インタビュイー:市野瀬教育研究所 所長 市野瀬 早織様市野瀬教育研究所は、脳科学と教育学を掛け合わせた独自の家庭教育メソッドを提供している。一般的な学習塾のように子どもへ直接指導を行うのではなく、保護者が子どもの感情や思考の背景を読み解く力を身につけることで、子どもの主体性や可能性を引き出す支援を行っている点が特徴だ。同研究所が提唱するのは、テストの点数や進学実績といった「結果」だけを追い求める教育ではない。子どもの言葉や行動の奥にある気持ちを理解し、本心を読み解く保護者の「読解力」を育むことで、子ども一人ひとりが自分らしく人生を選択できる状態を目指している。所長の市野瀬早織氏は、早稲田大学大学院修了後、渋谷教育学園渋谷中学高等学校で10年間国語科教員として勤務。担当生徒の約5人に1人を東京大学へ送り出した実績を持つ。一方で、教育現場で成果を出すほどに、子どもの可能性を左右する家庭環境の重要性を実感し、独自の教育メソッドの確立へと歩みを進めてきた。後編では、市野瀬教育研究所 所長 市野瀬早織氏に、教師から経営者へと歩み始めた独立後の挑戦や市野瀬代表が目指す社会の在り方、そして未来の教育に向けた具体的な構想について、お話を伺った。教師から経営者への再出発。2,500円の初売上で知った、価値を届ける喜び教師として教育に向き合ってきた市野瀬代表にとって、起業は未知の世界だった。独立後の試行錯誤の中で得た経験は、自身が大切にしてきた価値観を改めて実感する機会にもなった。市野瀬代表:学校を退職した後、私は現在の事業につながる活動を始めましたが、最初から順調だったわけではありません。仲間と合同会社を立ち上げたことがありましたが、目指したい方向性や価値観に少しずつ違いが生まれ、最終的にはわずか3か月ほどで離れることになりました。不安がなかったと言えば嘘になりますが、それでも学校へ戻ろうとは思いませんでした。子どもたちの可能性を広げるためには、家庭へのアプローチが必要だという想いは、既に自分の中で揺るぎないものになっていました。ただ、教育については経験があっても、ビジネスについてはまったくの素人でした。教師時代は、授業をつくることや生徒と向き合うことに全力を注いできました。しかし独立すると、サービスを知ってもらうことも、お客様に来ていただくことも、自分でやらなければなりません。SNSの発信方法も分かりませんでしたし、集客や販売の知識もありませんでした。だからこそ私は、自分がビジネスの素人であることを認めて、一から学ぶことにしました。起業塾にも通いましたし、発信の仕方や講座の作り方など、基礎的なことから教えていただきました。振り返ると、教師時代は「教える側」でしたが、その頃は久しぶりに「教わる側」になっていたと思います。そんな試行錯誤を続けるなかで、忘れられない出来事がありました。初めて自分のサービスに対してお客様がお金を払ってくださったときのことです。金額は2,500円で、数字だけを見ると決して大きな金額ではありませんが、私にとっては特別な意味がありました。銀行口座に売上が振り込まれている。それを見た瞬間、本当に嬉しかったんです。学校でも毎月お給料をいただいていました。しかしそれは組織の中で働き、その対価としていただく報酬です。一方で、その2,500円は誰かが私の考え方やサービスに価値を感じてくださり、お金を払ってくださった結果です。金額の多寡ではなく、「価値を届けられた」という事実が何より嬉しかったのです。もちろん、その後も順風満帆だったわけではありません。事業を続ける中では何度も壁にぶつかりましたが、そのたびに私は一人で抱え込まないようにしてきました。その時々で必要な師匠に教えを請いながら進んできました。教育も同じですが、人は一人で成長できるわけではありません。自分の現在地を理解し、必要な学びを他者から得ながら進んでいくことが大切なのだと思います。内省と実験の場を、すべての子どもたちへ。才能が溢れ出す社会を実現するために「誰もが自分らしく生きられる社会」を目指し、市野瀬代表は具体的な挑戦にも着手しようとしている。市野瀬代表:私がこれから実現したいことの一つが、新しい学校づくりです。その構想の原点になっているのが、フィンランドの教育です。実際に現地を視察した際に感じたのは、一人ひとりの子どもに丁寧に視点を合わせる教育が根付いていることでした。日本では、どうしても結果や評価に目が向きやすい部分があります。しかしフィンランドでは、「その子が何を感じているのか」「何に興味を持っているのか」という個人の内面に焦点が当てられていました。私はその姿勢に大きな可能性を感じています。私自身が長年子どもたちと向き合う中で、一人ひとりの才能はまったく違う形で存在していることを実感してきたからです。だからこそ私は、日本にも子どもたちが自分自身と向き合い、自分の可能性を探究できる学校をつくりたいと考えています。私が構想している学校では、「内省」と「実験」を大切にしたいと思っています。「内省」とは、自分の気持ちや価値観と向き合うことです。何が好きで、どんなことに心が動き、どのような人生を送りたいのか。そうした問いに向き合う時間を持つことで、自分らしい選択ができるようになります。そして「実験」とは、実際に試してみることです。さまざまな分野のプロフェッショナルと出会い、新しい体験をしながら、自分の可能性を試していく。考えるだけではなく、行動しながら学ぶ場をつくりたいと思っています。自然の中で自分自身と向き合いながら、多様な経験を重ねていく環境の中で、子どもたちが本来持っている力を発揮できる学校を実現したいのです。そしてもう一つ、私が取り組みたいと考えているのが、児童養護施設の子どもたちへの支援です。