インタビュイー:GeNiE株式会社 代表取締役社長 齊藤 雄一郎様GeNiE株式会社は、アコム株式会社の100%子会社として設立された金融テクノロジー企業である。提携企業のアプリやWebサービスに金融機能を組み込む「マネーのランプ」を展開し、必要なタイミングで必要な金融サービスへアクセスできる環境づくりに取り組んでいる。独自の与信モデルと金融基盤を強みに、金融をより身近な存在へ変える挑戦を続けている。代表取締役社長を務める齊藤雄一郎氏は、新卒でアコム株式会社へ入社後、現場業務から本部業務まで幅広く経験してきた。業界の大きな転換期も最前線で経験しながら、金融の本質や経営の意思決定を学び続けてきた人物である。GeNiE株式会社では、「誰よりも人々を信用する」というパーパスを掲げ、90年間受け継がれてきた「人を信じる」という思想を、現代の金融へとつなげようとしている。前編では、GeNiE株式会社が挑む新しい金融の形や、齊藤代表のキャリアの原点、アコム株式会社から受け継がれてきた「信用」の哲学について、お話を伺った。日常サービスに金融を組み込む。GeNiEが挑むエンベデッド・ファイナンスGeNiE株式会社は、人々が日常的に利用するサービスの中へ金融機能を組み込み、新しい金融体験の創出に挑んでいる。齊藤代表:GeNiEが取り組んでいるのは、「エンベデッド・ファイナンス」と呼ばれる領域です。簡単に言えば、金融機能を日常サービスの中へ組み込む仕組みです。たとえば、提携先のアプリやWebサービスとAPIで接続し、そのサービスの中でローン機能を利用できるようにする。ユーザーは新たに金融サービスを探す必要がなく、普段利用しているサービスの中で必要な支援を受けられるようになります。従来の消費者金融は、お金が必要になったときに、自分で金融サービスを検索して申し込みを行うものでした。しかし、金融機関の名前を検索すること自体に抵抗を感じる方も少なくありません。だからこそ私は、「金融サービスそのもの」だけではなく、「金融サービスの届け方」を変える必要があると考えるようになりました。私たちが目指しているのは、金融サービスそのものを前面に出すことではありません。むしろ、パートナー企業のサービス価値を高める「黒子」のような存在でありたいと考えています。実際にGeNiEでは、さまざまな企業と連携し、それぞれのサービスに合わせた金融機能を提供しています。一口に導入といっても、その形はさまざまです。既存サービスへ機能を組み込むケースもあれば、サービス設計の段階から共同で構築していくケースもあります。パートナー企業ごとにユーザー層やサービス体験は異なるため、それぞれに最適な形で金融機能を実装できることが特徴です。また、GeNiEでは、提携先企業が保有するデータも活用しながら、新しい与信モデルの構築にも取り組んでいます。従来の金融では、年収や勤続年数、勤務先といった属性情報を中心に審査が行われてきました。しかし現在は、サービスの利用状況や継続利用実績など、さまざまなデータを活用できる時代になっています。私たちは、提携先企業が持つデータを活用することで、その人をより多面的に理解し、一人ひとりに合わせた与信のあり方を模索しています。従来の画一的な審査だけでは見えなかった可能性にも目を向けながら、新しい金融サービスの実現に挑戦しています。ティッシュ配りから新規事業立ち上げへ。GeNiE誕生までの軌跡駅前でのティッシュ配りから始まった齊藤代表のキャリア。現場経験と業界の転換期を乗り越えた経験が、後のGeNiE創業へとつながっていく。齊藤代表:私は2005年に新卒でアコム株式会社へ入社しました。いまでこそ経営に携わっていますが、当時は現場の最前線からのスタートでした。駅前でティッシュ配りをしたり、お客さま対応をしたり、本当に地道な仕事の連続でした。ただ、その経験を通じて、金融という仕事は数字だけではなく、人と向き合う仕事なのだと学びました。お客さま一人ひとりに事情があり、不安があり、それぞれの人生があります。現場で得た経験は、いまでも自分の原点になっています。その後、異動した経営企画部で経験したのが、消費者金融業界にとって大きな転換期だった「冬の時代」です。法改正によって市場環境が大きく変化し、多くの企業が事業モデルの見直しを迫られていました。当時の私は役員会の議事録を担当していたのですが、経営陣が日々どのような議論を行っているのかを間近で見ることができました。その中で印象的だったのは、徹底したコスト削減の議論です。厳しい環境だからこそ、「本当に必要なものは何か」「何を残し、何を捨てるのか」を突き詰めて考えなければならない。その意思決定のプロセスを見続けたことは、自分にとって大きな学びになりました。経営とは単に数字を管理することではなく、環境変化の中で事業の本質を見極めることなのだと、その時期に学んだように思います。その後、新規事業の検討に携わる中で、現在のGeNiEにつながる構想を考えるようになりました。当時から私は、「金融を日常サービスの中へ組み込むことができないか」と考えていました。