インタビュイー:リーフラス株式会社 代表取締役 伊藤清隆 様社会課題をスポーツにより解決する―その熱い想いから2001年に創業されたのがリーフラス株式会社だ。現在は「スポーツ事業」と「ソーシャル事業」の2事業で構成されており、スポーツ事業では、主にスポーツスクールを核とした複数のサービスを展開している。一方ソーシャル事業では、部活動の地域展開を支える部活動支援事業、発達に特性のある子どもの支援を中心とする放課後等デイサービス「LEIF」事業、さらに地域スポーツ施設を活用した地域共動事業に注力している。威圧的な指導や過度な競争とは一線を画し、認めて、褒めて育てる指導法を徹底。スポーツを通して「非認知能力」(=人間力)を育む独自の指導方針が、保護者様と子どもたちの共感を呼び、創業以来、右肩上がりの成長を続けている。創業者であり代表取締役の伊藤清隆氏に、「スポーツ事業」「ソーシャル事業」それぞれの取り組み、事業を通して社会にどのような変化を生み出そうとしているのかを伺った。 “スポーツが苦手な子”のためのスクールをつくりたい―「非認知能力」を育てるという挑戦全国展開するスポーツスクール事業の成り立ちと、他社と異なる“教育としてのスポーツ”へのこだわり。勝利至上主義ではなく、「非認知能力」を育てるという取り組みで成長を続けている。伊藤代表:スポーツ事業では、子ども向けのスポーツスクールを全国で展開しています。野球、サッカー、バスケットなど13種目の主要スポーツを扱っていて、現在、会員数約68,000人、スクール数4,500以上で展開しています。一般的なスポーツスクールは技術向上や試合に勝つことが目的ですが、当社はスポーツを通して子どもたちの「非認知能力」を育てることを目的としています。「非認知能力」とは、やり抜く力、リーダーシップ、協調性、挨拶、礼儀など、人と関わるうえで必要な力のことです。ですから、一般的なスポーツスクールとはやっていることが180度違うのです。この運営方針が保護者様、子どもたちからの支持を受け、2001年に創業してから2020年のコロナ禍を除き、24期連続で会員数の増加、増収を達成しています。「非認知能力」を子どものころに身につけることが、子どもの将来に重要だということを、保護者様は感覚的に気づいています。そのニーズと当社の方針が合致したのです。部活動の民営化、発達支援、地域活性―社会とつながるスポーツ事業へソーシャル事業では、「部活動の地域展開」「発達に特性のある子どもへの支援」「自治体施設の運営」といった領域に取り組み、スポーツを通じて社会課題の解決に挑むとともに、事業の可能性を多方面に広げている。伊藤代表:ソーシャル事業は3つの事業があります。1つ目が部活動の民営化への取り組みです。2022年にスポーツ庁が発表した「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」というものがあります。これは、地域にスポーツクラブがあってそこに通うというヨーロッパ型のシステムへの移行を前提とした政策で、学校の先生方の過重労働解消が主目的です。今年(2025年)はその実証実験の年で、2026年から2031年まで5年間かけて本格移行していきます。そのガイドラインが発表される10年以上前から、当社は東京都杉並区の和田中学校で部活動指導を始めました。元スポーツスクール会員の保護者様から部活動の指導員を派遣してくれないかと相談があり、一度、実験的にやってみたのがきっかけです。最初は無償でしたが保護者様から「こんなにいい先生なのだから」とおっしゃっていただき、1か月に1回、保護者様が500円ずつ指導員に渡していたんです。それを杉並区が知るところとなり予算化されました。杉並区では、今では部活動はほとんど外部の人が担うようになりました。部活動に対する問題意識の高い自治体から数々のお問い合わせをいただき、現在の導入校数は小学校・中学校あわせて約358校(2025年6月現在)にのぼります。部活動数で言うと2,000以上を当社が担当しております。私は中学校の部活動は社会課題だと思っています。中学時代の部活動は人格の形成に大きく影響を与えます。先輩との間に過度な上下関係が生まれたり、指導者不在、例えば野球経験のない先生が野球部の顧問になるなどいろいろな問題があります。中学校の部活動を正しく教えられる人が担えば、日本は変わると思います。ちゃんとしたメソッドを持った人が教えるようになれば、子どもたちは、楽しくスポーツに取り組めます。それが子どものより良い人格形成につながると思うのです。ソーシャル事業の2つ目の事業は、発達に特性のある子ども向けの放課後等デイサービスです。スポーツを通じて成長支援を目指すというもので、現在は全国に20施設を開設しています。発達に特性のある子どもは増加傾向にあるため、開設するとすぐに満員になるほど需要が高いのです。これは、主にサッカーを通じて自立につながる成長支援を行うビジネスモデルです。