インタビュイー:LINE Digital Frontier株式会社 代表取締役社長CEO 髙橋将峰様LINE Digital Frontier株式会社は、「LINEマンガ」「ebookJapan」という、国内最大級の電子コミックサービスを展開する企業である。電子書籍サービスに加え、紙の書籍EC「bookfan」、さらには自社制作組織「LINEマンガ WEBTOON STUDIO」を通じたオリジナル作品制作にも取り組み、配信だけでなく、作品づくりそのものまで一気通貫で手掛けている点が大きな特徴だ。特に「LINEマンガ」では、「ここでしか読めない作品」を軸に、毎週780本を超えるオリジナル・独占作品の連載を展開。また、「LINEマンガ インディーズ」を通じてアマチュア作家の発掘・育成も行っており、テクノロジーによってマンガ文化の裾野を広げ続けている。代表取締役社長CEOを務める髙橋将峰氏は、ITコンサルティング会社でエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、2006年にヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)へ入社し、モバイル領域を中心に数多くのサービス立ち上げに携わった。のちに電子書籍事業を担当し、2019年には株式会社イーブックイニシアティブジャパン 代表取締役社長に就任。現在はLINE Digital Frontierの代表取締役社長CEOとして、マンガ文化の新たな可能性に挑み続けている。後編では、LINE Digital Frontier株式会社 代表取締役社長CEO 髙橋将峰氏に、AIによる新しい作品体験の可能性や、未来を見据えた組織づくり、そしてマンガを「世界共通言語」へ広げるグローバル戦略について、お話を伺った。AIでマンガ体験をさらに豊かに。変化を成長に変える新たな挑戦LINE Digital Frontier株式会社は、AIを用いた新たなマンガ体験として、今年2月には「キャラチャット」を開始した。 髙橋代表:テクノロジーは、使い方次第で、人々の楽しみ方を大きく広げる可能性を持っています。例えば、現在取り組んでいるものの一つに、キャラクターとの対話体験があります。好きなキャラクターと会話できるだけで、ユーザーの作品への没入感は大きく変わります。従来は、「作品を読む」で終わっていた体験が、「キャラクターと時間を過ごす」という形へ広がっていく。その変化は、とても面白いと感じています。実際に、キャラクターと対話できる「キャラチャット」の取り組みについては、ユーザー様からも大きな反響をいただいています。キャラクターとの関係性の楽しみ方は、人によって本当に多様です。作品のストーリーを深く味わいたい方もいれば、キャラクターの日常に触れたい方もいる。AIによって、その楽しみ方の幅をさらに広げられる可能性があると感じています。また、AIの活用によって、読者との作品の出会い方も変わっていくと考えています。作品数が増え続ける中で、「自分に合った作品とどう出会うか」は、今後ますます重要になります。レコメンド精度を高めることで、ユーザー一人ひとりに合った作品体験を提供できれば、これまでマンガに触れてこなかった方にも、新しい入り口を作れるかもしれません。私は、テクノロジーの進化によって重要になるのは、「人の創造性をどう拡張できるか」だと思っています。効率化だけを目的にするのであれば、文化は豊かになりません。テクノロジーは、時代によって常に変化していきます。ただ、その中で変わらないのは、人が物語やキャラクターに心を動かされるという本質です。マンガを「読む」から、世界観を体験する時代へ。文化を拡張し続ける組織の挑戦マンガ文化を世界へ広げていくためには、「読む」だけに留まらない、新しい作品体験を生み出していく必要がある。その未来の実現のため、LINE Digital Frontier株式会社はマンガを起点とした新たな挑戦を見据えている。髙橋代表:私は、マンガという文化には、まだまだ大きな可能性が残されていると考えています。現在は「読む」という体験が中心ですが、これから先は、もっと多様な形で作品を楽しむ時代になっていくはずです。例えば、ショートムービーのような短尺コンテンツとして作品に触れる機会も増えていくでしょうし、人気作品から新しいスピンオフが生まれることもあると思います。マンガを入り口にしながら、さまざまな形で作品世界へ接続できるようになっていく。その流れは、今後さらに加速していくのではないかと感じています。実際、ユーザーのコンテンツ接触時間は年々変化しています。スマートフォンを通じて、短い時間の中で多くのコンテンツに触れる時代になりました。だからこそ、「どう届けるか」もアップデートし続ける必要があります。ただ、それは「マンガを別のものに変える」という話ではありません。本質は、魅力的な物語やキャラクターが存在していることです。その価値を、時代に合わせてどう広げていくか。そのために、ショートムービーやスピンオフ、さまざまな形でのIP展開が重要になっていくのだと思っています。私は、マンガには、人の感情を動かし、熱中させる力があると感じています。そして、その熱量は、一つの媒体だけで閉じるものではありません。作品に出会った人が、「もっとこの世界に触れたい」と思う。その接点を増やしていくことで、マンガ文化そのものは、さらに大きく広がっていくはずです。だからこそ私たちは、単なる電子コミックサービスに留まるつもりはありません。作品を届けるだけではなく、その先にある体験まで含めて、マンガ文化そのものをアップデートしていきたいと思っています。そして、その未来を実現するためには、組織そのものも変化し続けなければならないと考えています。市場環境やユーザー行動が、これだけ速いスピードで変化する時代では、「これまで成功してきたやり方」に固執していては、新しい体験は生まれません。