インタビュイー:一般社団法人日本女性起業家支援協会 代表理事 近藤 洋子様2013年に設立された 一般社団法人日本女性起業家支援協会 は、「日本ママ起業家大学」というブランドを通じて活動を展開している。名称に「ママ」とあるが、対象は母親に限らない。子育てや介護、地方在住といったさまざまな制約を抱えながらも、自分らしく働きたい人々に、場所や時間を自らコントロールできる働き方を提示している。従来、日本で「起業」と言えば、短期間で急成長し、右肩上がりの数字を追うことが成功の証とされてきた。だが、日本ママ起業家大学が目指すのは一過性の成果ではない。「自分と身近な人が幸せであり続けること」、そして「長く続けられる事業を育てること」を重視し、そのための思考法やスキルを学べる教育プログラムを提供している。活動の根底にあるのは「持続可能な働き方を社会に根づかせたい」という想いだ。家庭や地域との調和を大切にしながら、無理なく誇りを持って働く。そんな生き方を可能にするために、日本ママ起業家大学は誕生した。後編では日本ママ起業家大学の再スタートからコロナ禍での苦悩、そしてママ起業家大学の今後について代表理事・近藤洋子氏にお話を伺った。ゼロからの再起 。師匠との再出発と日本ママ起業家大学の新たな挑戦。組織崩壊を経て迎えた再スタート。支えとなったのは、師匠のような盟友・富田氏の存在だった。そこから日本ママ起業家大学は、新たな挑戦を重ねながら再び歩みを進めていった。近藤代表:一度すべてをリセットし、2015年にゼロからの再スタートを切りました。そのとき残ってくれたメンバーの中に、富田さんという男性がいました。彼は私のラジオ時代のプロデューサーで、25年以上の付き合いがある、いわば師匠のような存在です。富田さんは、どんな状況でも慌てず、軽やかに場を和ませるような“ひょうひょうとした人柄”の持ち主です。その柔らかな空気感とクリエイティブな視点が、私の再スタートを大きく支えてくれました。それまでは私自身がとにかく走り続けることに必死でしたが、再スタート後は“仕事も家庭も”という理念をより明確にし、活動を少しずつ整理していきました。富田さんは、私の言葉や想いをきちんと形に落とし込み、発信の仕組みまで整えてくれました。さらに「もっと自分の声で語っていい」と背中を押してくれたことで、マネジメントに追われて忘れかけていた自分の強みを思い出すことができたんです。その延長線上で立ち上げたのがYouTube番組「ママ起業家TV mi-ra-i」です。この番組は、日本ママ起業家大学の理念や活動を広く伝える拠点となり、自分たちの価値観を社会に届ける大切な手段になりました。さらに、年に一度のピッチコンテスト「ママ起業家プレゼンmirai」を開催し、起業を目指す女性たちが自分のアイデアを発表し、未来を描くための舞台をつくりました。そこには共感してくれる協賛企業やサポーターが集まり、「他の起業塾とは違うね」と評価をいただけるようになったのです。地道に信頼をコツコツ積み重ねることを何より大切にしてきたのです。活動の広がりは東京だけにとどまりません。仙台に分校を開設し、さらに北九州にも関門校を設立しました。関門校は地元の税理士法人と連携し、地域に根ざした取り組みを展開しています。こうした一歩一歩の積み重ねが、日本ママ起業家大学を再び立ち上げ、着実に成長を続ける力になっていったのだと思います。派手さよりも納得感を追求して。誠実な発信が生んだ日本ママ起業家大学の成長。コロナ禍で広がったオンラインの波に、多くの誇張された言葉が飛び交った。そんな時代に日本ママ起業家大学が選んだのは、派手さではなく納得感を大切にした誠実な発信だった。それがやがて、新たな仲間を呼び込み、確かな成長へとつながっていった。近藤代表:コロナが流行したとき、社会全体は一気にオンラインへと切り替わりました。もともと私たちは対面とオンラインを組み合わせたハイブリッドで活動していましたが、「リアルで会って伝えること」を大切にしてきた私たちにとって、直接会えない状況は本当に大きな衝撃でした。ちょうどその頃、SNSには「たった3時間で月収100万円」といった、おとぎ話のようなキャッチコピーがあふれていました。弱った心に入り込むようなビジネスが急増し、「そんなのあり得ない」と思いながらも、人々がそちらに流れていくのを目の当たりにして、自己効力感を失いかけたこともありました。それでも、「このままでは終われない」と思ったんです。だから私たちが選んだのは、真逆のアプローチです。派手なキャッチコピーで心を煽るのではなく、読めば読むほど納得できる発信を続けました。