インタビュイー:株式会社ファンダム! 代表取締役会長 保手濱 彰人様世界に誇る日本の文化である漫画。多くの場合、それは「娯楽」として語られる。しかし、その背後にある歴史的価値や、人生観を揺さぶる体験文化としての可能性に着目しているのが、株式会社ファンダム! 代表取締役会長 保手濱彰人氏である。同社は「人々に生きる希望を与えていく」という理念を掲げており、保手濱氏は、漫画の素晴らしさを国内外に伝えることを軸に活動を行っている。保手濱氏は高校時代、不登校寸前で、成績は学年最下位を取ることもあった。そこから東京大学に現役合格するという、大きな転機を生んだきっかけが漫画だった。大学在学中に起業した会社では、ソーシャルゲーム事業で3億円もの借金を抱える挫折も経験したが、その過程で「本当に自分が熱中できるもの」を、事業の軸に据える決意を固める。そこで彼が再び向き合ったのが、かつて自分を救った漫画であった。本編では、株式会社ファンダム! 代表取締役会長 保手濱彰人氏に、漫画から学ぶ「意味づけ」の力や漫画の歴史的価値、今後の展望ついて、お話を伺った。漫画から学ぶ「意味づけ」の力──セルフコアを拡大し、個人と組織の成長をつなぐ困難な出来事も、意味づけが変われば成長の契機となる。保手濱氏は漫画の物語構造から「セルフコア」という考え方を導き出し、人生や組織の在り方を読み解く思考として提示している。保手濱代表:漫画思考の他の理論として、「意味づけ」という考え方があります。人が悩み続けてしまうのは、その問題に意味づけができていないからです。なぜこの問題が起きたのか、そこから自分は何を学べばよいのかが意味づけできないと、人は苦しみ続けてしまいます。漫画は、この意味づけを学ぶための非常に優れた教材です。優れた物語では、すべての出来事に意味があります。どんな困難や挫折も、物語全体の中で必ず役割を持っています。その構造を理解すると、自分の人生も漫画のように捉え直すことができます。自分の人生に起きている出来事に「この出来事にはこういう役割がある」と意味づけができるようになると、悩みは大きく減っていきます。この意味づけの考え方の一つに、「セルフコア」という概念があります。セルフコアとは、自分がどのような価値観を大切にし、どのような意味をもって生きていくのかを定める、人生の中心となる信念である。このセルフコアが明確になると、自分の行動や判断の軸が定まります。この考え方を説明するときに、私はよくJリーグのユース年代を題材にしたサッカー漫画『アオアシ』を例に挙げます。作中には、チームの圧倒的エースである栗林と、その二番手の桐木という選手が登場します。同世代のトッププレーヤーの一人でもある、桐木はエゴが強く、トップレベルのプレーを続けることで自分自身の成長を追求しながら試合に臨みます。そのため、ついてこられない周囲の選手を切り捨てるようなプレーをしてしまい、チームの歯車がうまくかみ合いません。それを咎めた栗林に対して、桐木は「お前なら俺の気持ちがわかるだろ。誰よりも」と問いかけます。しかしNo.1の栗林は、「わからない。俺は自分も勝つし、チームも勝たせてきたからな」と答えます。桐木はそれまで、自分が活躍することとチームが勝つことは両立しないものだと考えていました。しかし栗林の言葉によって、「両方を求めていい」という視点を得ます。その結果、桐木のエゴは否定されるのではなく、より大きな形へと拡張されていきます。自分が一番活躍しながら、周囲を生かしてチームも勝たせるという、新しい意味づけを見つけることができたのです。自分のこれまでのエゴを否定するのではなく、より大きな形に拡張することで、自分の役割を再定義できたということです。企業でも同じことが言えます。多くの人は、「個人の成長」と「組織の成長」は対立するものだと考えがちです。しかし本来は、両方を同時に追求することができます。