私はこれまでの活動を通じて、子どもの可能性は決して環境だけで決まるものではないと感じてきました。一方で、家庭環境や育った背景によって、自分の可能性を信じることが難しくなってしまう子どもたちがいることも事実です。だからこそ私は、そのような子どもたちにも、自分の才能や可能性に気づく機会を届けたいと思っています。私が構想している学校づくりも、児童養護施設への支援も、根底にある想いは同じです。一人ひとりが自分自身を理解し、自分らしく生きられる社会をつくることです。私が学んできた脳科学では、人にはそれぞれ無意識の思考パターンや行動パターンがあると考えます。私は、その考え方を活かしながら、子どもたちが自分自身をより良く理解し、自分の可能性を信じられるような支援の仕組みをつくっていきたいのです。どのような環境で育ったとしても、自分の中にある才能に気づき、自分らしい未来を描いていける社会を実現したいと思っています。結果至上主義の先へ。「気持ち」を読み解く力が生む、本音で生きられる社会の在り方戦後から続く教育は、いま、大きな限界を迎えている。市野瀬代表が見据えるのは、誰もが自分らしく力を発揮できる社会である。市野瀬代表:私はこれまで教育現場や保護者支援の現場で、多くの子どもたちや大人たちと向き合ってきました。その中で強く感じているのは、日本では結果が重視されるあまり、人の気持ちが置き去りになりやすいということです。結果とは、子どもであれば偏差値や進学先、大人であれば肩書きや収入です。結果そのものを否定したいわけではありません。ただ、本来は結果の前に、「自分はどうしたいのか」「なぜそれをやりたいのか」という気持ちがあるはずです。しかし日本では、幼い頃から結果を求められる場面が多くあります。そのなかで、いつの間にか自分の気持ちよりも、周囲からどう評価されるかを優先する人が増えているように感じています。結果として、自分の本音が分からなくなったり、本当にやりたいことを見失ったりする人も少なくありません。私は、そのような生き方を変えていきたいと思っています。本音を話しても否定されず、失敗しても挑戦を続けられる。誰かと比べるのではなく、自分らしい幸せを見つけられる。そんな社会になれば、人はもっと安心して才能を発揮できるのではないでしょうか。そのために必要な力が、「読解力」です。自分の気持ちを読み解く力であり、相手の気持ちを読み解く力です。自分を理解できる人は、他人を理解できるようになります。そして、自分を認められる人は、他人との違いも受け入れられるようになります。私は、そうした人が増えていくことで、もっと生きやすい社会が実現すると考えています。教育とは、知識や技術を身につけるためだけのものではありません。自分自身を理解し、自分らしい人生を選び取るための土台を育てるものでもあると思っています。だからこそ私は、子どもたちだけでなく、その周囲にいる大人たちにも、まず自分の気持ちを読み解くことから始めてほしいのです。多くの人は、変わろうとするとき、大きな行動を起こそうとします。しかし大切なのは、自分が本当にやりたいことに気づき、その方向へ少しだけ進んでみることです。立ち止まったままでは何も変わりませんが、いきなり大きく飛躍しようとすれば苦しくなってしまう。だからこそ、少し勇気を出せば届く一歩を、繰り返し積み重ねていく。その積み重ねこそが、自分らしい人生につながっていくのだと思います。教育を変えるということは、単に学校を変えることではなく、人と人との関わり方を変え、社会の在り方そのものを変えていくことです。私はこれからも、教育を通じて、その一歩を積み重ねていきたいと思っています。編集後記今回は、市野瀬教育研究所 所長 市野瀬早織氏にお話を伺いました。印象的だったのは、市野瀬代表が一貫して「結果」ではなく「気持ち」に目を向け続けていることです。進学校で多くの実績を残しながらも、その先にある子どもたちの本心や可能性に目を向け続けた姿勢に、教育者としての深い誠実さを感じました。教育とは知識を教えることだけではなく、自分自身を理解する力を育むことであり、それが多様な才能の自然に発揮される社会へとつながっていくのだと、学ばせていただきました。市野瀬 早織/早稲田大学大学院教育学研究科国語教育専攻修了。教育学修士。2008年から2018年までの10年間、偏差値70を超える難関私立中学校にて専任の国語科教諭として勤務。中学1年生から高校3年生までを6年間一貫して指導し、担当生徒の5人に1人を東京大学合格へ導く。進学校での現代文指導を通して、読解力こそが思考力・自己理解力の土台であり、生きる力の基盤となることを確信する。第一子出産後の2018年4月より、合同会社Alecioの創業メンバー・執行役員として人材開発事業に携わり、同年7月に独立。2024年8月、株式会社The Rhythmを創業。教育学の専門性、進学校での読解指導経験、人材開発領域での知見を統合し、「読解力を子育てに活かす」独自の家庭教育メソッドを体系化。親が自分自身と子どもの本心や才能を読み解くことで、子どもの問題解決力と自己実現力を育む教育プログラムを展開。2026年までに受講生は510名を超える。子どもが主体的に考え、よりよく生きていける社会の実現を目指し、「子育ての読解法」を広めるべく活動している。2026年4月待望の初の著書。『東大合格者が身につけた一生使える「読み方スキル」』(東洋経済新報社)は、発売後たちまちAmazonランキング1位、2ヶ月で4刷目となっている。【会社概要】会社名株式会社The Rhythm所長市野瀬 早織事業内容教育コンサルティング事業