インタビューイー:株式会社丸山製麺 取締役 丸山晃司様1958年に創業された製麺所で、ラーメン店や社員食堂をはじめとする食品関連事業者向けにオーダーメイドで麺を製造している株式会社丸山製麺。1日に約4万食を製造し売上も順調に推移していたが、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言による外食産業の営業自粛を受け、売上は8割減にまで低迷をした。創業以来の危機を乗り越えるため、新たな一手として自宅で全国の有名なラーメン店の味を楽しむことができる冷凍ラーメン自販機「ヌードルツアーズ」を立ち上げた。丸山製麺の事業内容や新規事業立ち上げの経緯とその舞台裏について伺った前編に引き続き、後編では、「ヌードルツアーズ」のヒット要因や、丸山氏の経験を踏まえた新規事業を成功させるためのポイントを聞いた。 新規事業「ヌードルツアーズ」について新規事業への挑戦を続けていく中で、全国の有名ラーメンを24時間購入できる冷凍自販機「ヌードルツアーズ」を2021年3月にリリースした。現在では、200台以上が日本全国に設置され、販売数は50万食以上を突破している。「ヌードルツアーズ」の立ち上げ経緯や成功の要因を伺った。丸山氏:偶然、冷凍自販機のサービスに出会ったことが「ヌードルツアーズ」を立ち上げたきっかけです。当初から冷凍自販機によるラーメンの販売を狙っていたわけではなく、たくさん新規事業を立ち上げている中の一つだったんです。自動販売機であれば、無人で運営できるため人件費がかからず、また、競合他社がまだ参入していない新しい市場だったので、まずは自動販売機を一台導入してみることにしました。現在はアウトバウンドの営業も行っていますが、事業立ち上げから最初の2年間はすべて「自販機に冷凍ラーメンを入れてほしいです」というインバウンドのお問い合わせからラーメン店との提携が実現していました。現在、ありがたいことに提携店舗様は30店舗以上にまで拡大をしております。ヌードルツアーズがヒットした理由を振り返ると、新型コロナウイルスの流行という外部要因が大きかったと思います。飲食店の営業が制限されていたため、ラーメン店にとって販売先を広げられる数少ない機会であり、メディアにとっても飲食店への取材ができなかったため、「ヌードルツアーズ」に自然と注目が集まるようになりました。当時はご依頼いただいたメディアに月30本ほどのペースで出演していたため、出演したメディア経由で新しいラーメン店からのお問い合わせやPRの機会を獲得できました。現在は新規事業からの売上が2割ほどを占めるようになっています。ただ正直なところ製麺の卸売業の方が粗利率は良いんですよね。そのため今は、新規事業の「ヌードルツアーズ」でラーメン店のリードを獲得し、そこから製麺の卸売り先としての関係構築に繋げていくことを重点的に行い、既存事業と新規事業のバランスを取っていますね。新規事業の打率は1割だからこそ、まずは打席に立つ今後は、「冷凍ラーメン自販機」というブランドを拡張して、「冷凍ラーメンブランド」として中小企業内売上業界トップを中期的なゴールとして目指す丸山製麺。オンラインクレーンゲームの景品として丸山製麺の冷凍ラーメンを導入するなど、幅広い領域の企業とのアライアンスを画策している。丸山氏に新規事業を成功させるためのポイントを伺った。丸山氏:そもそも、上手くいくかはやってみなければ分からないので、深く考える前にやってみればいいという前提があります。絶対に成功するプランが思い浮かぶまで待っていても、結局、何も挑戦しないまま終わってしまいます。当社では、他社からお問い合わせやアライアンスの提案などをいただいた際、「メリットに繋がるのか分からない」「面倒くさい」といった理由で断るのではなく、「とりあえずやってみましょう」と全部お受けしています。振り返れば、小さい企画も含めると、この数年で100個は新しい取り組みに挑戦していますね。このようにスモールトライアルの数が多いからこそ新規事業の成功率が1割でも、上手くいく事業が当社で誕生しているんだと思います。「新規事業」というワードは大きく捉えられがちですが、いわゆる起死回生の一発みたいにハードルが高いものだけではなく、「今まで取り組んでいなかったことに取り組んでみる」という小さなことも含んでいるのではないでしょうか。もし、その取り組み自体が売上を生み出すものではなかったとしても、その新しい取り組みから会社自体が注目されて、「あの会社と一緒に新しいことに取り組みたい」といった更なる新規事業の種が生まれるのではと思います。最後に、新規事業を始めるための教訓として「マーケットを見極めること、まず打席に立ち挑戦すること」とメッセージをいただいた。丸山氏:新規事業を企画する際、当社では「日本一もしくは国内初になれる領域」にしか挑戦しないと決めているんですよ。我々のような中小企業が勝ち残るにはいわゆるニッチだけどシェア1位みたいなビジネスで売上を積み重ねるしかないですし、実際にそのようなチャンスがあれば必ず挑戦するようにしています。あとは成長マーケットかどうかの見極めも重要ですね。たとえばオンラインクレーンゲームのような「無人化」「省人化」といった人手不足を背景に成長している市場があります。冷凍技術と無人化、省人化の動きは相性がいいので、当社も重要なマーケットとして捉え、今ではオンラインクレーンゲームの景品として「ヌードルツアーズ」を展開しています。そして、繰り返しにはなりますが、新規事業の打率は1割程度です。1割だからこそ、少なくとも10個の新規事業に挑戦しないと当たりは出ません。マーケットの見極めは重要ですが、まずは打率10割なんて目指さずに迷ったらとりあえず挑戦してみるという姿勢が大切ですね。インタビュー後記丸山氏の実体験から新規事業の成功に「小さな挑戦」がいかに大事かひしひしと伝わってきたインタビューでした。また、成長市場で勝利を掴むために貪欲にチャンスを探し続ける姿勢が特に印象的でした。「市場選定×挑戦数」という丸山製麺の新規事業戦略から、ヌードルツアーズをはじめとする魅力的な新サービスがどのように生まれるか、今後の取り組みに対する期待が高まります。