インタビュイー:株式会社こんにちハロー 代表取締役CEO 早見星吾様 / 取締役COO 早見泰弘様 / 執行役員CSO 早見泰星様株式会社こんにちハローは、「世界への架け橋、あなたの声で」を掲げ、話者本人の声・口の動きを保ったまま他言語化する動画翻訳サービスを提供している。AIの進化により翻訳は身近になったものの、“伝えたい想い” をそのまま届けることは依然として難しい。同社は、その最後の壁を取り払おうとしている。創業の原点には、早見星吾CEOが生まれ育った築地場外市場で目にした光景がある。外国人観光客が年々増える一方で、職人たちは「こだわり」や「想い」を十分に伝えられない。「伝えたい想いが言葉の壁に阻まれる現実」そのもどかしさが、こんにちハロー誕生の出発点だった。同社の最大の特徴は、生成AIによる高速な映像・音声翻訳に、人の繊細な感性を掛け合わせる”AI×人”のハイブリッドモデルにある。AIが動画を翻訳し、話者の口の動きに合わせて他言語版を自動生成。そのうえで、ネイティブの翻訳者が意味の細部や文化的なニュアンスを確認し、クリエイターが口の動きのズレや発音の違和感を丁寧に修正する。こうした工程により、AIのスピードと人の品質を両立し、高精度・低価格・短納期を実現している。対応言語は英語・中国語・韓国語をはじめ、アラビア語やベトナム語など37言語に及ぶ。登録スタッフはプロの翻訳者及びネイティブや留学生を含め約700名。飲食店・ホテル・旅館・医療機関・教育現場、さらに映画・アニメといったエンターテインメント分野まで、幅広い領域で導入が進んでいる。創業の原点やサービスにこめる想いについて伺った前編に続き、創業から1年余りで動画翻訳サービスの新たな道を切り開いた、株式会社こんにちハロー・代表取締役CEO・早見星吾氏、父である取締役COO・早見泰弘氏、兄である執行役員CSO・早見泰星氏の3名に創業当時のエピソードや今後の展望、起業を目指す人へのメッセージについてお話を伺った。築地市場の路地から世界へ。学生起業家が足で稼いだ「ゼロからイチ」の1カ月創業直後の学生ベンチャーは、どのようにして最初の信頼をつかんだのか。その答えは、机の上ではなく、築地の路地にあった。スマートフォンを片手に毎日築地市場を歩き回り、無料で動画を作り続ける。その“足で稼いだ1カ月”が、こんにちハローの飛躍の原点になっている。早見星吾CEO:起業して最初の1カ月、私は兄の泰星と共に、ほぼ毎日築地市場を歩き回っていました。まだ駆け出しの、実績も知名度もない学生ベンチャーにできることは、自分たちの足で信頼を築くことだけでした。スマートフォンを片手に「無料で構わないので、一度動画を作らせてください」と一軒ずつ商店を回り、撮影と翻訳、動画生成を繰り返しました。最初に応じてくれたのは、私の伯父が営む干物屋でした。伯父本人の声と口の動きをAIで再現し、英語と中国語で紹介動画を作ったところ、その仕上がりを見た周囲の店舗から「うちもお願いしたい」という声が次々と届きました。築地は古くからの信頼関係で成り立つ街です。「あのお店がやっているなら安心だ」と口コミが広がり、やがて20本、30本と動画の制作依頼が増えていきました。魚屋、包丁店、寿司屋など、業種は異なっても共通していたのは、自分の言葉でお客様に伝えたいという切実な想いでした。私たちがやろうとしているのは、技術の提供ではなく“伝える力の再現”なのだと、この時に実感しました。完成した動画をスマホでお見せすると、どのお店の方も目を輝かせて喜んでくれました。「本当に自分が英語を話しているみたいだ」「これをGoogleマップに載せたら、もっと外国人に伝わるね」と笑顔で言ってくださる。その反応が、大きな励みになりました。地元の店主たちが心から喜んでくれたことが、“この事業は必ず意味がある”という確信につながったのです。築地の路地裏で撮影を続けた、あの1カ月がすべての始まりでした。足で稼いだ信頼が、こんにちハローのゼロからイチを形づくったのです。尚、この頃は、翻訳作業も私たち自身が手掛けていました。英語は私が担当し、中国語や韓国語は大学の友人や留学生が協力してくれました。東大には帰国子女や短期留学中の学生が多く、彼らの語学力が大きな支えになりました。学生ベンチャーである私たちにとっては、人とのつながりこそが最大の資産であると、かみしめる日々でした。実績が実績を呼ぶ。築地発スタートアップがつかんだ飛躍のチャンスこんにちハローを設立した当初、顧客は築地の個人店ばかりだった。しかし、ある展示会への出展をきっかけに、同社は一気に広い業界へと踏み出すことになる。築地で積み重ねた“実例”が、事業を次のステージへと押し上げた瞬間だった。早見星吾CEO:築地での活動を通じて一定の事例が揃った頃、私たちは次のステップとして展示会に出展することを決めました。初めて出店したのはAIベンチャーが集まるイベントで、母や妹にも手伝ってもらい、まさに家族総出で対応し来場者の反応に手ごたえを感じました。次に出展したのは、観光DXをテーマとしたイベントです。