自分のセルフコアの範囲を広げ、その価値観を組織の目的と接続することができれば、個人の成長はそのまま組織の成長にもつながります。意味づけが変わると、同じ仕事でも見える景色が変わります。困難だった出来事も、成長のための出来事として捉えられるようになります。私は、漫画には人の人生の物語を読み解く力があると考えています。そしてその力は、個人の成長だけでなく、組織の成長にもつながっていくと信じています。漫画文化を読み解く──歴史的視点から見た「漫画人類学」漫画は単なる娯楽ではない。鳥獣戯画に始まり、戦後の復興を支え、現代のアニメへと続く日本独自の表現文化である。保手濱氏はその歴史的背景を「漫画人類学」という視点から読み解こうとしている。保手濱代表:漫画の成り立ちを振り返ると、実は戦後の日本の状況と深く関係しています。戦後の日本は本当に何もない状態でした。ただ、紙とペンだけはありました。そのような状況の中で、子どもたちを中心に、みんなが絵を描き、文字を書き、漫画を描いて回し読みするような文化が自然と生まれていきました。まさに「一億総クリエイター」とも言える状況だったと思います。そうした土壌の上で、日本では漫画文化が発展していきました。やがて有名雑誌から数多くの名作が生まれ、世界に誇るコンテンツが次々と生み出されていきました。つまり漫画は、最初から単なる娯楽として生まれたわけではありません。絶望的な状況の中で、人々が絵や物語を通して表現し、勇気をもらい立ち上がるためのツールでもあったのです。戦後の復興の中で、漫画は人々に希望を与える文化として育ってきました。ところが現在では、漫画は「ゴロゴロしながら読む娯楽」というイメージで語られることも少なくありません。本来持っている文化的な意味や歴史が、あまり知られていないと感じています。私はこの背景をきちんと伝えていきたいと思っています。そのために取り組んでいるのが、「漫画人類学」という考え方です。漫画には、その時代の価値観や社会構造、人間の生き方が凝縮されています。漫画を読み解くことで、人間や社会の構造を理解することができます。つまり漫画は、人間文化を研究するための重要な資料でもあるのです。実はこの背景は、さらに日本の歴史ともつながっています。日本は世界でも珍しいほど長く続く文化を持つ国です。神武天皇から続く王朝は約2600年と言われています。他の国では王朝が変わるたびに文化が断絶することが多いのですが、日本では文化が連続して積み重なってきました。その文化の流れの中には、仏教の伝来によって広がった巻物文化があります。巻物には絵と物語が描かれ、それを横にスクロールして読むことで物語を追体験しました。『鳥獣戯画』などは、アニメーションの原点とも言われています。横にスクロールして物語を読むという表現は、ある意味でアニメーションの原型とも言えます。このように、日本では二千年近くにわたって物語と絵の文化が発展してきました。その延長線上に、現代の漫画やアニメがあります。この歴史的な背景を理解すると、なぜ日本からこれほど多くの漫画やアニメが生まれているのかが見えてきます。漫画やアニメは、偶然生まれた文化ではありません。長い歴史の中で培われてきた、日本の文化的土壌の上に成立しているのです。だからこそ私は、この文化をきちんと理解し、語り、次の世代に伝えていく必要があると考えています。そして将来的には、この考え方を「漫画人類学」という学問として広げていきたいと思っています。漫画を娯楽から体験文化へ──世界に広げる日本発コンテンツの新しい価値最後に、今後の展望についてお話を伺った。保手濱代表:私は、漫画やアニメを単なる大衆娯楽のままで終わらせたくないと考えています。漫画やアニメは、日本ならではの文化であり、世界に誇れるコンテンツです。物語を通して価値観や人生観を疑似体験することができ、人や組織の成長にもつながります。そうした視点が広がっていけば、世の中はもっと良くなると私は思っています。