インタビュイー:株式会社カンム 代表取締役 八巻 渉様株式会社カンムは、「お金の新しい選択肢をつくる」をミッションに掲げるフィンテック企業である。主力事業として、アプリから最短1分で発行できるVisaプリペイドカード「バンドルカード」を提供している。「バンドルカード」は2016年9月のサービス開始以来、累計1,500万ダウンロードを突破し、2026年9月に10周年を迎える。2023年には三菱UFJ銀行と資本業務提携を結び、MUFGグループの一員となった。同社を率いるのは、代表取締役の八巻 渉代表。中学生の頃からエンジニアを志し、大学との産学連携から生まれたベンチャー企業でデータ解析に携わったのち、2011年に株式会社カンムを創業した。エンジニアとしての知見を活かして、サービスの設計に自ら携わりながら、個人向けサービスから法人向けサービスへと事業領域を広げてきた。後編では、株式会社カンム 代表取締役 八巻渉氏に、YouTuberとの取り組みを転機とした「バンドルカード」の成長や、AIを活用したマネジメントの実践、10周年を迎える「バンドルカード」の今後とMUFGグループ参画後の事業展望について、お話を伺った。 YouTuberへの依頼で変わった、バンドルカードの成長軌道リリース当初、ユーザー獲得に苦戦した「バンドルカード」。竹下通りでの街頭施策をはじめ試行錯誤を重ねるなか、YouTuberとの取り組みがサービスを大きく成長させる転換点となった。八巻代表:「バンドルカード」は、現在でこそ多くの方に利用していただいていますが、リリースして最初の半年ほどは、ユーザーをどう増やしていくかに苦労しました。リリース当初は月に1000人ほど登録していただければいいという状況で、とにかく思いつくことは何でも試していました。その一つが、原宿の竹下通りでの街頭施策です。当時は、クレジットカードを持てない未成年の方にニーズがあるのではないかと考えていたので、竹下通りにブースを出し、その場でバンドルカードをつくっていただいた方にキャッシュバックをお渡しするという取り組みを行いました。ただ、実際にやってみると簡単ではありませんでした。当時はスマートフォンの通信環境もいまほど良くなく、通信速度が遅いため、アプリを入れてカードを発行するまでに1人15分ほどかかることもありました。結局、その日につくっていただけたのは100人もいなかったように思います。2,000部ほど用意したパンフレットも、自分達で何時間もかけて封入しました。それだけ手間をかけても、オフラインで一人ひとり獲得していく方法では、事業を大きくしていくのは難しいと感じました。そのなかで大きな転換点になったのが、当時広がり始めていたYouTuberの方にバンドルカードを紹介していただく取り組みです。若いYouTuberの方に「バンドルカード」の紹介をお願いしたところ、1本の動画から1万人以上登録していただくことができました。竹下通りで一人ずつカードをつくっていただいていた頃とは、まったく違う結果でした。成功した要因は、若い方に向けて発信しているYouTuberと当時想定していたユーザー層との相性が良かったことに加えて、金融という商材の特徴も大きかったと思います。金融は、基本的に信用が重要な商材です。知らない人から紹介された金融サービスは警戒されやすいですが、普段から見ていて信頼している人が紹介していれば、受け入れていただきやすい。さらに動画であれば、カードのつくり方や使い方まで具体的に見せることができます。そこで、「知っている人が動画で紹介する」という形がバンドルカードには合っていると分かり、それ以降は毎月のようにYouTuberの方へ紹介をお願いするようになりました。そこから登録者数の桁が大きく変わり、バンドルカードは一気にユーザーを増やしていきました。事業成長を支える、AIを前提としたマネジメントの再設計バンドルカードの成長とともに、カンムの事業領域も個人向けから法人向けへと広がってきた。事業をさらに拡大していくうえで、八巻代表が向き合っているのが、組織とマネジメントのあり方である。八巻代表:いま、自分の直下のメンバーについては、人事評価の一部にAIを取り入れています。まずAIに評価を出してもらい、その内容を私が確認したうえで、「ここは違う」「ここはまだ足りない」といったフィードバックを加えていく形です。実際に使ってみると、AIが出してくる評価は網羅性が高く、客観性という点でも優れていると感じています。そこに私自身の判断を加えることで、かなり納得感のある評価になります。すべてを人が一から整理する必要はなく、AIに任せられる部分は想像以上に大きいと感じるようになりました。これは、人事評価だけの話ではありません。マネジメントでは、メンバーが何をしているのかを把握するだけでも多くの時間を使います。日々の情報をAIが集約し、必要な形に整理してくれるようになれば、マネージャーが情報収集そのものに費やす時間は大きく減らせます。そうなれば、1人がマネジメントできる人数も変わってきます。現在であれば数人、十数人を見ているところを、1人で30人、40人と見られる可能性もある。組織が拡大したときだけでなく、M&Aによって新しい組織が加わった際のPMIまで考えると、AIを前提にマネジメントの仕組みをつくれることは、一つの強みになると思っています。