インタビュイー:株式会社カンム 代表取締役 八巻 渉様株式会社カンムは、「お金の新しい選択肢をつくる」をミッションに掲げるフィンテック企業である。主力事業として、アプリから最短1分で発行できるVisaプリペイドカード「バンドルカード」を提供している。「バンドルカード」は2016年9月のサービス開始以来、累計1,500万ダウンロードを突破し、2026年9月に10周年を迎える。2023年には三菱UFJ銀行と資本業務提携を結び、MUFGグループの一員となった。同社を率いるのは、代表取締役の八巻 渉代表。中学生の頃からエンジニアを志し、大学との産学連携から生まれたベンチャー企業でデータ解析に携わったのち、2011年に株式会社カンムを創業した。エンジニアとしての知見を活かして、サービスの設計に自ら携わりながら、個人向けサービスから法人向けサービスへと事業領域を広げてきた。前編では、株式会社カンム 代表取締役 八巻渉氏に、カンムが展開する4つの事業や、八巻氏が金融領域で起業するに至った背景、そして「バンドルカード」誕生までの試行錯誤について、お話を伺った。 決済から投資、資金調達まで。「お金の新しい選択肢」を形にする4つの事業はじめに、株式会社カンムの事業内容について、お話を伺った。八巻代表:株式会社カンムは、「お金の新しい選択肢をつくる」をミッションに掲げるフィンテック企業です。主力事業として展開しているのが、最短1分で発行できるVisaブランドのプリペイドカード「バンドルカード」です。2016年9月のサービス開始以来、多くの方にご利用いただき、2026年7月には累計1,500万ダウンロードを突破しました。これだけ多くの方に選んでいただいている背景には、「使える金額を自分で管理したい」というニーズがあります。現在の日本では、クレジットカードをつくること自体は、以前ほど難しくありません。むしろ、複数のカードを持つことも容易になったからこそ利用可能枠が膨らみ、「自分で使う金額をコントロールしたい」というニーズが生まれていると考えています。プリペイドカードは、あらかじめ入金した残高の範囲内でしか使えません。そのため使いすぎを防ぎやすく、自分で支出を管理しやすい。その安心感と、アプリから簡単に発行できる手軽さが、「バンドルカード」を選んでいただいている理由だと思います。サービス名にも、こうした考え方が込められています。残高を自分で管理したいというニーズに応えるため、「ValueをHandleする」という発想から、「Vandle」という名前が生まれました。「バンドルカード」に続く個人向けサービスとして提供しているのが、投資と決済を一つのアプリで利用できる「Pool」です。アプリ上でカードを発行できる点は「バンドルカード」と共通していますが、「Pool」では、当社のファンドに投資した金額と連動して、クレジットカードの与信枠が設定されます。また、法人のお客さま向けには、「サクっと資金調達」と「サクっと分割」という2つのサービスを展開しています。「サクっと資金調達」は、将来の売上を当社が買い取ることで、中小企業の皆さまに必要な資金を早期に提供するサービスです。入金のタイミングを早めることで、仕入れや広告、設備投資などに必要な資金を確保し、事業者のキャッシュフロー改善を支援します。一方の「サクっと分割」は、法人間取引に「分割あと払い」という選択肢を加えるサービスです。買い手企業は代金を分割して支払うことができ、売り手企業には、当初の請求書期日に当社から代金が一括で支払われます。売り手企業の入金時期を遅らせることなく、買い手企業の支払い負担を分散できるため、高額な商談を進めやすくなる点が特徴です。個人向けの「バンドルカード」と「Pool」、法人向けの「サクっと資金調達」と「サクっと分割」。現在はこの4つのサービスを通じて、個人の日常的なお金の管理から、企業の資金繰りや事業成長まで、それぞれに合った「お金の新しい選択肢」を提供しています。投資家の一言が背中を押した、2011年の創業次に、八巻代表が創業に至るまでの経緯と、数ある領域のなかから金融を選び取った理由について、お話を伺った。八巻代表:ソニーでエンジニアとして働いていた父の姿を幼い頃から見ていたこともあり、私はもともと経営者ではなく、エンジニアを志していました。起業を意識するようになったのは、慶應義塾大学に入学してからです。当時は、堀江貴文氏をはじめとするIT起業家が大きな注目を集め、学生の間でも起業への関心が高まっていました。周囲にも起業を志す学生が多く、私にとっても会社をつくることが、自然と将来の選択肢の一つになっていったんです。新卒で入社したのは、大学との産学連携から生まれたStudio OusiaというITスタートアップです。自然言語処理を用いたアプリケーションの研究開発を手がける会社で、私はデータ解析のエンジニアとして働いていました。一方で大学時代から、起業を志す人たちのコミュニティにも参加しており、そこでエンジェル投資家や起業家の先輩方とのつながりが生まれていました。