インタビュイー:株式会社ファンダム! 代表取締役会長 保手濱 彰人様世界に誇る日本の文化である漫画。多くの場合、それは「娯楽」として語られる。しかし、その背後にある歴史的価値や、人生観を揺さぶる体験文化としての可能性に着目しているのが、株式会社ファンダム! 代表取締役会長 保手濱彰人氏である。同社は「人々に生きる希望を与えていく」という理念を掲げており、保手濱氏は、漫画の素晴らしさを国内外に伝えることを軸に活動を行っている。保手濱氏は高校時代、不登校寸前で、成績は学年最下位を取ることもあった。そこから東京大学に現役合格するという、大きな転機を生んだきっかけが漫画だった。大学在学中に起業した会社では、ソーシャルゲーム事業で3億円もの借金を抱える挫折も経験したが、その過程で「本当に自分が熱中できるもの」を、事業の軸に据える決意を固める。そこで彼が再び向き合ったのが、かつて自分を救った漫画であった。本編では、株式会社ファンダム!代表取締役会長 保手濱彰人氏に、同氏の原点や、3億円の借金という挫折を経ても再度の起業に至った経緯、漫画を通して読み解く価値観の構造について、お話を伺った。漫画に救われた体験が事業になった。株式会社ファンダム!の原点はじめに、株式会社ファンダム!の事業内容とその原点となった保手濱氏の高校時代の体験について、お話を伺った。保手濱代表:株式会社ファンダムは、「人々に生きる希望を与えていく」という理念を掲げ、漫画の素晴らしさを国内外に伝えることを基軸に事業を展開しています。具体的には、キャラクター商品をアート商材として製造・販売する事業や、アニメを題材にした展示会の企画・運営などを行っています。そこから派生して、直近では各種の企業より、漫画からの学びを体系化した研修プログラムを提供して欲しいという依頼も受け付けていますが、このように漫画をただ娯楽として消費する対象にとどめるのではなく、アートや学びの源泉として活用し、人生や組織を変える思考ツールとして再定義することが、私個人の人生の基軸になっています。この事業は、私自身が漫画によって人生を救われた経験から始まりました。高校時代の私は、いわゆる優等生とは真逆の存在でした。年間200日遅刻し、成績も学年最下位を取ることがありました。このまま社会から脱落するのではないかという不安を抱えながらも、何をどう努力すればよいのか分からない状態でした。社会の価値観にも学校のルールにも適応できず、自分は社会不適合者なのだと本気で思っていました。そんな私でも、唯一続けていたことは漫画を読むことでした。現在でも月に100冊以上読んでいますが、当時もそれだけはやめませんでした。転機となったのは『寄生獣』という作品です。主人公が最強の敵を前に絶望する場面があります。そのとき彼は、恩人のおばあさんから言われた「どんなことがあろうと決してあきらめず臨機応変にね」という言葉を思い出します。周囲を見渡し、わずかな可能性を見つけた主人公は、「ほとんど可能性はゼロに近いじゃないか! …でもやらなけりゃ…確実なゼロだ!!」と言って戦いに挑みます。その言葉が、私の胸に猛烈に響きました。何もせずにこのまま堕落するなら、挑戦するしかない。確率は低くても、0.01%でも可能性があるなら挑戦する意味があると腹を決め、東京大学を志望しました。さらに、「臨機応変に」という言葉をきっかけに状況を冷静に見直しました。その結果、自分が最も得意で好きな漫画を勉強に活用すればよいのではないかという発想に至り、漫画を活かした独自の勉強方法を考えました。すると成績はみるみる伸びていき、最終的に、東京大学に合格することができたのです。漫画から学びを得て、人生に応用し、私自身が救われた経験こそが、現在のファンダム!の事業へとつながっています。3億円の借金という挫折の末にたどり着いた、本当に熱中できる存在保手濱氏は東京大学在学中に起業したものの、事業は傾き、3億円の借金を抱えることとなった。しかしその挫折の過程で自らと向き合い、本当に熱中できるものを問い直した先にあったのは、かつて自分を救った漫画であった。保手濱代表:私は2005年に、東京大学在学中に起業した後、20代の後半ではソーシャルゲーム事業に取り組みました。当時のIT業界は参入障壁が比較的低く、成長市場であり、収益性も高いと考えられていたため、正直に言えば「儲かりそうだ」という視点だけで選んでいました。今からすると、非常に短絡的で、情熱もビジョンも無いような選択をしただけといえます。しかし、現実は甘くありません。当時のゲーム業界には、優秀な人材が数多く集まっており、同じ土俵で勝ち切ることができませんでした。結果として、20代の終盤には借金が3億円にまで膨らみました。70人いた社員は全員離れ、会社は組織崩壊。30歳のとき、手元に残ったのは3億円の借金だけでした。しかし、その中で得たものもありました。それは、「自分が本当に向いていることは何か」を探求する機会でした。他の人と同じことをしても勝てないことを痛感し、「自分は何が向いているのか」「何なら本気で語れるのか」「何に自然と没頭できるのか」を徹底的に追求しました。そこで思い出したのが、漫画でした。高校時代、学年最下位だった私が東大に合格できたのは、漫画を使って学び直したからでした。私の人生は、漫画に救われたと言っても過言ではありません。漫画に関しては誰よりも情熱を持って語れるし、打ち込めると確信していました。漫画ビジネスは参入障壁が高いと言われています。しかし私は、本気で愛し、深く理解している分野であれば、壁は越えられると信じていました。