インタビュイー:株式会社HACHI 代表取締役 長谷 和俊様ペットの家族化が進み、ペットの医療にも人間同様の高度なケアが求められている現在。しかし、言葉を話せない動物たちの医療には、まだ多くの課題が残されているのが現状だ。その課題に対し、客観的なデータと誠実さで向き合い続けているのが株式会社HACHIだ。確かな研究データに基づいた動物病院専用プロダクト「アニミューン®」を展開し、創業からわずか数年で全国3,000施設以上の動物病院に導入されるという急成長を遂げている。同社が扱うのは、英国の一流医学誌にも掲載され、世界で初めて、人間の肝臓がん術後患者1,000人以上への大規模な臨床試験(RCT)を経て、有効性が示された希少素材、生薬「フアイア」(有効成分:糖鎖TPG-1※1)だ。長谷和俊代表は、この素材の国内における独占的な供給体制を確立。製薬会社での営業経験と動画マーケティングの知見を駆使して獣医療業界に新しい風を吹き込んだ。その原動力となっているのは、単なるビジネスとしての成功だけではない。長谷氏が幼い頃に心に刻んだある光景、そして1社目の起業で感じた「ある後悔」こそが、今の同社を動かす原点となっている。後編では、長谷代表の原点となる幼少期の体験から、急成長の中で向き合った組織づくりの課題、そして日本発の素材で世界中のペットの健康を守るためのビジョンまで詳しく語っていただいた。※1糖鎖TPG-1 :薬用茸(薬用菌類)の一種である「フアイア(Huaier)」に含まれる有効成分。2019年にアメリカ生化学分子生物学会の学術誌『JBC(Journal of Biological Chemistry)』に掲載された研究論文では、動物試験により、その構造と機能に関する研究結果が掲載され、TPG-1は、人や動物の健康維持に重要な役割を果たす「免疫バランス」を整える「免疫調整作用」を持つ成分として注目されている。具体的には、TPG-1はTLR-4を通して免疫に働きかけるという作用機序が明らかにされた。獣医師の息子として見過ごせなかった光景。「これでいいのか?」の問いが、すべての原点バイタリティあふれる獣医師の父を持ち、幼い頃から多くの動物に囲まれて育った長谷氏。起業家を志すようになった原点は、少年時代に目の当たりにしたある光景だった。「命」への向き合い方に感じた強烈な違和感。その光景こそが、今のHACHIを支える「現場を変えたい」という揺るぎない使命感へと繋がっている。長谷代表:私の実家は動物病院で、父は獣医師でした。父は非常に行動力のある人で、弱冠23歳で自らの動物病院を開業し、そこから7つの病院を経営するまでに拡大させた実績の持ち主です。そんなバイタリティあふれる父の背中を見て育った私ですが、子どもの頃に見た「ある光景」が、今のビジネスの原点になっています。それは、父に連れられてある繁殖所を訪れたときのことでした。当時訪れたその場所は、お世辞にも衛生的とは言えませんでした。狭くて薄暗い檻の中に、たくさんの犬たちが押し込められている。ただ子犬を産むためだけに、そこで一生を過ごす命がある。その光景を見た時、強烈な臭いとともに、子どもながら言葉にできない違和感が押し寄せてきたんです。「こんなことがあっていいのか?」「これで本当に、人間は動物を愛していると言えるのか?」と。胸の奥に棘が刺さったような感覚が、ずっと抜けないまま残りました。もちろん、素晴らしい環境のもと、愛情を持って動物を育てているブリーダーさんもたくさんいます。しかし、業界の裏側に潜むその暗部を、私はどうしても見過ごせなかった。心の中に刺さった棘のように、「これでいいのか?」という問いが残り続けました。そして、「いつか自分が力をつけて、この現状を変えられる影響力を持つ人間になりたい」と決意しました。これこそ、私が起業家という道を選んだ一番の理由だと思っています。ただ、現状を変えるためには、まずは業界のリアルを知らなければなりません。そこで私は、大学卒業後に実家の動物病院に入り、経営のサポートをすることにしました。取り組んだのは事業運営の効率化です。アナログだった現場へのiPad導入や採用活動の改革などを通して、多くの学びを得ました。さまざまな獣医師と看護師が働く現場で、スタッフたちがどれほど真剣に動物たちと向き合っているかを知ることができました。