インタビュイー:株式会社エプリ 代表取締役社長 牛尾 佳子様株式会社エプリは、「自信と誇りを取り戻そう」というメッセージのもと、八王子に本店を構える美容サロン「ニキビ研究所」を展開している。同社は、「これまで何をしてもニキビが改善されなかった」というお客様に対し、皮膚科や医療機関とは異なる立場から、徹底したカウンセリングと最先端のニキビケアを提供している。ただ施術を行うだけでなく、肌の正しい扱い方を学び、体の内側から美しさを育むことで、自分に自信を持てるようになることを目標としている。この理念は、牛尾社長自身が20年間にわたる肌荒れの悩みを抱え、それを克服した経験から生まれたものである。また、患者だけでなく社員も幸せになれる職場をつくるため、同社では選択理論心理学を取り入れた教育体制を整えている。同社設立の背景や経緯について伺った前編に引き続き、美容サロン「ニキビ研究所」を通して多くの人々の人生を変えてきた株式会社エプリの代表取締役社長・牛尾佳子氏に、選択理論心理学や今後企業を志す方へのメッセージを伺った。選択理論心理学による、個の自己実現を支える経営美容サロン「ニキビ研究所」を一人で立ち上げた牛尾社長。スタッフを迎え入れる過程で、「選択理論心理学」を用いた、社員一人ひとりの成長と自己実現を支える経営へと歩みを進めていく。牛尾社長:当社を立ち上げた当初は、完全に一人でのスタートでした。美容サロンの6〜7割は一人サロンです。その一番の理由は人を雇う怖さにあります。アルバイトならともかく、正社員を雇うとなると社会保険や給与など固定費がかかり、もし売上が落ちたらどうしようと不安になる。つまり、雇用とは「人の人生を背負う覚悟」なんです。私自身もそこに踏み出すまでに時間がかかりました。アルバイトは雇いましたが、正社員登用に踏み切れたのは数年後のことでした。それでも3年目には5人のスタッフを雇えるまでになりました。ほとんどが元お客様で、「私もここで働きたい」と言ってくださった方々です。そこから本格的に“人を育てる”というテーマに直面しました。正直、最初はとても難しかったです。自分一人で頑張ることと、人を育てながらチームで成果を出すことは、まったく別のスキルなんです。そんなときに出会ったのが「選択理論心理学」です。もともととある研修会社で学んでいたのですが、そこで「人は他人を変えられない」「人は自分の選択で動く」という考え方に衝撃を受けました。以前の私は、成果を出してもスタッフとの関係に悩み、指導しても空回りしてしまうことが多かったんです。でも、選択理論を学ぶことで、「人を動かすのではなく、人が動きたくなる環境をつくる」ことの大切さを理解しました。例えば、子どもに「勉強しなさい」と言っても、心からやる気になる子はいませんよね。大切なのは「自分の人生をどう生きたいか」を自分で選べるようにすること。社員に対しても同じで、「会社のために働く」ではなく、「自分の幸せのためにこの会社を選ぶ」という意識を持ってほしいと思うようになりました。選択理論では、人の行動はすべて「自分で選んでいる」と考えます。行動の根底には、5つの基本的な欲求ー「生存」「愛と所属」「力」「自由」「楽しみ」があるとされていて、このうちどれかが満たされないと、人はストレスを感じたり、他人を責めたりしてしまうんです。さらに面白いのは、「上質世界」という考え方です。人は誰しも心の中に“こうありたい”“こう生きたい”という理想のイメージを持っています。選択理論では、それを“上質世界”と呼びます。例えば、「信頼される美容家でありたい」「家族と穏やかに暮らしたい」など、人によって描く上質世界は違います。だからこそ、リーダーが「この人はどんな上質世界を大切にしているのか」を理解することが大切なんです。社員一人ひとりの“上質世界”に寄り添うことが、最も強いモチベーションにつながります。例えば、「将来独立したい」「お客様から感謝されたい」「家庭も仕事も大切にしたい」といった個人の理想を、会社の目標とどう重ね合わせていけるか。それを考えるのが、私のマネジメントの役割だと思っています。研修で教わった「会社は個人の自己実現の場である」という理念があります。その言葉に強く共感しました。だから、経営者として「社員の人生をどう幸せにできるか」「この会社が社会にどう貢献できるか」を常に考えるようになったんです。そうして少しずつ、スタッフが自ら考え、成長する風土が生まれていきました。実は、私自身も仕事ばかりにのめり込み、家庭との両立が難しい時期がありました。でも、選択理論を通じて「本当に大切なものを大切にする」という価値観を取り戻せた。家庭も、仕事も、どちらも大切にしていい。そう気づけたことが、今の私の経営の原点になっています。自分に誇りを持てる働き方をつくる美容サロン「ニキビ研究所」は、単なる技術を教える場所ではなく、働くことで自分に誇りを持てる大人を育てる場でもある。社員が日々お客様に喜ばれる経験を積むことで、仕事への誇りと自己肯定感を手に入れる。そんな職場づくりに、牛尾社長は力を注いでいる。牛尾社長:私がこの仕事を通じて強く感じるのは、かっこいい大人に出会っていない子が多い、ということです。「この人みたいになりたい」と心から思えるロールモデルがいない。だから、働くことに夢を見られない若者が多いんだと思うんです。でも、いきなりそういう大人に出会うのは難しい。 だからこそ、まずは身近な存在、例えば、お母さんが「働くって素敵なのよ」「人に貢献できるって素晴らしいことなのよ」と伝えることが大切だと思うんです。