ちょうどコロナ禍が落ち着き、観光業界が再び動き出した時期でした。ホテルや旅館、飲食店などがインバウンド需要の再開に備えるなか、私たちのAI×人による他言語動画翻訳というテーマは、まさに時代の空気にぴたりとはまったのです。ブースを構えると、想像を超える反響がありました。築地で撮影した商店街の動画を流すと、立ち止まる人が途切れません。「この自然な口の動きはどうやって再現しているのですか?」「本人の声で別の言語を話すのですか?」そんな質問が次々に飛び交いました。AIの仕組みだけでなく、”町の店主が自分の言葉で世界に語る”というストーリーが、来場者の心を動かしたのだと思います。その結果、ブースの前には名刺交換を求める人の列ができ、私たちにとって忘れられない光景となりました。この展示会をきっかけに、ホテル、旅館、観光施設、飲食チェーンなど、さまざまな業界の方々と具体的な商談が始まりました。築地の小さな商店で生まれたアイデアが、観光現場で役立つ実用的なソリューションとして受け入れられた瞬間でした。この経験を経て、私たちは企業向けの体制を整備する必要性を痛感しました。個人店向けの案件では、私たちが企画から納品まで一貫して対応していましたが、大企業では求められる基準がまったく違います。翻訳の正確性はもちろんのこと、ブランドのトーンやメッセージの整合性、映像クオリティへのこだわりなど、細部への配慮が必要になります。そこで私たちは、制作体制をさらに強化しました。まずAIで翻訳・生成を行い、次に翻訳者によるチェック翻訳をした後、お客様の確認を重ねる。さらに必要に応じて字幕や話者の追加、映像補正などをオプションとして用意し、基本料金を変えずに柔軟に対応できるようにしました。こうして、個人商店から始まった小さな取り組みが、ホテル・旅館・エンタメ企業・メディアといった大きなフィールドへと広がっていきました。一つの成功が次の信頼を呼び、信頼が新しい扉を開く。こんにちハローの成長は、このシンプルな循環の上に成り立っています。あなたの声のまま世界へ。早見星吾CEOが描く、AIと人が共に拓く未来創業からわずか1年半。株式会社こんにちハローは、AIと人の協働による“本人の声のまま伝える”動画翻訳で新たな市場を切り開いた。早見星吾CEOが見据えるのは、世界中の人が「自分の声」で想いを届けられる未来。そのビジョンと、起業を志す人へのメッセージに迫る。早見星吾CEO:将来的な目標を一言で表すなら、字幕でも吹き替えでもない“第三の選択肢”を当たり前にすることです。映像翻訳は長い間、字幕か吹き替えの二択しかありませんでした。しかし私たちは、話者本人の声と口の動きをそのままに、自然な他言語表現で伝えるという第三の道を提示しています。配信プラットフォームの言語設定で、“本人の声で他言語再生”という選択肢が並ぶ未来を、私は本気で実現したいと考えています。その実現のためには、会社の名前を広めることよりも、この技術そのものを世の中に浸透させることが重要だと感じています。こんにちハローの仕組みを他社でも利用できるよう、OEMや共同開発といった形での提携も積極的に進めています。目指しているのは独占ではなく、社会全体の底上げです。言葉の壁を越えられる人が増えれば、世界のコミュニケーションの質は確実に変わる。私たちは、AIの力で人の想いを増幅し、誰もが“自分の声で世界とつながる”時代をつくっていきたいと考えています。これから起業を目指す人に伝えたいのは、常にアンテナを高く張り、出会いを大切にすることです。私がこの事業を始められたのは、築地で感じた課題意識と、シリコンバレーで出会ったAI技術が偶然に結びついたからです。けれども、その偶然は待っていて起きたわけではありません。日常の中で課題を探し、興味を持ったことに飛び込み、出会いを重ねてきたからこそチャンスを掴めました。現在では多くの大学でアントレプレナーシップ講座や起業支援プログラムが整備され、ビジネスコンテストも活発に行われています。情報は探せば必ず見つかります。だからこそ重要なのは、アンテナを高く張り続け、出会いを自分の行動につなげることです。私のように、課題と解決策が偶然出会って起業に至る人もいますが、その偶然は”動いている人”にしか訪れません。アンテナを高く張り、出会いを大切にし、自分の中に“火がつく瞬間”を逃さないでください。その瞬間こそが、挑戦のはじまりなのです。インタビュー後記早見星吾氏・泰星氏・泰弘氏のインタビューを通じて、三人がそれぞれの強みを生かしながらこんにちハローを前進させていることを強く感じました。星吾氏の発想力とAIに対する深い知識、泰星氏の確かな営業力、そして泰弘氏の豊富な経営経験が有機的に結びつき、家族という枠を超えたチームとして相乗効果を生み出しています。築地市場の個人商店を相手に始まった事業が、いまや大企業とも取引を行うまでに成長したこんにちハロー。今後どのような展開を見せるのか非常に楽しみです。本記事が、読者の皆様にとって新しい挑戦への一歩を決断するきっかけとなれば幸いです。