インタビュイー:FPTジャパンホールディングス株式会社 代表取締役社長 ド・ヴァン・カック様ベトナム大手ICT企業グループ・FPTコーポレーション。1988年の創業以来、教育・通信・ソフトウェア開発を軸に成長を遂げ、現在では世界30カ国に約90拠点・8万人超の従業員を擁するグローバル企業へと発展している。その日本法人であるFPTジャパンホールディングス株式会社は、2005年の設立以降、日本企業のDXパートナーとして着実に存在感を高めてきた。現在では日本国内に17拠点・約5,000名の体制を構え、製造、金融、物流、ヘルスケアなど幅広い分野で日本企業のIT変革を支えている。FPTソフトウェアの副社長として数多くのプロジェクトを率いてきたド・ヴァン・カック氏は、2021年にFPTジャパンホールディングス・代表取締役社長へ就任。コロナ禍の日本で、言語も文化も異なる環境の中から組織規模を3倍以上に成長させた。その背景には、エンジニアとして積み上げてきた20年以上の実務経験、教育への強い想い、そして日本とベトナムの未来を見据えた明確なビジョンがある前編では、FPTグループの事業構造、日本進出の原点、日本とベトナムをつなぐ協業の思想についてお話を伺った。本稿では、FPTジャパンホールディングス株式会社・代表取締役社長・ド・ヴァン・カック氏に、カック代表のキャリア、日本で進めてきた採用・育成の取り組み、今後のビジョンについて迫る。貧しい時代のハノイでITの道へ。カック社長のキャリアと出会った技術いまや約5,000人の日本法人を率いるカック社長だが、そのキャリアの出発点は1人のエンジニアだった。大学時代にコンピューターサイエンスを選び、当時のベトナムではまだ珍しかったITの世界へと足を踏み入れた。その選択と経験は、現在のFPTジャパンホールディングスの組織文化や人材育成の考え方にも、色濃く反映されている。カック代表:私は1994年に大学を卒業しました。卒業後、最初に入社した会社は所謂、家族企業のような小さな会社です。当時のベトナムでは、ITや技術系の仕事は、今のように大きな産業として確立されていたわけではありませんでした。紹介で仕事に就くケースも多く、会社の規模や制度よりも、人と人とのつながりで仕事が成り立っている時代だったと思います。そのような環境でしたが、私は大学でコンピューターサイエンスを選び、ITエンジニアとして生きていく道を選びました。当時のベトナムでは、大学を出ても安定した仕事が必ずしもあるわけではなく、ITもまだ新しい分野でした。それでも、この分野はこれから伸びていくと感じていましたし、自分自身が成長できる場所だと思っていました。大学ではコンピューターサイエンスの学科に合格し、120人のクラスで学びました。この学科はベトナム全土でも500人しか入ることができず、入学の時点から競争は非常に激しかったです。周囲には優秀な学生が多く、その環境が自分を鍛えてくれたと思っています。卒業後は、その小さな会社で3年ほど働きました。大きなプロジェクトがあるわけではありませんでしたが、現場で実際に手を動かしながら、エンジニアとしての基礎を身につけていきました。そして、2002年にFPTソフトウェアに入社しました。ここから、私のエンジニアとしてのキャリアは本格的に始まります。入社してからの最初の10年以上は、ほとんど開発の仕事に集中していました。当時は残業も多く、一日14時間から16時間ほど働くことも珍しくありませんでしたが、つらいと感じたことは一度もありませんでした。仕事そのものが楽しかったからです。ベトナムの経済はまだ貧しく、インフラも十分とは言えない状況でしたが、ITは新しく、確実に成長していく分野でした。その成長の最前線に関われていることが、大きなやりがいでした。自社の成長、自身の成長がベトナムという国の成長に直結しているように感じられたからです。開発を続ける中で、徐々に責任の範囲も広がっていきました。プロジェクトマネージャーを経験し、チームを率いる立場にもなりました。その後、FPTソフトウェアでは副社長を務めることになり、複数の役職を兼任しました。役職は変わっても、常に意識していたのは現場のことです。デリバリーの責任者として、品質、生産性、プロジェクトの進め方などについて、長い間ベトナム側の現場を支えてきました。そうした現場での経験を積み重ねた上で、2021年11月、FPTジャパンホールディングスの代表取締役社長として日本に赴任することになりました。エンジニアとしてスタートし、開発の現場で長い時間を過ごしてきた経験は、いま組織を率いる立場になっても、自分の考え方の中心にあります。技術を理解すること、現場の声を聞くこと、人を育てること。そのすべてが、これまでのキャリアの延長線上にあると感じています。言葉も文化も違う日本で、組織を3倍にする挑戦日本語がほとんど話せない状態のまま、FPTジャパンホールディングス・代表取締役社長に就任。さらに就任時期はコロナ禍の真っただ中だった。対面での会議もままならず、企業活動そのものが制限される状況下で、FPTジャパンはわずか1年で500名以上の新規採用を実現する。人材不足や中国ロックダウンという外部環境を、成長の機会へと転換していった背景には、現場起点の柔軟な戦略があった。カック代表:私は2022年1月、FPTジャパンホールディングス・代表取締役社長として日本に着任しました。当時のFPTジャパンホールディングスは約1,300人の組織でした。正直に言うと、その時点では日本語はほとんど話せませんでした。お客様との打ち合わせはオンラインが中心で、日本語の勉強もオンラインで始めるしかありませんでした。直接会って話すことができない中で、どうやって信頼関係を築いていくかを、常に考えていました。