こうしたことを自分で試しやすいのは、エンジニアとしての経験に加えて、社長という立場も関係しています。仕組みそのものを自分でつくれますし、社内のさまざまな情報にもアクセスできる。どこまでAIに任せられるのかを、自分自身で検証しながら仕組みに落としていける点は大きいと思います。一方で、マネジメントのすべてをAIに置き換えられるとは考えていません。メンバーの成長を支援することや、モチベーションに向き合うこと、組織の根幹となるミッションを定めることは、依然として人が担う必要があります。人間関係から生じる問題も、AIを導入すれば解消されるわけではありません。だからこそ、重要なのはAI化そのものではなく、AIによって何を手放し、その分どこに時間を使うのかだと思っています。情報の把握や整理といった部分はAIに任せる。その一方で、人と向き合う必要がある場面には、これまで以上に意識して時間を使う。AIを前提にマネジメントを組み直すことで、組織のあり方そのものも変えていけると考えています。10周年を起点に、「お金の新しい選択肢」をさらに広げる<出展:https://team.kanmu.co.jp/mufg >最後に、今後の展望と三菱UFJ銀行との資本業務提携について、お話を伺った。八巻代表:「バンドルカード」は、2026年9月にサービス開始から10周年を迎えます。この節目に合わせて、現在進めているのが「Re: バンドルカード」というサービス刷新のプロジェクトです。「お金の選択肢が自然につながる体験へ」という考え方のもと、決済を起点に、日常のお金にまつわる体験を、より自然で使いやすく、わかりやすいものへと広げていくことを目指しています。その第一弾として、個人ユーザーの資金ニーズに柔軟に応える貸付サービス「バンドルカードローン」の提供を開始しました。さらに7月には、これから発生する予定の支出も踏まえて、「いま使えるお金」を把握しやすくする新機能を追加しています。目指しているのは、目の前の残高だけを見るのではなく、この先に控えている支払いまで含めて、自分が使えるお金を把握できる状態です。将来の支出をその都度頭の中で計算しなくても、先々のお金の見通しを持てるようにする。バンドルカードを単なるプリペイドカードにとどめず、日常のお金にまつわる様々な場面で自然に利用できるサービスへと発展させていきたいと考えています。こうした事業の拡張を支えるうえで、大きな意味を持ったのが、2023年3月の株式会社三菱UFJ銀行との資本業務提携でした。当社は以前からIPOを目指しており、その方針はいまも変わっていません。一度は上場が現実的に見えてきた時期もありましたが、市場環境の変化などもあり、事業でのシナジーがある企業に安定株主として入っていただくことも選択肢の1つとして考えていました。今後、当社が注力していくBtoB領域には、多くの運転資金を必要とする事業があります。事業を大きくしていくためには、それに耐えうる財務基盤も欠かせません。そうした当社の考えと先方のニーズが重なり、MUFGグループへの参画を決めました。この提携によって、ベンチャー企業としてのスピード感や機動力を保ちながら、資金調達の選択肢を広げることができました。同時に、幅広い金融サービスを提供する企業へと事業領域を広げていくうえで、リスク管理やコンプライアンスの基準を、メガバンクが求める水準へと引き上げていくことも重要でした。財務面だけでなく、金融事業を継続的に拡大していくための組織基盤を整えるという意味でも、MUFGグループへの参画は大きな転機だったと考えています。もちろん、MUFGグループの一員になったからといって、必要な資金をすべてグループに頼れるわけではありません。だからこそ、当社自身が独立した上場企業となり、事業の成長に必要な運転資金を自ら確保できる体制をつくる必要があります。できるだけ早くその状態に到達し、財務基盤をさらに強くしていく。そのうえで、個人向け・法人向けの双方で提供できる金融サービスの幅を広げていくことが、これからの当社にとって重要なテーマだと考えています。編集後記今回は、株式会社カンム 代表取締役 八巻渉氏にお話を伺いました。お話全体を通じて印象に残ったのは、最初から完成形を決めるのではなく、まず試し、その結果をもとに次の打ち手を考えていく姿勢です。事業づくりにおいても、その後のマーケティングにおいても、仮説を実際に動かし、そこから得られた気づきを次の挑戦につなげていくという考え方が、お話の随所から感じられました。事業を成長させるうえで大切なのは、最初から正解を見つけることではなく、試した結果から何を読み取り、次の判断につなげられるかということなのだと学ばせていただきました。八巻 渉/慶應義塾大学を卒業後、2011年に株式会社カンムを設立。2016年にアプリから1分で作れるVisaプリペイドカード「バンドルカード」をリリース。2026年7月には1500万インストールを突破。2022年3月に第二種金融商品取引業を取得し、同6月に「手元の資産形成に活用できるクレジットカード」Poolをリリース。2023年3月に株式会社三菱UFJ銀行と資本業務提携を実施。2025年より、「サクっと資金調達」等、法人向けキャッシュフローソリューションの提供開始。【会社概要】会社名株式会社カンム設立2011年1月代表取締役八巻 渉所在地東京都渋谷区恵比寿1丁目20-18 三富ビル新館 4階