そこで私たちが立ち上げたのが、YouTube番組「あしたが見える朝ジカン〜GOOD MORNING MIRAI〜」でした。大きな約束は掲げない。数字を誇張することもない。むしろ、クラウドファンディングのように“読めば読むほど納得感しかない”情報を届けることに徹しました。「たった一人でもいいから、本気で共感してくれる人と出会いたい」そんな想いで続けた番組が、やがて共鳴の輪を広げていきます。そこから日本ママ起業家大学の扉を叩く人が現れ、互いに支え合える仲間が少しずつ増えていきました。気がつけば、日本ママ起業家大学からは約350人の卒業生が巣立ち、そのうちの85%が事業を継続しています。この数字は胸を張れる成果だと思っています。背景にあるのは、ただ立ち上げて急成長を狙うのではなく、「どうすればワクワクしながら長く続けられるか」を常に意識しながら活動を積み重ねてきたこと。その姿勢が、今の結果につながっているのだと思います。日本ママ起業家大学が描く日本の未来とすべての起業を目指す人へのメッセージかつて「ままごと」と揶揄された女性起業支援の試みが、いまや経済産業省主導の事業へと広がりを見せている。その先駆けとして歩んできた日本ママ起業家大学は、350名を超える卒業生ネットワークを築き、新たなフェーズを迎えている。近藤代表:今年から経済産業省が中心となって、女性起業家支援事業が本格的にスタートしました。思えば日本ママ起業家大学を立ち上げた当初、「そんなのままごとだ」と言われたこともありました。でも今、その取り組みがようやく社会全体に広がりつつあるのを実感していますし、私たちもその一翼を担えたのではないかと思っています。これからは、地方とコラボレーションして新しい価値を生み出していきたいと考えています。地方で働く人の中には「ここには自分でつくり出せる仕事なんてない」と諦めてしまう方も多いのですが、私の目には地方こそ資源の宝庫に映ります。女性は生活に根ざした視点を持っているので、その視点を掛け合わせれば面白い商品やサービスが必ず生まれるはずです。たとえば富山県では「薬売り」という歴史的な文化を再編集し、地域独自の価値を取り入れた新しい取り組みを模索しています。今では日本ママ起業家大学の卒業生は約350人の卒業生がいます。お互いの性格や働き方を理解しているからこそ、卒業生同士が協業できるのが大きな強みです。私自身も卒業生に仕事を依頼し、助けてもらうことも少なくありません。長年かけて築いてきたネットワークが、今ようやく理想的な形として機能し始めているのを実感しています。さらに、多くの人に日本ママ起業家大学の活動を知っていただくため、体験教室も開催しています。名前こそ「体験」ですが、事業モデルだけではなく事業のネーミングやキャッチコピーまで考える、本気度の高いプログラムです。ここでプログラムが自分に合うかどうかを判断していただき、もし独自にやれると思えば自分で進めてもいいし、日本ママ起業家大学の仕組みを活用していただいても構いません。それを決めるのは、あくまで本人次第なんです。私が何より大切にしているのは「自分で決める」ということです。起業に限らず、人生の選択を自分の意思で行えるかどうかは、「幸福感=ウェルビーイング」を支える大前提だと思います。お金や評価は後からついてきますが、まず「自分で選んだ」と実感できることが、何よりの支えになるのです。だからこそ、みなさんにも寝食を忘れるほど没頭できることをぜひ見つけてほしいです。お金になるかどうかは二の次で構いません。続けていけば思いもよらない反応が返ってきたり、誰かの役に立つことにつながるはずです。ママさんに限らず、これからの時代を生きるすべての起業を目指す人には、小さくても自分の意思で選び取る一歩を大切にしてほしいと思います。インタビュー後記取材を通じて強く感じたのは、近藤代表の歩みが「個人の経験」から始まりながらも、「社会の価値観の変化」を映し出しているということです。かつて「ままごと」と揶揄された取り組みが、いまや国の施策として推進されています。その背景には、10年以上にわたる試行錯誤と粘り強い実践がありました。組織の崩壊や再起を経てもなお理念を貫き続ける姿勢からは、起業を続けるうえで本当に大切なのは「スピード」や「派手さ」ではなく、自らの信念を守り抜く覚悟であると痛感しました。350名を超える卒業生のネットワークは、その覚悟の積み重ねが形になったものであり、今後さらに大きな力となっていくはずです。本記事が、読者の皆さまにとって単なる成功の物語ではなく、「自分にとっての生きがいとは何か」を考えるきっかけになれば幸いです。