インタビュイー:株式会社LITA 代表取締役 笹木郁乃様中小企業の可能性をPRの力で開花させる株式会社LITA。同社は、創業初期を支えた「OJT式PR塾」で得た実績を大きな資産とし、その知見を生かして現在は企業のブランド価値を高める「PR代行」に注力している。前編では、そのユニークなビジネスモデルと、それを築き上げた代表取締役・笹木郁乃氏の原体験に迫った。LITAの強さは「営業ゼロ」で成長を続けるという実績や「月2回の取材獲得」という具体的な約束に象徴される。その根底にあるのは、顧客を「勝たせる」という揺るぎない信念だ。後編では、その強い信念を、いかにして組織全体のカルチャーへと昇華させているのかを紐解いていく。なぜ経験豊富な人材ではなく、「マインド」を重視するのか。そして、「利他」の名を冠した会社が、PRの力で実現しようと描く社会とはどのようなものなのだろうか。経験よりも共感を大切にーLITA流「熱狂するプロ集団」育成のメカニズムLITAのサービス品質を支えているのは、担当者一人ひとりが抱く「顧客を勝たせたい!」という強いマインドだ。しかし、その気持ちは誰もが自然に持てるものではない。では、同社は採用の場で、どのような基準によって仲間を選んでいるのだろうか。笹木代表:私たちが採用で一番重視しているのは、スキルや経験ではなく“マインド”です。PRの経験者の中には、取材対応など“受け身”の広報業務が中心だった方も少なくありません。でも、私たちが大切にしているのは「自ら仕掛けていく」スタイル。そこが必ずしも一致しないこともあります。だからこそ大事なのは、「すべての人・企業の可能性開花に貢献する」という私たちの理念に、どれだけ心から共感できるか。それが最も大切な判断基準なんです。理念への共感という、目に見えない資質をいかにして見極め、そして育てていくのか。笹木代表:スキルは、後からでも十分に身につけられます。かつてPR塾で、専業主婦の方から70代の方まで教えてきた経験から、ノウハウを伝えるためのテキストや動画は豊富に揃っています。だからこそ、私たちの採用は『全ての人・企業の可能性開花に貢献する』という理念に、心から共感し、一つのチームとして目の前のお客様の『勝利』に執着し、その成功に熱狂できるか。その一点を重視しています。私たちのサービスは、結果が出なければすぐに「LITAは微妙だった」という評判が広まってしまう、とてもシビアな環境です。だからこそ育成には徹底的に時間をかけます。新入社員には6か月間のアシスタント期間を設け、その間は主担当を持たせません。最初の1か月はPR塾のコンテンツで基礎を学び、その後は先輩をサポートしながら、ロールプレイングを繰り返して実践力を養っていきます。売上を生まない期間をあえて設けるのは、経営的に見れば非効率に映るかもしれません。でも、この丁寧な育成こそがサービスの品質を守り、LITAというブランドを支える生命線なんです。ですから未経験でもまったく問題ありません。実際、元栄養士だった社員がいまではチームの中心として活躍しています。大切なのは現在のスキルではなく、“同じ未来を夢見て熱狂できるか”どうか。その理念を共有できる仲間とでなければ、お客様の心を動かす仕事はできないと考えています。ハイタッチが生まれるオフィス―「利他」を文化に昇華させるLITAの仕組み理念への共感を土台にした組織づくり。そのスタイルは、笹木代表がフリーランスから経営者へとステージを変えていく過程で、より強固なものへと育まれていった。笹木代表:フリーランスとして3、4年ほど活動する中で、自分一人でできることの限界を感じるようになりました。事業規模は年商1億円ほどにまで成長していましたが、時間的にも体力的にも、一人で登れる山のてっぺんに到達してしまった感覚があったんです。もちろん、目の前のお客様が成功するのは心から嬉しい。でも、その達成感を分かち合える仲間がいない。一人で見る頂上の景色は、思った以上に孤独でした。事業をさらに拡大するのか、それとも個人の成功をこのまま続けるのか─岐路に立ったとき、私ははっきりと気づいたんです。