インタビュイー:株式会社河野組 代表取締役 河野 将弥様 巨大な製鉄所プラントや100メートルを超える高層煙突など、老朽化した産業インフラの撤去を担う「特殊解体」。火災や爆発の危険、構造物の劣化による倒壊リスクなど、常に命と隣り合わせの現場で高度な技術と緻密な判断が求められる領域である。愛知県津島市に本拠を置く株式会社河野組は、こうした高難度の特殊構造物解体を主軸に実績を重ねてきた企業だ。2018年に代表取締役に就任した河野将弥氏は、創業者である兄の情熱を受け継ぎながら、それを具体的な戦略へと落とし込み、組織としての成長を推し進めている。多能工による合理的な現場運営や、現場の品質そのものが信頼を生む営業哲学は、同社の大きな強みとなっている。本編では、株式会社河野組 代表取締役 河野将弥氏に、 河野組の事業内容や多能工による合理的な現場運営、現場そのものが信頼を生む営業哲学について、お話を伺った。「解体」で社会を再生する―特殊解体に挑む河野組の使命まず、河野組の事業内容とその特徴について、お話を伺った。河野代表:河野組が手がけているのは、化学工場や製鉄所のプラント設備、発電所の高層煙突といった、国内でも有数の規模と難易度を誇る特殊構造物の解体です。こうした老朽化した産業インフラの解体現場には、経年劣化による倒壊リスクだけでなく、内部に残存する特殊な薬品やガソリンによる火災・爆発リスクなど目に見えない脅威もはらんでいます。例えば国内大手製鉄所の高炉解体などは設備や構造物の高さが80メートルを超える規模になりますし、火力発電所のボイラー設備も40メートルを超えるものがあります。また、煙突であれば150メートルから200メートルに及ぶものもあります。こうした設備の解体は、一般的な建物解体とは、対峙する物理的規模も、求められる安全管理のレベルもまったく異なります。 建物を作る建設の場合、完成に近づくにつれて安全性が高まっていくものです。しかし解体はその逆です。老朽化し、鉄が錆びて強度が落ちているものを扱うため、作業を進めるほどに危険度が増していきます。 製油所のように火気使用が制限される現場では、一瞬の判断ミスが大きな重大事故につながる可能性があります。こうした、命に関わる厳格な作業を完遂するからこそ、私たちの仕事には一般的なイメージをはるかに超える意義が伴うと考えています。解体業は「壊して終わり」の作業だと世間では思われがちですが、実際は正反対の仕事です。新しい産業や暮らしが芽吹くための土壌を整える、『社会インフラの再生産』を担う誇り高い仕事とも言えます。100メートル級の高所で行う緻密な溶断作業や、一分の隙も許されない安全管理。その一つひとつの積み重ねが、安全に更地を明け渡し、次の新しい社会を創るための強固な土台になります。特殊解体という領域で、誰にも真似できないクオリティを追求することこそが、私たちの存在意義だと確信しています。多能工という武器―特殊解体を支える河野組の職人育成特殊解体の現場において、同社が圧倒的な優位性を保っている背景には、一人の職人が複数の専門技能をプロレベルで使い分ける「多能工」としての育成方針がある。河野代表:当社の最大の特徴であり強みは、高度な専門性を備えた「多能工」が揃うプロ集団であることです。一人の従業員が足場、重機、ガス溶断といった複数の業務を、すべてプロレベルで完遂することが可能です。こういった高い技能を持つ人材が層として厚く揃っていることこそが、私たちの最大の強みとなっています 。 わかりやすい例が、マンションやアパートの解体です。建物は上階から順に解体していきますが、1フロア解体が終わるたびに、建物の周囲を囲っている安全用の足場も一段ずつ下げていく必要があります。一般的な解体現場では、重機オペレーターは「重機を操作する人」、足場職人は「足場を組む人」といった形で、役割が完全に分業化されています。そのため、足場職人が足場を組み替えている数時間のあいだ、重機オペレーターは作業ができず、待機するしかありません。これが解体業界では当たり前とされてきたやり方です。しかし、この仕組みでは、前の工程が終わるまで次の職人が待つことになり、現場には大きな非効率が生まれてしまいます。そこで私たちは、この待ち時間を経営上の大きな損失だと捉え、徹底的になくすことに取り組みました。