その日々を肌感覚で理解できたことが、今の私の「現場目線」の基礎になっています。売上よりも大切なこと。1社目の後悔が教えてくれた、“心から信じられるもの”を届ける責任動物病院での経験を通じて現場を知った長谷氏は20代後半で独立。自身の得意分野である動画を武器にデジタルマーケティング会社を設立する。事業は順調に拡大し、若くして成功を手にしたかに見えた。しかし、数字が伸びるほどに「迷い」が生まれ始めていたという。長谷代表:20代後半で独立し、まず動画マーケティングの会社を立ち上げました。当時はYouTubeやD2C※2ブームの黎明期。私はクライアント企業の健康食品や化粧品の立ち上げを支援し、動画広告を駆使して売上を伸ばす役割を担っていました。事業は順調に成長し、関わった事業は年商5億円規模にまでなりました。商売が得意な家系に生まれた私にとって、幸いにも小金を稼ぐことは難しいことではありませんでした。しかし、会社の数字が伸びれば伸びるほど、心の中には虚しさが募っていったのです。私たちは広告のプロとして、クライアントの商品を売るために必死に施策を打ちます。ですが、D2Cビジネスはどうしても広告費が先行するため、最初の数年は赤字が続くことも珍しくありません。日々業務を行う中でふと、「私たちは確かに手数料をもらって利益を出している。でも、クライアントは赤字だ。そして何より、私たちが必死に売っているこの商品は、本当にお客様のためになっているのだろうか?」と、立ち止まって考え込んでしまいました。世の中には中身が伴わないのにマーケティングだけで売れている商品がたくさんあります。“本当に誰かの幸せを願って、愛を込めて作られた本物の製品やサービス”を、自分の力で助け、広げるために、私はひとつでも多くの技術を磨き、学びに投資したはずでした。金にものを言わせて、マーケティングに資本を投じて広げていく企業のやり方とその製品を好ましく思っていなかった自分が、まさに、これまで培ってきた技術と学びを、金にものを言わせてマーケティングする側に捧げていました。もし、自分が扱っている商品に、心からの自信が持てなかったとしたら、それは誰が幸せになる仕事なのでしょうか。そんな当たり前のこともわからなくなっていました。「お金は稼げても、心が満たされない」。それが当時の率直な思いでした。ビジネスとしての成功と、置き去りにされた本質。その狭間で抱いた強烈な違和感は、いつしか積もり積もって、長谷氏を「本物」への回帰へと突き動かした。長谷代表:D2Cの世界はまさに「札束の叩き合い」でした。そんな不毛な世界の中で唯一学んだことがあります。それが、世界を変えるほどの影響をもたらす技術も、人々の生活を変えてしまう製品も、それを広げるマーケティング技術や才能は、結局、大きな資本のもとに集まっていくという真実。今度こそは、世界を革新するプロダクトに時間もお金も技術もすべてを注いで、世界を幸せにしながら、大きく成功しようと心に誓いました。だからこそ、HACHIでは戦う場所を変えました。Web広告で消費者にひたすら直接売り込む戦法ではなく、信頼できる獣医師の先生方をパートナーとし、診察の流れの中で飼い主様に届ける。この「医療チャネル」は参入障壁が高く、簡単には真似できません。この領域なら、不毛な競争に巻き込まれず、本当に良いものをじっくりと、しかし大きく広げていけると考えたのです。また、私たちが提供しているのは、単なるサプリメントではありません。動物病院にとっては「自信を持って推奨できる治療の選択肢」を、ペットオーナーにとっては「かかりつけの先生から紹介される安心感」を届けている。私たちはこれを「MX」(メディカル・エクスペリエンス)、すなわち医療体験の変革と呼んでいます。治療そのものだけでなく、それを取り巻く体験ごと変えていく。その想いがあったからこそ、2社目となるHACHIを創業する際には、自分自身に誓いを立てたんです。「自分が全責任を持てる事業をする」「自分が心から信じられる、本物しか扱わない」と。確かなデータの裏付けがあり、自分の家族や大切な友人のペットにも自信を持って「これなら大丈夫」と勧められるもの。そうでなければ、私が人生をかけてやる意味がない。数ある素材の中から「フアイア」を選び抜いたのは、それがまぎれもない“本物”だったからです。