インタビュイー:コトバリスタ株式会社 代表取締役 西川敏矢様2013年に創業されたコトバリスタ株式会社は、「いつでも、どこでも、誰でも」を企業理念に掲げ、音声メディアを軸に多様なコミュニケーションをデザインする制作会社である。同社の中核を成すのは、ラジオ番組やポッドキャストをはじめとする音声コンテンツの制作事業だ。単なる制作受託にとどまらず、スポンサーの開拓から放送枠の確保までを一貫して担う独自のビジネスモデルを構築しており、出演者と放送局の双方に価値をもたらす仕組みを実現している点に強みがある。こうした音声領域への深い知見は、社内コミュニケーションを活性化する「社内ラジオ」や、個人の人生や想いを“声”で残す「継ぐラジ」といった、新たなサービスにも展開されている。音声の可能性を広げながら、現代社会におけるコミュニケーションの課題解決にも挑んでいる点は、同社ならではの特徴といえる。本編では、コトバリスタ株式会社 代表取締役 西川敏矢氏に、起業を決意した転換点や今後の展望について、お話を伺っていく。放送局という「箱」を飛び出して。西川代表を起業へ導いた現場の衝撃<歌手 中西圭三さんとのお写真>放送局の社員として働く中で、「自分の声を発信したい」という人々の熱い想いと、組織の閉塞感のはざまで葛藤していた西川代表。そんな彼の価値観を大きく揺さぶったのが、とある生放送の現場で目にした光景だった。西川代表:起業する前、私はFM立川・中央エフエムの正社員として働いていました。平日はお昼の帯番組でDJを務め、放送が終われば他の番組の制作や編集に回る。多忙ではありましたが、充実した日々を送っていました。そうした中で、次第に私のもとには「ラジオに出たい」「自分の番組を持ちたい」という熱量を持った人たちの声が届くようになりました。しかし、局員としてその想いを形にしようとすると、想像以上に分厚い「組織の壁」に突き当たります。当時の放送業界には、変化を忌避する空気が少なからず漂っていました。これほど熱い想いを持つ人たちがいるのに、なぜ受け皿になれないのか。放送局も出演者も、もっと幸せになれる仕組みがあるはずだ。そんな「もったいない」という違和感が、私の中で次第に大きくなっていきました。私の固定観念を根底から揺さぶったのは、ある放送作家に誘われて見学したJ-WAVEの生放送の現場でした。洗練されたスタジオで最前線のクリエイティブに触れた私は、「やはり放送局の方々はかっこいいですね」と、羨望を込めて感想を漏らしました。ところが、そこで知らされた事実は予想外のものでした。現場で番組を動かしているスタッフの多くは放送局の社員ではなく、外部の制作会社に所属するプロフェッショナルたちだったのです。そのとき私は、組織の論理に縛られず純粋に面白いことを形にするという自分の理想は、必ずしも放送局という「箱」の中で実現する必要はないのだと気づきました。それまでの私は、「放送局という組織の中で何ができるか」という内向きの思考に囚われていました。しかし、組織の外で実力を武器に番組づくりに挑む人たちの姿を目の当たりにしたことで、私の中に初めて「起業」という明確な選択肢が生まれました。この経験こそが、現在のコトバリスタへと続く最大の転機となったのです。放送のプロをファンに変えた、妥協なきクオリティ<コメディアン 小松政夫さんとのお写真>コトバリスタ誕生の決定的なきっかけは、あるスナックのママが漏らした「群馬でラジオをやりたい」という一言だった。実績もコネクションもない状態から始まった挑戦は、放送局からの門前払いというスタートだった。そんな中、西川代表が示したのは、徹底した番組制作と、プロとして妥協のない圧倒的なクオリティだった。西川代表:起業の具体的なヒントを得たのは、2012年頃、たまたま親しくなったスナックのママとの会話でした。彼女は群馬県出身の演歌歌手でもあり、「地元でラジオをやりたいけれど、放送のたびに群馬まで通うのは大きな負担になる」とこぼしたのです。その瞬間、私の中に一つのアイデアが閃きました。東京で収録し、その音声データを群馬の放送局へ送ればいいのではないか。場所の制約を越えて声を届ける。この発想こそが、現在のビジネスモデルの原型となりました。しかし、現実は簡単ではありません。実績のない個人の持ち込み企画を、地方の放送局が簡単に受け入れてくれるほど甘い世界ではないのです。そこで私は、地域密着型のまえばしCITYエフエムに狙いを定め、アプローチを始めました。最初は電話をしても断られ、窓口にすらつないでもらえない日々が続きました。数ヶ月後、私はアポなしで現地を訪れ、ようやく局長に会うことができました。しかし返ってきたのは、「まずはあなたの制作力とDJとしての実力を、自分の番組で証明しなさい」という厳しい条件でした。そこから1年間、私は毎週欠かさず自分の音楽番組を制作し、前橋へ送り続けました。