逆に「仕事は辛いもの」「社会は厳しい」と教えられて育てば、自然とその価値観を引き継いでしまう。私は、美容という仕事を通じて、「働くことは人の役に立てること」「自分を誇れる生き方ができること」だと体感できる環境をつくりたいと思いました。当社のスタッフは、お客様に喜ばれ、感謝される経験を日々積み重ねています。 肌が変わり、自信を取り戻したお客様から「人生が変わった」と言っていただける。その瞬間に、自分の仕事に誇りを持てるようになるんです。 喜ばれている・役に立っている・ちゃんと稼げている。この認識によって、人の自己概念は一気に高まります。だから私は、「自分の人生に誇りを持てる女性を増やしたい」という想いで経営をしています。実際、「この会社に出会って人生が変わった」と言ってくれる社員がとても多いんです。「仕事なんてできれば行きたくない」と思っていた子が、今では「この会社が好き」と言ってくれる。そんな姿を見ていると、エプリという組織が美容の会社を超えて、人の生き方を育てる場になっていると感じます。最近では、毎月10人ほどの応募があります。社会では求人難が続いていますが、それでも人が集まる。理由を聞くと、「社員のことを本当に大切にしている会社だと感じた」と言われるんです。「お客様に貢献しましょう」という理念はどのサロンも掲げていますが、「働く人の幸せを考えている会社」は意外と少ない。エプリは社員の幸せを軸に経営しているからこそ、自然と共感が生まれるのだと思います。さらに、独立支援にも力を入れています。当社のフランチャイズは、もともと社員の独立から始まったんです。最初の頃は「一生懸命育てても、いずれ辞めてしまうのでは」と不安もありました。でも、力のある人ほど「自分で挑戦したい」と思うもの。ならば、中途半端に引き留めるよりも、全力で送り出すほうがいいと考えたんです。だから、誰から頼まれたわけでもないのに、「独立支援プラン」を自分で作ってしまいました(笑)。 結果として、コロナ禍の2021年に3人の社員が独立。とても厳しい時期でしたが、全員が黒字を出し、5年経った今も順調に経営しています。この再現性をもとに、今のフランチャイズの仕組みが生まれました。もちろん、ベテランの3人が抜けた当初は本当に大変でした。でもその経験が、逆に「教育の仕組み化」を進めるきっかけにもなりました。人が抜けても育つ「学びの組織」をつくる。それが、今の私たちの経営テーマです。技術だけでなく、考え方・価値観・人間性までを育てる教育。それによって、スタッフ一人ひとりが「自立した大人」として社会で輝けるようになることを目指しています。今後の展望と起業を志す方へのメッセージ最後に牛尾社長に、今後の展望と起業を志す方へのメッセージを伺った。牛尾社長:ニキビ研究所は今後、全国展開を進めていきます。しかし、ただ店舗を増やすだけでは意味がありません。特に意識しているのは、女性の働き方です。結婚や出産を経験すると、若い独身時代のように自由に働くことは難しくなります。だからこそ、結婚・出産前に自分の実力をつけておくことが大切です。その経験が、将来の働き方に大きな差を生むと思います。私は、女性が自分の人生を主体的に選べる環境をつくりたいと考えています。過去には結婚相談所の事業にも取り組みましたが、根底にあるのは「人生を自分で選ぶ力を育てたい」という想いです。スタッフが仕事を通じて誇りを持ち、自己肯定感を高めることで、お客様に貢献できるだけでなく、自分自身の人生も輝かせられる。その循環を作ることが、私の目標です。私自身、選択理論心理学に出会ったことで大きく考え方が変わりました。「自分が源」という言葉に出会ったんです。成功も失敗も、すべて自分の選択の結果だと知りました。うまくいかない時は、他人や環境のせいではなく、自分がうまくいかない行動や考え方を選んでいるからなんです。肌の改善も仕事の成果も、結局は自分の選択です。だから、今の不幸は自分の選択の結果であり、逆に言えば、物事を変える力も自分にあるということです。でも、その力を引き出すには、学ぶことが欠かせません。大人になってから学ぶ人は少ないですが、学ばなければ取り残されます。成功している人は皆、学び続けているんです。勉強は、座って教科書を読むだけのものではありません。人生は実践の連続であり、学びも実践を通じてこそ身につきます。問題が解けたときの喜びや、少しずつ上手になる達成感。ゲームのように楽しみながら学べるんです。だから、難しく考えすぎず、一歩踏み出すことが大事です。自分に期待している人は学びます。自分に期待していない人は学びません。学ぶことと自己肯定感は、切っても切れない関係だと感じています。学ぶ楽しさを知ることで、人は初めて自分の可能性を信じられるようになります。私が伝えたいのは、勉強や学びは義務ではなく、自分の人生を豊かにする手段だということ。これを理解したとき、人は自分の人生の主人公になれると考えています。インタビュー後記株式会社エプリの牛尾佳子社長への取材を通じて感じたのは、美容サロンの枠を超えた「人を育てる力」の大きさです。肌の悩みを改善することで、自信や自己肯定感を取り戻す。そのプロセスをスタッフ自身も体験し、働くことへの誇りや生きる力を得ていく。さらに、選択理論心理学を取り入れ、個々の成長や独立を支援する経営方針は、多くの企業が学ぶべき示唆に富んでいます。牛尾社長の言葉には、単なる美容や経営の話に留まらず、「自分の人生を自分で選ぶこと」の大切さが貫かれています。これから起業やキャリアを志す人にとって、勇気と学びのヒントが詰まったインタビューでした。