だからこそ、LINE Digital Frontierでは、「もっとこうできるのではないか」「別の形にリデザインできないか」を、誰もが自由に考えられる組織でありたいと思っています。私は、「社長」という立場も、あくまで組織の中の一つの役割だと考えています。もちろん、経営者として意思決定をする責任はあります。ただ、それは役割の違いであって、人として偉いということではありません。そう考えるようになった背景には、昔から読んできた『課長島耕作』の存在もあるかもしれません。島耕作は、課長から社長へと立場が変わっていきますが、一方で、人としての在り方は大きく変わらない。役職が変わっても、必要以上に権威的にならず、フラットに周囲と向き合っていく。その姿勢に、私は強く影響を受けてきました。実際、新しいアイデアというのは、役職に関係なく生まれるものだと思っています。だからこそ、現場から出てくる感覚や発想を大切にしたいですし、「まずやってみよう」と言える空気を作ることが重要だと思っています。変化の大きい時代だからこそ、挑戦を止めない組織であり続けたい。そして、マンガという文化を、時代に合わせて進化させ続けたいと思っています。マンガを「世界共通言語」へ。国境を越えて現地の才能が芽吹く景色日本国内で圧倒的な存在感を持つマンガ文化だが、海外ではいまなお「子ども向けの娯楽」という認識が残る地域も少なくない。髙橋代表は、マンガが世界中で当たり前に親しまれる未来を見据えている。髙橋代表:私は、マンガには映画や音楽のように、「世界共通言語」になれる可能性があると思っています。実際、日本のマンガやアニメは、すでに世界中で多くのファンに支持されていますし、海外イベントなどを見ても、その熱量の高さを感じる場面は増えています。その一方で、海外ではいまでも「マンガは子ども向けの娯楽」という認識が残っている地域もあります。もちろん、以前と比べれば状況は大きく変わってきていますが、映画や音楽のように、世代を問わず自然に楽しむ文化として完全に定着しているかというと、まだ伸びしろがあると感じています。だからこそ私は、「マンガを好きな人を増やす」という段階から、さらに一歩進んで、「マンガが当たり前に存在する文化」にしていきたいと思っているんです。そのためには、日本の作品を海外へ届けるだけでは不十分だと考えています。もちろん、日本には素晴らしい作品が数多くありますし、それを世界へ広げていくことは非常に重要です。ただ、本当に文化として根付いていくためには、現地から新しい才能や作品が生まれていくことも必要だと思っています。実際、海外では、現地クリエイターによる作品が大きな人気を集める事例も出てきています。例えば『ロア・オリンポス』のように、現地の文化や感性をベースにした作品が、多くの読者に支持されるケースもある。私は、こうした動きがさらに広がっていくことに、大きな可能性を感じています。マンガという表現形式そのものが世界へ広がっていけば、日本の作品だけでなく、各国それぞれの文化や価値観を持った作品が生まれてくる。その状態こそ、本当の意味でマンガ文化がグローバル化した姿なのだと思っています。一方で、世界展開を考える上で、避けて通れない課題の一つが海賊版です。どれだけ素晴らしい作品があっても、正しく収益が還元されなければ、クリエイターが継続的に作品を生み出していくことは難しくなってしまう。だからこそ、正規プラットフォームとして、安心して作品を楽しめる環境を整えることは非常に重要だと考えています。単に「取り締まる」という話だけではなく、「正規サービスの方が便利で快適だ」と思っていただけることも大切です。スマートフォンによって、いつでもどこでも作品に触れられる時代になったからこそ、ユーザー体験そのものを磨き続ける必要がある。その積み重ねが、結果としてクリエイターへの正当な対価還元にもつながっていくと思っています。また、私は、マンガ文化が世界へ広がっていく上で、テクノロジーの役割はますます大きくなると考えています。かつては、紙の本を物理的に流通させなければ作品を届けることができませんでした。しかし、いまはスマートフォン一つで、世界中のユーザーが同じ作品に触れられる時代です。だからこそ、国境を越えてマンガ文化を広げていける可能性は、これまで以上に大きくなっていると感じています。私たちは、単なる電子コミックサービスを運営したいわけではありません。マンガという文化そのものを、より多くの人に届け、その価値を世界中へ広げていきたいと思っています。編集後記今回は、LINE Digital Frontier株式会社 代表取締役社長CEO 髙橋将峰氏にお話を伺いました。インタビューを通じて印象的だったのは、モバイルインターネット黎明期から市場環境やユーザー体験の変化を見続けてきた視点と、少年時代から変わらず持ち続けてきたマンガへの熱量が、事業の根幹で結びついている点でした。だからこそ髙橋社長は、単なる電子コミックサービスに留まるのではなく、テクノロジーによってマンガ体験そのものを進化させようとしているのだと感じます。日本が誇るマンガ文化を、世界へ広げながら、新しい体験へとアップデートしていく。その挑戦の根底には、「文化を次の時代へつないでいく」という強い覚悟があるのだと学ばせていただきました。髙橋将峰/2006年ヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に入社。その後、株式会社イーブックイニシアティブジャパン代表取締役社長に就任。2022年7月にはLINE Digital Frontier株式会社代表取締役CEOにも就任。【会社概要】会社名LINE Digital Frontier株式会社設立年2018年代表取締役社長CEO髙橋 将峰事業内容電子コミックサービス「LINEマンガ」、電子書籍販売サービスの「ebookjapan」、紙書籍オンライン販売サービスの「bookfan」の運営所在地東京都港区赤坂九丁目7番1号 ミッドタウン・タワー11F