「自分の利益のためではなく、周りを勝たせ、輝かせる存在になりたい」その想いが、経営者としての次の一歩を踏み出す原動力になりました。決意を裏付け、会社のアイデンティティを形作る、決定的な言葉との出会いがあった。笹木代表:その決意のすぐ後に出会ったのが、京セラ創業者・稲盛和夫さんの『利他の心』という言葉でした。その一節は、当時の私の心に強烈に響いたんです。「自分の利益よりも、人や企業、そして世の中のことを思いやる」という哲学が、フリーランスとして孤独を感じていた自分の経験と重なり、これこそが私の進むべき道だと確信しました。だから社名を『LITA』にしたんです。ロゴに描かれた星は、一社一社の願いを叶える流れ星をイメージしています。その軌道が右肩上がりなのは、私たちもお客様も一緒に成長していく─そんな願いを込めているんです。この「共に成長する」という想いこそが、私が個人ではなくチームでの事業にこだわる理由でもあります。起業当時、一人講師をしていたとき、受講生の成功は嬉しかったですが、同時に、同じ志を持つ仲間とチームを組み、「やったね!」とハイタッチしながらお客様の成功を一緒に喜びたい。それこそが、私が本当に見たい景色だと再認識しました。PRは、社会を動かすエンジンになる―LITAが描く中小企業との共創ビジョンLITAが見据えるのは、単なる事業規模の拡大ではない。PRというツールを通じて、日本が抱える社会課題の解決に貢献すること。それこそが、同社の最終的な目標である。笹木代表:私たちの目標は、日本一「社会課題をPRで解決している企業」になることです。例えば、地方には素晴らしい技術を持つ中小企業が数多くありますが、後継者不足や情報発信力の弱さから廃業に追い込まれるケースも少なくありません。それは本当にもったいないこと。もし私たちがPRの力でその魅力を全国に伝えられれば、新たな雇用が生まれたり、事業承継が進んだりするかもしれない。PRには、地方創生や女性活躍、人材不足といった社会課題を解決する力があると確信しています。この信念は、私自身の経験とも重なっています。私はベンチャー企業で子育てをしながら働く中で、キャリアを継続することの難しさを痛感し、独立という道を選びました。だからこそ、同じように悩む女性を支援したいという想いは強く持ち続けています。実際に、私たちの『PR塾』をきっかけに、未経験からPRプロデューサーとして活躍するようになった主婦の方もいます。PRのスキルで一人ひとりが輝ける。その積み重ねが、社会全体の「女性活躍」を後押ししていくと、私は信じています。もちろん、上場もその大きな目標を実現するための手段のひとつとして視野に入れています。ただし、それは決して目的ではありません。私たちが本当に大切にすべきは、あくまでも中小企業を始めとした全ての企業の売上貢献や可能性を開花させること。その先にこそ、より良い社会があると信じています。今後の計画としては、来年4月には50名体制に拡大し、その後も年40名ペースで仲間を増やしていきたい。この挑戦をさらに加速させ、日本中の企業と共に未来をつくっていきたいと考えています。インタビュー後記取材を通して伝わってきたのは「PRの力」という言葉の、圧倒的な熱量と説得力です。それは、笹木代表自身がPRによって人生を切り拓き、エアウィーヴやバーミキュラといった数々の企業の運命を変える瞬間に立ち会ってきた、確かな経験に裏打ちされています。LITAの物語は、単なる一企業の成功譚というだけでなく、「自社の価値をどう信じ、社会に伝えるか」という、多くの経営者が直面する根源的な問いを、私たちに改めて考えさせてくれるものでした。そして、「営業ゼロ」で成長を続けるという事実は、同社が理念そのものを最高のPRとして体現している、何よりの証明のように映りました。一人の成功の先にある、チームで熱狂する喜びへ。笹木代表と「同じ未来を夢見て熱狂する」チームLITAの挑戦は、PR業界のみならず、これからの時代の企業のあり方そのものに、新たな可能性を示していくことでしょう。