インタビュイー:LINE Digital Frontier株式会社 代表取締役社長CEO 髙橋将峰様LINE Digital Frontier株式会社は、「LINEマンガ」「ebookJapan」という国内最大級の電子コミックサービスを展開する企業である。電子書籍サービスに加え、紙の書籍EC「bookfan」、さらには自社制作組織「LINEマンガ WEBTOON STUDIO」を通じたオリジナル作品制作にも取り組み、配信だけでなく、作品づくりそのものまで一気通貫で手掛けている点が大きな特徴だ。特に「LINEマンガ」では、「ここでしか読めない作品」を軸に、毎週780本を超えるオリジナル・独占作品の連載を展開。また、「LINEマンガ インディーズ」を通じてアマチュア作家の発掘・育成も行っており、テクノロジーによってマンガ文化の裾野を広げ続けている。代表取締役社長CEOを務める髙橋将峰氏は、ITコンサルティング会社でエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、2006年にヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)へ入社し、モバイル領域を中心に数多くのサービス立ち上げに携わった。のちに電子書籍事業を担当し、2019年には株式会社イーブックイニシアティブジャパン 代表取締役社長に就任。現在はLINE Digital Frontierの代表取締役社長CEOとして、マンガ文化の新たな可能性に挑み続けている。前編では、LINE Digital Frontier株式会社 代表取締役社長CEO 髙橋将峰氏に、国内No.1を支える独自の事業モデルや、エンジニアから新規事業開発へと転身したキャリアの原点、そしてマンガ事業へ本気でコミットしたいと考えるようになった背景について、お話を伺った。ITの力でマンガを「リデザイン」する。国内No.1を支える独自のエコシステム いまや国内トップの電子コミックサービスへと成長したLINEマンガ。その強さの核心は、単なるデジタル書店を超えた、作家育成から制作・配信までを一体化した独自のエコシステムにある。 髙橋代表:当社では、「LINEマンガ」と「ebookJapan」という2つの電子書籍サービスを軸に、紙の書籍EC「bookfan」、そして自社でのマンガ制作組織「LINEマンガ WEBTOON STUDIO」と、大きく4つの領域で事業を展開しています。メインとなるLINEマンガは、アプリ中心のサービスで、昨年のアプリ売上はゲームも含めた総合ランキングで年間1位を獲得することができました。また、ダウンロード数においても、現在日本国内1位となっています。ただ、そうした実績の背景にあるのは、規模の大きさだけではありません。私たちが最も大切にしてきたのは、「LINEマンガでしか読めない作品を作り続ける」という点です。マンガというコンテンツは、例えば『ONE PIECE』の1巻であれば、どこで買っても中身は同じです。そこには本質的な差別化がありません。だからこそ、ユーザーにLINEマンガを選んでもらうために、「ここにしかない作品」を作り続けることが創業当初からの一貫した考え方でした。現在、LINEマンガでは、オリジナル・独占作品の連載を毎週780本ほど展開しています。これが、他社との最大の差別化要因になっていると考えています。また、2016年から「LINEマンガ インディーズ」というサービスを運営しています。アマチュアの作家さんがマンガを投稿できるプラットフォームで、ユーザーの反応を見ながら、優れた作品については本連載へのスカウトを行っています。年間で4桁を超える作品が投稿されており、アマチュア作家にとっての登竜門として機能してきました。インディーズ出身の作品の中には、その後メディア化・映画化まで至った『先輩はおとこのこ』のような事例も生まれています。かつてマンガ家になるためには、限られた雑誌の狭き門を通るしか道がありませんでした。インターネットというプラットフォームを持ったことで、その裾野が大きく広がったと感じています。さらに近年は、制作そのものの仕組みも変えようとしています。それが分業制スタジオです。従来のマンガ制作は、作家が1人ですべての工程をこなし、売れてきた段階でアシスタントを付けるというスタイルが一般的でした。しかし、ウェブトゥーンはフルカラーが基本で、脚本・ネーム・着色といった工程を最初から分業するスタイルに適しています。分業制スタジオでは、脚本だけを書けるクリエイター、ネームは描けるが、脚本制作は得意ではないクリエイターなど、それぞれの得意領域を持つ方々に登録・契約していただき、作品ごとにチームを組んで制作にあたっています。これにより、マンガ家を目指せる人の間口がさらに広がり、質の高い作品を継続的に生み出す体制が整っていくと考えています。仕事は自分で創るもの。エンジニアから企画のプロへと導いた転機 ITコンサルティング会社のエンジニアとして、キャリアをスタートさせた髙橋代表。しかし、モバイルインターネット黎明期の挑戦を通じて、「何を作るか」を設計する面白さに惹かれていく。 髙橋代表:私は大学卒業後、ITコンサルティング会社でエンジニアとして働いていました。金融システムや基幹システム、SaaSのパッケージ開発など、大規模な開発案件に携わっていたのですが、次第に「何を作るか」を考える方に強く惹かれていきました。大きな転機になったのは、当時所属していた会社で、社内ベンチャー制度を提案したことです。インターネットバブルの時代でもあり、新しいサービスが次々に生まれていた時期だったこともあって、自分でもサービスを企画して立ち上げる経験をしました。その時に得た感動は、いまでも強く覚えています。仕事というのは、与えられたものをこなすだけではなく、自分で創ることができる。