インタビュイー:株式会社LITA 代表取締役 笹木郁乃様中小企業の眠れる可能性を“PRの力”で解き放つー。その挑戦を掲げ、急成長を続けているのが株式会社LITAだ。創業初期を支えたのは、広報スキルを伝える「OJT式PR塾」。口コミだけで広がり、延べ8,000人以上が学んだという実績はいまも同社の大きな資産となっている。現在はその知見を土台に、企業のブランド価値を高める「PR代行」へと舵を切り、さらなる飛躍を遂げている。何よりユニークなのは「営業部隊を持たない」こと。LITAの成長を支えてきたのは、広告でも飛び込み営業でもなく、自社のPR力そのものだった。口コミやメディア露出が新規顧客を引き寄せる。そのスタイルを築き上げたのが、代表取締役の笹木郁乃氏だ。かつて無名だったエアウィーヴやバーミキュラを、PRの力で世に知らしめた仕掛け人でもある。もともとは大手メーカーの研究職という異色のキャリアを歩んできた笹木代表。なぜ畑違いのPRの世界に飛び込み、いかにして顧客から厚い信頼を集める独自のモデルを築いたのか。その歩みと、根底に流れる哲学を語っていただいた。広報部員を一人雇うより、成果が出る―LITAのPR代行が中小企業に選ばれる理由自社の魅力をもっと世の中に届けたい。そう願っても、広報の専門人材を新たに採用したり、育成して内製化したりするのは簡単なことではない。多くの中小企業が直面するこの課題に対し、LITAの主力事業である「PR代行」は、確かな解決策を提示している。笹木代表:スタートアップやベンチャー企業が、限られた資金の中で広報担当を一人採用するのは、とても大きな経営判断です。そもそもPRという仕事は範囲が広く、常に一定の業務量があるわけでもありません。だから専任者を置くという決断自体が難しいんです。私たちは、そうした企業に対し“社員一人を雇う以上の価値”を提供することを目指しています。そのために“月に2回以上の取材獲得”を必ずお約束しています。実際、2024年の実績では1社あたり平均26.7件。単なる数字に見えるかもしれませんが、経営者にとっては大きな意味を持ちます。というのも、広告は一過性。でも記事は“デジタル資産”として永遠に残り続けます。「あの会社、あのメディアにも出ていたよね?」と検索された瞬間に信頼が積み重なっていくーその場面を一緒に作るのが、私たちの仕事なんです。お客様や取引先が会社名を調べたとき、第三者であるメディアが書いたポジティブな記事がいくつも並んでいたら、どうでしょう。それだけで絶大な信頼につながります。この信頼の積み重ねこそが、PRの本質的な価値なんです。ただ、多くの経営者にとってPRは“怖い”存在でもあります。営業や広告と違って効果が確実とは言えず、見えにくい部分が多いからです。営業なら「これだけ人を動かせば、このくらいの成果が見込める」と計算が立ちますが、PRはそうはいきません。誰もが確実な方を選びたいと思う中で、不確かなものに投資するのは当然ためらわれると思います。だからこそ、私たちは具体的な成果でお応えしたい。PRはトップの「覚悟」でもあります。すぐに結果が出なくても、種をまき続ける。その覚悟を持って最初の半年を越えた先に、大きな成果が花開くのです。私たちの契約は6か月更新ですが、クライアントの継続率は93%と非常に高い。1年以上お付き合いのあるお客様のほとんどが、まるで自社の広報部のように信頼を寄せてくださり、長期的に伴走させていただいています。決して“魔法”ではない緻密な戦略―メディアとの信頼を築くLITAの仕事術LITAが叩き出す高い成果は、クライアントに「PRは投資する価値がある」と確信させる。しかし、その裏側にある実際の仕事ぶりは意外と知られていない。そこにあるのは、人脈や偶然に頼るのではなく、極めて論理的で地道な努力の積み重ねだ。笹木代表:LITAでは「PRは魔法のように会社を変える力がある」とお伝えしています。でもその“魔法”は、緻密な戦略と日々の地道な活動があって初めて生まれるものです。