インタビュイー:株式会社コラボハウス代表取締役 松坂直樹様愛媛県松山市に本社を置く株式会社コラボハウスは、新築のデザイナーズ注文住宅を手掛けるハウスメーカーである。前編では、モデルハウスも営業も置かない「設計士主導」というコラボハウス独自の事業モデルと、保育士が常駐するカフェのような打ち合わせ空間に代表される、徹底した顧客体験へのこだわりに迫った。そのユニークな仕組みは、多くの顧客を“ファン”に変え、会社を急成長させる原動力となった。しかし、その成功を支えた創業以来の「フラットな組織」という理念こそが、企業の成長にブレーキをかける「100人の壁」という深刻な課題を生み出す。後編では、この組織の危機に、松坂代表がどう向き合ったのか。そして、すべてのビジネスの根底にある創業者の「痛み」と哲学、さらには会社を家づくりからまちづくりへと進化させる未来に向けた経営の核心を紐解いていく。創業以来の「フラット組織」からの転換、新社長就任の背景事業の急成長は、創業以来の「フラットな組織」という理念に限界をもたらしていた。この経営課題を解決するため、外部から招聘されたのがコンサルタントとしてキャリアを積んできた松坂氏だ。彼は予期せぬ形で、会社の未来を託されることになる。松坂代表:私が入社する前、会社はまさに組織の転換期でした。創業以来の「フラット組織」というカルチャーでは、100人を超える規模のガバナンスが効かなくなっていたのです。すべての意思決定が創業メンバーに集中してしまい、次のリーダーが育たない。このままでは会社の成長が止まってしまう、という強い危機感がありました。私はもともとコンサルティング会社に勤めていたのですが、あるとき私の仕事のスタイルを知る知人から「この会社とマッチするんじゃないか」と紹介されたのがコラボハウスとの出会いです。話を聞くうちに、設計士が営業まで担うというビジネスモデルの独自性、そして社員の平均年齢が29歳と若く、チャレンジ精神にあふれている点にも強く惹かれました。また、私自身が広島出身ということもあり、同じ瀬戸内エリアの愛媛から地方を盛り上げるという挑戦に、大きなやりがいを感じたのです。当初は取締役として入社し、人事制度の設計など、組織の仕組みづくりを推進する役割を担うはずでした。ですが、会社の次の成長をどう描いていくかという議論を重ねる中で、経営のバトンを託していただく形となりました。まさに、未来に向けた変革の推進役という大役を任せていただいた形です。設計と営業、相反する資質を育む、人材育成の哲学社長として松坂氏が直面した最大の課題。それは、同社のビジネスモデルの根幹を担う設計と営業、両方の能力を兼ね備えた人材の採用と育成だった。相反する能力が求められるこの難題に、どう向き合っているのか。松坂代表:私たちのビジネスモデルは、言葉で言うのは簡単ですが、実現するのは極めて難しい。特に採用と育成は、常に頭を悩ませる大きなテーマです。なぜなら、設計が得意な人材と、営業が得意な人材では、求められる資質や思考のベクトルがまったく逆だからです。緻密な図面を正確に描ける几帳面さと、お客様の心を開かせる大らかさ。この水と油のような能力を兼ね備えた人材は、市場にはまずいません。だから私たちは、完成された人材を探すのではなく、ポテンシャルを探します。では、どのような人材にポテンシャルを見出すのだろうか。松坂代表:例えば、営業としてお客様と接する中で、「なぜ自分の役割はここで終わりなんだろう」「もっと設計まで関わって、お客様の理想を形にしたい」といった、もどかしさを感じている人。あるいは設計士として、「お客様の顔も見ずに図面を引くことに、どこか違和感がある」と感じている人。つまり、従来の業界の縦割り構造に課題意識を持っているかどうか。私たちの「すべては友人のために」という哲学に心から共感してくれるかどうか。スキルは後からでも磨けますが、この根本思想がずれていると、お互いにとって不幸になってしまう。だからこそ、採用においては、この価値観の一致を何よりも大切にしています。「家づくりは、まちづくりだ」――地方創生を貫く、新たな使命と経営戦略地域に根ざした組織づくりを進めるなかで、松坂氏の思考は、事業の“広げ方”にも大きく踏み込んでいた。単なる拡大ではなく、「どこで、何のために展開するのか」─その問いに対する明確な答えが、地方へのこだわりに表れている。松坂代表:今後の展開として、私たちが進出していくのは東京のような大都市圏ではなく、あくまで地方です。これには2つ理由があります。1つは、ビジネスモデルの特性です。私たちはモデルハウスを持たない分、固定費が低く、損益分岐点が低い。大手さんが採算の合わないような小さな商圏でも、しっかりと利益を出せる強みが弊社にはあります。私たちの強みを最大限に活かすためには、地方のほうがいい。これは私たちのビジネスモデルに根差した、合理的な判断なのです 。そしてもう1つが、私たちが担うべき使命です。