インタビュイー:市野瀬教育研究所 所長 市野瀬 早織様市野瀬教育研究所は、脳科学と教育学を掛け合わせた独自の家庭教育メソッドを提供している。一般的な学習塾のように子どもへ直接指導を行うのではなく、保護者が子どもの感情や思考の背景を読み解く力を身につけることで、子どもの主体性や可能性を引き出す支援を行っている点が特徴だ。同研究所が提唱するのは、テストの点数や進学実績といった「結果」だけを追い求める教育ではない。子どもの言葉や行動の奥にある気持ちを理解し、本心を読み解く保護者の「読解力」を育むことで、子ども一人ひとりが自分らしく人生を選択できる状態を目指している。所長の市野瀬早織氏は、早稲田大学大学院修了後、渋谷教育学園渋谷中学高等学校で10年間国語科教員として勤務。担当生徒の約5人に1人を東京大学へ送り出した実績を持つ。一方で、教育現場で成果を出すほどに、子どもの可能性を左右する家庭環境の重要性を実感し、独自の教育メソッドの確立へと歩みを進めてきた。前編では、市野瀬教育研究所 所長 市野瀬早織氏に、市野瀬代表が提唱する読解力メソッドの考え方や教育現場で抱いた違和感、そして子どもたちの可能性に対する想いについて、お話を伺った。「結果」の前に「気持ち」を読み解く。親子の対話から才能を開花させる独自メソッドはじめに、同研究所の事業内容についてお話を伺った市野瀬代表:当社は、0歳から高校生までのお子さんを持つ保護者の方を対象に、家庭教育のサポートを行っています。一般的な教育サービスというと、学習塾や家庭教師のように子どもへ直接指導を行うものが多いと思います。しかし当社は、子どもを変えることよりも先に、保護者の方が子どもを理解できるようになることを大切にしています。実際に講座へ来られる方の相談内容もさまざまです。「子どもが勉強しない」「学校へ行きたがらない」「反抗的になった」といった悩みを抱えて来られる方が多くいらっしゃいます。しかし私は、そうした悩みの多くは子どもの問題ではなく、子どもの状態をどう理解したらよいのか分からないことから生まれていると考えています。そこで当社では、保護者が子どもの言葉や行動の背景にある感情や感覚を読み解くための講座や個別サポートを提供しています。子どもが発する言葉だけではなく、その奥にある不安や葛藤、興味・関心を理解する方法を学んでいただきます。また、子どもだけではなく、保護者自身の思考の癖や感情のパターンも見つめ直していきます。特徴は、教育学だけではなく脳科学の知見も取り入れていることです。人はなぜ行動できるのか、なぜやる気を失うのか、なぜ同じような失敗を繰り返してしまうのか。そうした脳の仕組みを理解しながら、親子関係やコミュニケーションを改善していきます。多くの教育現場では、「どうすれば成績が上がるか」「どうすれば志望校に合格できるか」という「結果」から考えます。しかし私は、「結果」の前に「気持ち」にフォーカスするべきだと思っています。人はやる気が生まれ、その気持ちに基づいて行動し、その結果として成果を得ます。しかし、結果ばかりを求めてしまうと、気持ちが置き去りになります。すると一時的に成果が出たとしても、本人の幸福度は下がり、本当の意味での成長にはつながりません。だからこそ私は、「なぜ勉強しないのか」ではなく、「なぜいま勉強する気持ちになれないのか」を見ていくことが大切だと考えています。子どもの行動には必ず理由があります。その理由を読み解くことができれば、親子の関係は大きく変わりますし、子どもも自ら考え、自ら動き始めるようになります。実際に、保護者の方の関わり方が変わったことで、子どもが自発的に勉強へ向かうようになったり、自分の進路について主体的に考えるようになったりするケースを数多く見てきました。その結果として学力が向上し、難関校への進学につながることもあります。しかし、それはあくまでも結果です。私たちが本当に目指しているのは、一人ひとりの子どもが自分の気持ちを理解し、自分らしく人生を選択できる状態をつくることです。