インタビュイー:株式会社FREEDiVE 代表取締役 今井渉平様株式会社FREEDiVEは、通信インフラの変化を敏感にとらえ、モバイルWi-Fi事業やeSIM事業を展開する企業だ。同社の特徴は「社員一人ひとりの自己実現」を尊重する文化にある。個々の成長や挑戦を後押しすることで組織の力を高め、結果として市場での存在感を強めてきた。そんなFREEDiVEを率いるのが、音楽の世界からビジネスの世界へと飛び込み、通信というインフラを武器に新たな挑戦を続ける代表取締役・今井渉平氏だ。前編では、FREEDiVEがどのようにして現在の事業を形作ってきたのか。そして、創業期の試行錯誤からWi-Fi事業に注力するようになった背景、そして最新のeSIM事業に挑むまでの経緯を、今井代表と初期メンバーである富塚氏の言葉から紐解いていく。主力はWi-FiとeSIM ー 成長を支える二本柱創業当初は広告やWebコンサルティングを手がけていた同社。しかし、時代の流れを先取りしながら事業をシフトし、今ではWi-FiルーターのレンタルとeSIMの販売という二本柱で着実に成長を続けている。今井代表:今では売上の大部分をこの2つの事業が支えています。お客様の約9割は個人ユーザーで、ほとんどがインターネットを通じてご利用いただいています。特にeSIM事業は昨年にスタートしたばかりですが、市場規模が非常に大きく、当社としては立ち上げ初期からシェアを確保し、ここから一気に拡大していく段階にあります。現在のグループ全体の従業員数はおよそ150名に成長しました。社名「FREEDiVE(フリーダイブ)」は、私たちが大切にする自由(Free)と多様性(Diversity)の価値を掲げ、その生き方を“深く潜る(Dive)”という姿勢で体現するーという造語です。『Free+Diversity』という価値観を、『Dive』で象徴しています。自分自身の生き方を深く掘り下げるという意味であり、ロゴには広大な海を自由に泳ぐクジラを採用しています。夢や自己実現を体現する存在として描いたものです。こうした理念を背景に、グループ会社としてマーケティング総合支援会社「株式会社BPX」も誕生しました。BPXは「Business Process Xformation」の略で、私たちがWebマーケティングを通じて学んだ「利益効率の最大化」という考えをさらに広げたものです。私たちが大切にしている行動指針のひとつに「すべての課題は要素分解すれば解決できる」という考えがあります。実際にビジネスプロセスを細かく分解し改善することで、利益率を大幅に高められるケースは多くあり、その実績が評価されて大手企業からの依頼も増えていきました。だからこそ、BPXは単なるWebマーケティング会社ではありません。ビジネス全体のプロセスを変革し、利益を最大化することを使命としています。その「X」には、変革や掛け合わせの意味を込めました。BPXという社名には、私たちの姿勢とビジネスに対する哲学が凝縮されています。ピンチから生まれた新事業の挑戦Wi-Fi事業を始める背景には、経営危機からの決断があった。広告代理店事業の不安定さを痛感した今井代表は、自らの知見を活かせる分野としてWi-Fiに挑戦することを選んだ。今井代表:当社がまだWebマーケティングを主力としていた頃、大型クライアントとの取引が突然厳しくなるという出来事がありました。このままでは資金が回らないーそんな切迫した状況の中で、「私たちにできる最大限のことは何か」と考えた結果、新しいD2Cサービスに挑戦することを決断したのです。次に考えたのは「どんなサービスを始めるか」でした。私は以前からWi-Fiルーターに関する知識を持ち、クライアントに対して戦略提案を行っていた経験もありました。その強みを活かし、市場に本格的にコミットする形でWi-Fiサービスを立ち上げることにしたのです。これが2019年のことです。しかし、事業が軌道に乗りかけた矢先、コロナ禍が直撃しました。「リモートワーク需要でWi-Fiは儲かるでしょう?」とよく言われましたが、実際には海外からの輸入が止まり、在庫がまったく入ってこない状態に陥ったのです。コロナが始まった2020年4月から5月にかけては、販売そのものができず、非常に厳しい時期が続きました。それでも私たちは立ち止まることはしませんでした。コロナが収束したとき、すぐに市場で1位を取れるように準備を進めていたのです。ピンチの最中でも、次のチャンスに向けて動き続けることを心がけました。eSIM参入 ー 顧客インサイトから見えた新しい市場新規事業としてeSIMを始めた背景には、アルバイトからキャリアをスタートし、現在は事業責任者を務める富塚氏の存在が大きかった。ユーザーの声を丁寧に拾い上げることで、通信に関する新しいニーズが浮かび上がってきたのだ。富塚氏:私はWi-Fi事業の立ち上げ期にカスタマーセンターのアルバイトとして入社し、その後、長くWi-Fi事業の成長を担当してきました。そして昨年の夏から、eSIM事業の立ち上げを任されています。参入の理由は、「これからは海外需要が伸びるから」「儲かるから」といった表面的なものではありません。当社はもともとマーケティング会社として出発していることもあり、常に「お客様の声を徹底的に聞く」という姿勢を大事にしてきました。お客様に長くサービスを使っていただくほどコミュニケーションが深まり、その結果として収益も最大化できる。eSIMも、まさに「お客様の声」がきっかけで生まれた事業です。当時はウィズコロナの時代に入り、再び海外へ出かける人が増えていました。そうした中で「海外でも使えるWi-Fiが欲しい」という声を多くいただいたのですが、実際に分析してみると、お客様が求めていたのは「Wi-Fiルーターそのもの」ではなく「海外でも快適に通信したい」というシンプルなニーズでした。「空港で受け取りに並ぶのが面倒」「返却が手間」といった声も数多く寄せられました。eSIMならスマホにプロファイルをダウンロードするだけで現地回線に接続でき、端末の受け取りや返却が不要になります。まさにお客様のニーズに直結する手段だと気づいたのです。 こうして「必ずしもモバイルWi-Fi端末である必要はないのでは?」と考え始め、たどり着いたのがeSIMでした。最近では、iPhone17シリーズから物理SIMが完全に廃止されるというニュースもあり、当社にとっても大きな転機になると考えています。また、当社の最初のWi-Fiサービス『MUGEN WiFi』も、今井が重視していた「ユーザーサーベイ」という考え方ーつまり「徹底的にお客様の声を聞く姿勢」から生まれたものです。入社以来、今井から教えられてきたその姿勢が、今回のeSIM事業への挑戦を後押ししてくれたと思っています。通信事業を軸にしながらも、お客様の声をヒントに新しい挑戦を積み重ねてきたFREEDiVE。前編で紹介したモバイルWi-FiやeSIM事業は、同社の歩みを象徴する一端にすぎない。そこには、創業時から今に至るまでの想いと決断が息づいている。後編では、FREEDiVEという社名に込められた意味や創業の経緯、同社が大切に掲げるミッション「自己実現」と「仕組み責」の考え方、そして通信を超えて描く今後の展望について、今井代表の言葉を通してさらに深く迫っていく。