裏についてお話を伺いました。後編では、「ヌードルツアーズ」のヒット要因や、丸山氏の経験を踏まえた新規事業を成功させるためのポイントを伺います。