そのために必要なのが、保護者が子どもの本心を読み解くための「読解力」なのです。進学校で抱いた違和感と脳科学の一致。読解力メソッド誕生の原点5人に1人を東大へ導きながら、市野瀬代表の心には拭い去れない違和感が積み重なっていた。教育現場で成果を出すほどに、子どもの成長を左右する家庭の存在の大きさを実感していく。市野瀬代表:私は大学院修了後、渋谷教育学園渋谷中学高等学校で10年間、国語科の教員として勤務しました。担当した生徒の約5人に1人が東京大学へ進学するなど、多くの生徒たちと関わりながら成果を出すことができました。一方で、教育現場に立ち続ける中で、次第にある違和感を抱くようになりました。進学校には、本当に優秀な生徒がたくさんいます。勉強もできて、努力もできる。与えられた課題にも真摯に向き合います。しかし、学年が上がり、偏差値の高い集団になればなるほど、生徒たちの考え方や表現が似てくるように感じたのです。私は国語教師として作文指導や面談を数多く行っていました。本来であれば、作文には一人ひとり異なる価値観や個性が表れるはずです。しかし実際には、「こう書けば評価される」「こう答えるのが正解だろう」という発想で文章を書く生徒が少なくありませんでした。もちろん、それは能力が高いからこそできることですし、受験という観点で見れば間違いではありません。ただ私は、「この子たちは本当に自分の気持ちを書いているのだろうか」と考えるようになりました。どうすれば失敗しないのか。どうすれば良い進路に進めるのか。そうした問いに答える力は身についていく一方で、「自分は本当はどうしたいのか」を考える機会が少なくなっているように見えたのです。背景には家庭の存在がありました。私は学校で生徒と対話を重ねながら、その子自身の想いや可能性を引き出そうとしていました。しかし、家庭に戻ると状況が変わることがあります。本人が前向きに考えていたことでも、保護者の不安や期待によって別の選択へと向かってしまうことがあったのです。もちろん、それは保護者の方が子どもを大切に想っているからこその言葉です。だからこそ私は、誰が悪いという話ではなく、子どもの成長には家庭の影響が想像以上に大きいのだと実感するようになりました。学校の中だけでできることには限界があります。本当に子どもの可能性を広げたいのであれば、子どもだけではなく、家庭そのものにアプローチする必要があるのではないか。その想いが日に日に強くなっていくなかで教育現場を離れ、新たな学びを求め出会ったのが脳科学でした。脳科学を学び始めたとき、私は大きな驚きを感じました。なぜなら、10年間の教育現場で経験的に感じていたことが、脳科学によって次々と説明できたからです。それまで感覚的に捉えていた現象に理論的な裏付けが与えられ、私の中で一つひとつの経験がつながっていきました。振り返ると、脳科学との出会いは新しい知識を得たというよりも、教育現場で抱き続けてきた違和感の答え合わせだったのかもしれません。学校教育の中で見えてきた課題と、脳科学によって得た知見。その二つが結びついたことで、現在の読解力メソッドの原型が形づくられていったのです。一人ひとりの才能は必ずある。子どもの可能性を広げる「読解力」とは市野瀬代表が見つめるのは、受験の先にある「人生の質」である。誰もが自分の才能を信じ、本音で生きられる社会の実現に向けた想いを深掘りする。市野瀬代表:私は教師時代から、たくさんの子どもたちと個別面談をしてきました。その中で感じていたのは、一人ひとりが本当に異なる魅力や才能を持っているということです。勉強が得意な子もいれば、そうでない子もいます。しかし、どの子にも必ず夢中になれるものがありました。プログラミングが好きな子は、目を輝かせながら何時間でも話してくれます。落語が好きな子は、驚くほど深くその世界を語ります。大人から見ると「そこまで詳しいのか」と驚くような知識や熱量を持っている子も少なくありません。