インタビュイー:株式会社FREEDiVE 代表取締役 今井渉平様株式会社FREEDiVEは、通信インフラの変化を敏感にとらえ、モバイルWi-Fi事業やeSIM事業を展開する企業だ。同社の特徴は「社員一人ひとりの自己実現」を尊重する文化にある。個々の成長や挑戦を後押しすることで組織の力を高め、結果として市場での存在感を強めてきた。そんなFREEDiVEを率いるのが、音楽の世界からビジネスの世界へと飛び込み、通信というインフラを武器に新たな挑戦を続ける代表取締役・今井渉平氏だ。後編では、今井代表の人生と創業の歩みを振り返りながら、社員が自らの夢や目標を実現できる環境づくりへのこだわり、そして通信の枠を超えて挑戦し続ける未来展望について語ってもらった。音楽から経営へ。「世の中を変える手段」として選んだ道今井代表は学生時代から起業を経験し、音楽の世界からビジネスへと舵を切った。その背景には、当時の音楽業界の大きな変化と、最初の起業で味わった挫折があった。今井代表:最初の起業は大学2年のときでした。実はFREEDiVEは2度目の挑戦になります。私はもともと音楽に打ち込み、「音楽で世の中を変えたい」と本気で考えていました。精神的に苦しかった時期を音楽に救われた経験があり、その力を信じていたからです。しかし当時、音楽業界は大きな転換期を迎えていました。YouTubeなどで音楽が無料で聴けるようになり、CDを買うのが当たり前だった時代は終わろうとしていたのです。アーティストの収入源も音楽そのものからライブ中心へと移り、その象徴がAKB48でした。握手券付きCDの仕組みは、音楽よりもファンビジネスに重きが置かれていた。この変化を目の当たりにし、「このまま音楽を続けていいのか」と強く悩むようになりました。そんな折、友人が起業すると聞き、私も一緒に挑戦しました。ブランド品の買い取りなどを試みたのですが、結局は軌道に乗らず終わってしまいました。仲間がなぜ動かないのかに苛立ちながらも、自分には知識がなく反論もできない。ただ悔しさだけが残ったのです。その経験から「次こそは見返してやろう」と決意し、本気で経営を学び始めました。学ぶうちに気づいたのは、経営こそが世の中を変える大きな力を持っているということ。音楽は人の心を一瞬で動かす力があるけれど、一過性でもある。それに対して経営は、長期的に社会へ影響を与え、歴史に名を残す可能性さえあるのだと感じました。ただ、いきなり再挑戦するのではなく、まずは社会人として経験を積もうと考え、Webマーケティング会社に入社しました。Webは常に新しいトレンドが生まれ、商品が売れる最前線を学べる場だったからです。しかし現場では、お客様のためにならない商品を無理に売り、広告費を消化するだけの提案が横行していました。私は疑問を感じ、自分なりにコンサル戦略を作って提案しましたが、上司からは「勝手なことをするな」「営業は売れと言われたものを売ればいい」と叱責されました。納得できずに反論した結果、中国の部署に飛ばされ、最終的には退職を決意しました。そこから「ならば自分でやるしかない」と腹をくくり、再び起業に踏み切りました。知識もマネジメント経験もなく、頼れたのは営業の力だけ。それでもゼロからお客様を開拓し、キャッシュを生み出すことに集中しました。正直、格好いいきっかけではありませんが、それが私の原点です。ミッション「自己実現」を軸にー仕組み責という考え方FREEDiVEの経営の中心にあるのが「自己実現」というキーワードだ。単なるスローガンではなく、ミッションや社員の働き方、そして文化そのものに深く浸透している。富塚氏:経営理念の中にも「自己実現」という言葉があります。これはマズローの5段階欲求に由来しているのですが、私がアルバイトとして入社したときに驚いたのは、その実践の仕方でした。よくある「夢を目指せ」「自分で目標を立てろ」と突き放すものではなく、むしろ挑戦を後押ししてくれる環境だったのです。一般的な会社では「営業だから商品を売れ」と役割を固定されることも多いと思います。でもFREEDiVEでは、成果を出すための道筋を自分で考えてつくることができます。例えば、当初はWi-Fi事業が中心でしたが、「eSIMに挑戦したい」と自ら手を挙げて提案できる。その自由さがあります。もちろん、挑戦すればうまくいかないこともありますし、自分の限界や不得意に直面して苦しむこともある。でも、そうした経験も受け入れてくれる環境があるからこそ、なりたい自分に近づいていけるのだと思います。