自分の人生を救ってくれた漫画の可能性を真剣に語り続けた結果、その想いに共鳴してくださる投資家の方々と出会うことができました。資金調達を実現し、既存企業の買収という形で業界に参入し、事業を本格的に展開していきました。こうして、株式会社ファンダム!は誕生しました。漫画が教えてくれる価値観の構造と企業研修への応用人はなぜ分かり合えないのか。その答えを保手濱氏は漫画の中に見出した。価値観の違いを可視化することで、人間関係や組織の課題を解決できると語る。保手濱代表:私は2年ほど前、『武器としての漫画思考』という本を出版しました。漫画思考とは、漫画を通して今抱えている課題を、右脳(ビジュアル)と左脳(ロジカル)の両方を使いながら解決していく考え方です。漫画を読み解くことで「実感を伴った学び」を得て、自分自身の成長や周囲との関係をより良くしていくための視点をまとめました。現在は、この漫画思考をもとに、自分自身や上司・部下との関係をどのように改善していくかを体験的に理解してもらう企業研修に力を入れています。理論の一つに、「人はなぜ苦しむのか」という問いがあります。多くの場合、人は自分と周囲との価値観の違いによって苦しみます。しかし、その理由が分からないまま悩み続けてしまうことが少なくありません。人はそれぞれ、自分の価値観を前提に世界を見ています。しかし、その前提は人によって異なります。その違いを理解しないまま相手と向き合うと、「なぜ分かってくれないのか」「なぜそんな行動をするのか」という不満や対立が生まれます。漫画は、その価値観の違いを非常に分かりやすく描いてくれます。たとえば『進撃の巨人』という作品があります。登場人物たちは「仲間に幸せになってほしい」という根本の想いは同じですが、そのための手段や優先順位に対する価値観が異なるために対立が生まれます。ある人物は仲間を守ることを最優先に考えます。一方で、別の人物はより大きな視点で人類全体の未来を考えます。根本の思想は同じでも、その一つ上のレイヤーにある価値観が違うために衝突が起きるのです。この構造を物語として追体験すると、「価値観が違うだけなのか」と理解できるようになります。社会が当然だとして押し付けてくる価値観と自分の価値観の違いを理解できるようになると、「この人はこういう価値観で動いているのだな。では自分はどう対応すればよいのか」と考えられるようになります。そうすると、多くの悩みは悩みではなくなります。この視点は、企業の現場でも非常に重要です。現在、多くの企業では昭和世代とZ世代の価値観の違いが課題になっています。その狭間に立つミドルマネージャーにとって、世代間の価値観のギャップは大きな悩みです。そのため、企業研修として最もニーズが高いのが、Z世代マネジメントをテーマにしたミドルマネージャー向けの研修です。研修では、漫画を題材に登場人物の価値観を読み解きながら議論することで、それぞれの世代にどのように接すればよいのかを学ぶことができます。そして重要なのは、対話の姿勢です。価値観が違うと、人はどうしても自分の考えを押し付けてしまいがちです。しかし対話が成立しない理由の多くは、相手の価値観を理解しようとしないことにあります。一度こちらが相手の価値観を理解し、受け入れる姿勢を示すと、相手もこちらの価値観を受け入れやすくなります。そうすると対話が成立し、関係性が大きく変わります。漫画は、価値観の違いを安全に疑似体験できる優れた教材です。登場人物の立場や価値観を読み解きながら議論することで、人間の思考構造を自然に理解できるようになります。そうしたプロセスを通じて、世代間のギャップを乗り越えるコミュニケーションの方法を学んでいく。それが私たちが提供している研修の特徴です。前編では、株式会社ファンダム!の原点や3億円の借金という挫折を経て起業に至った経緯、漫画を通して読み解く価値観の構造について、お話を伺った。後編では、漫画から学ぶ「意味づけ」の力や漫画の歴史的価値、今後の展望ついて、お話を伺っていく。保手濱 彰人/1984年生まれ。教科書・参考書をほぼ読まず、漫画を読むだけで東京大学理科一類に現役合格。在学中に経済産業省後援のビジネスコンテストで優勝し、起業(大学中退)。「ガイアの夜明け」で1時間特集され、一躍有名となるも、30歳を目前に組織崩壊、社員が全員辞職し借金3億円を抱える。そこから「漫画」を切り口に、2014年に創業したダブルエル(現ファンダム!)社は、わずか5年で年商30億円を達成。『鬼滅の刃』『チェンソーマン』『東京卍リベンジャーズ』などヒット作の版権ビジネスで、急拡大を実現し、日本のポップカルチャー・コンテンツの国際展開を図ることに注力。お土産×キャラクターという切り口で話題となった「ご当地鬼滅の刃」シリーズは、年間700万個を売り上げた。現在は「漫画人類学者」としても活躍中。漫画から学べる、個人個人の人生や、人類社会を良くしていくための各種理論を、生涯をかけて探究・発信し、世界をより良い方向に導くことに身を捧げることを誓っている。【会社概要】会社名株式会社ファンダム!代表取締役会長保手濱 彰人事業内容キャラクターを含むIP(著作物)を使用した次の事業。1)アート商材(複製原画)の製造及び販売2)イベントの企画・運営・グッズの製造及び販売3)オンラインくじの企画・運営・グッズの製造及び販売4)ECサイトの企画・運営。所在地東京本社 東京都中央区日本橋小伝馬町7番2号 古賀オールビル4階サイトURLhttps://fundom.jp/