そのため、この文化を日本だけでなく世界中に広げていきたいと考えています。私が取り組もうとしているのは、漫画やアニメを「一般的な娯楽」という位置づけから、「体験文化」や「アート」として捉え直すことです。つまり、大衆娯楽というレイヤーから、文化や芸術としてのレイヤーへと引き上げることです。その試みの一つとして、先日、オーストリアのウィーンで開催される舞踏会へと、日本のアニメを出展するというプロジェクトを行い、文化功労賞を頂戴することができました。ウィーンのホーフブルク王宮では、ハプスブルク家の時代から続く世界最古の舞踏会が毎年開催されています。二百年以上続く歴史を持つその舞踏会の会場で、日本のアニメを文化として紹介する展示を行ったという次第です。この企画は「ウィーン・アニメマス・カレード(VAM)」という名前で実施しましたが、大好評を博したので、今後はこれを毎年続け、アニメ版のカンヌ国際映画祭のような規模の文化イベントへと育てていきたいと考えています。私は、漫画やアニメを単に見て「面白かった」で終わるのではなく、そこから何を学び、何を感じ、それをどのように語り合うのかが重要だと思っています。そのような視点を持つことで、作品は消費されるコンテンツから、文化的体験へと変わっていきます。VAMのコンセプトは、「アニメにドレスコードを」という言葉です。ここでいうドレスコードとは、服装のことそのものでははく、作品を見て何を感じ、何を学んだのかを語り合う準備のことです。作品について語り合える仲間と一緒に鑑賞し、その後に感想を語り合うと、体験はまったく違うものになります。私は、漫画やアニメを「消費するもの」ではなく「体験するもの」として世界に広げていきたいと思っています。漫画やアニメを通して人々が価値観を深め、対話し、新しい視点を得る。そのような文化をつくることが、私のこれからの挑戦です。インタビュー後記今回は、株式会社ファンダム! 代表取締役会長 保手濱彰人氏にお話を伺いました。漫画を「娯楽」として消費するだけではなく、人の価値観や生き方を考える「体験文化」として捉える視点がとても印象的でした。漫画の物語構造を通して人間関係や組織の課題を読み解き、対話を生み出していくという発想には、日本文化の新たな可能性を感じました。漫画を通じて社会の“当たり前”を見つめ直し、人や組織の成長につなげていく取り組みの意義を学ばせていただきました。保手濱 彰人/1984年生まれ。教科書・参考書をほぼ読まず、漫画を読むだけで東京大学理科一類に現役合格。在学中に経済産業省後援のビジネスコンテストで優勝し、起業(大学中退)。「ガイアの夜明け」で1時間特集され、一躍有名となるも、30歳を目前に組織崩壊、社員が全員辞職し借金3億円を抱える。そこから「漫画」を切り口に、2014年に創業したダブルエル(現ファンダム!)社は、わずか5年で年商30億円を達成。『鬼滅の刃』『チェンソーマン』『東京卍リベンジャーズ』などヒット作の版権ビジネスで、急拡大を実現し、日本のポップカルチャー・コンテンツの国際展開を図ることに注力。お土産×キャラクターという切り口で話題となった「ご当地鬼滅の刃」シリーズは、年間700万個を売り上げた。現在は「漫画人類学者」としても活躍中。漫画から学べる、個人個人の人生や、人類社会を良くしていくための各種理論を、生涯をかけて探究・発信し、世界をより良い方向に導くことに身を捧げることを誓っている。【会社概要】会社名株式会社ファンダム!代表取締役会長保手濱 彰人事業内容キャラクターを含むIP(著作物)を使用した次の事業。1)アート商材(複製原画)の製造及び販売2)イベントの企画・運営・グッズの製造及び販売3)オンラインくじの企画・運営・グッズの製造及び販売4)ECサイトの企画・運営。所在地東京本社 東京都中央区日本橋小伝馬町7番2号 古賀オールビル4階サイトURLhttps://fundom.jp/