以前は「やるね制度」という新規事業や改善提案の仕組みがありました。ところが今では制度が不要になりました。なぜなら文化として根付いたからです。社員が自然に「これに挑戦したい」「こうすればもっと良くなる」と提案し、自発的に動き出すようになったのです。今井代表:私が「自己実現」を掲げるようになった背景には、日本社会を元気にしたいという想いがあります。給料が30年間上がらず、新しい挑戦も生まれにくい。その一因は、人が挑戦できない環境にあると考えています。努力しても評価されず、稟議には何十もの印鑑が必要で、挑戦する前に潰されてしまう。結果として優秀な人材が海外へ流れていくのです。本来、人は挑戦し、評価され、成果を得ることでさらに挑戦する。そのサイクルを繰り返すことで成長していくはずです。FREEDiVEは、その仕組みを実際に試している会社だと思っています。挑戦を許容し、自己実現の機会を与える。そうやって文化そのものを変えていきたいのです。その考えを支えているのが「仕組み責」という発想です。人ではなく仕組みに責任を持つという考え方です。例えば、オフィスに100万円の花瓶を机の端に置いたとしましょう。それを新人が割ってしまったら、普通は「注意不足だ」と叱りますよね。でも本当の問題は「そんな場所に置いた仕組み」にある。営業成績が出ないのも「人が悪い」のではなく、契約の仕組みや商品設計に原因があると考えるべきです。仕組みの問題であれば、必ず改善策が見つかります。これこそがFREEDiVEの文化であり、成長を支える土台になっています。日本を元気にー未来に描く事業のかたちFREEDiVEは、これまでWi-FiやeSIMといった通信事業を軸に成長してきた。だが、その先には、さらに広がりのある未来像を描いている。富塚氏:私たちの会社は、もともと「通信だけをやる」と決めて始まったわけではありません。だからこそ、通信を軸にしながらも多角的に事業を展開していきたいと考えています。通信は生活の基盤であり、顧客の声や需要の変化を最もダイレクトに捉えられる分野です。そこからeSIMのような新しいサービスも生まれましたし、今後はインバウンド需要に応える展開も広がっていくと思います。当社には「カスタマーサイエンス部」という部署があります。いわゆるカスタマーサポートやカスタマーサクセスではなく、顧客の声を“科学”し、データをもとに新しい事業を生み出す組織です。だから将来は、通信以外のまったく別の分野が主力になる可能性もある。事業がどんな方向に広がっていくのか、私自身も楽しみにしています。今井代表:私たちは創業以来、「Webを通じてどう商品を売るか」を徹底的に追求してきました。今も常に「インターネットを通じて、どう商品を世の中に届けるか」を考えています。そうした流れの中で掲げているテーマが「日本を元気にする」です。例えば「10兆円企業を目指す」とよく言いますが、それを実現するには、日本国内だけでは限界があります。外貨を稼ぎ、日本の商品を世界に広げていくことが不可欠なのです。現在はWi-Fiルーターを中心に販売していますが、今後はさらに幅広い商品を世界中に届けられるようにしていきたい。それが私の描いている未来です。成長のために人材も増やしていきますが、私たちのビジネスは「人数が増えればそのまま利益が増える」というモデルではありません。大事なのは「どんなサービスやプロダクトを生み出せるか」であり、その事業に必要な人材が自然に集まってくるのが理想的だと考えています。求める人物像については、新しい事業に挑戦したい人、自分の発想を生かして積極的にトライしていける人が望ましいと思います。というより、私自身がそういう人とぜひ一緒に働きたいと考えています。インタビュー後記今井代表の歩みから感じられるのは、音楽の夢に挑んだ日々も、仲間と衝突し悔しさを味わった経験も、すべてが「自己実現」という信念につながっているということだ。起業を選んだのは、音楽以上に社会を変えられると確信したから。挫折を力に変え、挑戦を文化にまで育てあげてきた。「仕組み責」という考え方や、社員が自発的に挑戦する環境は、個人の成長だけでなく、日本社会を元気にするための実験場でもある。事業は通信から始まったが、その先に広がる可能性は無限だ。10兆円企業を目指し、世界へ挑戦する。日本を再び成長軌道に乗せる。その大きなビジョンは、単なる企業の夢ではなく、社会全体を巻き込む挑戦に他ならない。自己実現の文化を武器に、日本を元気にする。FREEDiVEの挑戦は、これからの時代に必要な価値観を提示している。