そのなかに、月に1度ほど食事をしながら親交を深めていた投資家の方がいたんです。前職を退職するタイミングで、その方から「独立するなら出資する」と声をかけていただきました。起業そのものは以前から考えていましたが、創業資金を支援していただけることが最後の後押しとなり、2011年に株式会社カンムを創業しました。私が事業テーマを決める際に重視していたことは、「日本の豊富なリソースにレバレッジをかけられる領域」であることです。日本が持つ大きなリソースを考えたとき、私のなかでは「人」と「お金」があり、そこから教育と金融を事業領域の候補として考えていました。人を活かすのであれば教育という選択肢があります。ただ、当時はまだ20代半ばで、自分が教育の領域で事業をつくる姿を具体的にイメージできませんでした。一方金融は、取引履歴や残高など扱う情報の多くがデジタルデータとして存在しており、それまで培ってきたデータ解析の経験とも相性が良い。そのため、最終的に金融へと事業領域を絞り込むことになりました。「自分たちでカードを発行すればいい」バンドルカード誕生の原点創業当初から「バンドルカード」を構想していたわけではない。いくつもの事業をつくるなかで直面した課題が、自らカードを発行するという発想につながった。八巻代表:金融領域で事業をつくることは決めていましたが、創業当初から「バンドルカード」の構想があったわけではありません。最初に取り組んだのは、企業情報をオンライン上で自由に分析できるサービスです。当時、全上場企業のデータをまとめた企業情報誌はありましたが、個人がオンライン上で企業データを自由に分析できる環境はまだ十分に整っていませんでした。実際にサービスとしてリリースしたものの、事業を大きく成長させていく難しさを感じ、よりスケールする事業を模索するようになりました。そのなかで転機となったのが、決済領域に詳しい経営者の方との出会いです。米国では、カードの決済データを分析し、そこから新たな付加価値を生み出すビジネスがあることを知りました。「これを日本でも事業にできないか」と考え、決済領域での事業開発を始めました。そこで取り組んだのが、カード決済連動型オファー(CLO:Card-Linked Offer)です。CLOとは、消費者が事前にWebやアプリから特典に申し込み、登録したクレジットカードで対象店舗の支払いをすると、キャッシュバックやポイントなどの優待が自動的に適用される仕組みです。カード会社への営業を重ね、2013年にはクレディセゾンと提携しました。カードの利用データを活用し、Web明細上にクーポンなどを表示するサービスをリリースしたんです。ただ、実際に事業を進めていくと、いくつかの課題が見えてきました。当時はまだ紙の明細を利用する方が多く、Web明細を見るユーザーは限られていました。さらに、他のカード会社へサービスを広げようとすると、それぞれ異なるシステムに対応しなければなりません。既存のカード会社が持つデータや顧客接点を借りる形では、事業を大きくしていくにも限界があります。そこで、「既存のカード会社の上にサービスをつくるのではなく、自分たちでスマホに最適化されたカードを発行すればいいのではないか」と考えるようになりました。これが、「バンドルカード」につながる最初の着想です。とはいえ、スタートアップがクレジットカードを発行するのは、資金面から考えて現実的ではありませんでした。一方、プリペイドカードであれば与信を取る必要がなく、自分たちでも実現できる可能性があります。さらにシステム面でも、海外のカード発行基盤を日本で展開しようとしていたTISとの接点が生まれ、カードを発行するための環境が少しずつ整っていきました。創業時から、一貫して「バンドルカード」を目指していたわけではありません。新しい事業に挑戦し、そこで見つかった課題を一つずつ乗り越えながら事業の形を変えていった。その積み重ねの先に、2016年の「バンドルカード」のリリースがありました。前編では、カンムが展開する4つの事業や、八巻氏が金融領域で起業するに至った背景、そして「バンドルカード」誕生までの試行錯誤について、お話を伺いました。後編では、YouTuberとの取り組みを転機とした「バンドルカード」の成長や、AIを活用したマネジメントの実践、10周年を迎える「バンドルカード」の今後とMUFGグループ参画後の事業展望について、お話を伺った。八巻 渉/慶應義塾大学を卒業後、2011年に株式会社カンムを設立。2016年にアプリから1分で作れるVisaプリペイドカード「バンドルカード」をリリース。2026年7月には1500万インストールを突破。2022年3月に第二種金融商品取引業を取得し、同6月に「手元の資産形成に活用できるクレジットカード」Poolをリリース。2023年3月に株式会社三菱UFJ銀行と資本業務提携を実施。2025年より、「サクっと資金調達」等、法人向けキャッシュフローソリューションの提供開始。【会社概要】会社名株式会社カンム設立2011年1月代表取締役八巻 渉所在地東京都渋谷区恵比寿1丁目20-18 三富ビル新館 4階