以前、取引先の方から「コラボハウスさんって、家づくりカンパニーから、まちづくりカンパニーになっていますよね」と言われたことがありました。その瞬間はぱっと意味が分からなかったのですが、こう続けてくれました。「幸せな家族が、カッコイイ家に住む。その家を見た人が『あんな暮らしをしたい』とまた家を建てる。その輪が、活気あるまちをつくる。これはただ家を建てるだけの会社にはできないことだ」と。この言葉に、ハッとさせられました。私たちの仕事は、ただ家を建てるだけでなく、その先の地域社会の未来につながっていたんだ、と。この気づきが、私たちの新たなMVVにつながっています。ミッションは「あらゆる場所に、ファンを」。家づくりを通して喜び(Fun)を届け、地域から応援される存在(Fan)になりたいという願いです。そしてビジョンは「NextLOCAL,NewLIFE」。家づくりを通じて、地方に希望ある“次の暮らしのあり方”を提案していくという決意です。今後は産学連携や行政との取り組みも本格化させ、日本一面白いチャレンジ企業を目指します 。地域と未来をつなぐ産学連携「コラボハウスホール」に込めた想い組織改革を進める傍らで、松坂氏の視線は、事業の先にある「地域の未来」へと向けられていた。そこには、単なる企業成長を超えて、地方に新たな価値を生み出す存在でありたいという、揺るぎない覚悟があった。松坂代表:2025年5月、私たちは愛媛大学とネーミングライツ・パートナー契約を結び、城北キャンパス内のグリーンホールが新たに「コラボハウスホール」と名付けられました。創業の地・愛媛に、こうして私たちの名を刻むことができたのは、大きな誇りであり、企業としての責任も一層感じています。 2026年度には、愛媛大学に県内初となる「建築コース」の新設が予定されており、地域に根ざした建築・まちづくり人材の育成が本格的に動き出します。私たちもこのご縁を機に、学生たちとの距離をさらに縮め、愛媛の未来を共に考え、地域の建築文化をともに育んでいきたいと考えています。その第一歩として、学内掲示板などを活用し、インターンシップやプロジェクト型の取り組みを通じて、学生たちとの接点を広げていく予定です。大学・地域・企業が一体となるこうした連携が、次世代を担う若者たちの希望となり、愛媛の未来を支える力になっていく— 私たちはそう信じています。私たちの事業は、お客様に満足いただける住まいをお届けすることにとどまりません。地方で暮らし続けるという選択肢を、より豊かで魅力的なものにしていく社会的使命を担っていると自負しています。私たちが地方で事業を拡大していくこと自体が、地域の活性化に直結すると信じているからです。こうした価値観や企業文化への共感は、近年、社内外からも高く評価されるようになり、2025年にはGreat Place to Work® Institute Japanによる「働きがいのある会社」に認定されました。社員一人ひとりの誇りやエンゲージメントの高さ、そして全社的な一体感が、社外からも認められたことは、何よりの励みになっています。こうした評価を支えているのは、他でもない“人”の力です。住宅業界は今、熾烈な人材獲得競争のまっただ中にあります。その中で「他のどこでもなく、コラボハウスで働きたい」と社員一人ひとりが誇りを持てる組織を創り上げること 。それが経営者としての私の最大の責務です。社員の成長なくして、会社の持続的な成長はあり得ません。日本には、後継者不在のためにその価値を失いかけている、素晴らしい地方企業が数多く存在します 。この記事をきっかけに、事業承継や地方での新たな挑戦に可能性を見出す方が一人でも増えることを願っています。私たちの挑戦が、その道標の一つとなれば、これに勝る喜びはありません 。インタビュー後記取材を通して感じたのは、「家づくり」という言葉の持つ、2つの側面です。1つは、物理的な「家」という構造物をつくること。そしてもう1つが、その家に住む家族の、未来の「暮らし」をつくり、幸せな思い出を育んでいくこと。コラボハウスの事業は、後者に圧倒的な重心を置いていると感じました。「すべては友人のために」という哲学は、単なるスローガンではありません。業界の常識を疑い、顧客の心理的な負担を取り除き、家づくりのプロセスそのものを最高の体験に変えようとする徹底したビジネスモデルであり、行動指針です。多くの人が何らかの後悔を抱えがちだと言われる家づくりにおいて、同社の存在は、まさに救いの一手となっているのではないでしょうか。「家づくり」から「まちづくり」へというビジョンは、一企業の成長戦略を超え、日本の未来に対する一つの答えを示しているように思います。事業承継や人口減少といった課題に直面する地方で、その土地の価値を高め、希望ある未来を創造しようとする挑戦。コラボハウスの歩みは、これからの時代の企業のあり方、そして私たちの暮らしのあり方を考える上で、重要な光を投げかけていると感じます。