河野組の職人は、重機を降りればそのまま足場の解体も行えますし、必要に応じて自ら火気作業を行い、複雑な鉄骨構造を溶断することもできます。全員が現場全体の工程を理解しながら動くため、本来であれば1日かかる工程を、半日で終わらせてしまうような圧倒的なスピードが生まれます。さらに、この体制の価値は単なる効率化にとどまりません。効率化によって生まれた「空いた時間」を、私たちは現場内での教育の時間に充てています。現場が早く終われば、本人の拘束時間が短くなるだけでなく、先輩が後輩に直接技術を伝える機会も自然と増えていきます。こうして確保された教育の時間こそが、高い技能を持つ職人を層として育ててきた土壌であり、創業以来一度も売上を落とすことなく成長を続けてきた河野組の原動力だと考えています。そしてそれは、私たちが掲げる将来の大きな目標を支える、揺るぎない背骨でもあるのです。誠実な現場が次の仕事を呼ぶ―河野組の現場哲学河野組では、あえて案件獲得のための営業職を設けていない。社員の多くが現場の最前線に立ち、その立ち振る舞いと仕事の品質そのものが次の依頼を呼び込み、国内各地からの大規模案件へとつながっている。河野代表:当社には営業部門がありません。私たちにとって最大の営業活動は、現場で安全・品質・工程を徹底し、「さすが河野組だ」と思っていただく仕事を積み重ねることだと考えているからです。会長を務める兄はいまも第一線の現場に立ち、若い世代への技術指導に情熱を注いでいます。兄は、椅子に座って数字を管理するよりも、現場で若手を育てたいという生粋の技術者です。私自身も可能な限り全国の現場を回り、職人たちが置かれている状況を自分の目で確かめるようにしています。経営陣が現場の最前線を理解し、同じ目線で安全を共有する。こうした現場との一体感が組織の士気を高め、結果として顧客満足につながっていくのだと思います。現場で特に大切にしているのが、「美意識」です。解体業の現場には「汚い」という世間のイメージが根強くあります。だからこそ私たちは、「建設業界のどの現場よりも綺麗にする」ことをモットーに掲げています。工具の配置一つ、休憩所の清掃一つに至るまで整理整頓を徹底する。現場にゴミ一つ落ちていない、その規律正しい姿を見て、工場主の方やゼネコンの担当者が「次も河野組に任せたい」と感じてくださる。営業トークで飾るのではなく、現場そのものを見てもらい、言葉抜きで選んでいただく。泥臭いかもしれませんが、それが最も確実な営業だと信じています。そして会社として、何より「正直」でありたいと思っています。もちろん、コンペで負けることもあります。その際も「価格の問題だった」と片付けるのではなく、技術提案のどこに不足があったのかを全員で徹底的に振り返る。次に向けて精度を高めていくのは、真摯な反省があってこそです。解体は、ただ壊す仕事ではありません。そこから新しい社会や産業が生まれるための土台を整える、誇り高い再生産の仕事です。誇りある立ち振る舞いが、また次の信頼へとつながっていく。全国各地から指名をいただけるようになったのは、近道を選ばず、現場に誠実であり続けてきたことへの一つの答えが、ようやく形になってきたからだと感じています。前編では、同社の事業内容や多能工による合理的な現場運営、現場そのものが信頼を生む営業哲学について、お話を伺いました。後編では、100億宣言への想いや同社の育成哲学、今後の展望について、お話を伺っていきます。河野 将弥/高校卒業後、建設業界に身を投じ、現場の最前線において施工業務に従事。実務を通じて施工管理および安全管理の基礎を培う。その後、遊技機関連設備の設置・販売事業に携わり、事業統括として組織運営および事業マネジメントに従事。2018年4月、株式会社河野組入社。同年12月、代表取締役に就任。【会社概要】会社名株式会社河野組設立2011年7月14日代表取締役河野将弥事業内容石油関連施設解体工事、電力関連施設解体工事ガス関連施設解体工事、化学関連施設解体工事環境設備関連施設解体工事、ビル・マンション解体工事、大規模修繕工事所在地本社 愛知県津島市百島町字中割2番地1KAWANOビル1FサイトURLhttps://kawano-gumi.com/