私たちの最初の一歩は、お客様の事業を徹底的に理解することから始まります。会社の歴史や製品・サービスの背景、経営者の想いまで深く掘り下げ、そのうえで社会の関心事と結びつけられる“ニュース価値のある切り口”を探し出すんです。その後に行うのは、単にプレスリリースを書いて「ワイヤーサービス」で一斉配信するような一般的な手法だけではありません。むしろそこからが本番です。そのテーマに最も関心を持ってくれそうな記者を一人ひとりリストアップし、「なぜこの記事がその方の読者にとって意味があるのか」を考え抜いて、個別に丁寧にプレゼンします。時には電話をかけ、直接足を運ぶ。そうした泥臭いアプローチこそが、メディアの方との信頼関係を築くうえで欠かせないんです。PRの成果は、営業の数字のようにすぐに見えるものではありません。極端な話、プレスリリースを配信しただけでも「活動しました」と報告はできてしまう。だからこそ、この仕事の品質は担当者の意識と基準によって大きく変わってしまうんです。だから必要なのは「本気でお客様を勝たせたい!」という強い気持ちです。その想いがあるからこそ、もう一手間を惜しまず、知恵と情熱を1件1件のアプローチに注ぎ込める。私たちが成果につなげられる理由も、まさにそこにあります。「営業ゼロ」の思想―顧客を“勝たせる”PRの本質顧客を「勝たせる」ことに徹底的にこだわるーその姿勢はどこから生まれたのか。LITAの「営業ゼロ」という独自のスタンスにもつながる原点は、笹木代表自身のキャリアを決定づけたある体験にある。笹木代表:新卒で入社したのは大手自動車部品メーカーでした。研究開発職として、大学で学んだ専門知識を生かせる環境ではありましたが、自動車部品という非常に専門的な分野だったこともあり、「自分の仕事が社会に直接役立っている」という実感を得にくかったんです。どこかで「このままではいけない」という漠然とした焦りを抱えていました。そんなとき、ふと幼少期の体験がよみがえりました。私は子どものころ、交通事故で生死の境をさまよったことがあります。その経験から「いつ命が終わるかわからない人生を、このままなんとなく過ごしていいのか」と、強く自問したんです。もっとダイレクトに人の役に立てる実感を得られる仕事に情熱を注ぎたい。そう決意しました。給料は前職より大きく下がると分かっていても、それでも「自分が本当に生かせる場所」を探したかったのです。自分の力で会社を大きくしたい。その情熱をぶつけられる場所を探す中で、彼女は当時まだ無名だったあるベンチャー企業と出会う。[株式会社エアウィーヴ時代の画像]笹木代表:転職先は、当時はまだ世間にほとんど知られていなかった寝具メーカー、株式会社エアウィーヴでした。入社してからは「この会社を大きくしたい」という一心で、営業としてがむしゃらに働きました。ところが高価なマットレスは、そう簡単には売れません。そんなある日、店頭で衝撃的な光景を目にしたんです。私が声を枯らして必死に接客しても、1日に1個売れるかどうか。それなのに隣の有名ブランドのマットレスは、販売員がついていなくても「雑誌で見たから」という理由だけで、1週間に30個も40個も売れていく。この差は何だろうと考え抜いたとき、ようやく気づきました。「メディア掲載に裏打ちされたブランド力の違いだ」と。エアウィーヴでのこの気づき、そしてその後にPRを手掛けたバーミキュラでの経験は、私にとって決定的でした。潤沢な広告費がなくても、創業期の企業でも、PRの力を最大限に生かせば事業は急成長できる。その事実を2社続けて証明できたんです。だからこそ、私は確信しました。このPRというスキルで、これから可能性を切り拓き、中小企業を支援していきたいー。その想いこそが、今のLITAのサービスの原点になっているのです。前編では、LITAのユニークな事業モデルと、それを支える笹木代表の哲学の原点についてお話を伺いました。後編では、その哲学を組織で体現するためのチーム作り、そしてLITAがPRの力で実現しようとする社会の未来像を紐解いていきます。