私はそうした姿を見るたびに、「これこそがその子の才能なのではないか」と感じていました。いわゆる「オタク」と呼ばれるような探究心です。何か一つのことに夢中になり、自分なりに掘り下げていく力は、とても価値のあるものだと思っています。実際、社会で活躍している方々を見ても、自分の好きなことを追求した結果として独自の価値を生み出しているケースは少なくありません。ところが、日本の教育の中では、そのような個性が十分に評価されにくい場面もあります。どうしてもテストの点数や偏差値といった分かりやすい指標が重視されるため、子どもたち自身も「何が正解なのか」を意識するようになります。そして、気づかないうちに自分の気持ちよりも周囲からの評価を優先してしまうことがあります。もちろん、学力や受験を否定したいわけではありません。私自身、進学校で教えてきましたし、努力することの価値もよく分かっています。ただ、本来は結果だけではなく、その子自身が何を感じているのか、何に興味を持っているのかにも目を向ける必要があると思うのです。<東大合格者が身につけた 一生使える『読み方スキル』(東洋経済新報社) >子どもの才能を伸ばすためには、まず子どもを理解することが必要である。その理解の土台になるのが「読解力」だと、市野瀬代表は語る。市野瀬代表:多くの方は「読解力」というと、国語の問題を解く力を思い浮かべるかもしれません。しかし私が考える読解力は、それだけではありません。自分自身の気持ちを読み解く力、相手の気持ちを読み解く力、その上で自分らしい選択をしていく力です。実際、人生の中では正解が決まっていないことの方が多くあります。進路を選ぶときも、仕事を選ぶときも、「どちらが正解か」ではなく、「自分はどうしたいのか」を考えなければなりません。子どもたちには、まず自分の気持ちを知ってほしい。そして、自分が好きなことや夢中になれることを大切にしてほしいと思っています。私が教育を通じて伝えたいのは、「もっと自分自身を理解してほしい」ということです。その子らしい才能は、誰の中にも必ずあります。その可能性を周囲が決めつけるのではなく、本人自身が見つけ、育てていけるような関わり方をしていきたい。それが、私が教育に携わる中で一貫して持ち続けている想いです。前編では、市野瀬代表が提唱する読解力メソッドの考え方や教育現場で抱いた違和感、そして子どもたちの可能性に対する想いについて、お話を伺いました。後編では、教師から経営者へと歩み始めた独立後の挑戦や市野瀬代表が目指す社会の在り方、そして未来の教育に向けた具体的な構想について、お話を伺っていきます。市野瀬 早織/早稲田大学大学院教育学研究科国語教育専攻修了。教育学修士。2008年から2018年までの10年間、偏差値70を超える難関私立中学校にて専任の国語科教諭として勤務。中学1年生から高校3年生までを6年間一貫して指導し、担当生徒の5人に1人を東京大学合格へ導く。進学校での現代文指導を通して、読解力こそが思考力・自己理解力の土台であり、生きる力の基盤となることを確信する。第一子出産後の2018年4月より、合同会社Alecioの創業メンバー・執行役員として人材開発事業に携わり、同年7月に独立。2024年8月、株式会社The Rhythmを創業。教育学の専門性、進学校での読解指導経験、人材開発領域での知見を統合し、「読解力を子育てに活かす」独自の家庭教育メソッドを体系化。親が自分自身と子どもの本心や才能を読み解くことで、子どもの問題解決力と自己実現力を育む教育プログラムを展開。2026年までに受講生は510名を超える。子どもが主体的に考え、よりよく生きていける社会の実現を目指し、「子育ての読解法」を広めるべく活動している。2026年4月待望の初の著書。『東大合格者が身につけた一生使える「読み方スキル」』(東洋経済新報社)は、発売後たちまちAmazonランキング1位、2ヶ月で4刷目となっている。【会社概要】会社名株式会社The Rhythm所長市野瀬 早織事業内容教育コンサルティング事業