インタビュイー:マッチングワールド株式会社 代表取締役 町田博様在庫は、企業の意思決定と信用を映す鏡である。売れ残りの可視化を恐れて流れが止まれば、それは一夜にして負債に変わるーその臨界点を越えさせない“流通の器”を設計してきたのがマッチングワールド株式会社だ。同社の在庫再生プラットフォーム「M-マッチングシステム」は、在庫を抱える企業と必要とする企業を匿名で結び、検品(入荷時/出荷直前の二重検品)・決済・物流までを一気通貫で担う。供給側の与信毀損リスクを抑えつつ、買い手には確かな品質と適正調達を提供するー“信用”を中核に据えた仕組みで在庫の価値を再生してきた。この構想を牽引するのが、代表取締役・町田博氏である。かつて年商200億円規模の流通事業を率いながら、46億円の不良在庫で倒産を経験した同氏は、「勘や気合ではなく仕組みで流通を動かす」へと発想を転換。FAX一台の再起からプラットフォームを磨き上げ、匿名性と二重検品を核に“在庫を負債から資産へ”と転換する実装を進めてきた。M-マッチングシステムの強みや創業当時のエピソードについてお話を伺った前編に続いて、後編ではリーマンショックによる影響やマッチングワールド株式会社の今後の展望についてお話を伺った。リーマンショックがもたらした会社存亡の危機。それでも諦めなかった町田代表の信念上場目前、世界を襲った金融危機がすべてを変えた。資金は途絶え、取引先の信頼も揺らぐ中、それでも町田代表は会社を手放さなかった。「仕組みがある限り、会社は回る」―その信念が、マッチングワールドを倒産から守った。町田代表:リーマンショックの時は、本当に地獄のような日々でした。当時、当社は上場準備の真っ最中。銀行からも「上場を目指すなら10億円の資金を出します」と約束され、経理体制を整えるために外部の専門チームを雇い入れました。約3,000万円を投じて社内体制を刷新し、社員たちも「いよいよだな」と高揚していた。それが、世界的な金融危機の波に一瞬で飲み込まれるとは、誰も想像していなかったのです。リーマンショックが起きた瞬間、銀行の態度は180度変わりました。昨日まで「応援しています」と言っていた担当者が、翌日には「資金を回収します」と言う。結果、6億円の貸しはがし。口座から資金が引き上げられ、運転資金は一気に消えました。新規融資の話もすべて白紙。業界では「マッチングワールドは危ない」と噂が広がり、支払いが1日でも遅れれば倒産と囁かれる―まさに綱渡りの経営でした。生き延びるため、私は徹底的に経費を削りました。社屋を縮小し、家賃の安い場所へ移転。上場を見据えて立ち上げた家電事業部も、年商12億円を上げてはいたものの利益が出ておらず、撤退を決断しました。社員を集め、率直に話しました。「本当は続けたい。でも今の会社にはその力がない。申し訳ない。」そう伝え、事業を閉鎖し、社員に退職してもらう決断を下しました。経営者として、最もつらい瞬間でした。それでも私は心のどこかで、まだ“終わり”ではないと感じていました。「社会が『出て行け』と言うまでは、しつこくやってやる」―そう自分に言い聞かせ、歯を食いしばって会社を守り続けました。残った社員には、給与の引き下げをお願いしました。それでも「会社を立て直したい」と残ってくれた社員たちは、歯を食いしばり、懸命に働いてくれました。私は、彼らの存在に何度も救われました。資金も信頼も尽きかけていた中で、唯一、会社を支え続けたのは“仕組み”でした。上場の夢は一度断ち切り、外部の準備チームにも退いてもらいました。経営を原点に戻したとき、驚くべきことに会社は止まらなかった。「仕組みがある限り、会社は回る」―その言葉を、あの時ほど実感したことはありません。資金も、人も、信頼も失いかけた。それでも、“仕組み”だけは裏切らなかった。だからこそ、マッチングワールドは倒れずに済んだのです。FAX営業からAI経営へ。進化するマッチングワールドの挑戦かつてはFAXを一日中送り続けていた会社が、いまや世界のバイヤーとリアルタイムで取引している。マッチングワールド株式会社が築いてきたのは、“人の勘”ではなく“データと仕組み”で在庫を動かす経営だ。20年にわたる膨大な取引データを武器に、同社はいま、AIを活用した次世代の在庫流通へと進化を遂げようとしている。町田代表:当社はこれまで、20年以上にわたる取引データを蓄積してきました。どの商品が、どの時期に、どのエリアで、どれだけ動くのか―そのすべてを細かく記録してきたのです。このデータこそが、いまのマッチングワールドの“経営の羅針盤”になっています。かつては「売れたものを仕入れる」という後追いの商売でした。しかし、いまはデータ分析によって需要を先読みし、動きを“予測する商売”へと変化しました。創業当初は資金もなく、在庫を持たずにマッチングだけを行っていましたが、いまでは「どの商材が、どのタイミングで動くか」をデータが教えてくれる。だからこそ、“在庫を持ちにいく経営”へと舵を切ることができたのです。今後はここにAIの力を本格的に組み込んでいきます。これまで蓄積してきた膨大なデータをAIが解析し、商品カテゴリ別・地域別・季節別に需要を予測する。人間の感覚では捉えきれない微細なトレンドや変化を検知し、より精度の高い販売戦略を導き出します。すでに約1億円を投資し、AIを活用した新たな仕組みづくりを進めています。