3つ目の事業は、各地域の体育館や運動場の運営受託です。地域の方々が集まってスポーツイベントを楽しめる場を提供し、地域活性化にも取り組んでいます。“怒らずに育てる”を徹底して―子どもが自ら育つ環境をつくる指導法指導現場の姿勢や研修体制を通じて、スポーツが「安心して成長できる場所」であるために徹底している「認めて、褒める指導」と「気づきの与え方」。スクールの核ともいえる教育哲学とはどんなものなのか。創業した2001年当時から、「非認知能力」が重要であると気づいていたのだろうか。伊藤代表:創業当時「非認知能力」という言葉はまだありませんでした。いわゆる“人間力”と表現していました。当時、子どもたちがスポーツをやる場はJリーグの下部組織のクラブチーム、リトルリーグ、地域の人たちが教える少年団ぐらいしかありませんでした。Jリーグの下部組織やリトルリーグは上手な子しか参加できませんし、少年団は土日祝日が練習日で、保護者様の協力も必要になります。そこで当社は運動が苦手な子どももスポーツを楽しむためのスクールを平日に開催し、保護者様の協力も一切不要というスタイルにしました。さらに、指導する先生はアルバイトではなく正社員、つまりプロが教えるという体制にしました。そして技術指導だけでなく、スポーツを通して礼儀、挨拶やリーダーシップつまりは"人間力"を育てることを打ち出したのです。その当時としては画期的な取り組みで、これが保護者様からの強い支持につながりました。スポーツは、スポーツが好きで上手な子がやるイメージですが、当社はスポーツが好きではない子、苦手な子、スポーツができない自分はダメだと思っている子どもたちを大歓迎したのです。そのため初期のころは学校の校門前で、直接指導する先生が「先生が教えるから体験会に来て」とビラを配って勧誘しました。セールスマンではなく、実際に教える指導員が勧誘することで、「優しそうな先生だから行ってみようかな」と思ってもらえるのです。そうしてスポーツに苦手意識を持つ子どもたちにスポーツスクールに入ってもらうという、新しいマーケットを開拓しました。スポーツスクールの概念を変えたと思います。リーフラスがスポーツ事業に参入してから、スポーツスクールに変化が起こったという。それは、どのような変化だったのだろうか。 伊藤代表:子どもたちにとって安心・安全な環境づくりが当たり前になってきたのを実感しています。全国に4,500スクールを展開しているなかで、指導方法に厳しさが先行しすぎるスクールは、自然と子どもたちや保護者様の選択肢から外れていきました。保護者様は、やはりお子さんが前向きに通える場所を選ばれますし、その結果として、より温かく寄り添う指導が広がっていったのは、非常に良い流れだったと感じています。私たちは、子どもたちがスクールに来たら、認めて、褒めて、励まし、勇気づけます。怒りません。失敗しても、挑戦したことを認めて、褒めます。すると、スポーツが苦手だった子も上手になるんですよ。認めて褒められる環境なので、子どもたちにとって居心地が良く、続けてくれます。継続すれば必ず上達します。ただし、甘やかすわけではなく、必要な時は注意もします。ですが「怒る」のではなく、違うやり方で指導するのです。当社の指導方法は一般的なものと大きく異なります。例えば、子どもたちが騒いでいる時に「静かにしろ」と言うのが普通ですが、当社はじっと見つめて、子どもたちがこちらに注目するのを待ちます。また、できない子を注意するのではなく、できる子を徹底的に褒めます。そうすると子どもたちは「これが正解なんだ」と理解してくれます。問いかけも効果的です。「なぜみんなが静かに待っているか分かる?」「ゲームをたくさんやりたいよね? みんなサッカーがやりたくて来ているんだ。その時間を奪われたらどう思う?」というように。さまざまなメソッドがありますが、上から強制するのではなく、気づかせて自分たちで考えて判断してもらうよう促すんです。気づきを与えることで、子どもたちは成功体験を積み重ねます。「これはダメ」と注意されると、その時は覚えているかもしれませんが、他の場面では応用できないのです。一方、「こうすれば褒められる」という成功体験は、応用が可能ですし、他の子どもたちにとっては、真似したくなる効果があります。もちろん、最初は試行錯誤しましたが、大前提として「 怒ったり、大声を出したりして子どもたちをコントロールしない」というルールを設けていました。そのルールをもとに、指導員たちが子どもたちに注目させるにはどうしたらいいか、1人ひとりが考えていったんです。そのノウハウが蓄積されて、体系化されていきました。今は月1回の全社員研修を行っています。こういったノウハウの共有がなされるのも正社員にこだわっているからだと考えています。前編では、リーフラス株式会社独自のスポーツ事業について話を伺った。後編では、「怒らない」指導方針を打ち出した理由、創業のきっかけ、伊藤代表の経営哲学に焦点をあてる。