エンジニアとして、「仕様通りに作ること」が役割だと思っていた自分にとって、それは大きな価値観の転換でした。その後、モバイルインターネットの世界がさらに大きく変わっていきます。ソフトバンクによるボーダフォン買収をきっかけに、従来のキャリア主導型とは異なる、より自由度の高いモバイルサービスの可能性が一気に広がり始めました。私は、「これからモバイルが次の時代の中心になる」と感じ、2006年にヤフー株式会社へ入社しました。当時のヤフー株式会社は、これから本格的にモバイル領域を拡大していこうとしている時期で、まだ正解が決まっていないからこそ、新しい挑戦ができる余地が大きかったのです。そこで私は、モバイルを中心に、さまざまなサービス立ち上げに携わることになりました。その後は、ヤフーグループの中で電子書籍事業にも関わるようになっていきました。スマートフォンの普及によって、人々のコンテンツ接触体験は大きく変化し、電子コミック市場も急速に拡大していった時期です。電子書籍事業に携わる中で感じていたのは、「単に作品を配信するだけでは、サービスとしての価値は生まれない」ということです。どうすれば次の作品を読みたくなり、ユーザーの生活の中に自然に溶け込めるのか。そうしたユーザー体験の設計が、サービスの価値を大きく左右する。その感覚は、モバイルサービスを立ち上げ続けてきた経験ともつながっていました。その後、2019年には株式会社イーブックイニシアティブジャパンの代表取締役社長に就任し、電子コミック事業とより深く向き合うことになります。そして現在は、LINE Digital Frontierの代表取締役社長CEOとして、「LINEマンガ」や「ebookJapan」を通じて、マンガ文化そのものをどう進化させていけるかという挑戦に取り組んでいます。振り返ると、エンジニア時代から一貫して考えてきたのは、「テクノロジーを使って、どんな新しい体験を作れるか」ということだったように思います。その延長線上に、現在のマンガ事業もあるのだと感じています。人の心を動かす文化を、次の時代へ届けたい。いまにつながる少年時代の熱狂子どもの頃から夢中になってきたマンガ。髙橋代表の原体験は、その後の価値観や事業観に大きな影響を与えてきた。髙橋代表:私は、子どもの頃からマンガが大好きでした。『DRAGON BALL』をはじめ、ジャンプ作品には夢中になっていましたし、週刊誌もかなり幅広く読んでいました。毎週、新しい話を読むことが本当に楽しみで、「次はどうなるんだろう」と自然に作品の世界へ入り込んでいた記憶があります。当時は純粋に「面白いから読んでいる」という感覚でしたが、いま振り返ると、マンガから受け取っていたものは非常に大きかったと思っています。作品を通じて、自分の知らない価値観や生き方に触れることができましたし、感情を大きく動かされる経験も数多くありました。大人になってから、モバイルインターネットの世界で仕事をするようになり、iPhoneの登場によって、人々のコンテンツとの接し方が一気に変わっていく感覚を目の当たりにしました。ガラケーからスマートフォンへ変わり、いつでもどこでもコンテンツに触れられるようになった。その変化を現場で見続ける中で、私は、「本当に価値のあるコンテンツは、時代が変わっても残り続ける」と感じるようになったんです。その時に、自分の中で改めて存在感を増していったのが、マンガでした。子どもの頃、自分自身が夢中になり、多くのものを受け取ってきた文化だからこそ、「この体験は、これから先の時代にも必ず価値を持ち続ける」と自然に思えたんです。一方で、モバイルインターネットの世界は、常に変化し続けています。だからこそ私は、「いま自分がいる場所は本当に正しいのか」を、常に考えるようにしてきました。市場環境も、ユーザー行動も、想像以上のスピードで変わっていく。これまで成功してきたやり方に留まり続けていては、新しい価値は生み出せないという危機感が常にありました。そうした視点で見た時に、マンガという領域には、まだ大きな可能性が残されていると感じていました。スマートフォンによって、人々はいつでもどこでも作品に触れられるようになりましたし、テクノロジーによって、作品との出会い方や楽しみ方そのものを進化させられる余地も大きい。子どもの頃に夢中になっていたマンガという文化を、今度は事業という形で、さらに多くの人へ届けられるのではないかと思うようになりました。自分自身が長年親しんできたマンガ文化の可能性をもっと広げたい。子どもの頃、自分が作品から多くのものを受け取ったように、次の世代にも、新しい作品との出会いや熱中する体験を届けていきたい。その想いは、現在の事業にもつながっています。前編では、国内No.1を支える独自の事業モデルや、エンジニアから新規事業開発へと転身したキャリアの原点、そしてマンガ事業へ本気でコミットしたいと考えるようになった背景について、お話を伺いました。後編では、AIによる新しい作品体験の可能性や、未来を見据えた組織づくり、そしてマンガを「世界共通言語」へ広げるグローバル戦略について、お話を伺っていきます。髙橋将峰/2006年ヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に入社。その後、株式会社イーブックイニシアティブジャパン代表取締役社長に就任。2022年7月にはLINE Digital Frontier株式会社代表取締役CEOにも就任。【会社概要】会社名LINE Digital Frontier株式会社設立年2018年代表取締役社長CEO髙橋 将峰事業内容電子コミックサービス「LINEマンガ」、電子書籍販売サービスの「ebookjapan」、紙書籍オンライン販売サービスの「bookfan」の運営所在地東京都港区赤坂九丁目7番1号 ミッドタウン・タワー11F