人々が普段利用しているサービスの中で自然に金融機能を利用できれば、従来の金融とは異なる価値を提供できるのではないか。そんな仮説を持つようになったのです。実は、この構想は最初から順調に進んだわけではありません。2016年頃、新しい組織が立ち上がったタイミングで、私は「マネーのランプ」の原型となる企画を描いていました。しかし当時は、既存事業のDX推進など優先順位の高いテーマがあり、構想は一度保留になりました。それでも私は、この可能性を諦めることができませんでした。市場環境の変化やテクノロジーの進化を見ながら構想を温め続け、2021年に改めて役員へ提案を行いました。エンベデッド・ファイナンスが今後の金融業界において重要なテーマになるという確信があったからです。結果として企画は承認され、予算と人員を確保することができました。そして2022年4月、GeNiE株式会社が設立されることになります。振り返ると、現場でお客さまと向き合った経験も、「冬の時代」に経営を学んだ経験も、すべてが現在の挑戦につながっています。GeNiEは、ある日突然生まれた事業ではありません。長年にわたる現場経験と問題意識の積み重ねの中から生まれた挑戦なのだと思っています。90年の時を超えて受け継がれる、「人を信じる」という哲学〈組込型金融サービス 「マネーのランプ」>アコム創業以前から受け継がれてきた「人を信じる」という思想。齊藤代表は、その価値観こそが、現在のGeNiEの事業の原点になっていると語る。齊藤代表:私は、GeNiEのパーパスとして「誰よりも人々を信用する」という言葉を掲げています。これは単なるスローガンではありません。アコムが長い歴史の中で大切にしてきた価値観そのものだと思っています。アコムのルーツは、創業者が営んでいた呉服店にあります。そこには、いまでも語り継がれている象徴的なエピソードがあります。ある日、一人の女性が反物を見に来られました。ただ、当時、反物は非常に高価な商品だったので、自分の一存ではどの柄の反物にするか決められなかったそうです。そこで創業者は、「家に持ち帰ってお母さんと相談されてはいかがですか」と女性を信じ、いくつかの反物を預けました。いまのように個人信用情報が整備されている時代ではありません。年収や資産状況、職業などを細かく確認できるわけでもなかった。それでも、まず相手を信じるという判断をしたのです。そして、その女性とはその後も長くお付き合いが続いたと聞いています。私は、この話こそがアコムの原点だと思っています。金融というと、「リスクをどう管理するか」という側面が強く語られがちです。もちろん、金融事業である以上、リスク管理や与信審査は欠かせません。ただ、その一方で、「人を信じる」という姿勢を失ってはいけないとも思っています。GeNiEが取り組んでいるエンベデッド・ファイナンスも、その価値観の延長線上にあります。私たちは、パートナー企業が持つデータや顧客接点を活用しながら、一人ひとりをより深く理解しようとしています。それは単に審査精度を高めるためではありません。「その人を正しく理解したい」という考え方に近いものです。従来の金融では、年収や勤務先、勤続年数といった限られた情報を基に判断することが一般的でした。しかし現在は、サービスの利用実績や継続的な行動履歴など、その人らしさを示すデータを活用できるようになっています。テクノロジーの進化によって、これまで見えなかった信用力も可視化できる時代になりました。私は、それを単なるデータ活用だとは考えていません。人をより深く理解できるようになったということだと思っています。金融の本質は、人の可能性を信じ、その挑戦を支えることにあります。だからこそGeNiEでは、90年間受け継がれてきた「人を信じる」という思想を、現代のテクノロジーと掛け合わせながら、新しい金融の形として実現していきたいと考えています。前編では、GeNiE株式会社が目指す新しい金融の形や、齊藤代表のキャリアの原点、そしてアコム株式会社から受け継がれてきた「人を信じる」という哲学について、お話を伺いました。後編では、なぜ「子会社」という形で新規事業に挑んだのか、実績を積み重ねる中で見えてきた課題、そして金融が社会に自然に溶け込んでいく未来について、お話を伺っていきます。齊藤 雄一郎/大学卒業後、アコム株式会社に新卒入社。支店勤務を経て経営企画部へ。以降、企画部門を中心に全社戦略の立案やマーケティング業務に従事。2016年、フィンテックが日本で注目され始めた頃、テクノロジー活用を推進すべく、イノベーション企画室を立ち上げ。デジタル領域におけるサービス企画・立案、新規事業開発などに取り組む。マーケティング部門の責任者を経て、2022年4月、アコムの社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。【会社概要】会社名GeNiE株式会社設立年2022年代表取締役社長齊藤 雄一郎事業内容エンベデッド・ファイナンス所在地東京都中央区八丁堀二丁目10番9号