※2D2C(Direct to Consumer):仲介業者を通さず、メーカーが自社サイトなどで消費者に直接商品を販売するビジネスモデルのこと。組織の壁を乗り越えて。日本発の技術で、世界中のペットを守る未来へ「本物」を届けるという決意は、多くの獣医師からの支持を集めた。しかし、予想を上回るスピードでの急成長は、未整備だった社内体制に大きな歪みを生じさせていた。長谷代表:HACHIを創業して間もなく、私たちの予想をはるかに超えるスピードで事業が成長しました。最初の2か月で300の病院から契約をいただき、1年で1,000病院へと拡大していきました。しかし、その急成長の裏側で、私たちは深刻な「組織の壁」に直面していました。一言で言えば、事業のスピードに、組織の体制づくりがまったく追いつかなくなってしまったのです。急増する注文に対応しようと採用を急ぎましたが、彼らが活躍できる環境や教育体制を用意できていませんでした。華やかなブランディングに魅力を感じて入社してくれた社員に対し、現場は泥臭いベンチャーそのもの。そのギャップを埋める教育体制もないまま、社員の「個人の頑張り」に甘えてしまっていたのです。結果として、誰も幸せにできない状況を作ってしまった。当時は本当に、夜も眠れない日々が続きました。その苦しい状況の中で気づいたのです。仕組みがないまま、個人の頑張りにだけに頼るやり方は、お客様に対しても、そして一緒に働いてくれる社員に対しても、決して誠実ではない。そこで、属人的な営業スタイルをやめ、徹底的な仕組み化へと大きく舵を切りました。それが前編でお話しした、動画とMA※3による自動化です。人が介在しなくても価値が伝わる仕組みを作り上げることで、組織の混乱を収束させ、再成長の基盤を作りました。今でもアップデートを繰り返す日々ですが、社員一人ひとりが疲弊するような危機的な状況は脱し、質の高いフォローアップに注力できる体制が整っています。※3 MA(マーケティングオートメーション):顧客開拓や販促活動を可視化・自動化し、効率的なマーケティングを実現するためのツールのこと。組織の壁を乗り越え、盤石な体制を築いた現在。同氏の視線は、すでに日本の外、そして「病気になってから」のその先へと向けられている。長谷代表:私たちの挑戦は「アニミューン®」という商品を売ることだけでは終わりません。目指しているのは、メーカーという枠を超え、この「フアイア」という成分を、ペットの健康を守るための当たり前の選択肢にすることです。そうすることで、病気になってから治す『対処療法』の常識を覆し、病気にさせない『予防医療』という選択肢を、獣医療のスタンダードにすることを目指しています。そのために、まずは現在評価をいただいている「再発予防」の領域で、確固たるエビデンスを積み上げていきます。獣医師の先生方が自信を持って使える実績をさらに増やし、その信頼を携えて、世界最大のペット市場であるアメリカへ挑戦する準備を進めています。次に見据えているのが「予防」です。実は、予防というのは非常に難しいマーケットです。ペットは言葉を話せませんし、痛みがない状態では、飼い主様もなかなか病院へ行こうとは思いません。ペットに異変がある、と気づいた時にはもう手遅れなことも少なくないのです。そこで鍵になるのがAIです。現在開発中のAIシステムを使えば、病気の予兆をデータとして可視化できます。「このままだと病気になるかもしれない」という未来のリスクが見えれば、未然に防ぐという選択肢が生まれます。再発予防で培った信頼をベースに、AIの力で「予防」の扉を開き、日本発の技術で世界中のペットと家族の時間を守る。あの日、ブリーダーの施設で抱いた「現状を変えたい」という思いを、テクノロジーと誠実さで形にしていく。それが、私が経営者として追い求め続ける、生涯のミッションです。インタビュー後記取材を終えて心に残ったのは、長谷代表の言葉の端々から感じる、動物たちへの深い愛情と「命」に向き合う真摯な姿勢でした。「準備に時間をかける」「あえて訪問しない」。その一つひとつの決断が、ビジネスとしての戦略である以前に、多忙な獣医師や言葉を話せない動物たちへの、誠実さでもあると伝わりました。日本発の技術で、世界へ挑む株式会社HACHI。その挑戦が、ペットと家族の過ごす時間をより温かく幸せなものにしていく未来を、心から応援したいと思います。