これからの時代は、「経験や勘」ではなく、「データとAIで在庫を動かす時代」です。それは、人の直感を超えて“仕組みそのものが最適解を導き出す”時代でもあります。思い返せば、私たちの商売は常に時代の変化とともに進化してきました。電話営業の時代からFAX営業の時代へ。私たちも毎日何百件ものFAXを送り続けていましたが、在庫の動くスピードには限界がありました。それを打破するために、いち早くシステム構築へ舵を切ったのです。電話営業を続けていた同業他社は、やがて淘汰されました。FAX営業に留まった会社もほとんど残っていません。「時代が変わるなら、商売の仕組みも変えなければならない」―この考え方こそ、マッチングワールドのDNAです。AI導入も、その延長線上にあります。AIがデータを分析し、次に“何を仕入れ、どこに流すべきか”を判断する。人が手作業で判断する時間を減らし、ミスを防ぎ、在庫の無駄をなくす。かつてFAX一枚で在庫を動かしていた会社が、いまやAIを使って世界の流通を動かす。この進化の背景には、私がずっと貫いてきた想いがあります。「商売は、人ではなく仕組みで支えるもの」―。仕組みを磨き続ける限り、時代が変わっても会社は止まらないのです。信念とシステムで世界をつなぐ。成長を続けるマッチングワールドの展望ゲームからペット、アジアから英語圏へ。マッチングワールド株式会社は、在庫流通の仕組みを軸に新たな市場へと歩みを進めている。町田代表の視線は、もはや日本の枠を超え、世界の在庫を再生する“流通のインフラ”づくりへと向けられている。信念とシステム、その二つを軸に挑戦を続ける町田代表に、次なる成長戦略と経営の原点を聞いた。町田代表:マッチングワールドはこれまで、ゲーム・おもちゃ・トレーディングカードといったホビー商材を中心に成長を続けてきました。この分野では、在庫の流動性を高める独自のマッチングノウハウを磨き上げてきた自負があります。しかし私の頭の中には、常に“次の市場”があります。その一つがペット市場です。ペット用品は消耗品が多く、リピート率が非常に高い。家庭内需要が大きく、景気の変動にも左右されにくい。こうした特性を持つ市場こそ、当社が培ってきた在庫マッチングの仕組みを展開できる理想のフィールドだと考えています。現在は、ペット業界で長年経験を積んだ人材を迎え、ペットフードや関連用品の販売事業を進めています。まずは市場に当社の名前を浸透させるところから。ここからが本当の勝負です。また、当社のシステムには法人バイヤーだけでなく、約6,000人の個人バイヤーが登録しています。副業として物販を始める人が増え、個人が新しい流通の担い手になっているのです。実際に動いているのは全体の10%ほどですが、そのわずかな層だけで月2億円規模の流通が生まれています。彼らは自らの感性で商材を選び、SNSやECを活用して販売していく。私はこの流れを、“個人が商人になる時代”の到来だと感じています。個人が自由に挑戦できるフィールドを整え、誰もが流通の一部を担える社会をつくること。それこそが、私たちマッチングワールドの使命です。そして、いまや取引先は国内にとどまりません。香港、台湾、韓国、東南アジアなど、アジア圏を中心に世界のバイヤーへと広がっています。しかし、私の視線はその先―英語圏の市場にあります。在庫問題は、日本だけの課題ではありません。どの国にも「売れ残り」という経営リスクが存在します。だからこそ、“在庫を国境を越えて循環させる仕組み”をつくりたい。世界中のメーカーとバイヤーをつなぐ、真のグローバル・マッチングプラットフォームを構築する。それが、私の次の挑戦です。私はこれまで、倒産、経済危機、資金難―さまざまな試練を経験してきました。そのたびに痛感したのは、「人は信念があれば、何度でも立ち上がれる」ということです。これから起業を目指す人たちには、ただ商売をしたいという気持ちだけでなく、“なぜこの事業をやるのか”という揺るぎない理由を持ってほしいと思います。信念があれば、倒れても、何度でも立ち上がれる。私自身がその証明です。そしてもう一つ大切なのは、仕組みをつくる力です。アイデアだけでは飯は食えません。しかし、アイデアを仕組みに変えられれば、それは永続する力になります。「一度倒れた人間でも、仕組みを持てば再び立ち上がれる」―。これは、私が身をもって証明してきたことです。どんなに厳しい局面に立っても、諦めず、信念を持ち続け、自分の仕組みを磨き続けること。それが、挑戦を続けるすべての人への、私からのメッセージです。インタビュー後記町田代表のインタビューを通じて、何度倒れても諦めず、「仕組みで経営を守る」という信念を貫き続ける姿勢に強く心を打たれました。倒産やリーマンショックといった幾多の試練を経ても、常に前を向き、在庫流通の常識を変える新たな仕組みを創り続けてきた町田代表。その根底にあるのは、自分のように在庫を抱えて倒産し、苦しい思いをする人を減らしたいという情熱でした。AIの導入やペット市場、そして英語圏への進出など、マッチングワールド株式会社の挑戦はこれからさらに加速していくでしょう。本記事が、読者の皆様にとって新たな挑戦への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。