インタビューイー:キチナングループ株式会社 代表取締役社長 井本健様1962年に創業されたキチナングループ株式会社は、西日本/関西を中心に物流事業を主軸に輸送、保管、生産管理、製造請負などの幅広いサービスをグループ会社と共に提供している。創業者である祖父から父へ、そして2020年に現在の代表取締役社長である井本健氏へと、経営のバトンが渡された。積極的なM&Aによる新規事業に挑み、売上は140億円を突破、従業員数も1,100名を抱える企業に成長した。「本社を構える山口県を代表する企業」を目指し、スタートアップ企業との共創プログラムにも取り組むなど、地域における先駆的な事業展開を手がける井本健社長に、新規事業への挑戦の経緯や想いについて話を聞いた。キチナングループの総合物流戦略11社のグループ会社と共に物流事業を展開するキチナングループ。はじめに、キチナングループの直近の事業内容を伺った。井本社長:私たちは山口県を拠点として西日本/関西を中心に物流サービスを展開しています。ただ物を運ぶだけではなく、工場内の生産管理や倉庫保管サービス、更には、プラントや電気関係の工事など、幅広くサービス展開をしている総合物流会社になります。もともと運送事業に専念していたのですが、地域にとってより大きな価値を提供したいという想いから事業を拡大していきました。特に地方では、運送する荷物の量が減少し、工場の統廃合や合理化が図られているため、お客様のビジネス戦略に合わせて、原材料や部品などの調達や製造のフェーズから携わらせていただく3PL事業といった取り組みを行っています。多岐にわたるキャリア経て選んだ道:家業を継ぐ決意学生起業家を目指し数々のITベンチャーで事業経験を積み、新卒では経営コンサル会社へ就職。そして起業と、幅広いキャリアを歩んできた井本社長。まずは、その経験を経て家業を継ぐ決意に至った背景について伺った。井本社長:大学生時代、様々なベンチャー企業でインターンシップを経験しました。その中でも、一社目のビジネスマッチングのサイトを運営する学生ベンチャー企業でインターネットビジネスやサービスの魅力に気づき、そこからは学生の身ではありましたがインターン先でのサービス運営、事業推進に没頭する日々でした。大学卒業後は、中小企業向けの経営コンサルティングを行う企業に3年間勤めました。その後、実家に戻ってキチナングループに入社しましたが、実は2年ほどで一度退職しております。当時、クラウドワークスやUberをはじめとするマッチングサービスが海外で注目されており、このビジネスモデルを日本の物流業界でも応用できないかと考え、キチナングループで働きながら、「物流会社とお客様が直接マッチングできる」プラットフォーム事業の会社を立ち上げたんです。この事業が上手くいきはじめて、業務の両立が難しくなってしまったため、退職を決めたという背景です。その後、3年半にわたり立ち上げた事業に専念し、売上は8億円に達しました。しかし、売上を50億円や100億円に拡大するビジョンが見えず、また、当初は中小企業向けのマッチングサービスに注力するはずが、徐々に”宅配ボックスの開発”という本来の目的とは異なる事業へとシフトしていたため「自分が本当に追求したいことは何か」と考えるようになりました。そんな時、当時キチナングループの代表を務めていた父から「自分は会社を引退するが、お前はどうするんだ」と問われ、最終的に家業を継ぐことを決意しました。M&A戦略と事業ポートフォリオの拡充家業を継ぎ、2020年に代表取締役社長に就任した井本氏が始めた取り組みとして、積極的なM&Aを通した新規事業の立ち上げが挙げられる。M&Aを始めた経緯やその成果を伺った。井本社長:当社は非上場企業であり、資金調達の主な手段は金融機関からの借り入れのため、確実にキャッシュフローを生み出せる事業を優先して取り組みたいという背景からM&Aを推進しました。また、地方企業間での統廃合が加速する中、地域でNo.1の企業にならなければ生き残れない状況になっているため、地域でのプライスリーダーを目指すことも、M&Aを積極的に進める理由の一つとなっています。最近では、自動車整備や電気工事、プラント工事を手掛ける企業などへのM&Aを進め、事業ポートフォリオを拡大しました。このような積極的なM&A戦略により、グループの売上高は私がキチナンに戻った当時の約60億円から3年ほどで140億円まで成長しております。今後500億円や1000億円規模の企業へと成長させるためには、地域にとって「価値のある企業である」ことが必要であると考え、若手人材の採用をはじめとする様々な取り組みにも力を入れています。物流×スタートアップで効率的なオペレーションを目指す物流業界における高齢化問題や長時間労働問題を背景に、物流オペレーションの効率化を目指すべくスタートアップ企業との共創プログラムも開催したキチナングループ。ITの力で物流のDX化を推進し、現場が幸せになる未来を井本社長は目指す。井本社長:当社は、場所や人、機械といった現場オペレーションというリソースがある半面テクノロジーに弱みがあるのに対し、スタートアップ企業はテクノロジーを有しているものの、それを活かす現場オペレーションが不足しています。そこで協業により革新的なサービスの創出が可能になると考え、スタートアップ企業との共創プログラムを開始しました。プログラムには、AI開発、ドローン、ロボット開発事業、ブロックチェーンの開発など、領域の異なる多様なスタートアップ企業の方々にご参加をいただきましたね。最終的な導入や運用までに至ることは叶わなかったのですが、参加企業の方々とディスカッションを重ねたことで、物流の効率化を今後進めていくにあたって、どのように共創することができるかというビジョンを描くことができました。特に業務の100%をテクノロジーで効率化していくというより、人とテクノロジーが共存し合える状況であったり、人がやるべきところをやるという考えであったりと、我々のような中小企業にとって多くの気づきを与えてもらえる機会を得られたと感じています。非効率なオペレーションというのは物流業界の中小企業が直面する大きな課題であり、この課題を解決することは私のライフワークと言ってもいいかもしれません。今後も今回のようなスタートアップ企業との共創や新しい企業へのM&Aなど、さまざまな取り組みを通して業界課題に立ち向かっていくつもりです。前編では、キチナングループの事業内容と、M&Aや共創プログラムをはじめとした新規事業創出の取り組みについて伺いました。後編では、物流業界の改革に取り組む井本社長の想いや、新規事業をはじめとする新しい取り組みを実行する上で必要なマインドセットについて伺いました。