2022年になると、日本全体でIT人材不足の深刻化が一気に顕著になってきました。加えて、コロナによる中国のロックダウンの影響で、開発が止まってしまうケースも多く、多くの日本企業が困難に直面していました。私はこの状況を見て、今こそ日本で人材を集めることで、これまで以上にお客様の課題解決に貢献できると考えました。そこで、人材紹介会社の方々にも協力していただきながら、日本国内での採用を強化しました。その結果、1年で約500名を新規採用することができました。同時に、仕事の中身も変えていく必要がありました。2021年の時点では、FPTジャパンの業務の約80%がテストや開発といったいわゆる下流工程でした。このままでは、日本のお客様の本質的な課題に深く入り込むことはできません。そこで、日本人の専門家を積極的に採用し、コンサルティング、PMO、ソフトウェア・アーキテクトといった上流工程へ領域を広げていきました。その結果、現在では500人以上の日本人コンサルタントやPMOメンバーが、お客様の現場に常駐しています。要件定義や課題整理の段階から直接関わり、改善提案まで行える体制が整ってきました。お客様の課題を「外から」ではなく、「中から」理解できるようになったことは、大きな変化だと感じています。ベトナム人社員の数も増え、現在では約3,000人になっています。そのうち半分はベトナムから来日したメンバーで、残りの半分は日本の大学を卒業して新卒で入社したメンバーです。ベトナムでは日本と違い、大学3年生の頃からソフトウェア開発やテストの業務をアルバイトとして経験するのが一般的です。そのため、新卒で入社してきた時点で、すでに2年ほどの実務経験を持っているケースが多いです。私たちの強みは、単に採用することではなく、育成まで含めて考えている点にあります。FPTグループは、ハノイ、ホーチミン、ダナンなどに大学キャンパスを持ち、毎年約5万5,000人の学生を育成しています。そのうち約1万人が毎年卒業し、日本語を学ぶ学生は、テクノロジー学部と日本語学部の学生を合計すると、3万人近くいます。日本側でも、日暮里で日本語学校を運営しており、毎年200人から300人が学んでいます。コロナ禍という制約の多い環境でしたが、その中で人材を集め、育て、仕事の質を変えていくことができました。この時期に進めた取り組みが、いまのFPTジャパンホールディングスの基盤になっていると感じています。日本の技術をベトナムへ。FPTジャパンホールディングスの未来図FPTジャパンは、単に「人材を送り込むIT企業」ではない。カック社長が見据えているのは、日本で培われた先端技術や知見をベトナムに届けること、そして同時に、日本において日本企業が直面するより難度の高い課題に挑み続けることだ。日本とベトナムを一方通行ではなく、双方向につなぐ成長モデル。その根底には、経営者自身が「もう一度学び直したい」と語る、学び続ける姿勢がある。カック社長:私は、外国人か日本人かに関係なく、もっと学び続けることが大切だと思っています。個人的な話になりますが、私は日本語と日本文化を、もう一度きちんと勉強し直したいと考えています。日本の教育システムはとても良いと思っていて、機会があれば、また大学で学びたいと思うこともあります。5年後には、いまよりもずっと上手な日本語で、皆さんとお話しできるようになっていたいです。FPTとして、これから特に力を入れていきたいことは大きく2つあります。1つ目は、日本の優れた技術をベトナムに導入することです。IT分野に留まらず、例えば新幹線や道路インフラ、量子コンピューターなど、日本には世界でもトップレベルの技術があります。こうした技術をベトナムに導入し、国の発展に少しでも貢献していきたいと考えています。2つ目は、日本企業と一緒に、より難しい課題に挑んでいくことです。これまでは人材不足の解消という課題に対する役割が大きかったと思いますが、それだけではありません。より複雑なIT課題や、産業全体に関わる課題について、日本企業と協力しながら解決していきたいと思っています。これからも日本語を学び続け、日本の文化を理解しながら、日本企業と一緒に新しい価値をつくっていきたいと思っています。日本とベトナムをつなぐ存在として、FPTジャパンが果たせる役割は、まだまだ大きいと感じています。インタビュー後記今回はFPTジャパンホールディングス株式会社・代表取締役社長・ド・ヴァン・カック様にご取材させていただきました。取材を通して強く感じたのは、FPTジャパンの成長の根底にあるのが、派手な戦略やスピード感だけではなく、「学び続ける姿勢」と「相手を理解しようとする誠実さ」だということです。コロナ禍という未曾有の状況で日本法人の舵を取り、現場に向き合い続けてきたカック社長の言葉一つひとつから、経営とは人と向き合い続ける営みであるという本質を学ばせていただきました。ド・ヴァン・カック/FPTソフトウェアに入社後、主として研究開発や製品開発に従事し、2011年からは研究開発部門を取りまとめる副社⾧となり、さらにFPTソフトウェアの主要業務であるソフトウェア開発の責任者を務める。世界開発規格 CMMI レベル5取得のためのリーダーとして全社を指導。2016年からはFPTソフトウェアの品質責任者も兼ね、高品質のソフトウェアを出荷するようにした。その後、FPTソフトウェアの研究・開発・品質のグローバル責任者として活躍。2022年1月1日から現職。【会社概要】会社名FPTジャパンホールディングス株式会社設立2005年11月代表者ド・ヴァン・カック (Do Van Khac)所在地東京本社 東京都港区三田3丁目5−19 住友不動産東京三田ガーデンタワー33階サイトURLhttps://fptsoftware.jp/