本業である放送局の仕事をこなしながらの制作でしたが、一切の妥協を許さず、持てる技術のすべてを注ぎ込みました。番組の核に据えたのは、一人のアーティストの半生を一枚のアルバムのように紐解くドキュメンタリーです。ヒット曲を流すだけではなく、歌詞の意味や言葉の背景を丁寧に読み解き、その人生の転機や物語までを描き出す。聴く人がそのアーティストを好きになり、生き方に勇気をもらえるような番組づくりを心がけました。そうして制作を続ける中で、ある日局長から思いがけない言葉をかけられました。「実は西川さんの番組、夜にドライブする時にも聴きたくて、内緒で深夜枠でも流しているんだよ」。そして局長は「これだけの実力があるなら、そのスナックのママさんの番組も任せるよ」と続けました。私の情熱が、ついにプロの心を動かした瞬間でした。こうして、最初の番組が実現しました。この1年間があったからこそ、放送局との間には金銭を超えた信頼関係が生まれました。独立が決まった際には、中央エフエムの局長から「今担当している番組は、すべて君の新会社で引き受けていい」とまで言っていただきました。泥臭い努力の末に手にしたこの「信頼」こそが、現在の私のビジネスを支える土台となっています。音声メディアの熱狂をもう一度。時代に即した変革と、次世代への継承<まえばしCITYエフエム 木村局長とのお写真>前橋での実績を認められ、ついに独立の時を迎えた西川代表。背中を押してくれた恩師との約束は、10年以上にわたる経営の揺るぎない支えとなった。変化を恐れず、かつて自身が抱いた「メディアへの憧れ」を、誰もが挑戦できる新たなフィールドへと進化させていく。西川代表:まえばしCITYエフエムでの1年間の取り組みを経て、私はようやく独立へと踏み出すことができました。門出を祝ってくれた局長は、私の決意を尊重しつつも、制作会社を経営し続けることの厳しさを誰より案じ、「もし3年事業を継続できたなら、銀座で一番の天ぷらをご馳走しよう」と発破をかけてくれました。その言葉を胸に刻み、無我夢中で駆け抜けた3年間。約束の日、私は銀座の天ぷら屋で局長と再会しました。彼は「西川くんなら必ずやり遂げると確信していたよ」と、まるで自分のことのように喜んでくれました。独立から10年以上が経った今も、局長とは半年に一度は酒を酌み交わし、私が経営するバーにも足を運んでくださいます。利害を超えた師弟の絆は、今も私の経営の柱となっています。現在、私が常に考えているのは、ラジオのスピリットをいかに次世代へつないでいくかということです。確かに広告媒体としての音声メディアは、動画やSNSといったデジタル媒体の台頭によって変化の波にさらされています。しかし、声にしかない「温度感」や、耳から伝わる「深い信頼」という価値は、決して失われていないと確信しています。これからの10年で、私は音声コンテンツをよりオープンで、誰もが憧れを抱く場所へと進化させていきたいと考えています。ウェブやSNSとのメディアクロスを加速させながら、地域の情報を丁寧に届けるコミュニティFMとしての役割も果たしていく。そして、若い世代が「ラジオの世界って、なんてキラキラして楽しそうなんだ」とワクワクできる舞台をつくりたいのです。そのワクワク感こそが、新しい才能を呼び込み、業界を未来へつないでいく原動力になります。私がかつて現場で感じたあの高揚感を、今度は自分がつくるコンテンツを通じて次の世代に届けたい。音声の持つ力を信じ、時代に合わせてその姿を変えながら、多くの人を巻き込んでいく。その挑戦の積み重ねが、音声メディアという豊かな文化を、より一層輝く未来へと導いていくはずです。インタビュー後記今回は、コトバリスタ株式会社 代表取締役 西川敏矢氏にお話を伺いました。 一つひとつの言葉を選び、相手に正しく届けようとする西川代表の語り口からは、長年マイクの前で培われてきた「伝えること」への圧倒的な責任感が伝わってきました。取材を終えて特に印象に残ったのは、声が持つ情報の密度です。文字や写真にはない、声に宿る力こそが人の孤独を癒やし、絆を紡ぎ直す。その確信に満ちた西川氏の眼差しから、音声メディアが果たすべき真の役割を学ばせていただきました。西川敏矢/中央大学卒業。大手エンターテインメント企業でキャリアをスタート。音楽・出版といった多様なコンテンツに触れる中で、「音楽」と「声」による表現の力に惹かれ、ラジオの世界へ。エフエム立川、中央エフエムにて朝・昼の帯番組DJを歴任。2013年に独立し、音声コンテンツの可能性を広げる活動を続けている【会社概要】会社名コトバリスタ株式会社設立2013年9月代表取締役西川 敏矢事業内容広告代理店コンテンツ制作群馬県みなかみ町 地域活性化事業飲食店経営所在地ミリスタ 東京都中央区新川1-21-1 茅場町タワーレジデンス2107サイトURLhttps://kotobarista.com/